この約束を捧げるのはあなただけ。

星ふくろう

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神に捧げた約束

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 朝一の湯浴みなんて贅沢極まりない行為を楽しみながら、腰まで伸ばした髪に香油を塗り込んでもらいつつ私はなぜ、今朝に至ってこうもサービスがいいのだろうと小首をかしげていました。
 まだ十七歳。
 レネはもう少しで二十歳となり、お互いに世間様にはまともに顔向けできない結婚できない令嬢という立場に収まっています。
 リドルお姉様はまだ長女という立場があり、いずれ当主となる婿を迎えればいいわけですからそこは甘く、しかし、私には決まっていたはずの相手が消えてしまった状態。
 これを双方の家がどうするのかが、一番気がかりでした。
 
 というのも、カールは第三令息。
 その上には二人の兄上がおられ、長男の方は数年前に戦死。
 次男の方は他国の親戚筋の当主となり、いまはカールとその弟がおられたはず。
 カールが死んだとなれば、随分と若い四男が当主になることは確実。
 
「ねえ、レナ?」
「なんでしょう?」
「これって‥‥‥どうして、今朝に限ってこうも優しいの?
 湯浴みなんて、せいぜい数日に一度なのに」
「まあ、いつもはタオルで拭かれるのが多いですね。
 夏でもない限り、この地方は過ごしやすいですし」
「いえ、そこではなくて――」

 レネはあんなことがあった後で、冷たくする親などおりませんよ、とたしなめるように言いました。
 つまり、これはお父様の恩情、とそういう訳のようです。
 ついでに別の目的もあるような気がしてなりませんが‥‥‥

「あなただけっていうのも、どうにも気味が悪いわ。
 普段は二人か三人‥‥‥」
「気心知れた仲、というのもあるのではないですか?
 それと、こんな酒乱の様子を邸内の人間に知られたいとでも?」
「お酒が強いのは家系だわ。
 お父様が入り婿だから弱いだけよ」
「それよりも、どこからあんなに仕込んできたのですか?
 お嬢様」
「‥‥‥深層の令嬢には言いよる騎士が多いものよ」
「騎士?
 吟遊詩人の世界でもあるまいし。
 婚約者がいる上級貴族の令嬢に――ああ、そういう意味ですね。
 亡きカール様の戦友様たちが、何度かいらしたことがありましたね、そういえば」

 思いだしたかのように言いながら、戦友というよりも悪友ですね。
 それもたちの悪い。
 そう断言しつつ、

「お嬢様。
 次からは私もお呼びください。
 その方が、悲しみにくれているアミュエラを慰めるために仕方なく付き合わされたといういいわけが立ちますから」
「‥‥‥あなた、お酒が飲みたいだけなんじゃないの?」
「そこそこ、上等なものが混じっておりましたから。
 わるくはないですね」
「正直ねえ‥‥‥少しは親友の悲しみを癒してやろうとか思わないの?」
「癒すというよりも‥‥‥そうやって軽口を叩ける程度にわずか一夜で戻るとは予想外でした」
「戻ってはいないわよ。
 それよりもこれからどうなるかと思えば、あまりいい気分ではいられないだけだわ」
「お嬢様は‥‥‥どうなると予見されていますか?」

 予見?
 そんなものよりも、ほぼ確実に近い未来は二つ。
 一つはこのまま、婚約解消となり新たな旦那様を探す未来。
 もう一つは――

「カールの弟、レビンの妻になる未来も遠くないかもしれないわね」
「そうなると、あの亜人の女といいますか。
 カール様の第二夫人は義理の姉になりますね?」
「ろくでもない未来を想像させないでよ、レネ。
 ステ‥‥‥いいえ、その女性には会いたくもないわ」
「そうですね、アミュエラ。
 夫でもない人間に裏切られ、その弟に嫁ぐだけならまだしも、義姉までいるとなれば話は別かもしれない。
 でも、それでいいの?」

 急に従者から友人に戻るのはやめてもらいたいものですが‥‥‥
 それはさておき、もちろん、良いわけがありません。何より、あのステイシアのせいで一度目の人生は散々な形で終わってしまったのですから。 
 関わらないようにするのが本当は一番、良い形なのかもしれません。
 しかし、この四年で物事はここまで来てしまった。
 いまさら、逃げようがないのです。
 
「いいかどうかよりも、個人的な感情ははさめないわ。
 決めるのは双方の当主なのだから」
「それが本心なら、見上げた貴族令嬢の鑑とも言えるわね。
 でも私にはそうは見えないけど?
 だいたい、あんな酒に溺れるようになったのを見るのは初めてよ?」

 お酒なんて飲めたのね?
 意外そうにレネは言いますが、もちろん飲める経験なんてほとんどありません。
 この人生では?
 いえ、これが正しいのかどうか。別のものなのかも、夢か幻なのかも判別は付きません。
 多分、神の御意思でもあるのでしょう。

「約束ってどう思う?」
「約束?
 どんな約束かにもよると思うけど?」
「友人として聞くけど。
 それが婚約というか、カールと私の破らないと誓った。
 そう‥‥‥神に捧げた約束だとしたら?」

 レネは不思議そうな顔をして手を止めてしまいました。
 神に捧げるという一文が妙に気になったのでしょう。
 少しばかり考えてから、口を開いたのでした。

「結婚式でもあるまいし、神に捧げた約束なんて変なことを言うのねアミュエラ。
 でもまあ――婚約する前から結婚しようって約束を二人だけで神様に捧げたというなら、理解出来ないでもないけど。
 破ったカール様は‥‥‥良い死後を迎えれないかもしれないわね」
「そう‥‥‥そうね」
「変なアミュエラ。
 ほら、出ましょう?
 いつまでも浸かっていたらぬるくなりますよ」

 どうやら、香油の甲斐もあってお酒の臭いだけは誤魔化せたようですが。
 用心深いレネは、夕方まで私を部屋に軟禁したのでした。
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