53 / 90
第五章 神々の山脈
7
しおりを挟む
嘆きの塔に近づいた部下は、内部から立ち込める凄まじい腐臭に顔をしかめた。
驚いたことに、そこに収監されているはずのナターシャの姿は影も形も無かった。
何より、丸く四方を囲む壁に設置されていた鉄の輪が‥‥‥壊されている。
これは共謀者がいたのか、それとも、当人がやったのか。
それにしては、この塔の深さは日中の今にしても見えないほどに薄暗い。
底の方に堕ちた遺体がある可能性は否めなかった。
「子爵様‥‥‥逃れたか、下に落ちたか。
どちらにせよ、当人の姿形は見当たりません」
部下は間抜けにもそう報告するしかなかった。
ゼイルード卿は思案する。
逃れた?
鎖と鉄輪が劣化していたからか?
それとも――
「あのナターシャ様は確か学院の生徒だったな?」
そんな当たり前のことが今更、なぜ気になるのか。
部下は不思議そうな顔をする。
「共謀者がいるとすれば、王国内ではない。
外部、枢軸や帝国の貴族の子弟子女の部下かもしれん。
交友関係を洗いだす必要がある‥‥‥何より――」
あの第二王子だ。
あの夜、被害者のサーシャと自分は会っていた。
その数時間後に投身自殺した!?
はっ‥‥‥滑稽にもほどがある。
誰かが、殺したのだ。
その誰かが誰なのか。
さあ、誰だ?
ナターシャを陥れ、サーシャを殺しせしめたのは?
この法の番人に与えられた権限を甘く見るなよ??
そう、ゼイルード卿は不敵に微笑んだ。
首切り役人であるからこそ、彼には特別な許可が。
特権が与えれられている。それは犯罪者が明白になった場合、その場で首を刎ねても構わない。
そういう、免状を皇帝から直々に与えられているのだ。
「そして、その真実を捜査する特権もな‥‥‥。
逃がさんぞ、不埒なやからめ‥‥‥」
ゼイルード卿は怒りに肩を震わせた。
そして、部下に命じる。
「おい、その塔に火を放て。
遠くから放り込めよ?
爆発するかもしれんぞ?」
中には発火気体が充満している。
爆音とその業火は犯人にさぞや、恐怖心を与えることだろう。
人を陥れることがどれほどの重罪か教え込む必要がある。
「あの第二王子相手でもな‥‥‥」
そう呟いた時、ゼイルード卿はふと気づいた。
地層が変わっている部分が新しく掘り返されたあとがることを。
ニヤリと彼は笑う。
どうやら、ナターシャ様は生きておられるらしい。
ならば、捜索はやめだ。
戻られた時に、安心して王都に足を運べるように。
学院で再び、笑顔で友人たちといられるようにして差しあげねば。
冤罪を被ったまま、生きるのはさぞや辛いだろう。
「子爵様!!
炎の精霊に命じました。
あと数分で――」
部下の一人がそんな報告をしてくる。
この忌まわしい処刑場も、無くなればいいのだ。
王国の下らん闇など――もし、これが教会の魔女裁判そのものを覆せるきっかけになるならば。
ゼイルード卿はそんなことも考えていた。
無実の者たちが魔女裁判、悪魔裁判で死んでいくのをずっと黙って見て来たからだ。
その場を離れたあとに、彼らはナターシャが身分証明書を偽造した小屋の内部を捜索し、彼女が枢軸側へと逃げたことに確信をもった。
「面白い貴族子女だな、ナターシャ様は‥‥‥。
どうか逃げ延びて下さい」
そう願うと共に、思い出すのはあの警護兵たちの会話だ。
実家は格下げになり、財産は没収された。
誰にだ?
それは、どこの誰の手に渡った!?
もしからたら、王国が大きく変わるかもしれない。
ゼイルード卿はそんな予感を胸に秘めて、処刑場を部下と共に後にした。
「良い感じで燃えているではないか‥‥‥。
教会を追い出せる狼煙になればいいが――」
彼は人知れず、そう呟いた。
驚いたことに、そこに収監されているはずのナターシャの姿は影も形も無かった。
何より、丸く四方を囲む壁に設置されていた鉄の輪が‥‥‥壊されている。
これは共謀者がいたのか、それとも、当人がやったのか。
それにしては、この塔の深さは日中の今にしても見えないほどに薄暗い。
底の方に堕ちた遺体がある可能性は否めなかった。
「子爵様‥‥‥逃れたか、下に落ちたか。
どちらにせよ、当人の姿形は見当たりません」
部下は間抜けにもそう報告するしかなかった。
ゼイルード卿は思案する。
逃れた?
鎖と鉄輪が劣化していたからか?
それとも――
「あのナターシャ様は確か学院の生徒だったな?」
そんな当たり前のことが今更、なぜ気になるのか。
部下は不思議そうな顔をする。
「共謀者がいるとすれば、王国内ではない。
外部、枢軸や帝国の貴族の子弟子女の部下かもしれん。
交友関係を洗いだす必要がある‥‥‥何より――」
あの第二王子だ。
あの夜、被害者のサーシャと自分は会っていた。
その数時間後に投身自殺した!?
はっ‥‥‥滑稽にもほどがある。
誰かが、殺したのだ。
その誰かが誰なのか。
さあ、誰だ?
ナターシャを陥れ、サーシャを殺しせしめたのは?
この法の番人に与えられた権限を甘く見るなよ??
そう、ゼイルード卿は不敵に微笑んだ。
首切り役人であるからこそ、彼には特別な許可が。
特権が与えれられている。それは犯罪者が明白になった場合、その場で首を刎ねても構わない。
そういう、免状を皇帝から直々に与えられているのだ。
「そして、その真実を捜査する特権もな‥‥‥。
逃がさんぞ、不埒なやからめ‥‥‥」
ゼイルード卿は怒りに肩を震わせた。
そして、部下に命じる。
「おい、その塔に火を放て。
遠くから放り込めよ?
爆発するかもしれんぞ?」
中には発火気体が充満している。
爆音とその業火は犯人にさぞや、恐怖心を与えることだろう。
人を陥れることがどれほどの重罪か教え込む必要がある。
「あの第二王子相手でもな‥‥‥」
そう呟いた時、ゼイルード卿はふと気づいた。
地層が変わっている部分が新しく掘り返されたあとがることを。
ニヤリと彼は笑う。
どうやら、ナターシャ様は生きておられるらしい。
ならば、捜索はやめだ。
戻られた時に、安心して王都に足を運べるように。
学院で再び、笑顔で友人たちといられるようにして差しあげねば。
冤罪を被ったまま、生きるのはさぞや辛いだろう。
「子爵様!!
炎の精霊に命じました。
あと数分で――」
部下の一人がそんな報告をしてくる。
この忌まわしい処刑場も、無くなればいいのだ。
王国の下らん闇など――もし、これが教会の魔女裁判そのものを覆せるきっかけになるならば。
ゼイルード卿はそんなことも考えていた。
無実の者たちが魔女裁判、悪魔裁判で死んでいくのをずっと黙って見て来たからだ。
その場を離れたあとに、彼らはナターシャが身分証明書を偽造した小屋の内部を捜索し、彼女が枢軸側へと逃げたことに確信をもった。
「面白い貴族子女だな、ナターシャ様は‥‥‥。
どうか逃げ延びて下さい」
そう願うと共に、思い出すのはあの警護兵たちの会話だ。
実家は格下げになり、財産は没収された。
誰にだ?
それは、どこの誰の手に渡った!?
もしからたら、王国が大きく変わるかもしれない。
ゼイルード卿はそんな予感を胸に秘めて、処刑場を部下と共に後にした。
「良い感じで燃えているではないか‥‥‥。
教会を追い出せる狼煙になればいいが――」
彼は人知れず、そう呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』
鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」
王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。
感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、
彼女はただ――王宮を去った。
しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。
外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、
かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。
一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。
帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、
彼女は再び“判断する側”として歩み始める。
やがて明らかになるのは、
王国が失ったのは「婚約者」ではなく、
判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。
謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。
それでも――
選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。
これは、
捨てられた令嬢が声を荒げることなく、
世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました
鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」
前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。
貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。
「まずは資金を確保しなくちゃね」
異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。
次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。
気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。
そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。
しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。
それを知った公爵は激怒する――
「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」
サラの金融帝国の成長は止まらない。
貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。
果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
今度は、私の番です。
宵森みなと
恋愛
『この人生、ようやく私の番。―恋も自由も、取り返します―』
結婚、出産、子育て――
家族のために我慢し続けた40年の人生は、
ある日、検査結果も聞けないまま、静かに終わった。
だけど、そのとき心に残っていたのは、
「自分だけの自由な時間」
たったそれだけの、小さな夢だった
目を覚ましたら、私は異世界――
伯爵家の次女、13歳の少女・セレスティアに生まれ変わっていた。
「私は誰にも従いたくないの。誰かの期待通りに生きるなんてまっぴら。自分で、自分の未来を選びたい。だからこそ、特別科での学びを通して、力をつける。選ばれるためじゃない、自分で選ぶために」
自由に生き、素敵な恋だってしてみたい。
そう決めた私は、
だって、もう我慢する理由なんて、どこにもないのだから――。
これは、恋も自由も諦めなかった
ある“元・母であり妻だった”女性の、転生リスタート物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる