この約束を捧げるのはあなただけ。

星ふくろう

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不思議なリドル

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「アミュエラ?
 少しは懲りたの?
 勝手に人の名前を名乗るなんて、だめよ?」
「リドル。
 それはごめんなさい、でもあの時はいい考えが浮かばなかったの」
「呆れた子ね‥‥‥。
 エバンス様とおっしゃる陸軍の方が、もし次回、我が家を訪れることがあればさぞやびっくりされるでしょうに。
 あなた、悪い子だわ」
「お姉様。
 そういうお姉様も少し前まえでは言い寄ってくる男性たちを私の名前を使って――」
「それはそれ。
 恋愛なんかと今回のことは重さが違います」
「‥‥‥ごめんなさい」

 ようやく謝罪を受け入れる気になったのか、姉はまったくと言いながらため息をついていました。
 彼女が数年前まで、私の騙っていたせいでこちらとしては身に覚えのない男性からいきなり叱られたこともあるくらいなのに。
 姉というものは本当に、都合のいいものです。

「それで、リドル。
 お父様はどう仰っているの?」
「そうねえ――難しいと思うわよ?」

 姉はよいしょっと淑女らしからぬ声かけとともに、私のベッドの上に。
 小さい頃のおてんばぶりは殿方の前では身を潜めていますが、私の前では無作法にもほどがあるくらい。
 足元の靴を床に放り出すと、そのままこちらになだれ込んでくるのですから。

「寝ている妹のうえに乗るのは感心しないんだけど‥‥‥」
「いいじゃない。
 猫だってよくこうしてるわよ?
 妹の方が姉より背も高いし、出てるとこは出てるし。
 本当に不公平だわ」
「それはリドルの身長が低いからだけの話でしょ?
 だから私を出汁にして、あんな身代わり役なんてさせるんだから。
 どっちが悪女なんだか」
「知りたくないの?
 お父様のお考え?」
「‥‥‥このままずっと軟禁ならそれはそれで‥‥‥いいかもしれない」
「何言ってんのよ、アミュエラ‥‥‥???」

 リドル――姉はぽかんと口を開けて呆けたように私を見ていました。
 だって、あの夢のように死ぬなんてまっぴらごめんだと思いますし、何よりカールの愛を奪われたまま報復なんてことをするのも、あまりにもばかばかしい。
 ただ、ステイシアのあの笑顔と子供を抱いた様だけは――二度と見たくないと思わせてくれるものでした。

「なんでもないわ。
 それでどうなの、リドル?
 お父様のお考えが知りたいわ」
「ふーん‥‥‥まあ、いいけど。
 婚約解消とまではいかないかもしれないかもね?
 我が家よりはカールの伯爵家の方が家の格も上だし、あちらとしてはあなたを迎えるという形だから今更、ね? 
 相手の不貞で婚約解消ならともかく、彼は戦死したわけだから。
 どうにもならないかもしれないわ」
「格下の家柄の貴族に対して、結納金の下げ戻しなんて伯爵家の体面に関わるってこと?
 でも、レビンはまだ十三歳よ?
 成人を迎えて間もないわ」
「それでも、あなたを妻にするには問題ないと思うのが。
 まあ、貴族の悲しい性質よね。
 いいじゃない、慕われている弟みたいなものでしょ?」
 
 こう姉は気楽にいいますが、とんでもない。
 そのレビンはカールとはまったく違うタイプの性格。
 物怖じせず、何事にも先に先にと動いたカールと違い、あれは――良くてのんびりもしくは神経質。
 悪い言い方をすれば愚鈍。そう言えると私は思っていました。
 外見と身長だけは良い、それでいて、中味はまったく冴えず、常に回りの視線を気にしながらおどおどとして生きている。
 それがレビンの印象だったのですから。

「‥‥‥好きではないわ。
 あの臆病な性格、カールとは正反対。
 まったく合いません」
「そうかしら?
 死人を悪く言うつもりはないけど。
 あなた、カールには控えめに見ても肯定はされていなかったように思うわよ?」
「――??
 どういう意味、リドル?」

 布団の向こう側にいる姉を押し退けると、彼女は勢いよくベッドの端に流されていきました。
 あぶない、危ないなんてぼやくリドルはやがて、

「そういうところよ。
 あなたの昨日のことにしてもそう。
 まるで見境なく動く殿方のようにしか見えないのだもの」
「だって、心配になったから――」
「そう、それよ。
 まずは夫、それとも父親。
 もしくは主人。
 女が先に歩いてどうするの?
 他の国では男女同権、なんて意見も聞こえてくるけど。
 ここはシュネイブ。
 ヨーロッパの端にある国よ? いまはまだそんなに文明開化だっけ?
 されてないわよ」
「つまり、カールは我慢していたと、そう言いたいの?
 私が浅慮で常識がない女だってそういうこと、リドル?」
「ほら、噛みついてくるでしょう?
 そんなめんどくさい女、誰が好き好むと思うの?
 男性は自分の言うことに対して、はい、かしこまりました。
 そう言いながら、きちんと支えてくれる女を求めるものよ?
 もし、それがここだけの常識だとしても――ねえ、アミュエラ。
 あなたはここで生きているのだから。
 それが、当たり前なの」
「あっ‥‥‥!
 それ、お父様に言い含めて来いって言われたのね?!」

 リドルは普段からこんな女性とは、なんてことは言わない性格です。
 むしろ、男性は女性に尽くすべきだ。そのためにはもっと出世しろ、なんて臆面もなく要求する。
 そんな姉なのですから。
 姉は、バレた?
 そう言い、無邪気に笑っていたのでした‥‥‥

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