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第一章 自由への渇望
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エルウィンは黒髪に青い瞳のその侯爵夫人とよく似たサーシャを抱きしめてキスをする。
「見ろよ、まるであれはお前のようだな、サーシャ」
いじめでも言うように、そうささやく婚約者に、サーシャはまたあくどい笑みで微笑みかえる。
「あら、あの侯爵夫人の旦那様もあなた様のようですわよ、エルウィン様?
あのナターシャの実家は商人上がりながら、なかなか良い領地を持っていたそうではありませんか?」
ふん、そんなこともないがな?
第二王子は呆れたように呟いた。
「そんな話をどこから仕入れてくるのだ?
まったく、あの学院の女性の園というものは‥‥‥」
「そんなことはありませんよ、第二王子様?
女というものは噂と冒険が大好きなもの。
それより、あの光景は本当に滑稽でしたわ‥‥‥」
クスクスと口元を扇で隠しながら笑いだすサーシャは本物の魔女のようだった。
低い男性歌手のバリトンが場内に響き渡る中、第二王子はそれでも面白かったらしい。
「誰だ、あの衣装を着ても罪にはならんとサーシャに吹き込んだやつは?
憐れにも、自分から着込み、踊りとステップを踏んでいたらしいな?」
なんと間抜けで愚かな女だ。
自分が周りに言い様に扱われていることにも気づかなかったのだから。
そう、エルウィンは王族らしからぬ品位のない顔でゲラゲラと笑い声を上げる。
その音はたまたま歌手の声に打ち消されていたが、静かであれば劇場内の物笑いの種になるほどだった。
サーシャは得意気になり、ついつい軽口を叩いてしまう。
「本当に、あんな庶民あがりの新興貴族。
さっさと死ねばいいんですわーー」
そのサーシャの発言にエルウィンは笑うのをやめた。
いきなるサーシャの喉元を抑えつけると、それまでに見せた事のない冷酷な笑顔で忠告する。
「お、王子‥‥‥様!?
な、なにをー‥‥‥???」
見知らぬ誰かに早変わりしたかのような男がそこにはいた。
「いいか、サーシャ。
これは僕たちだけの内々のことなんだ。
お前が公爵令嬢だろうと関係ない。
もし、誰かにでも漏らしてみろ?
次はお前があの山で死を迎えることになるぞ。
わかったのか?」
ふん、そう言いサーシャをソファーの端に投げ出すと王子は再度、問いただした。
「分かったのかと、聞いているんだ?」
返事次第ではその首をはねてもいいんだぞ?
その問いかけはそんな、恐ろしい言葉の刃を含んでいた。
「は、はい‥‥‥王子様」
サーシャは先程までのおバカであくどい冷酷な女の顔はどこにいったのか。
いまはただ、限りなく横暴を可能にする権力を持つ男に怯えていた。
自分は愛されて選ばれたのではない。
ただ、あのナターシャを殺すためにだけに選ばれた、単なる第二王子の気まぐれなおもちゃだということも理解し始めていた。
この男は悪魔よりにえぐい。
必要であれば父親でも殺すだろう。
自分もいつかは殺されるかもしれない。
心を得なければならない。
主人の持つその狂気から、彼の愛を引き出さなければ、いつかは殺される。
サーシャはそう思い始めていた。
「見ろよ、まるであれはお前のようだな、サーシャ」
いじめでも言うように、そうささやく婚約者に、サーシャはまたあくどい笑みで微笑みかえる。
「あら、あの侯爵夫人の旦那様もあなた様のようですわよ、エルウィン様?
あのナターシャの実家は商人上がりながら、なかなか良い領地を持っていたそうではありませんか?」
ふん、そんなこともないがな?
第二王子は呆れたように呟いた。
「そんな話をどこから仕入れてくるのだ?
まったく、あの学院の女性の園というものは‥‥‥」
「そんなことはありませんよ、第二王子様?
女というものは噂と冒険が大好きなもの。
それより、あの光景は本当に滑稽でしたわ‥‥‥」
クスクスと口元を扇で隠しながら笑いだすサーシャは本物の魔女のようだった。
低い男性歌手のバリトンが場内に響き渡る中、第二王子はそれでも面白かったらしい。
「誰だ、あの衣装を着ても罪にはならんとサーシャに吹き込んだやつは?
憐れにも、自分から着込み、踊りとステップを踏んでいたらしいな?」
なんと間抜けで愚かな女だ。
自分が周りに言い様に扱われていることにも気づかなかったのだから。
そう、エルウィンは王族らしからぬ品位のない顔でゲラゲラと笑い声を上げる。
その音はたまたま歌手の声に打ち消されていたが、静かであれば劇場内の物笑いの種になるほどだった。
サーシャは得意気になり、ついつい軽口を叩いてしまう。
「本当に、あんな庶民あがりの新興貴族。
さっさと死ねばいいんですわーー」
そのサーシャの発言にエルウィンは笑うのをやめた。
いきなるサーシャの喉元を抑えつけると、それまでに見せた事のない冷酷な笑顔で忠告する。
「お、王子‥‥‥様!?
な、なにをー‥‥‥???」
見知らぬ誰かに早変わりしたかのような男がそこにはいた。
「いいか、サーシャ。
これは僕たちだけの内々のことなんだ。
お前が公爵令嬢だろうと関係ない。
もし、誰かにでも漏らしてみろ?
次はお前があの山で死を迎えることになるぞ。
わかったのか?」
ふん、そう言いサーシャをソファーの端に投げ出すと王子は再度、問いただした。
「分かったのかと、聞いているんだ?」
返事次第ではその首をはねてもいいんだぞ?
その問いかけはそんな、恐ろしい言葉の刃を含んでいた。
「は、はい‥‥‥王子様」
サーシャは先程までのおバカであくどい冷酷な女の顔はどこにいったのか。
いまはただ、限りなく横暴を可能にする権力を持つ男に怯えていた。
自分は愛されて選ばれたのではない。
ただ、あのナターシャを殺すためにだけに選ばれた、単なる第二王子の気まぐれなおもちゃだということも理解し始めていた。
この男は悪魔よりにえぐい。
必要であれば父親でも殺すだろう。
自分もいつかは殺されるかもしれない。
心を得なければならない。
主人の持つその狂気から、彼の愛を引き出さなければ、いつかは殺される。
サーシャはそう思い始めていた。
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