49 / 90
第五章 神々の山脈
3
しおりを挟む
「神々の山脈‥‥‥???
それは一体??」
ナターシャは不思議そうに竜王に尋ねる。
アルフレッドはそれ以前に、この仕事を休むとなったらオヤジに拳骨喰らうなあ。
そういう心配をしていた。
竜王は、そうか。
いきなりいってもわからんか。
と思案し、簡単に説明する。
「エイジスは東にある。
こことの間には、あの巨大なタレイル山脈があるだろう?
あそこには山脈内を繰り抜いた、大きな神殿があるのだ。
古い古い神々が住まう、古代の神殿がな。
エイジスにすぐに行くことは可能だが、それはわたしだけならば、の話だ。
人間であるお前達を連れて、異空間を長距離も移動させるには不安がある」
ふんふん、そう相槌を打っていたアルフレッドが口を開いた。
「ねえ、竜王様。
それ、どれくらの期間の旅になるんですか?」
期間?
ふん、そうだな‥‥‥
人間の時間に換算するならばーー
「二週間ほど、かな?
まあ、月末には戻れよう。
なにか不都合でもあるのか?」
「二週間!!??」
そりゃあだめだ、アルフレッドはそう声を大にして言った。
「なぜ、だめなのだ?」
竜王は不思議な顔をする。
そんなに長い期間でもないだろう、と。
「いえね、竜王様。
俺はここのカヌークの受付と管理場の見習いなんですよ。
実家では、農家もしてるし、オヤジの手伝いもある。
二週間も消えたら、親に叱られますよ‥‥‥」
「ふむー‥‥‥。
そういう都合も人間にはあるのかー」
それでしたら、とアルフレッドは言いだす。
「竜王様だけが行かれて、そのシーナ王妃様?
に直接、お会いになって依頼なされれば宜しいじゃないんです?」
それは至極もっともな意見のようにナターシャにも思えた。
わざわざ、神でもない自分たちがお会いすること自体、不敬でしかないような気がしたからだ。
しかし。
竜王はなぜか、とても遠い目をして渋そうな顔をする。
「‥‥‥なのだ」
ぼそりと言うその言葉は小さすぎて聞こえなかった。
「え?
なんですか、竜王様?」
アルフレッドは恐いもの知らずだ。
面と向かって竜王様に率直に物言いをする。
それはナターシャには出来ないことだった。
彼は凄い。
どこか尊敬の念を抱けるほどに、ナターシャにとってアルフレッドは自由奔放で、それでいて意志の強さに満ち溢れていた。
まるであの王子とは正反対。
こんな人が、王子だったらよかったのに。
ふと、ナターシャはそんなことを思っている自分に気づき、一人はしたないと赤面していた。
そして竜王はーー
「苦手なのだ!!
あの王妃は、あの、おてんば娘は!!
もう二度目だぞ、二度目!!
それも、あの王の浮気‥‥‥仕方ないではないか。
王なのだから。
子を成さねばならんのだ。
側室も‥‥‥なあ?」
なあ、と振られても一番困ったのはナターシャだ。
まるで側室のように扱われ、捨てられたのだから。
だからついつい、ナターシャもアルフレッドのように言ってしまった。
「いいえ、竜王様!!
側室なんてもったいない。
二度も再婚してくださった王妃様に尽くすべきですわ、鏡の国の王様は!!!」
と‥‥‥
それは一体??」
ナターシャは不思議そうに竜王に尋ねる。
アルフレッドはそれ以前に、この仕事を休むとなったらオヤジに拳骨喰らうなあ。
そういう心配をしていた。
竜王は、そうか。
いきなりいってもわからんか。
と思案し、簡単に説明する。
「エイジスは東にある。
こことの間には、あの巨大なタレイル山脈があるだろう?
あそこには山脈内を繰り抜いた、大きな神殿があるのだ。
古い古い神々が住まう、古代の神殿がな。
エイジスにすぐに行くことは可能だが、それはわたしだけならば、の話だ。
人間であるお前達を連れて、異空間を長距離も移動させるには不安がある」
ふんふん、そう相槌を打っていたアルフレッドが口を開いた。
「ねえ、竜王様。
それ、どれくらの期間の旅になるんですか?」
期間?
ふん、そうだな‥‥‥
人間の時間に換算するならばーー
「二週間ほど、かな?
まあ、月末には戻れよう。
なにか不都合でもあるのか?」
「二週間!!??」
そりゃあだめだ、アルフレッドはそう声を大にして言った。
「なぜ、だめなのだ?」
竜王は不思議な顔をする。
そんなに長い期間でもないだろう、と。
「いえね、竜王様。
俺はここのカヌークの受付と管理場の見習いなんですよ。
実家では、農家もしてるし、オヤジの手伝いもある。
二週間も消えたら、親に叱られますよ‥‥‥」
「ふむー‥‥‥。
そういう都合も人間にはあるのかー」
それでしたら、とアルフレッドは言いだす。
「竜王様だけが行かれて、そのシーナ王妃様?
に直接、お会いになって依頼なされれば宜しいじゃないんです?」
それは至極もっともな意見のようにナターシャにも思えた。
わざわざ、神でもない自分たちがお会いすること自体、不敬でしかないような気がしたからだ。
しかし。
竜王はなぜか、とても遠い目をして渋そうな顔をする。
「‥‥‥なのだ」
ぼそりと言うその言葉は小さすぎて聞こえなかった。
「え?
なんですか、竜王様?」
アルフレッドは恐いもの知らずだ。
面と向かって竜王様に率直に物言いをする。
それはナターシャには出来ないことだった。
彼は凄い。
どこか尊敬の念を抱けるほどに、ナターシャにとってアルフレッドは自由奔放で、それでいて意志の強さに満ち溢れていた。
まるであの王子とは正反対。
こんな人が、王子だったらよかったのに。
ふと、ナターシャはそんなことを思っている自分に気づき、一人はしたないと赤面していた。
そして竜王はーー
「苦手なのだ!!
あの王妃は、あの、おてんば娘は!!
もう二度目だぞ、二度目!!
それも、あの王の浮気‥‥‥仕方ないではないか。
王なのだから。
子を成さねばならんのだ。
側室も‥‥‥なあ?」
なあ、と振られても一番困ったのはナターシャだ。
まるで側室のように扱われ、捨てられたのだから。
だからついつい、ナターシャもアルフレッドのように言ってしまった。
「いいえ、竜王様!!
側室なんてもったいない。
二度も再婚してくださった王妃様に尽くすべきですわ、鏡の国の王様は!!!」
と‥‥‥
0
あなたにおすすめの小説
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる