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ライルの休日
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アンナは一定の感覚で上下する天馬にさあいきなさい、そう拍車を当てた。
まっさおの空に白い雲を描くように翼をひろげ、ペガサスは飛翔する。
五歳の息子のライルがのったグリフォンはアンナよりさきに、天に向かって飛んでいく。
他にもユニコーン、小型のドラゴン、そんなものが数十頭、天空をぐるぐると旋回していた。
雲でできた綿菓子の城に、アンナとライルは突入してライルは大喜びでそれを食べている。
アンナはそのこうけいを微笑ましく見ながら、ペガサスで後を追う。
華やかな鈴と銅鑼と太鼓の音が鳴り、柔らかなオルゴールの音が耳になじんでくる。
銅貨一枚で楽しめるメリーゴーランドは数周してその役目を終えた。
「おいで、ライル。
遅れるわよ」
アンナは息子のライルの手を引いて、次のだしものに向かった。
道化師や綱渡りをするダンサーたち。
猛獣使いもいれば、火をはく火吹き男がいたり、剣先をのみこむ。
そんな大道芸を披露するものたちもいる。
「ねえ、ママ。
あのグリフォンはお腹が空かないのかな?」
片手にわたがしをもち、それをほおばるライルが心配そうにうしろを振り返る。
アンナは息子を優しく抱き上げると、
「そうねえ、あの子たちは夜になるとちゃんとご飯があるわよ。
さあ、わたしたちは次のを見に行きましょう?」
そう語り掛けてみた。
「うん、ねえママ。
あれはどうやって動いているの?」
ライルは不思議そうな顔でたずねた。
あれとは先程の回転木馬のメリーゴーランドのことだ。
「あれはね、ライル。
中に燃料になる鉱石‥‥‥ってわかんないか。
ほら、ママがパパからもらったこの指輪。
これはミスリルって石でとても強い魔力を秘めてるの。
でも、自然に出るからあまり多くないのね?」
わかるかなあ?
そう思いながら話してみる。
「うーん?
数が少ないの?
ならたくさん使えないね、ママ」
ライルは困った顔をした。
もう一度、あれに乗りたい。
そんな顔だった。
「大丈夫よ、ライル。
その代わりに、ほら。
お空にある、いまは昼間だけど。
いつもはお月様があるでしょ?
その光を利用してね、もっと強い魔力を集めた石があるの。
それは作れるのよ?」
もっと強い石?
ライルはそれなら何度でもあれに乗れるね、ママ。
そう言って喜んでいた。
「ねえ、それはなんていうの?」
この子は将来、何になりたいのかな?
いろんなことに興味を持つ息子の将来を少し想像しながら、アンナは教えてあげた。
「それはね、黒い石。
ブラウディア。
そういうのよ、ほらあそこ」
アンナは天空を行き交う、一人乗りだったり、定期便のバスだったりする乗り物を指差した。
「あのジェイルっていう乗り物。
全部の名前だけど。あれもブラウディアで動いてるの」
ふうん、と、ライルは少しだけ興味を削がれたらしい。
手にしたわたがしと、さっき乗ったグリフォンを見比べていた。
息子はその手に持ったわたがしを、あのグリフォンにあげたいなんて。
そう言いだすかもしれない。
もし、そうなったらどうしよう?
さっきまで駆けっこをしていたのに、作り物なんて言えないな。
そう、アンナは思っていた。
「ねえ、ママ。
もしあのグリフォンが食べたいって言ったら……このわたがしをあげてもいいかなあ?」
すこしだけ申し訳なさそうに言うライルに、アンナは微笑んで教えてあげる。
「そうね、ライル。
もし、つぎに来た時、グリフォンがそう言ったらいいわよ」
ライルはとてもよろこんで笑顔がこぼれおちそうなほどにはしゃいでいた。
「良い子ね、ライル。
その優しさをいつまでも大事にしていきましょうね?」
うん?
ライルはその意味があまりよくわからなかったけど。
でも、ママの言いつけだから守ることにした。
次はあのグリフォンに優しくしてあげよう。
ライルは、次の出し物に興味を引かれてそれを忘れたけど。
でも彼の心にはその優しさがいつまでも残っていたことを、老人になったアンナは覚えている。
だって、いまはライルとその妻の間に産まれた孫のイーサンが同じ事を彼女に言っているからだ。
アンナは優しく微笑んで、息子に教えたことを再度、孫にも教えてあげた。
おしまい。
まっさおの空に白い雲を描くように翼をひろげ、ペガサスは飛翔する。
五歳の息子のライルがのったグリフォンはアンナよりさきに、天に向かって飛んでいく。
他にもユニコーン、小型のドラゴン、そんなものが数十頭、天空をぐるぐると旋回していた。
雲でできた綿菓子の城に、アンナとライルは突入してライルは大喜びでそれを食べている。
アンナはそのこうけいを微笑ましく見ながら、ペガサスで後を追う。
華やかな鈴と銅鑼と太鼓の音が鳴り、柔らかなオルゴールの音が耳になじんでくる。
銅貨一枚で楽しめるメリーゴーランドは数周してその役目を終えた。
「おいで、ライル。
遅れるわよ」
アンナは息子のライルの手を引いて、次のだしものに向かった。
道化師や綱渡りをするダンサーたち。
猛獣使いもいれば、火をはく火吹き男がいたり、剣先をのみこむ。
そんな大道芸を披露するものたちもいる。
「ねえ、ママ。
あのグリフォンはお腹が空かないのかな?」
片手にわたがしをもち、それをほおばるライルが心配そうにうしろを振り返る。
アンナは息子を優しく抱き上げると、
「そうねえ、あの子たちは夜になるとちゃんとご飯があるわよ。
さあ、わたしたちは次のを見に行きましょう?」
そう語り掛けてみた。
「うん、ねえママ。
あれはどうやって動いているの?」
ライルは不思議そうな顔でたずねた。
あれとは先程の回転木馬のメリーゴーランドのことだ。
「あれはね、ライル。
中に燃料になる鉱石‥‥‥ってわかんないか。
ほら、ママがパパからもらったこの指輪。
これはミスリルって石でとても強い魔力を秘めてるの。
でも、自然に出るからあまり多くないのね?」
わかるかなあ?
そう思いながら話してみる。
「うーん?
数が少ないの?
ならたくさん使えないね、ママ」
ライルは困った顔をした。
もう一度、あれに乗りたい。
そんな顔だった。
「大丈夫よ、ライル。
その代わりに、ほら。
お空にある、いまは昼間だけど。
いつもはお月様があるでしょ?
その光を利用してね、もっと強い魔力を集めた石があるの。
それは作れるのよ?」
もっと強い石?
ライルはそれなら何度でもあれに乗れるね、ママ。
そう言って喜んでいた。
「ねえ、それはなんていうの?」
この子は将来、何になりたいのかな?
いろんなことに興味を持つ息子の将来を少し想像しながら、アンナは教えてあげた。
「それはね、黒い石。
ブラウディア。
そういうのよ、ほらあそこ」
アンナは天空を行き交う、一人乗りだったり、定期便のバスだったりする乗り物を指差した。
「あのジェイルっていう乗り物。
全部の名前だけど。あれもブラウディアで動いてるの」
ふうん、と、ライルは少しだけ興味を削がれたらしい。
手にしたわたがしと、さっき乗ったグリフォンを見比べていた。
息子はその手に持ったわたがしを、あのグリフォンにあげたいなんて。
そう言いだすかもしれない。
もし、そうなったらどうしよう?
さっきまで駆けっこをしていたのに、作り物なんて言えないな。
そう、アンナは思っていた。
「ねえ、ママ。
もしあのグリフォンが食べたいって言ったら……このわたがしをあげてもいいかなあ?」
すこしだけ申し訳なさそうに言うライルに、アンナは微笑んで教えてあげる。
「そうね、ライル。
もし、つぎに来た時、グリフォンがそう言ったらいいわよ」
ライルはとてもよろこんで笑顔がこぼれおちそうなほどにはしゃいでいた。
「良い子ね、ライル。
その優しさをいつまでも大事にしていきましょうね?」
うん?
ライルはその意味があまりよくわからなかったけど。
でも、ママの言いつけだから守ることにした。
次はあのグリフォンに優しくしてあげよう。
ライルは、次の出し物に興味を引かれてそれを忘れたけど。
でも彼の心にはその優しさがいつまでも残っていたことを、老人になったアンナは覚えている。
だって、いまはライルとその妻の間に産まれた孫のイーサンが同じ事を彼女に言っているからだ。
アンナは優しく微笑んで、息子に教えたことを再度、孫にも教えてあげた。
おしまい。
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