王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二章 暗黒神の地下神殿へ

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「冗談じゃないわよ、アルバート!!
 まさかロブの縄張りなんて!!」
 地上にいたのではあっけなく追い付かれてしまう。 
 いかに自分が灰狼の力の使い方を覚えて、アルバートが天眼を自在に操れるからといっても。
 相手は純粋な魔族なのだ。
 それも群れでリーダーの指示にもとに的確に相手を狩る、ハンティングのプロ。
 それがロブの習性。
 そんなものの中にいたのでは、いくら二人で頑張ってももつわけがない。
 アリスティアはまさか新婚初日から夫を抱いてこんな大樹の合間を縫って空を翔けることになるなんて!!
 そう心でぼやいていた。
「あーあの、アリスティア?
 もう降ろしてくれてもいいと思うんだけど!?」
 のんびりとした口調で夫は抱かれている妻にそう告げる。
 天眼を開いて安全を確認したのだろう。
 アリスティアにもそれくらいは理解出来ていた。
「だめよ、ロブはしつこいの。
 一度、目標を決めたら決してあきらめないわ。
 縄張りを荒らされて‥‥‥黙っている魔族なんていないのよ、旦那様?」
 命を賭けて戦う覚悟でいて下さいね。
 そう言われ、アルバートはなるほど。
 魔族とはそういうものか、なんてのんびりと言うからアリスティアは腹が立つ。
「あのねえ、旦那様!?
 妻を守るのが夫の役目ではないのですか!!??」
「いやだから、僕が抱いて飛ぶよ。
 それならいいだろ?」
「良くありません!
 もう、そう‥‥‥わたしが抱いてるんだから。
 離さないの。
 もう、二度とーー」
 信頼できる唯一の男性。
 そして、初めての夫。
 それを失うことだけはしたくない。 
「どうしたんだい?
 君らしくないよ。アリスティア?
 一度、止まらない?」
 アルバートは年下のはずなのに。
 たまに何歳も年上のように暖かい優しさを与えてくれる。
 変な感じだ。
 アリスティアは戸惑ってしまう。
「学院でもそんなに話したことが無いのに、こんな木々の間を駆け抜けている時にそんな提案。
 駄目です。
 まだまだ、あなたを知りたいんだからーー」
 僕より君のほうがよほど、恋というか。
 結婚の申し込みをしているような話し方なんだけどな?
 誰かに求められるのは悪くない。
 失わない為にいろいろと画策してきた自分がこんなに純粋な思いをぶつけられるなんて。
 ただ問題はー‥‥‥
「ごめん!
 もう限界!!」
 叫ぶと、アルバートはその場にリアルエルムがしたような、力場の界を作り出し二人を包みこむ。
「ちょっと!!
 なんですか、限界って。
 妻に抱かれて何か不満でも!!?」
 噛みついてくるかのように迫るアリスティアは本当に可愛い。
 だが違うのだ。
「あのね、アリスティア。
 僕、弱いんだよ。
 ごめん……こういう、早い速度で揺られて動くのが苦手なんだーーもう、吐きそうでー‥‥‥」
 現代で言えばジェットコースターに弱いようなものだろう。
 アルバートは真っ青な顔をしてその場にへたりこんでいた。
「えっ、ちょっとーー大丈夫‥‥‥???
 ごめんなさい、あなた‥‥‥」
 そうとは知らなくて、そうよね。
 亜人と人間の感覚は違うものね‥‥‥
「ごめんなさい、アルバート。
 大丈夫なの???」
 背中をさすり、彼の顔色を窺い、どうにかおさまりがつくようになるようにと抱きしめてやり‥‥‥
「ああ、君は優しいね。
 ありがとう、アリスティア。
 あなた、なんて言われたの初めてだよ。
 でもなんだろうね、僕、あれから。
 君に噛まれてからどうにもー‥‥‥
 身体が熱いーー」
「は?
 だってあんなの甘く噛んだだけでそんなにきつくは‥‥‥」
 そこまで深く牙を入れたかしら?
 でも血も出て行なかったと思うんだけど?
 あらためて彼の首筋だの顔だのを噛んだことを思い出す。
 噛み跡がそんなに残ってる?
 服をそっと引いてみてアリスティアは驚きの声を上げた。
「うそっ!?
 こんなに腫れるなんて‥‥‥知らなかった」
 そういえば姉妹間で噛み合いをすることはあっても、他人を噛んだことなどなかった。
 灰狼の牙には毒性があるの?
 そんな記憶、知識にはなかった。
「どうしよう、ねえ、アルバートーーねえーー!!??」
 そんなやりとりをしている間に、アリスティアは気付くことになる。
 そこかしこの大樹の枝や地上に、彼女の灰狼族の系譜に繋がる魔狼が潜んでいる。
 ロブたちの群れが、二人を囲んでいた。

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