この約束を捧げるのはあなただけ。

星ふくろう

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憐憫と契約 3

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「そう、です‥‥‥か。
 あいにくと、私はいけません‥‥‥」
「でしょうな、存じ上げております。
 王都にその居を構えることを命じられた貴族様は、王都の外壁のさらにそと。
 商圏と呼ばれる商人たちが行き来する、もっとも外側の壁から出ることは禁じられております。
 行かれるとすれば、貴族院の認可が要りますからな」
「ええ、その通りです。
 領地との往復には当主の許可がさらに必要ですし、無断で最外壁を越えれば死罪。
 貴族籍の者として特別に無断で出ることを許されるのは、軍人か騎士団の騎士のみですね」
「大変ですな、貴族様方も‥‥‥」
「それは平民の方々も同じくではありませんか。
 どちらも気楽には越えれないあの壁は、誰に対しても罪になりますもの」
「違いないですな。
 やはり、御当主様に相談なされるべきかと思われます」
「ええ‥‥‥。
 でも――そう、ですね」

 アラン様ははて、と顔を傾げていました。
 私がどこか躊躇しているのを見て、不思議に思ったようです。
 まあ、仕方ありません。
 今朝のいまなのですから‥‥‥

「お嬢様、御当主様はまだお知りでは‥‥‥?」
「何と言いますか、父はいま母と家族と共に、親戚を訪れているところでして。
 ええ、まだです」
「しかし、このような通知はまず、御当主様に行くと思うのですが?
 ああ、これはお伺いしていい内容ではありませんね。
 失礼いたしました」
「お構いなく。
 ところでもう一つ、これは無関係な質問をしてもよろしいでしょうか?」
「こちらで分かることでしたら、お答えはできるかと思います。
 なんでしょうか?」

 うーん。
 悩みますね、質問したあとにこういう事を振るのは。
 でも、聞いておかなければなりません。
 
「仮に、もし、仮にですが。
 その第二夫人がですよ、アラン様。
 離縁を拒んだ場合‥‥‥どう、なりますか?」
「えっ‥‥‥。
 それはあり得ないと思われますが?
 確かにいまはその身分だとしても、夫は既に戦死なされているのであれば未亡人ですし。
 引き受ける人間が、そう。
 例えばですが、お嬢様の男爵家や、夫である戦死者の実家の伯爵家がその身元を引き受けない場合、可能ならば離籍させた後に平民として生きていく、運命でしょうな」
「離籍は本人の意思とは関係ない、ということですか?」
「いいえ、お嬢様。
 そうそう簡単に貴族籍に入った人間の籍を抜くことはできません。
 つまり‥‥‥」

 言いづらそうなその顔に書いてあることは、まあ‥‥‥そうですね。
 おおよその想像がつく内容ではありました。
 金銭を多額に与えて屋敷から追放、もしくは、どこかに住まわせる。
 そんなところでしょう。
 しかし、アラン様の発言は私の予想を超えたものでした。

「つまり、幽閉。
 もしくは、どちらかで事故とみせかけたそういうパターンも、歴史にはないわけではありません」
「‥‥‥えっ??
 ゆう‥‥‥へい、ですか???」
「ええ。
 どこの御屋敷にも地下牢はありますし。
 地方といえども戸籍管理はきちんとされていますから。
 二か月もその地から無断で土地を離れたということにすれば良いのです」
「それは――なぜ‥‥‥??」
「人名管理台帳の更新は、二か月ごとだからですよ、お嬢様。
 その後に戻ったとしても、無籍者として扱われます。
 どこにも住めず、住めたとしても誰も雇いませんし、無論、公的な保障などなにもございません。
 多くは乞食や貧民街で犯罪者の様に暮らす、と聞いております」
「乞食!?」
「ああ、申し訳ございません。
 お嬢様。お嬢様には無縁の世界でございます。
 平民も近づきたくない、そんな世界があるのですよ」
「そう、ですか。
 しかし、そこまでの非道な真似はなさらないと思います。
 むしろ、それは不名誉な行為‥‥‥こんな譲渡契約も大変、不名誉ですが。
 贈られる私も私かもしれません」
「お嬢様‥‥‥」

 慰めるようにアラン様にそう言われながら、お父様たちがどのような判断を下されるのか。
 その先にある未来がとても暗いような予感に襲われつつ、しかし、この契約を維持することは望みたくありません。

「いいのです、すべてはカール様の希望した結果、不本意にもこうなったのですから。
 誰のせいでもありません。
 出来ることならば、彼女が素直に離縁を受け入れて頂けることを望みたいですね‥‥‥」
「左様ですな。
 どうか、良い結果が訪れることを祈っております」

 良い結果?
 とても悪い未来しか想像できないまま、私は彼に礼を言うと早々に帰宅したのでした。

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