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第五章 神々の山脈
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「やれやれ‥‥‥」
ゼイルード卿は執務室で呆れた声を出してそれを読み上げていた。
荘園だの城だの領民だのと。
一度、貴族院に帰属させたところでその指示を出したのが誰なのか。
その上には誰がいて、処理した文官は誰なのか。
「侯爵に公爵だ。
王族にも継ぐほどの規模の財産を双方合わせて見取ることができるのにな。
それを数人がかりで処理したとはいえ――」
そこにある決済のサインや、係の者の名前は全て同一。
同時期に死亡した貴族たちの財産処分の状況と照らし合わせても、その処理は迅速かつ的確。
そして――
「明確すぎるな、第二王子様‥‥‥
全てはあなたの持つ、複数の貴族籍に分散されているとはいえ。
調べれば調べるほどに、あからさまだ。
まるで、疑ってくれとでも言わんばかりに‥‥‥」
つまり、疑惑がかかればその子飼いの文官たちと適当に飼い殺しにしている上流階級の誰かが。
第二王子の罪を被って消えるのだろう。
その犯人の首を刎ねるのは――ゼイルード卿だ。
「そんな、損な役回りはごめんこうむりたいな‥‥‥」
そして、回覧されてくる今回の移動辞令の一覧表。
さきほどの、やれやれ、はそれを見て出た言葉だった。
どうやら、第二王子はとことん、自分を毛嫌いしているらしい。
まさか、飛空艇で二週間はかかる人類最大国家、エイジス連邦への移動を命じられるとは‥‥‥
「愚かにもほどがある。
わたしは首切り役人。
子爵位とはいえ、下賤で不浄な存在。
この王宮にすらも入ることを許されないそんな人間を、あの大国へと送り込むだと?
それも、特務武官級とは。
戦争でも起こさせてくれとでも言わせるつもりか?」
数々の特権といざとなれば、近衛兵団の一個師団は指揮できる権限を与えるとは。
呆れてものが言えない。
いや、この特務武官というのは、せいぜい、どこかの文官の浅知恵だろう。
国内外に、鮮血子爵で名高い自分を送り出すためのお飾りの役職。
「本当に間抜けな。
特務武官?
つまり、スパイではないか。
エイジス連邦の首都エイジスは確かに、人類国家群の最新の情報が集まる場所。
グラン王国程度の小規模の国がスパイを送り込んだところで、他の大国のスパイ共に殺されるのがオチ。
そういう意味かも知れん。
まあ、それなら人斬りゼイルード。
鮮血の華を咲かせるには良い場所になりそうだ」
この歳になるまで落とした首の数は数百。
さて、私の腕前にかなう剣士が、たかだかスパイ程度にいるものか?
いや、それよりも面白いのはこの特務武官だ。
近衛師団、動かせてもらおうではないか。
闇には、闇のやり方があることを忘れて頂いては困りますな、第二王子殿。
ゼイルード卿は不敵に微笑むと、部下を招集した。
彼がこのグラン王国に戻るまでの間に、ナターシャとサーシャの遺産をすべて。
近衛兵団の手により、接収し管理監督せよ、と。
そう命じて、
「さて、それでは気楽な空の旅としゃれこもうか。
たまには長期間の旅も悪くはない。
エイジス‥‥‥海の都。
羽を伸ばすのは良い場所だ」
こうして、ゼイルード卿はその数日後。
空の旅人となった。
ゼイルード卿は執務室で呆れた声を出してそれを読み上げていた。
荘園だの城だの領民だのと。
一度、貴族院に帰属させたところでその指示を出したのが誰なのか。
その上には誰がいて、処理した文官は誰なのか。
「侯爵に公爵だ。
王族にも継ぐほどの規模の財産を双方合わせて見取ることができるのにな。
それを数人がかりで処理したとはいえ――」
そこにある決済のサインや、係の者の名前は全て同一。
同時期に死亡した貴族たちの財産処分の状況と照らし合わせても、その処理は迅速かつ的確。
そして――
「明確すぎるな、第二王子様‥‥‥
全てはあなたの持つ、複数の貴族籍に分散されているとはいえ。
調べれば調べるほどに、あからさまだ。
まるで、疑ってくれとでも言わんばかりに‥‥‥」
つまり、疑惑がかかればその子飼いの文官たちと適当に飼い殺しにしている上流階級の誰かが。
第二王子の罪を被って消えるのだろう。
その犯人の首を刎ねるのは――ゼイルード卿だ。
「そんな、損な役回りはごめんこうむりたいな‥‥‥」
そして、回覧されてくる今回の移動辞令の一覧表。
さきほどの、やれやれ、はそれを見て出た言葉だった。
どうやら、第二王子はとことん、自分を毛嫌いしているらしい。
まさか、飛空艇で二週間はかかる人類最大国家、エイジス連邦への移動を命じられるとは‥‥‥
「愚かにもほどがある。
わたしは首切り役人。
子爵位とはいえ、下賤で不浄な存在。
この王宮にすらも入ることを許されないそんな人間を、あの大国へと送り込むだと?
それも、特務武官級とは。
戦争でも起こさせてくれとでも言わせるつもりか?」
数々の特権といざとなれば、近衛兵団の一個師団は指揮できる権限を与えるとは。
呆れてものが言えない。
いや、この特務武官というのは、せいぜい、どこかの文官の浅知恵だろう。
国内外に、鮮血子爵で名高い自分を送り出すためのお飾りの役職。
「本当に間抜けな。
特務武官?
つまり、スパイではないか。
エイジス連邦の首都エイジスは確かに、人類国家群の最新の情報が集まる場所。
グラン王国程度の小規模の国がスパイを送り込んだところで、他の大国のスパイ共に殺されるのがオチ。
そういう意味かも知れん。
まあ、それなら人斬りゼイルード。
鮮血の華を咲かせるには良い場所になりそうだ」
この歳になるまで落とした首の数は数百。
さて、私の腕前にかなう剣士が、たかだかスパイ程度にいるものか?
いや、それよりも面白いのはこの特務武官だ。
近衛師団、動かせてもらおうではないか。
闇には、闇のやり方があることを忘れて頂いては困りますな、第二王子殿。
ゼイルード卿は不敵に微笑むと、部下を招集した。
彼がこのグラン王国に戻るまでの間に、ナターシャとサーシャの遺産をすべて。
近衛兵団の手により、接収し管理監督せよ、と。
そう命じて、
「さて、それでは気楽な空の旅としゃれこもうか。
たまには長期間の旅も悪くはない。
エイジス‥‥‥海の都。
羽を伸ばすのは良い場所だ」
こうして、ゼイルード卿はその数日後。
空の旅人となった。
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