コスモスファーリング -銀河を揺るがしたとある罹患病の顛末記ー

星ふくろう

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第一章  

親友からの招待状

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「おじいちゃーん!!!」
 夏休みのある日。
 陽一は孫の美亜に起こされた。
 どちらかというと叩き起こされたのだが。
「あのなあ、美亜。
 まだ、朝5時なんだが‥‥‥」
 昨夜は陽一が館長を勤めている県立天文博物館のイベントの打ち合わせで、帰宅は23時をまわっていた。
 平日にしか取れない休みを堪能しようと、昼過ぎまで寝る予定だったのに、と陽一はぼやきながらベッドを出る。
「で、どうしたんだ??」
 と尋ねると、孫で今年、高校に進んだ美亜が嬉しそうにあるものを差し出す。
「ん?
 手紙‥‥‥?」
 それは地球では使われていない、銀河公国で平均的に使われている連絡端末だった。
 そこに書かれたメッセージに目を通す。
「お前、これ読めるのか?」
「うーん‥‥‥全部はわかんないけど。
 まあ、大体なら。それよりは翻訳ソフト使った方が早かったからそうしたよ?」
 と、得意げに美亜は言う。
「あのなあ、それだと勉強にならんだろう?」
 友達と文通したいから公国の公用語を教えて欲しい。
 そう、美亜が言い出したのは年末のこと。
 地球時間でいうところの12月31日。
 美亜たちは、自由と人権を取り戻した。

 この孫は人間とは違う容姿を持っている。
 薄く氷のように青い髪に、猫のような金色の瞳。少し尖った耳。
 その髪は透き通り、背後の壁や顔の輪郭はおろか、瞳まで見ることができる。
 はるか天空に広がる銀河に大きな版図を持つ銀河公国。
 その最新技術で生まれた人工生命体。
 それが、美亜の種族、フェイブルだ。

「だってまだ夏だよ?
 一年も経ってないのに。いきなり覚えろって言われても‥‥‥」
「覚えたいって言いだしたのは誰だ?」
「わたし、です」
 うん、そうだな、と陽一はうなづく。
「英語を覚えるのと変わらんだろ?
 まあ、この遊ぶことにしか興味のない頭の中に、全銀河系の言語情報をインストールするか?
 それも可能だが」
 と脅すように言ってやる。
「もしかしたら、頭の中が全部消えるかもしれんなあ???」
 げっ、と美亜は頭を抑えて後ずさりする。
「勉強、するよな?」
「はぁーい‥‥‥」
 うん、うちの孫は扱い安い。
 叩き起こされたストレスをとりあえずそれで解消して、陽一は端末に目を落とした。

 年末のあの日。
 陽一と美亜は二人で、公国の政治の中枢部。
 枢軸議会に出席した。
 討論に参加したのは陽一だけで、美亜は同じフェイブルの少女と出会い、友達になったらしい。
 ルグという名前のその少女からの手紙だった。
「えーと、なになに?
 親愛なる友へ。
 わたしたちは、エルベド星系第八コロニーに移住することができましたー」
 もっと先、もっと先。
 と、美亜が画面を指で飛ばしていく。
「おいおい、ゆっくり読ませてくれよ」
「いいからー!
 もっと下!!!」
 まったく仕方ないな、とずいぶん長いその手紙の終わりの辺りまで画面を移動させる。
「ん?
 美亜に会いたいです、でも、エルベド星系は地球に近いのですがーー」
 ああ、なるほど。
 と、陽一は次の文章で言いたいことを理解する。
「間に銀河公国とは敵対している、共和国領土があり、こちらからは星間航行で行くことができません。
 いま、わたしたちフェイブルは、エルベド星系から出て公国領土内は行き来できますが」
 と、そこで美亜が口を挟む。

「しかし、共和国ではフェイブルの入国には特別な任務や地位が無ければ許可されません。
 外交官や技術官、特別な商用など‥‥‥」
 ねえ、おじいちゃん
 と、美亜は目線が少しだけ上の陽一を見上げて懇願する、
「これって、つまり。
 おじいちゃんの一族のわたしなら、行けるってこと‥‥‥かなあ?」
「行きたいのか?」
「うん!!!
 ルグと離れてもう八か月だよ!?
 毎日、おじいちゃんのシステムのあれなんだっけ?」
「亜空間通信な」
 そうそう、それと美亜は話を続ける。
「あれで動画で話してるけど、やっぱり会いたいよ!!」
 毎日二時間近く話してるのはいいんだけどな、あれ、かなり金かかるんだけど。
 そう言いたいが、嬉しそうにしている孫に言う訳にもいかず陽一は放任していた。
 まるで、遠距離恋愛の恋人だなあ。
 自分も公国の大学や大学院に通っていた頃は、亡くなった妻の亜紀と毎日話していたことを思い出す。
「でもなあ、美亜。
 あの、ほら昨年末のな。
 この、歩山城市には公国は一切干渉しない。
 その代わりにお前たちの独立を認めさせたんだ」
 美亜がきょとんとした顔をする。
 どうにも理解できていないようだと陽一は思った。

「つまりな、公国はこっちには何もしないから、こっちからも公国にはなにもするな。
 と、いうのと、建前だ」
「たてまえ???」
「だからだな。
 もし、俺たち地球にいる元公国の人間は地球に移住したことになってるんだ。
 お前たちフェイブルもな。
 公国の領土内にいるなら助けるぞ。でも出て行ったやつは何があっても知らん、とまあそんなとこだ」
「なるほど。
 それって、もし、地球人類からわたしたちがなんだっけーー」
 なにかを思い出すようにする美亜。
「あ、そうだ。
 はくがい、だ。
 それを受けても公国は知らないってこと?」
 陽一は美亜の頭をガシガシ撫でてやる。
「そういう、こと、だ」
「いたい、いたいよ、おじいちゃん!!!」 
 まったく毎月の亜空間通信の請求書の恨み、だ。
 とは言わないが、少しだけ強めに力を入れて撫でてみた。
「ふん。勉強さぼった罰だ」
「ひどいょぉ‥‥‥で、それと行けないのとどう関係してるの?」
「いや、行けないとは言ってないだろ?」
「へー?
 だって、公国は関係しないって」
 ふふん、と陽一は得意げな顔をする。
「俺があの日。
 あの議会の場所でなんて呼ばれてたか覚えてるか?」
 ええ?
 呼び名?
 そういえば、ルグがなんか言っていた。
 確かーー
「アニマス公らいわぶ???」
「ライナブ、だ!!」
 意味わかんない、と何も知らない孫は言う。
「俺は、公国でも五本の指に入る貴族なの。
 王族と同じくらい偉いの!」

 は?
 と、美亜が首を傾げる。
「うっそだあ!!」
「いや、嘘って‥‥‥」
 あっけなく却下されてなんとなくショックな陽一だった。
「本当なの!
 だから、この歩山城市全域はーー」
 ん? と美亜が不思議そうな顔をする。
「まさか、おじいちゃんの土地、とか?」
「その、まさかだよ。
 でも、日本から借りてるだけだけどな」
 ふーん、借りてるんだ。
「でもさ、おじいちゃん。
 その公って何?」
 え、そこからかよ!?
「それくらい勉強しとけよー‥‥‥。
 銀河公国には、王族、公爵、侯爵、伯爵、男爵とまあ、日本語に直したらそんな身分があるんだよ」
「それってつまり、貴族ってこと?
 わたし、身分差別とか嫌い」
 いや、嫌いと言われても‥‥‥
「あの、な。
 世襲制だから。親から子へと受け継がれるから仕方ないんだよ。
 それに公国には貴族制度はあっても平民と待遇は変わらんぞ。
 政治にも口出しできんしな。
 ただ、領地の管理監督をするだけだ」
「ふーん。
 あれ、でも侯爵が先にいるなら、おじいちゃん三番目だよね?」
 痛いところをつくなあ、お前は、と陽一は言う。
「王族と侯爵はいまはいないと言うか。
 かなり昔に戦争があってな。
 今は侯爵の血筋は残ってない。王族も銀河系のほぼ反対側にいるしなあ。
 いまの公国で偉いというのは変だけど。
 代表的な貴族は俺も含む数人の公爵だけだ。
 あとは色んな種族が集まって会議をする、本星の枢軸議会が全部管理してる」
「おじいちゃん」
 美亜が不満そうな顔をする。
「なんだよ?」
「話が長い」
 このっ‥‥‥
 思わず文句を言いたくなるがまあ、我慢しておくことにした。
「だからだな。
 俺の孫、つまり侯爵の令嬢としていけば、共和国領土を通過できる。
 そういうことだ」
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