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第六章 水の精霊女王
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眠りについていた?
水の精霊女王はとても不思議そうな顔をする。
その割には、いろいろと耳に届いていたからだ。
「あら、そうなのですか。
同じく、水に生きる者として‥‥‥アリアは寂しい日々でしたわ、竜王様?
夫、エバースとの挙式の日にお会いしてから幾星霜。
同じく、海の底にあるとある国では―‥‥‥」
ふふっ、と微笑みがらどうしても引きこもっていたことを言いたくないのだろうなあ。
そう、アリアが思い、竜王の確信に触れずにいた。
水の回廊は静かに緩やかに滑らかに動く床となり、四人?
いや、二人と神々二名を乗せて上昇し、神殿の安全とは言えないがまだ通過できるであろう階層まで四人をとどけにいく。
その途中で、水の精霊女王はふと、ナターシャが起こした。
そう竜王のことを庇っていた少年と彼に、ナターシャと呼ばれた少女を見た。
「海の底の話はまた今度に、な。
我らはエイジスへと向かわねばならん‥‥‥」
あーあ、竜王様。
自分から誘導されてどうするのさー。
アルフレッドはそう呆れていた。
自分にしがみついているナターシャが、いまはとても気になっている。
外見だけで惹かれていた面から、頼られているという信頼感がアルフレッドの期待を大きくし、そして、身分という名の水をかけられて‥‥‥
彼の恋の炎は薄められていく。
竜王はといえば、あら、エイジス?
エイジスといえば―なんて、地雷を自分から踏んでいる。
水の精霊女王がこれまた、楽しそうに。
それでいて、少しばかりナターシャが気になるようだった。
「エイジスの蒼い空はとても有名ですね、竜王様。
あの海洋国家であり、下界最大の人類国家。
海の蒼さをまるで鏡で映し出したかのような、蒼さが」
言葉の裏に、シーナ王妃の件はみな知っているのですよ?
そう、水の精霊女王は竜王に語り掛けていた。
「そ、そうだな、アリア殿。
かつてのように、蒼い髪が――」
これ以上は墓穴を掘るように成る。
竜王はシーナ王妃が大の苦手ということは、知人たちの間では有名だ。
彼がそれでも行こうとしている。
そんな場所に、彼のような古代精霊の一人が人間二人を連れて。
しかも、そのうちの一人はこの神殿を通るにはそぐわないものを引き連れている。
さて、どうしたものかしら。
アリアは思案していた。
そうこうしているうちに、四人の乗る回廊は神殿へと足を進めて行く。
ここから先は、神々や魔ですらもその力を大きく削がれる最高神の神域の一つ。
何かあった時に、アリアや竜王はその身を守れるだろう。
だが、この若い二人の男女はどうかな?
水の精霊女王は、その手前で回廊に歩みを止めさせた。
「竜王様」
意を決したようにアリアは彼に声をかけた。
うん? そう彼女を見る竜王は――
「この子のことか?
アリア殿。
亡霊だの怨霊だのを引き連れているのではないよ。
捕らわれているのでもない、彼女は契約したのだ。
だから、彼等はここにいる」
「契約?
そのような、千を越える人や魔の怨霊と契約など‥‥‥
正気でいれるはずがー‥‥‥」
水の精霊女王は、その時。
ナターシャが背負うその一振りの剣を見た。
数百年。
それに近い年月を得た、ある意味、神格にすら近い魔や怨霊を抑えているその剣。
そこには、誰かの意思がある。
人も死んだ後に何かに宿ることもあれば、その宿ったものが更に力を得て神へと至ることもままある。
神ではなく、魔神‥‥‥
それは、汚らわしいものでも、邪悪でもない。
暗黒神と呼ばれたゲフェトですら、下界の種族を守るために大地震で砕けようとしていた大地を接合し、そして旅立って行った。
その剣がこの神殿内であるいは、良い結果を産むかもしれない。
そして、竜王のウロコがその鞘になっているのを見て、アリアは考える。
「大きなものたちとの盟約を交わした、そういうことですか?
それも、彼等の狂気に触れてすら意識を保てるほどに高潔な約束を?」
水の精霊女王の視線を受けてナターシャは首を振った。
高潔な約束なんかじゃない。
自分は罪人で、盗人で、ただ生き延びたいだけに‥‥‥彼等と言葉を交わした。
そんな卑怯な女だと。
自分ではそう叫びたかった。
だれかに責められたかった。
一人だけ生き延びたのだから‥‥‥
「ナターシャ」
名前を呼ばれ、しがみついているその腕を肩に回して抱き寄せるアルフレッドは何も言うな。
そう無言で彼女を抱きしめていた。
お前が悪いわけじゃない。
生きたいのは誰もが同じなんだ、と。
かつての婚約者、第二王子エルウィンにも、同期の学院の仲間たちにも無い男らしさとその優しさに、ナターシャはただ黙って寄りかかる。
二人だけの暗黙の世界に踏み込む野暮はできず、アリアは、はあ‥‥‥
そうため息を漏らしていた。
「竜王様。
ここから先は、虚無もおれば闇のものたちも。
ある意味、命がけになりますが。
それでも行かれますか‥‥‥?」
ふっ、と。
出会ったあの時のように力なく竜王は笑いかける。
当たり前だろう?
水の精霊女王が、精霊女王となった時に間違えてしまい、最初に呼び出した眷属まがいの、より高位の存在のはずの彼はあの時もそう言って力になってくれた。
「力にならぬのならば、この場にはおらんよ」
そのセリフもまた同じもの。
「やれやれ‥‥‥あなた様も、我が夫も。
悪友どもは誰もがそう言われ、アリアを困らせるのですね。
あの炎の魔神と女神との一件、あなた様のお力添えで乗り越えたようなものですから――」
あちら側まで御供しますわ、竜王?
水の精霊女王は初めて、その地位に人の身から上がったときの珍事件を思い出して笑いながらそう言った。
ついでに、
「エイジスの蒼い髪。
シーナ王妃‥‥‥いえ、元王妃様にもお会いしたいですし。
アリアも久方ぶりの下界を楽しみたくあります」
そう言って微笑むのだった。
「やっぱりバレてるよ、なあ、ナターシャ?」
「そう、ね。
アル‥‥‥」
アル?
親兄弟や仲の良い友人しか呼ばないその呼び方で、俺を呼ぶのかい?
「うん‥‥‥」
エイジスに着いたら、自分は一人、飛空艇で戻ろう。
アルフレッドはそう考え始めていた。
これ以上、彼女に関わってはいけないのだ。
自分はー‥‥‥貴族ではないのだから、と。
水の精霊女王はとても不思議そうな顔をする。
その割には、いろいろと耳に届いていたからだ。
「あら、そうなのですか。
同じく、水に生きる者として‥‥‥アリアは寂しい日々でしたわ、竜王様?
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同じく、海の底にあるとある国では―‥‥‥」
ふふっ、と微笑みがらどうしても引きこもっていたことを言いたくないのだろうなあ。
そう、アリアが思い、竜王の確信に触れずにいた。
水の回廊は静かに緩やかに滑らかに動く床となり、四人?
いや、二人と神々二名を乗せて上昇し、神殿の安全とは言えないがまだ通過できるであろう階層まで四人をとどけにいく。
その途中で、水の精霊女王はふと、ナターシャが起こした。
そう竜王のことを庇っていた少年と彼に、ナターシャと呼ばれた少女を見た。
「海の底の話はまた今度に、な。
我らはエイジスへと向かわねばならん‥‥‥」
あーあ、竜王様。
自分から誘導されてどうするのさー。
アルフレッドはそう呆れていた。
自分にしがみついているナターシャが、いまはとても気になっている。
外見だけで惹かれていた面から、頼られているという信頼感がアルフレッドの期待を大きくし、そして、身分という名の水をかけられて‥‥‥
彼の恋の炎は薄められていく。
竜王はといえば、あら、エイジス?
エイジスといえば―なんて、地雷を自分から踏んでいる。
水の精霊女王がこれまた、楽しそうに。
それでいて、少しばかりナターシャが気になるようだった。
「エイジスの蒼い空はとても有名ですね、竜王様。
あの海洋国家であり、下界最大の人類国家。
海の蒼さをまるで鏡で映し出したかのような、蒼さが」
言葉の裏に、シーナ王妃の件はみな知っているのですよ?
そう、水の精霊女王は竜王に語り掛けていた。
「そ、そうだな、アリア殿。
かつてのように、蒼い髪が――」
これ以上は墓穴を掘るように成る。
竜王はシーナ王妃が大の苦手ということは、知人たちの間では有名だ。
彼がそれでも行こうとしている。
そんな場所に、彼のような古代精霊の一人が人間二人を連れて。
しかも、そのうちの一人はこの神殿を通るにはそぐわないものを引き連れている。
さて、どうしたものかしら。
アリアは思案していた。
そうこうしているうちに、四人の乗る回廊は神殿へと足を進めて行く。
ここから先は、神々や魔ですらもその力を大きく削がれる最高神の神域の一つ。
何かあった時に、アリアや竜王はその身を守れるだろう。
だが、この若い二人の男女はどうかな?
水の精霊女王は、その手前で回廊に歩みを止めさせた。
「竜王様」
意を決したようにアリアは彼に声をかけた。
うん? そう彼女を見る竜王は――
「この子のことか?
アリア殿。
亡霊だの怨霊だのを引き連れているのではないよ。
捕らわれているのでもない、彼女は契約したのだ。
だから、彼等はここにいる」
「契約?
そのような、千を越える人や魔の怨霊と契約など‥‥‥
正気でいれるはずがー‥‥‥」
水の精霊女王は、その時。
ナターシャが背負うその一振りの剣を見た。
数百年。
それに近い年月を得た、ある意味、神格にすら近い魔や怨霊を抑えているその剣。
そこには、誰かの意思がある。
人も死んだ後に何かに宿ることもあれば、その宿ったものが更に力を得て神へと至ることもままある。
神ではなく、魔神‥‥‥
それは、汚らわしいものでも、邪悪でもない。
暗黒神と呼ばれたゲフェトですら、下界の種族を守るために大地震で砕けようとしていた大地を接合し、そして旅立って行った。
その剣がこの神殿内であるいは、良い結果を産むかもしれない。
そして、竜王のウロコがその鞘になっているのを見て、アリアは考える。
「大きなものたちとの盟約を交わした、そういうことですか?
それも、彼等の狂気に触れてすら意識を保てるほどに高潔な約束を?」
水の精霊女王の視線を受けてナターシャは首を振った。
高潔な約束なんかじゃない。
自分は罪人で、盗人で、ただ生き延びたいだけに‥‥‥彼等と言葉を交わした。
そんな卑怯な女だと。
自分ではそう叫びたかった。
だれかに責められたかった。
一人だけ生き延びたのだから‥‥‥
「ナターシャ」
名前を呼ばれ、しがみついているその腕を肩に回して抱き寄せるアルフレッドは何も言うな。
そう無言で彼女を抱きしめていた。
お前が悪いわけじゃない。
生きたいのは誰もが同じなんだ、と。
かつての婚約者、第二王子エルウィンにも、同期の学院の仲間たちにも無い男らしさとその優しさに、ナターシャはただ黙って寄りかかる。
二人だけの暗黙の世界に踏み込む野暮はできず、アリアは、はあ‥‥‥
そうため息を漏らしていた。
「竜王様。
ここから先は、虚無もおれば闇のものたちも。
ある意味、命がけになりますが。
それでも行かれますか‥‥‥?」
ふっ、と。
出会ったあの時のように力なく竜王は笑いかける。
当たり前だろう?
水の精霊女王が、精霊女王となった時に間違えてしまい、最初に呼び出した眷属まがいの、より高位の存在のはずの彼はあの時もそう言って力になってくれた。
「力にならぬのならば、この場にはおらんよ」
そのセリフもまた同じもの。
「やれやれ‥‥‥あなた様も、我が夫も。
悪友どもは誰もがそう言われ、アリアを困らせるのですね。
あの炎の魔神と女神との一件、あなた様のお力添えで乗り越えたようなものですから――」
あちら側まで御供しますわ、竜王?
水の精霊女王は初めて、その地位に人の身から上がったときの珍事件を思い出して笑いながらそう言った。
ついでに、
「エイジスの蒼い髪。
シーナ王妃‥‥‥いえ、元王妃様にもお会いしたいですし。
アリアも久方ぶりの下界を楽しみたくあります」
そう言って微笑むのだった。
「やっぱりバレてるよ、なあ、ナターシャ?」
「そう、ね。
アル‥‥‥」
アル?
親兄弟や仲の良い友人しか呼ばないその呼び方で、俺を呼ぶのかい?
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