43 / 90
第四章 カヌークの番人
8
しおりを挟む
誰もが沈黙してしまいそうな雰囲気を破ったのは、やはりアルフレッドだった。
彼は持ち前の陽気さ、いや、天然ぶりを発揮してくれた。
「あーあ‥‥‥泣かせちゃったよ、竜王様ーー。
相手は俺と変わらないまだ子供なんですよ?
森の人で見た目がもっと上なら、それは違うかもしれないけど‥‥‥」
アルフレッドの物言いにアギスが真っ青になる。
「こら、お前!!
竜王様になんてこと!」
だって、とアルフレッドはアギスの拳をかわしながらナターシャを指差す。
「どう見たって、普通の心じゃないよ、ナターシャさ。
いま見てるだけでもわかるじゃん?
俺たちの分からない、そら恐ろしかった過去に追いかけられて逃げ場がない。
そんな顔してるんだぜ?」
可哀想でしょ?
そう言われてみると、アギスは言い返せなくなる。
ナターシャの怯えぶりも、悲しみ様も、何より、覚悟を決めたようなその死を受け入れる罪人のような表情も‥‥‥どれを見ても責めれるものではなかったからだ。
「いや、わたしはそんなつもりではー‥‥‥!?」
アルフレッドに言われた竜王は竜王でこれは困ったと頭を抱えてしまう。
「まったく、あのケルピー‥‥‥ルクナツァグめ。
これは困ったものを寄越してくれたものだ‥‥‥」
竜王はため息交じりにそう呟いた。
困ったもの?
来ては行けなかった?
あの亡者たちとの約束をわたしは‥‥‥
果たせないんだ。
そう、心のどこかで悟ると、
「あの、アルフレッド。
ごめんなさい、短剣をくれませんか?
あの死者たちとの約束が果たせないなら、死をもって償うと。
そう約束したので‥‥‥」
「はあ!?
いや、それはー死ぬこと考えるより、まだ誰も何も聞いてないよナターシャ?
それで死のうってするのは、早合点過ぎないか?」
だめだめ、そんなことの為には渡せないよ。
アルフレッドは荷物を奥へとやってしまう。
ナターシャは更に涙を流した。
「だって、いま竜王様は困ったものだと」
「それは言われたけど、話を聞かないとは言われてないよ。
ナターシャ、落ち着いてくれないかな?
死ぬなら、全部話してから死になよ。
ほら、あの滝つぼの中には竜王様のお城があるから。
そこに飛び込めば、少しは気晴らしになるだろ?」
「おい、小僧!?
なんてことを言うんだ、我が城を人の血で汚すなど!??」
思いがけないことを言われて竜王がとんでもない小僧だとアルフレッドを睨みつける。
「なら、竜王様はこの子の話を聞いてやってくれるんですよね?
そういう意味に捕えていいですか?
だって、ここまで涙流して死んでいった人間たちのために来たんですよ?
彼女の話を信じるなら、だけど。
追い返すのは‥‥‥ねえ?」
「それはまるでわたしがそう仕向けたような言い方をするのだな、小僧?
いや、アルフレッドか?」
「いえね、竜王様。
そうは言いませんけど、まずなんで怒られたかを教えてあげないと、ナターシャ。
多分、永遠に泣いてますよ?
何をそんなにお怒りだったんですか?」
きっかけを解決しないと何も始まらない。
それをアルフレッドに教えられて竜王ははっとなる。
そう言われれば、それはそうかもしれない。
あの剣を見た瞬間、人の身で受けるにはあまりにも強すぎる怒りの波動をあびせたのは‥‥‥自分なのだから。
「そう‥‥‥だな。
わかった。
話そう。
アギス、済まない。
来客の相手を頼めるかな?」
言われて見ると、次の貴族様方がこちらにこようとしてるらしい。
合図の旗が上がっていた。
「なら、二階で。
アルフレッド、ナターシャが寝ていた部屋にお連れしろ。
お前も一緒にいてやれ。
年齢も近そうだしな」
「はいよ、旦那」
こうして、ナターシャはフラフラと泣きながら歩き、二階へと移動することになった。
彼は持ち前の陽気さ、いや、天然ぶりを発揮してくれた。
「あーあ‥‥‥泣かせちゃったよ、竜王様ーー。
相手は俺と変わらないまだ子供なんですよ?
森の人で見た目がもっと上なら、それは違うかもしれないけど‥‥‥」
アルフレッドの物言いにアギスが真っ青になる。
「こら、お前!!
竜王様になんてこと!」
だって、とアルフレッドはアギスの拳をかわしながらナターシャを指差す。
「どう見たって、普通の心じゃないよ、ナターシャさ。
いま見てるだけでもわかるじゃん?
俺たちの分からない、そら恐ろしかった過去に追いかけられて逃げ場がない。
そんな顔してるんだぜ?」
可哀想でしょ?
そう言われてみると、アギスは言い返せなくなる。
ナターシャの怯えぶりも、悲しみ様も、何より、覚悟を決めたようなその死を受け入れる罪人のような表情も‥‥‥どれを見ても責めれるものではなかったからだ。
「いや、わたしはそんなつもりではー‥‥‥!?」
アルフレッドに言われた竜王は竜王でこれは困ったと頭を抱えてしまう。
「まったく、あのケルピー‥‥‥ルクナツァグめ。
これは困ったものを寄越してくれたものだ‥‥‥」
竜王はため息交じりにそう呟いた。
困ったもの?
来ては行けなかった?
あの亡者たちとの約束をわたしは‥‥‥
果たせないんだ。
そう、心のどこかで悟ると、
「あの、アルフレッド。
ごめんなさい、短剣をくれませんか?
あの死者たちとの約束が果たせないなら、死をもって償うと。
そう約束したので‥‥‥」
「はあ!?
いや、それはー死ぬこと考えるより、まだ誰も何も聞いてないよナターシャ?
それで死のうってするのは、早合点過ぎないか?」
だめだめ、そんなことの為には渡せないよ。
アルフレッドは荷物を奥へとやってしまう。
ナターシャは更に涙を流した。
「だって、いま竜王様は困ったものだと」
「それは言われたけど、話を聞かないとは言われてないよ。
ナターシャ、落ち着いてくれないかな?
死ぬなら、全部話してから死になよ。
ほら、あの滝つぼの中には竜王様のお城があるから。
そこに飛び込めば、少しは気晴らしになるだろ?」
「おい、小僧!?
なんてことを言うんだ、我が城を人の血で汚すなど!??」
思いがけないことを言われて竜王がとんでもない小僧だとアルフレッドを睨みつける。
「なら、竜王様はこの子の話を聞いてやってくれるんですよね?
そういう意味に捕えていいですか?
だって、ここまで涙流して死んでいった人間たちのために来たんですよ?
彼女の話を信じるなら、だけど。
追い返すのは‥‥‥ねえ?」
「それはまるでわたしがそう仕向けたような言い方をするのだな、小僧?
いや、アルフレッドか?」
「いえね、竜王様。
そうは言いませんけど、まずなんで怒られたかを教えてあげないと、ナターシャ。
多分、永遠に泣いてますよ?
何をそんなにお怒りだったんですか?」
きっかけを解決しないと何も始まらない。
それをアルフレッドに教えられて竜王ははっとなる。
そう言われれば、それはそうかもしれない。
あの剣を見た瞬間、人の身で受けるにはあまりにも強すぎる怒りの波動をあびせたのは‥‥‥自分なのだから。
「そう‥‥‥だな。
わかった。
話そう。
アギス、済まない。
来客の相手を頼めるかな?」
言われて見ると、次の貴族様方がこちらにこようとしてるらしい。
合図の旗が上がっていた。
「なら、二階で。
アルフレッド、ナターシャが寝ていた部屋にお連れしろ。
お前も一緒にいてやれ。
年齢も近そうだしな」
「はいよ、旦那」
こうして、ナターシャはフラフラと泣きながら歩き、二階へと移動することになった。
0
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる