王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第三章 いざ、ダンジョン攻略へ

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 不機嫌そうな顔をして尾を振っている新妻に、アルバートは困っていた。
 早く感想を言え。
 そんな感じにアリスティアは言っているようにも思える。
 しかし、ただ美味しいよ。
 その一声だけで良いのかどうなのか。
 女性経験がほとんどない、このウブな王子、いや夫は迷っていた。
「うん、美味しいよ。アリスティア」
 ようやく、これしかないかな?
 と素朴な意見を口にできたのは、アルバートが食事を開始して十分ほど経過してになる。
 その間、じっーと黙って笑顔で見ていたアリスティアの忍耐力は新婚数日目にしてはなかなか大したものである。
「そう、嬉しいわアルバート。
 作った甲斐があったわ」
 その笑みの奥底に、まずいなんて言ったらどうなるか分かってるわよね、アルバート?
 そんな意図を含んでいるような気がしてアルバートは首筋に汗をかく。
 美味しいよ、アリスティア。
 本当に。
 ただ、ね。
 辛いんだ、少しばかり‥‥‥
 でも、それは言えないよね。妻の初めての手料理に文句をつけるなんて許されない――
 少年はそう思い我慢しつつ、辛い料理を完食した。
 その間に、水の入ったポットが空になるほどに水を飲みながら‥‥‥

「アルバートのバカ。
 そんなに無理してまで食べることないのに。
 辛いなら辛いって言っていいのよ?
 何か悪いことをした日以外はまともな料理を出すから――」
 などと台所でアリスティアがぼやいていることなど、アルバートは知らない。
 知っていても、天眼でそれを聞いていても知らないふりをしていた。
「言えるわけないじゃない、アリスティア。
 だって、僕が母親以外の女性からの手料理を‥‥‥毒が入ってないって安心して食べたのは――」
 もう十年を越えるだろう。
 その歳月の間、学院の食堂の料理ですら、彼は魔眼で毒が混じってないかどうかを確認しながら食べていた。
 あの第四王子。
 あいつのお陰で、彼ら母娘三人は常に死と隣り合わせにいたのだから。
 国王が学院へと息子や娘たちを預けたのはある意味、彼らの安全を守るためだった。
「まあ、結果的にそれがあいつの失脚になり、王国の勢力拡大になり――」
「なによ、それ?
 で、いまはどうなの?」
 愛するアリスティアは柔らかい太ももにアルバートの頭を乗せて撫でてやっていた。
 彼はいままで、ずっと安息を得る日がなかったのだと。
 そう、知っていたからだ。
「いまはそうだね、最愛の女性に会えて。
 そして、ダンジョン攻略にも出かけられて‥‥‥最高に幸せかな」
 ふうん、まあまあいい返事ね。
 アリスティアは満足して、そうだ、と思いだし彼に問いかける。
「ねえ、アルバートはダンジョン攻略というか。
 最奥に何か目当てのものがあるの?」
 なぜ、暗黒神のダンジョン攻略なのか。
 とても不思議に感じていた。
 アルバートは腰に差していた神剣を取り上げる。
「これのね、持ち主がいるんだ。
 彼女にこれを返さないと、だめらしいんだよね」
 彼女?
 その言葉にアリスティアは面白くなさそうな顔をする。
「で、それは誰なの?」
「知りたい?
 かつて、聖者サユキと世界を二分して戦った魔女。
 真紅の女帝ミレイア、だよ」
 その名は‥‥‥この世界では出すことを禁じられている程に――
 不吉な名前だった。
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