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プロローグ 絶望の侯爵令嬢
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「中にいる魔女を捕えろ!!!」
突如としてその怒声に従い、ナターシャは捕縛された。
聞こえてきたのは婚約者の命令だ。
「え?
なにーーなんなのですか!!?」
ナターシャの問いかけも虚しく、衛士は彼女にとびかかった。
学院の衛士に命じたのだろう、彼らは駆けこんでくると即座に王子役の衣装を着たナターシャを床に抑え込んだ。
そのまま衣装を無理矢理脱がされ、下着姿に近い状態でナターシャの両腕は後ろ手に縛り上げられる。
なぜこうなった?
なにがこうさせたの?
わたしが‥‥‥何をした?
ナターシャは事態を把握できずに呆然として部屋から引きずり出される。
「待って!
これは違うの、なにかの!!」
黙れ!
そう衛士が言い、口の中にその辺りにあったぼろ布が押し込まれた。
どこからか談笑する声がしてやってきたのは第二王子とサーシャだ。
連行されていくナターシャとすれ違う時、
「やあ、元婚約者殿。
もう君は魔女だ。婚約は破棄させてもらおう。
これからはーー」
「わたしがエルウィン様を支えますわ、元婚約者様?
さようなら‥‥‥?」
あの金髪碧眼のエルウィンと、黒髪に青い瞳の狡猾な女の顔が思い浮かぶ。
なんでこうなったの!!???
ナターシャは悲惨な境遇に涙を流していた‥‥‥
冬の最中、夕刻に近い時間を王都から離れ山道へと入って行こうとする馬車とそれに追従する馬群の一団があった。
ガラガラガラガラーーーー
もう何時間、こうして馬車に揺られているんだろう?
囚人用の、薄い麻布の長いワンピースを着せられたギース侯爵令嬢ナターシャ。
緑に髪に赤い瞳の彼女は狭い囚人護送用の、鉄格子がついた頑丈な壁にもたれかかりそんなことを考えていた。
他には三十代の女性が二人、ナターシャと同年代の赤毛の少女が一人。
合計四人が、冷たい馬車の床に伏せていた。
手足にそれぞれかけられた鉄の枷と鎖が彼女たちを囚人、もしくは奴隷だと示していた。
不思議なことに車内には手桶が三つ。
それも、血糊の跡が鮮明に残っているものが同じく乗せられていた。
王都を出たのが朝を少し遅く十時頃。
冬のいまの時期は、この西の大陸の東側にある王都ラルツに早い夕暮れと極寒の夜をもたらす。
このままいけば、車内で夜を過ごさないといけないかもしれなかった。
乗る時に言われた言葉がある。
「いいか、多くは言わん。
中で漏らすな、しゃべるな、死ぬな、喧嘩するな。
それだけを守るなら、裁判までの命だけは保証してやる。
わかったな!?」
馬車の前後に二頭づつの馬に乗った警護兵がいるはずだ。
御者とその横に一名。
合計六人での四人の囚人護送。
王都を出るときにある警護兵が仲間に漏らしていた声が聞こえた。
「まったく‥‥‥普段なら二名なのに、今回は四名だとよ?
元侯爵令嬢か?
あの魔女のおかげでなあ。
可哀想に、侯爵様は爵位を男爵位に落とされたそうだ。
領地も、幾つかの荘園を取り上げられたとか。
あんな魔女の為になあ‥‥‥」
魔女なんかじゃない!!
そう、ナターシャは叫びたかった。
わたしは騙されたのよ!
あの、陰険な公爵令嬢サーシャと野心家な元婚約者の王子エルウィンに‥‥‥
これは仕組まれた罠だったのに。
いまはその一声すら発することもできない。
なぜならこの動く監獄に乗せられた時に、目の前にいる赤毛の少女が叫んだからだ。
「この卑怯者の王族ども、呪われるがいいーー!!!」
王宮の牢屋から出され、馬車に乗せられる直後だったからその声は王宮の後宮までとどろいたかもしれない。
それほどに彼女の声は叫びと言うよりも、雄叫びに近かった。
心の底からの屈辱を全身で表現していたからだ。
それを叫んだ直後のことは、思い出したくもない。
彼女は警護兵が手にしていたその警棒で顔面を何度も殴打されていた。
歯がその辺りに飛び散り、彼女の額からも、顔面のそこかしこから血が流れ出ていた。
突如としてその怒声に従い、ナターシャは捕縛された。
聞こえてきたのは婚約者の命令だ。
「え?
なにーーなんなのですか!!?」
ナターシャの問いかけも虚しく、衛士は彼女にとびかかった。
学院の衛士に命じたのだろう、彼らは駆けこんでくると即座に王子役の衣装を着たナターシャを床に抑え込んだ。
そのまま衣装を無理矢理脱がされ、下着姿に近い状態でナターシャの両腕は後ろ手に縛り上げられる。
なぜこうなった?
なにがこうさせたの?
わたしが‥‥‥何をした?
ナターシャは事態を把握できずに呆然として部屋から引きずり出される。
「待って!
これは違うの、なにかの!!」
黙れ!
そう衛士が言い、口の中にその辺りにあったぼろ布が押し込まれた。
どこからか談笑する声がしてやってきたのは第二王子とサーシャだ。
連行されていくナターシャとすれ違う時、
「やあ、元婚約者殿。
もう君は魔女だ。婚約は破棄させてもらおう。
これからはーー」
「わたしがエルウィン様を支えますわ、元婚約者様?
さようなら‥‥‥?」
あの金髪碧眼のエルウィンと、黒髪に青い瞳の狡猾な女の顔が思い浮かぶ。
なんでこうなったの!!???
ナターシャは悲惨な境遇に涙を流していた‥‥‥
冬の最中、夕刻に近い時間を王都から離れ山道へと入って行こうとする馬車とそれに追従する馬群の一団があった。
ガラガラガラガラーーーー
もう何時間、こうして馬車に揺られているんだろう?
囚人用の、薄い麻布の長いワンピースを着せられたギース侯爵令嬢ナターシャ。
緑に髪に赤い瞳の彼女は狭い囚人護送用の、鉄格子がついた頑丈な壁にもたれかかりそんなことを考えていた。
他には三十代の女性が二人、ナターシャと同年代の赤毛の少女が一人。
合計四人が、冷たい馬車の床に伏せていた。
手足にそれぞれかけられた鉄の枷と鎖が彼女たちを囚人、もしくは奴隷だと示していた。
不思議なことに車内には手桶が三つ。
それも、血糊の跡が鮮明に残っているものが同じく乗せられていた。
王都を出たのが朝を少し遅く十時頃。
冬のいまの時期は、この西の大陸の東側にある王都ラルツに早い夕暮れと極寒の夜をもたらす。
このままいけば、車内で夜を過ごさないといけないかもしれなかった。
乗る時に言われた言葉がある。
「いいか、多くは言わん。
中で漏らすな、しゃべるな、死ぬな、喧嘩するな。
それだけを守るなら、裁判までの命だけは保証してやる。
わかったな!?」
馬車の前後に二頭づつの馬に乗った警護兵がいるはずだ。
御者とその横に一名。
合計六人での四人の囚人護送。
王都を出るときにある警護兵が仲間に漏らしていた声が聞こえた。
「まったく‥‥‥普段なら二名なのに、今回は四名だとよ?
元侯爵令嬢か?
あの魔女のおかげでなあ。
可哀想に、侯爵様は爵位を男爵位に落とされたそうだ。
領地も、幾つかの荘園を取り上げられたとか。
あんな魔女の為になあ‥‥‥」
魔女なんかじゃない!!
そう、ナターシャは叫びたかった。
わたしは騙されたのよ!
あの、陰険な公爵令嬢サーシャと野心家な元婚約者の王子エルウィンに‥‥‥
これは仕組まれた罠だったのに。
いまはその一声すら発することもできない。
なぜならこの動く監獄に乗せられた時に、目の前にいる赤毛の少女が叫んだからだ。
「この卑怯者の王族ども、呪われるがいいーー!!!」
王宮の牢屋から出され、馬車に乗せられる直後だったからその声は王宮の後宮までとどろいたかもしれない。
それほどに彼女の声は叫びと言うよりも、雄叫びに近かった。
心の底からの屈辱を全身で表現していたからだ。
それを叫んだ直後のことは、思い出したくもない。
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