ギルド嬢のひとりごと

星ふくろう

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第三章 一夜の契り

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「あの子、何かの考えがあってしてるのかしら?」

 アイニスはやはりどこか抜けている。
 そんな訳ないでしょうが!
 茜はそう叫びそうになった。
 あれはたた単純に仲間の気配と、言われたままにしているだけよ!!!
 と。

「あれだけ酷い目に会わされてまだ骨身にしみていないんだからー‥‥‥。
 あれ、行きなさいって言われたから来ました。
 そんなだけだと思うわよ?」
「あー‥‥‥そうねえ。
 で、どうするの?
 あなた、あそこに来てる連中が誰だかわかる?」

 わたしはわかるわよ、そんな顔をアイニスはしていた。
 入って行っても死ぬことはないんじゃない?
 そう言いたそうだ。
 それには茜も同意だった。

「そうねえ、元部下の山、だし。
 何人いたのかしら、あれ。
 わたしと旦那様が捕まえた連中の三倍はいるんじゃないかなあ」
「多そうね、確かに。
 あちこちでやらかして来たんじゃない?
 シェイディアちゃん‥‥‥」
「恨み買ってなければいいけどね」
「さらりと恐ろしいこと言わないでよ、シェイディア‥‥‥」

 もし、そうなら仲間だと思って大喜びで突っ込んでいった途端。
 槍ぶすま、なんてことにはならないかな。
 でも、いい結果にはならないだろうなあ。
 助けに行くべきか。
 それとも―‥‥‥?

「ねえ、どう思う、アイニス?
 その敵の勢力とか言ってるけど。
 欲しいのはほとんど理解できてないわたしの能力じゃないでしょ?
 必要なのはー‥‥‥ねえ、リッカ?」

 呼ぶと、虚空からぬうっと巨大な黒狼が出てきた。
 彼は、

「呼ばれても困ります」
「困りますってー‥‥‥」
「困るものは困るんだよ、茜。
 ボクはお忍びで、更にこの世界には以前に同族がいたんでしょ?
 彼等の領分を侵すのはあまり許されないと思うんだけど」
「領分ねえ、テリトリーって話?
 狼同士の縄張り争いって壮絶な喧嘩になりそうねえ‥‥‥」

 そうそう、とリッカはうなづく。
 とはいえ、その同族がいるのかどうかは、茜にも興味があった。

「なら、あなたの力でその同族がまだどこかにいないかどうか。
 探してみたら?」
「もう、やったよー。
 やったから、言ってるんじゃないか。
 茜は鈍いなあ」
「鈍いって。
 つまり、いるってこと?」

 いるけど、とリッカの語尾はどことなく重かった。
 いるなら叩き起こせばいいのに。
 茜の発言は暴言である。
 リッカは苦々しいものを食べた時のような顔をしていた。

「起こして怒りを買ってさあ‥‥‥。
 数匹いるんだけど?
 ボク、死にたくないよ?」
「あんたを殺せるくらいには強いの?
 それとも、数匹がかりでないとダメなの?」
「‥‥‥言いたくない」

 ふうん、偉大なるヤンギガルブの直系はそんなに弱いんだ?
 少しだけ煽ったら、実直なリッカはどこか悔しそうに牙をむきつつ返事をした。

「ボクはセッカ兄上様ほど偉大な黒狼じゃないんだよ。
 仕方ないじゃないか‥‥‥でも、その子供ばかりだから。
 ハーフだし」
「ハーフ?」
「人間との間に契約を交わした間に、子供を設けたみたいだよ。
 人間との間に‥‥‥」
「えーとっ。
 それって獣ー」
「言わなくていいよ、もう。
 とにかく、そのシワクの家族は闇の精霊程度では辿りつけないような底にいるよ、深い深い底にね。
 起きるかどうかわからない」
「ならやりなさいよ。
 それでも世界の均衡を乱すことにはならないんでしょ?」

 世界は丸い球体の中にある。
 きちんとした規則性があって、大きな波が起こればそれをどこかで修正しないといけない。
 その規則性を乱すかどうかのレベルはーこの黒狼なら視えているはずだった。

「それなら、茜。
 君にも言えることじゃないか。
 なんでマールなんかなったのさ。
 この世界のルールに従った?
 そんなものはどうにでも、改編できたはずだよ、君たちなら。
 しなかったのは君たちの都合、だろ?」

 わざわざ、大勢の男たちに抱かれてその心を乱す必要性なんかなかったはずだ。
 そう、リッカは言った。
 そうせざるを得ない理由は、ただ一つ。
 
「そうね、各異世界から飛ばされた人たちを戻そうとする力。
 元いた世界からの回収しようって、世界の意思を引き寄せる必要があったから。
 そうしたら、あのブタ猫だって出張ってこなきゃいけなくなるでしょ?
 創造神に逆らえる世界神や惑星神なんていないんだから」
「なら、それは君たちの被害者に対するなんの意識から起きてるんだい?
 可哀想? 
 正義の心?
 君が大好きな少年マンガの、「ツレが困ってるのを助けるのに、理由なんて必要ねえ!!」、なんてバカな考えなしの行動を世界は好まないよ?」
「だから、やってたんじゃない。
 マールなんてものを。
 世界には、その世界に生まれた存在を庇護する責任があるんだから‥‥‥」
「じゃあ、茜。
 ボクもそうだし、マキナのやったこともギリギリ。
 最後はこの世界が正しいと思える方向性を選んだはず。
 人の身からすれば、時間が長大過ぎてそれは過酷に感じるかもしれないけどね。
 だから、マールは不老不死なんじゃないの?
 その救いを得るまでにかかる時間がー‥‥‥」
「長いから、人では寿命になる。
 分かってるわよ。
 でも、この地下にあるこれ、どう見てもいまにも暴発しそうよ?」

 黒狼は地下をじっと見やった。
 どう動くべきかを真摯に考えているようにアイニスには見えた。
 困ったな。
 彼はそう呟いて、

「マキナの一族では力が足りなかったようだね。
 予定よりも遅れてる。
 それを加速することはー‥‥‥違法じゃない」
「そういうグレーゾーン、考えれるリッカのこと、好きよ?」
「ちょっともうー‥‥‥くすぐったいよ。
 変な匂いつくと嫌だから、寄らないで‥‥‥」

 黒狼は胸に抱き着いた茜を、片足の肉球でそっと押し返した。
 アイニスを見て、その隣にいるいつの間にかきた新しく存在している二人の精霊女王に目をやる。

「時間の風の一族‥‥‥。
 それに星の大海を管理する空の精霊まで。
 どれだけ大きな存在と契約したのさ、セッカ兄さん。
 父上はこんな暴挙を好まないよ」
「暴挙?
 あ、三人になってる」
「暴挙だよ、茜。
 あの三人は、誰か一人いてもこの地下にいる連中の混在を正して、再生しながら歴史すらも改編できる力がある。
 やらないのは、ハルフゲインっていうあくまでも原始の魔法だのそんなものが生まれた状態に酷似している世界に構造が似ているからだよ。
 うまくやればーあ、そういうことか」
「なによ、そういうことかって?」

 ふいっと黒狼は姿を消してしまう。
 後から教えるよ、君はこっちを気にしなよ。
 そう影から言われ、スカートを加えられて引かれるから茜はそれを慌ててずり落ちないようにするしかない。

「この変態オオカミ!?
 なにさせるつもりよ!?」
「どうでもいいよ、そんなこと。
 シェイディアは仲間じゃないの?
 君にとって、仲良く深く知り合いたい存在じゃないの?」
「そうしたいけどー‥‥‥でも、向こうがそうしたんじゃない」

 茜はわたしは悪くない。 
 そう言い張っていた。
 あれだけ趣味の倒錯したことに付き合わされてシェイディアも可哀想に。
 リッカは影の中でぼやき、茜を引きずり込んだ。

「うっそ!?
 こんな力あるなんて聞いてないよ!?」
「君は黙ってて」
「‥‥‥はい」

 影から顔を出して、リッカは三人の精霊女王に宣言する。

「やるなら、君たちでやってくれ。
 茜ともう一人を巻き込むことは‥‥‥許さない」

 その宣告に、彼女たち。
 特にアイニスはまあ、仕方ないか。
 これはこっちの問題だし、そう言ってはいはい、と手を振ると姿を消した。

「ロクでもないことに巻き込まないでよ、ボクの茜を。
 それに兄の眷属たち‥‥‥君たちは間違いだらけだ」

 そんなリッカの悲しいぼやきを無視して茜は彼の尾を力いっぱい引っ張っていた。

「ねーえ!!
 リッカ!!
 アイニスはいいから。
 ‥‥‥シェイディアのとこに」
「まだ生きていればいいね。
 君が見捨てた友人が」
 
 それ、どういうー‥‥‥。
 見捨ててなんかない、そう叫びたい茜を黒狼は足で押し出す。
 その先にあったのは闇の中に開かれた光の出口であり‥‥‥。
 数本の槍に突き刺されたシェイディアが、力なく壁に縫い付けられている姿だった。
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