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第四章 カヌークの番人
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しおりを挟むその主からナターシャに発せられた声は、怒りというよりは悲鳴、困惑。
そんな感情がそのまま三人の人間を襲った。
頭がその波にクラクラとしそうな中、
「り、りゅう‥‥‥おう、様???」
アルフレッドのその声が、竜王の意識を平常へと戻させる。
「あー‥‥‥すまない。
怯えさせるつもりはなかったのだ。
いきなりの怒声、どうか許して欲しい」
彼は多くの人間が抱く竜王のイメージからは程多く、真摯でいて丁寧だった。
アギスは初めて見たこの竜王の怒りの恐ろしさに及び腰になるが、どうにかそこに立って入れた。
ナターシャはその怒りを一番多く向けられただからたまらない。
立っていることができず、その場にへたりこんでしまっていた。
「ありゃ。
ナターシャ、大丈夫かい?」
アルフレッドだけが、まあ怯えてはいたがまともに口を聞ける存在なのが、アギスには異様な光景に見えた。
「戦場で慣らしたはずの俺が怯えて、お前が平気だとはなあ。
なんとも皮肉だ。
ほら、立てるかい?」
頭を振りながら、アギスはナターシャを椅子に腰かけさせる。
ナターシャは返事をしたかったが、言葉が言葉にならない。
心があの夜のように、冷え切ったしまっていた。
そう、殺される。
その現実を自分で体験し克服してきたアギスとまだそれに直面はしたものの逃避してきたナターシャは、竜王の怒りにを受け入れるのに敏感になっていた。
唯一、平和に暮らしてきたアルフレッドだけがそれを受け流せたのは、ある意味、皮肉だった。
「ナターシャというのか?
すまなかった、どうか落ち着いてくれ‥‥‥」
竜王もまたこんな体験はあまりないのだろう。
緑色の髪を見て妖精か、それに属する血を引いているのだろうと観察しながら少女に謝っていた。
「ごめん……なさいーー」
ナターシャの第一声はそれだった。
続いて流れ出る、頬をつたる涙。
それと嗚咽の声が辺りに響く。
恐怖からではなく、あの場から。
死者たちの怨念を背負って、それでもなお生きたいと逃げ出した。
その思いが逆にナターシャの心を責めていた。
「‥‥‥逃げ出したんです、逃げた!
逃げたんです、わたしはーー!!!
死にたく‥‥‥なかったー‥‥‥逃げたんです、死刑になるから。
わたしは罪人なんです、ごめんなさい‥‥‥その剣」
一気に押し寄せる感情が涙を流させる。
自分だけ生き残った罪悪感が、どうしても許せなかった。
それだけ彼女の心にはあの場で死んだ人間たちの悲しみ、憎しみが同じ時間の感情として共有されつつあった。
竜王はそれに気づいたのだろう。
立ちあがると、彼はナターシャに歩みよりそっとその手を差し伸べる。
「ひっ‥‥‥」
ナターシャは悲鳴とともに身を引くしかなかった。
それほどに竜王のあの感情が恐ろしかったからだ。
「大丈夫だ、手を取ってくれないか?
罪人でも罰したりはしない、なにも危害は加えない」
半ば無理矢理、竜王はナターシャの片手を掴んでしまう。
そして言った。
「ナターシャ、あなたの心のうちには、多くの怨念が棲みついている。
それは契約によるものだな‥‥‥約束をしたのか?」
ナターシャは触れられた時から心の闇が少しずつ晴れていくのを感じていた。
同時に、死人たちの憎しみも死への恐怖も薄れていくことも感じ取れた。
「はい‥‥‥そう、です。
濃霧の中にいた時に、あの塔の、あの処刑場の多くの死体のー‥‥‥それは、ルクナツァグ様にも言われました。
そうだ、ルクナツァグ様があなた様に会うようにと、自分の名を出すようにと、そう言われていました。
だから、来たんです。
その剣は‥‥‥あの塔の、側の死体からお借りしたものです。
泥棒と言われるならば、罰を受けます‥‥‥」
何もかも観念したかのように、ナターシャはおとなしく座り込んでしまった。
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