この約束を捧げるのはあなただけ。

星ふくろう

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始まりの朝

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 その朝はやく、彼はやってきた。
 日焼けした赤黒い肌に遠方からの疲れをまとわりつかせ歩いてくる様は、かの地の戦況が芳しくないことがそのまま伝わってくるようだった。
 歩き続けてすり減った軍靴の底を鳴らせながら、我が家の玄関へと続く石畳を抜け玄関の扉を彼が叩いた時、私は屋敷にいました。
 使用人に客人の相手を任せるまでもなく、数階上から見えた軍服姿を逆に尋ねるようにして扉を開けると相手はこんなに早く開くとは思っていなかったのでしょう。
 意表を突かれたのか、驚いた顔をして軍帽を脱ぎ、挨拶をしてくれました。

「朝早くしつれい。
 アランドル男爵家はこちらでよろしいですか、お嬢さん?」
「ええ、表にはそう書いてありませんでしたか?」
「書いて?
 紋章なら描かれていましたが?
 間違いはない?」

 この王都レグムでは紋章を掲げ、門柱の左下にひっそりと家名を出すもので、それを知らないこの軍人は一体だれなのかその時は不審に感じたものでした。
 間違いはない?
 その問いかけにうなづいた私を見て彼は確認を終えたかのように辺りを一瞥すると、自分が誰なのか名乗りをあげました。

「ありがとうございます。自分は陸軍犯罪捜査局のエバンスと申します」
「犯罪捜査局?
 陸軍の?」
「ええ、これが証明書。
 それと、男爵家令嬢‥‥‥えーと、アミュ‥‥‥?」

 彼は南の訛りでそう言いながら、取り出した二枚の書類の片方を私に示して見せてくれました。
 陸軍犯罪捜査局、エバンス捜査官。
 階級は二等。
 所属は陸軍南方方面司令部‥‥‥。
 少しばかり嫌な予感に囚われながら、もう一枚の書類に書かれているであろうことを私は口にします。

「アミュエラ。
 アランドル男爵家の次女は妹のアミュエラです」
「妹?
 ああ、長女の方ですか」
「ええ、リドルと申します。
 アミュエラにはなにか問題が?」
「いえ、そう大したことではないのです。
 いずれ、司令本部より通達が来るはずですから」

 通達?
 その言葉に後ろでざわつく声がしました。
 なんとなく嫌な予感に従い姉の真似をしましたが、後ろに控えている侍女たちにも不穏な雰囲気は伝わった様子。
 誰もよけいな口立ちをしないように、と後手を振って合図をしたのが理解できたのか誰も異論をはさみませんでした。

「陸軍の御方がアミュエラに用となりますと、婚約者のバール伯爵令息カール様に何か‥‥‥?」
「ええ、実はお伝えしにくいのですが。
 ‥‥‥カール士補は勇敢でした。
 まず、それをお伝えしておきます」
「っ!??
 では、戦死なさったということですか!?」
「はい、その通りです。
 ですが、名誉の戦死というわけには参りません。
 男爵令嬢様‥‥‥」

 まるで我が身に起こったかのように悲しそうな顔をして彼は首を振ります。
 戦友に対する後悔の一念を振り払えないようなその素振りに、私は自分の悲しみよりも同情を感じてしまったのでした。

「あの、もし‥‥‥?
 エバンス様?
 大丈夫ですか」
「これは失礼。
 ええ、大丈夫です。
 氏とは幾度か戦地で語った事がありましたので。
 友人とまではいきませんでしたが、良き知人ではありました」
「そう、ですか。
 ではこの任務にはご自分から進まれて就かれたの?」
「は?
 ああ‥‥‥いえ。
 これもめぐり合わせというか、奇縁というか。
 たまたま、王都に向かう当番が小生だっただけの話です。
 で‥‥‥、アミュエラ嬢はどちらに?」
「左様ですか。
 いえ、その――妹は両親とともに出かけておりますが?」
「こんな朝早くからですか?」

 いいえ、と首をふり昨夜からです、と私は答えます。
 本当は姉と弟と共に、親戚である教会の関係者をたずねて出ていたのでした。

「これは間が悪いな。
 ではあなたにお話しておきます。
 自分はこの後も回りがありますのでな」
「回り?」
「戦死もしくはなにがしかの怪我などの問題を告げに、各家庭を回るのです。
 こちらにはエバンスが没したことと、彼が無くなる前に手に入れていたあるものの件で伺ったのですが」
「その、あるもの、とは?」

 本当なら、驚ろきで声が出ないはずなのに。
 その時、私はただ事務的に妹の婚約者の戦死の報告と、その死にまつわる何かについて疑念を抱いた表情を張りつけたまま彼の返事を待ったのでした。

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