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星ふくろう

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過去の亡霊と現実の壁

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「竜に乗りたい?」
 たまに突発的に発生する、義理の娘の思いつきが今回は騒動のタネだった。
 リオは双子の竜姫、レネとラナの飼育を行う片手間でどうすればよい主人になれるかを模索していたらしい。
 エルフのイライアの故郷には、ドラゴンライダーという生業。
 いや、伝統的な職がありそれを受け継いでいく一族があると聞いたらしい。
 異世界の人間が出来るなら、自分にできないはずがない。
 最近、リオは少しだけ魔法の素養もあったのかイライアやゆきの指導が良かったのか。
 魔法の腕を上げていて、これならばこの悪戯好きな二頭の奴隷を乗りこなせるのではないか。
 そう画策しているようだった。
「はい、お母様。
 あの二頭の片方ずつでもいいので、鞍をつけて空を飛びたいんです」
 あーあ、目を輝かせて言うこの娘は‥‥‥竜が本来の姿に戻ったときの大きさなんて考えてないんだろうなあ。
 そう、ゆきは頭を抱えてしまった。
 あの二頭の片割れでも変態を解いた日には‥‥‥
「うちの家の塀を軽く乗り越えるわねー。
 かといってこの子、まだ重力操作すらできないしもし落ちたら――」
 それこそ、目もあてられない惨事になってしまう。
 市内の住宅街に大型の正体不明の生物が突如出現、なんて。
 映画でもいまどき、ありえないシチュエーションだわ。
「イライアーどうしようーこれ‥‥‥」
 エルフは困ったように微笑んで返してきた。
 どうやら彼女も説得を試みたようだ。
 そうなると、ゆきの視線はもう一人のリオの管理人というか保護者というか。
 最近は、二人で市内の高校に通わせているせいらに行く。
「学校ではちゃんとやってる?
 年齢合わせるために、戸籍とか少しいじったけど。
 この子、浮いてない?」
「えーと‥‥‥まあ、大丈夫ではないかと思われます。
 わたしも世間の普通という生活を知りませんし‥‥‥それならば、まだ、りさやさおりに聞かれた方が正確かと」
 ああ、そういえばあのメス豚共も通わせているんだった。
 ゆきは診療所にいる時はこの二頭には全裸に首輪、乳首には嫌がるのを無理矢理つけさせたネームプレートようの穴がどうにも化膿するからと、穴を拡張するリングを入れ、そこに名札を下げさせている二匹を斜め見た。
 こいつらは人間扱いはしない。
 以前のリオがレネとラナを服従させた時の後遺症からか精神的にどこかが壊れているし、何より愛する娘に子供を産めない身体にしようと暴走したからだ。
 診療所内にいる時は四つん這い。
 そう決めて膝をつくのではなく、両手・両足を大地につけさせるという辛い体制をわざと強いていた。
「ふうん、こんなメス豚どもに聞いてもねえ‥‥‥」
 鼻の穴に通したリングに繋がったリードの先端を引きよせると、二頭はそこも性感帯になるらしい。
 なにをどう感じるのか知らないゆきではなかったから、わざとそうやって室内の散歩なども楽しんでいた。
「で、あんたたちからみたらどうなの?
 ほら、メス豚らしくチンチンしなさい」
「あ、はーーい、御主人様‥‥‥」
 さおりが返事をし、慌ててりさがそれに倣う。
 言うなれば、メス豚よりメス犬のほうが相応しいのだが、まあ細かいことはどうでもいっか。
 こんな程度で濡らす情けないメス犬もだめだなあ‥‥‥
「ねえ、せいら?
 誰が指示もなく濡らすように躾けろなんて教えたの?」 
 あ、とせいらが声を漏らす。
 彼女もこの診療所内では他の奴隷と同じような扱いだ。
「あ、いえ‥‥‥申し訳ございません、ゆき様」
 もうなんだかなあ。
 ゆきはここしばらくの間、新規に入ってきた商品の健康管理だの生態観測だの、伝染病にかかってないかだの。
 さやかとみきを助手に走り回っていたから監視の目が緩んだかもしれない。
 そう思い始めていた。
「もう一度、最初から調教しなおしかしらねえ‥‥‥せいらも」
「そっ、そんな!?
 だって、御主人様が、リオ様と共に現実社会で生きていけるようになるための訓練だとおっしゃられて‥‥‥」
 思わず批難の声を上げる奴隷に、ゆきの片手にあった乗馬用のムチが秘部へと飛んだ。
  
 ピシッ、ではなく、エグイくらいのバシっと重い音が室内にこだまする。
「あ‥‥‥ぅっ」
「声を上げない!!」
 まったく、これでも元奴隷姫の頂点、スターリム?
 情けないったらないわねえ。
 そう、ゆきはぼやいてしまう。
「いい、せいら。
 確かに、普通の生活に戻るようにとは命じたわよ?
 わたしの自宅の方にいる時は服の着用も認めた。でもね?
 この二頭、いつまでたってもメス豚なんて呼ばなきゃいけないような粗相しか出来ないんじゃ‥‥‥。
 ねえ、せいら。
 躾くらいまともにできる、マスターをまずは目指すべきなんじゃない?
 スターリムへの生還はそれからでも遅くないわよ?」
 スターリムへの生還。
 その言葉がどれだけせいらを刺激するかを、ゆきは知っていた。
 あの晴れやかな舞台、世界中の権力者たちに可愛がられ、己の春を謳歌していたのに――
「あ‥‥‥―」
 その一言で、せいらは崩れ落ちてしまう。
 あの時の恐怖。
 頭蓋骨を踏み砕かれる寸前まで蹴りつけられたあの暴力への、蹂躙された者にしか理解できない。
 死への渇望。
「あーあ、まだ癒えてないのね‥‥‥
 ねえ、わたしの足を舐めなくていいのよ、せいら?
 聞こえてる、ちょっと?!」
 だめだ。
 もう命を何としても救われたい。 
 その一念だけがこの少女の全身を支配している。
 奴隷でもなんでもない。
 ただ、一匹のメス犬。
 這いつくばり、主人に精一杯命乞いをするだけしか彼女の思考は働いてなかった。
「もういいわ、あんたたち。
 今日は、帰るからね。
 みき、後は宜しくね。
 リオ、チビダイヤと遊んで来るんでしょ?
 遅くなったらだめよ?
 イライア、これ持って帰るからね?
 あなた、自分で戻ってらっしゃい」
 これ、つまり床に這いつくばってまだ靴を舐め続けているせいらを指差し、ひょいと担ぎ上げるとゆきは自宅へと通じる扉を開けた。
「あ、ゆき――様‥‥‥」
 イライアが声をかける前に、ゆきの姿は扉の奥に消えてしまった。
「大丈夫かしら、あれ‥‥‥」
「せいら、まだ心に残ってたのねえ‥‥‥」
 そう、みきとさやかが困ったように言い、
「せいら、あんなになるなんて。
 学校にいたときは、男子に声をかけられて楽しそうだったのに‥‥‥」
 このまま、二重生活を強いて果たしていいものなのか。
 迷ったリオは身近にいる大人。
 みきとさやかにそっと相談を持ちかける。
 せいらを、救いたい、と。
 
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