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第八章 エイジスの蒼い髪
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「バカね‥‥‥」
「馬鹿だな」
「可哀想な、アルフレッドさん」
三神は隣の部屋の様子をモニタリングするようにして見ていた。
個人情報の保護なんて思想、神には関係ない。
それよりも、彼等がどこかの誰かに襲われるかもしれないという不確定な理由で見張っているのだから、質が悪いともいえる。
「なんでああも頭が堅いんだ?
ナターシャはすでに告白しているではないか?」
「だから、エバーグリーン。
人間は貴方達とは違うのよ。
有限なの。時間は戻らないから選べる道も決まっているのよ」
「しかし、アリア殿。
それは、我等、神でも同じではないか」
アリアに注意されて竜王は不満を漏らす。
神にも選択肢があるのだと彼は言うが、それはあまりにも違いすぎる選択肢だということを竜王は理解していなかった。
イフリーテに至っては、既に数億年を経過していて彼等の理解を越えている。
まあ、それであってもー‥‥‥。
「なんでアルフレッドはナターシャを抱かないんだ?」
三者三様に言いたいのはそれだった。
「押せば落ちるのに‥‥‥」
これはイフリーテ。
「愛してるって抱きしめてキスをすればいいのに」
これは、アリア。
「家柄だの貴族だのと気になるなら、その古い血を盾にして命じればいいのにな。
妻になれ、と。
なぜ、そうしないんだ?」
これは竜王だ。
アルフレッドはナターシャのこの先を考えて、身を引こうとしているのに酷い言い様である。
いや、一番酷いのはアルフレッドかもしれない。
好きだよだの、お姫様だのとのたまうのならば、きちんと話を聞くべきなのだ。
ナターシャを大事だと本当に思うのならば。
そして、当の本人たちの片方であるナターシャもそれは思っているらしい。
「あれだけ色々言いながら、やっぱり口だけじゃない。
それも何!?
自分が平民でわたしが貴族に戻るからどうにでもできない!???
ならー‥‥‥」
奪いなさいよ、あのエルウィンのようにずる賢いやり方じゃなく。
あなたの本当に言いたい言葉で言えばいいじゃないの。
それも出来ないからお酒に逃げて、いまを忘れようなんて。
「情けない!!」
「なんだよ!?」
あ、起きてたんだ。
起きているどころか全部筒抜けだ。
少年は大声を上げて済まなかった。
そう謝って、後ろを振り返るとナターシャは怒鳴られた経験そのものが少ないから涙目になっている。
「そんなに、怒鳴る事ないでしょ?
しかも、大声で‥‥‥自分が言えないからって、アルの意気地なし」
「泣きながら言うなよ、お前‥‥‥」
「あー」
「何?」
「言った」
「何を?」
「だから、お前って」
「言ったよ、気に障ったら謝る」
「初めて言われたわ、アルからお前なんて。
やっぱり、女をものとしか見ない男性たちと変わらないのね」
あのな、それは違うだろ?
もののはずみってやつで‥‥‥そう言い訳しても、こうなった女性に理屈は通じない。
ダメだ、こりゃ。
永遠にこじらせる会話になるわ。
ナターシャって、結構めんどくさいタイプなんだな。
そうアルフレッドは思うが、周囲から見たら似た者同士である。
「だから、悪かったって。
ああ、いや違うな‥‥‥。
お前って言ったのは本当に悪かった。
でも、ナターシャをものなんて思ってない。
それに、感謝しているんだ。
その――助けに来てくれてありがとう。
これは、本気だ」
「そうね、わたしは自分の秘められたエルフの能力とかなんとかに振り回されてさんざんだったわ。
カーティスも好き勝手していったし、あの森の人だってそんな彼だから失敗したんだって言ってたし。
どうして、男性はこうも騙すのが下手なのかしら」
「俺が?
どう騙した?」
「だって、言ったじゃない。
好きだ、俺のお姫様だ、一番大事な女性だって」
ああ、それは言ったね。
アルフレッドは近づいても大丈夫そうな距離まで、そっと歩み寄ってみる。
とりあえず、最初に近い椅子に腰かけた。
「でもあなたはあの闇の中で助けてくれなかったわ。
本当に怖くて、誰を信用していいか分からなかった。
竜王様もアリア様もあてにならないし」
壁向こうでは竜王が、おい、それはないだろ、と叫びそうになり、女性二人に注意されていた。
「いやだから、その時はまだ告白もそれになにより」
あーいや、だめだこれは。
ナターシャには理屈は通じない。
いや、こうなった女性に理屈なんて火に油を注ぐようなものだ。
両親や兄夫婦の喧嘩を間近で見てきたアルフレッドは、ここは静かに聞きながら謝るしかないのを心得ていたから、
「んー‥‥‥そうだね、俺が早く気づいていればナターシャを苦しませないで済んだね。
悪かった。
本当に怖い思いをさせてすまなかった」
「本当にそう思ってる?」
「思ってるよ?
だからこうして謝ってる」
まあ、大概の場合、こうして謝ると女性は次にはこう言うのだ。
「嘘つき!
あの時には告白なんてされてなかったわよ?
本当に口だけなんだから」
‥‥‥と。
そしてアルフレッドは、こちらも心得たもので不敵に笑って見せる。
「なによ、その笑顔?
怖いわ?」
「何も?
ただ、君も好きでいてくれたんだなって。
そう、確信しただけだよ?」
「ひどい、騙したの?」
「もちろん、そうだよ?
俺はひどい男だから。
だから、伝わっていただろ?
好きだって告白する前から、ナターシャは俺を気になっていた。
否定は?
するかい?」
はい、泣きながら言うもんじゃないよ。
アルフレッドは、そう言い、ポケットからハンカチを出すとナターシャに渡した。
「ありがとう」
「で?
否定しますか、ナターシャお嬢様?」
「何よ、お嬢様って。
もう貴族籍なんてないのと同じなんだから。
王国に戻って竜王様が債務を取り上げたらわたし、死ぬつもりだったんだもの」
「そう。
なら良かったじゃないか。
もう、その忌まわしい第二王子エルウィンだっけ?
あれに、追い回されずに済む。
枢軸に来いよ」
しかし、ナターシャは悲し気に首を振る。
「無理よ、あの人。
自分の邪魔なものは全部、排除するもの。
どこに行っても逃げ場なんてないわ」
「でも、この二週間?
それに近い時間は、生き抜いてこれたじゃないか?
なら、竜王様の王宮に居座ればいいだろ?
あの御方だって、奥様に逃げられて寂しそうだし」
「あなた、わたしに竜王様のあの、常に見張っておかなきゃいけないような方の側にいろっていうの?
妾?
側室として!?」
いや、違うよナターシャ。
アルフレッドは、もう一歩進んでナターシャの側まで行くことに成功した。
「アリア様だよ、ナターシャ。
気づかない?
あの二人、それなりに好き合っているってことに」
「そう‥‥‥なの??」
「鈍さだけは君は素晴らしいね、ナターシャ。
アリア様の旦那様、いまはこの世界にいないんだろ?
なら、竜王様の王宮でアリア様とくっついて貰って。
で、俺はあそこで仕事しながらカヌークの番人になるよ。
それなら、問題ないだろ?
と、言いたいけど。
ナターシャ。
本当はどうしたいんだい?」
隣の部屋ではアリアと竜王が有り得ないと顔を見合わせて揉めているのも知らず、アルフレッドはとんでもない爆弾を起爆させていた。あちら側ではアルフレッドがナターシャの手綱を握ることに成功し、こちらでは旧知の二人がああでもない、こうでもないとお互い否定ばかりをしあう中で、一人、イフリーテだけが役得とばかりにほくそ笑んでいた。
「なかなかやるじゃない、アルフレッド。
ああいう誠実に見えてどこか悪いような、それでいて賢いのって、良いわねー」
なんて呟いていたのだから。
「馬鹿だな」
「可哀想な、アルフレッドさん」
三神は隣の部屋の様子をモニタリングするようにして見ていた。
個人情報の保護なんて思想、神には関係ない。
それよりも、彼等がどこかの誰かに襲われるかもしれないという不確定な理由で見張っているのだから、質が悪いともいえる。
「なんでああも頭が堅いんだ?
ナターシャはすでに告白しているではないか?」
「だから、エバーグリーン。
人間は貴方達とは違うのよ。
有限なの。時間は戻らないから選べる道も決まっているのよ」
「しかし、アリア殿。
それは、我等、神でも同じではないか」
アリアに注意されて竜王は不満を漏らす。
神にも選択肢があるのだと彼は言うが、それはあまりにも違いすぎる選択肢だということを竜王は理解していなかった。
イフリーテに至っては、既に数億年を経過していて彼等の理解を越えている。
まあ、それであってもー‥‥‥。
「なんでアルフレッドはナターシャを抱かないんだ?」
三者三様に言いたいのはそれだった。
「押せば落ちるのに‥‥‥」
これはイフリーテ。
「愛してるって抱きしめてキスをすればいいのに」
これは、アリア。
「家柄だの貴族だのと気になるなら、その古い血を盾にして命じればいいのにな。
妻になれ、と。
なぜ、そうしないんだ?」
これは竜王だ。
アルフレッドはナターシャのこの先を考えて、身を引こうとしているのに酷い言い様である。
いや、一番酷いのはアルフレッドかもしれない。
好きだよだの、お姫様だのとのたまうのならば、きちんと話を聞くべきなのだ。
ナターシャを大事だと本当に思うのならば。
そして、当の本人たちの片方であるナターシャもそれは思っているらしい。
「あれだけ色々言いながら、やっぱり口だけじゃない。
それも何!?
自分が平民でわたしが貴族に戻るからどうにでもできない!???
ならー‥‥‥」
奪いなさいよ、あのエルウィンのようにずる賢いやり方じゃなく。
あなたの本当に言いたい言葉で言えばいいじゃないの。
それも出来ないからお酒に逃げて、いまを忘れようなんて。
「情けない!!」
「なんだよ!?」
あ、起きてたんだ。
起きているどころか全部筒抜けだ。
少年は大声を上げて済まなかった。
そう謝って、後ろを振り返るとナターシャは怒鳴られた経験そのものが少ないから涙目になっている。
「そんなに、怒鳴る事ないでしょ?
しかも、大声で‥‥‥自分が言えないからって、アルの意気地なし」
「泣きながら言うなよ、お前‥‥‥」
「あー」
「何?」
「言った」
「何を?」
「だから、お前って」
「言ったよ、気に障ったら謝る」
「初めて言われたわ、アルからお前なんて。
やっぱり、女をものとしか見ない男性たちと変わらないのね」
あのな、それは違うだろ?
もののはずみってやつで‥‥‥そう言い訳しても、こうなった女性に理屈は通じない。
ダメだ、こりゃ。
永遠にこじらせる会話になるわ。
ナターシャって、結構めんどくさいタイプなんだな。
そうアルフレッドは思うが、周囲から見たら似た者同士である。
「だから、悪かったって。
ああ、いや違うな‥‥‥。
お前って言ったのは本当に悪かった。
でも、ナターシャをものなんて思ってない。
それに、感謝しているんだ。
その――助けに来てくれてありがとう。
これは、本気だ」
「そうね、わたしは自分の秘められたエルフの能力とかなんとかに振り回されてさんざんだったわ。
カーティスも好き勝手していったし、あの森の人だってそんな彼だから失敗したんだって言ってたし。
どうして、男性はこうも騙すのが下手なのかしら」
「俺が?
どう騙した?」
「だって、言ったじゃない。
好きだ、俺のお姫様だ、一番大事な女性だって」
ああ、それは言ったね。
アルフレッドは近づいても大丈夫そうな距離まで、そっと歩み寄ってみる。
とりあえず、最初に近い椅子に腰かけた。
「でもあなたはあの闇の中で助けてくれなかったわ。
本当に怖くて、誰を信用していいか分からなかった。
竜王様もアリア様もあてにならないし」
壁向こうでは竜王が、おい、それはないだろ、と叫びそうになり、女性二人に注意されていた。
「いやだから、その時はまだ告白もそれになにより」
あーいや、だめだこれは。
ナターシャには理屈は通じない。
いや、こうなった女性に理屈なんて火に油を注ぐようなものだ。
両親や兄夫婦の喧嘩を間近で見てきたアルフレッドは、ここは静かに聞きながら謝るしかないのを心得ていたから、
「んー‥‥‥そうだね、俺が早く気づいていればナターシャを苦しませないで済んだね。
悪かった。
本当に怖い思いをさせてすまなかった」
「本当にそう思ってる?」
「思ってるよ?
だからこうして謝ってる」
まあ、大概の場合、こうして謝ると女性は次にはこう言うのだ。
「嘘つき!
あの時には告白なんてされてなかったわよ?
本当に口だけなんだから」
‥‥‥と。
そしてアルフレッドは、こちらも心得たもので不敵に笑って見せる。
「なによ、その笑顔?
怖いわ?」
「何も?
ただ、君も好きでいてくれたんだなって。
そう、確信しただけだよ?」
「ひどい、騙したの?」
「もちろん、そうだよ?
俺はひどい男だから。
だから、伝わっていただろ?
好きだって告白する前から、ナターシャは俺を気になっていた。
否定は?
するかい?」
はい、泣きながら言うもんじゃないよ。
アルフレッドは、そう言い、ポケットからハンカチを出すとナターシャに渡した。
「ありがとう」
「で?
否定しますか、ナターシャお嬢様?」
「何よ、お嬢様って。
もう貴族籍なんてないのと同じなんだから。
王国に戻って竜王様が債務を取り上げたらわたし、死ぬつもりだったんだもの」
「そう。
なら良かったじゃないか。
もう、その忌まわしい第二王子エルウィンだっけ?
あれに、追い回されずに済む。
枢軸に来いよ」
しかし、ナターシャは悲し気に首を振る。
「無理よ、あの人。
自分の邪魔なものは全部、排除するもの。
どこに行っても逃げ場なんてないわ」
「でも、この二週間?
それに近い時間は、生き抜いてこれたじゃないか?
なら、竜王様の王宮に居座ればいいだろ?
あの御方だって、奥様に逃げられて寂しそうだし」
「あなた、わたしに竜王様のあの、常に見張っておかなきゃいけないような方の側にいろっていうの?
妾?
側室として!?」
いや、違うよナターシャ。
アルフレッドは、もう一歩進んでナターシャの側まで行くことに成功した。
「アリア様だよ、ナターシャ。
気づかない?
あの二人、それなりに好き合っているってことに」
「そう‥‥‥なの??」
「鈍さだけは君は素晴らしいね、ナターシャ。
アリア様の旦那様、いまはこの世界にいないんだろ?
なら、竜王様の王宮でアリア様とくっついて貰って。
で、俺はあそこで仕事しながらカヌークの番人になるよ。
それなら、問題ないだろ?
と、言いたいけど。
ナターシャ。
本当はどうしたいんだい?」
隣の部屋ではアリアと竜王が有り得ないと顔を見合わせて揉めているのも知らず、アルフレッドはとんでもない爆弾を起爆させていた。あちら側ではアルフレッドがナターシャの手綱を握ることに成功し、こちらでは旧知の二人がああでもない、こうでもないとお互い否定ばかりをしあう中で、一人、イフリーテだけが役得とばかりにほくそ笑んでいた。
「なかなかやるじゃない、アルフレッド。
ああいう誠実に見えてどこか悪いような、それでいて賢いのって、良いわねー」
なんて呟いていたのだから。
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