コスモスファーリング -銀河を揺るがしたとある罹患病の顛末記ー

星ふくろう

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第一章  

アニマス公家領リグレム

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 翌日。
 陽一はさまざまな状況を部下たちに調べさせる。
 そして、公国や共和国領土でのフェイブルの実態を改めて知ることになる。
 それは奴隷売買、物として扱われていた時代のフェイブルの人権などないもの。
 まるで無視されたかのような行為が、公国、共和国領土を問わず、そこかしこで行われている。
 そういった内容のレポートだった。
 否定されることを承知で、会議前の一夏に再び、陽一は亜空間通信のチャンネルを開いた。
 一夏は寝起きらしく、ラフな部屋着で通信にでる。
「おはようございます。
 どうしたんですか、お父さん。
 顔色があまりよくないですけど。
 まさか、また昨日の続きじゃないですよね???!」
 そう、娘に強く言われて少し怯む陽一。
 母親の亜紀に似て、娘もまた、気が強く陽一の苦手なタイプだった。
 部下の集めてきた情報を転送し、それを読んだ一夏の顔は更に険しくなる。
「‥‥‥で、どうするんですか、お父さん!?」
 一夏の声は冬の氷河よりも冷たく陽一に突き刺さる。
 娘の一夏は、情勢が不安定な共和国領土を通過させることにまだ反対だった。
「だがなあ、一夏。
 可愛い子には旅をさせろ、と言うだろ?
 ここは美亜の可能性も考えてだなーー」
 しかしその言葉は、即、否決された。
「だめです。
 いいですか、フェイブルの価値ってお父さん、ご存知ですよね?
 あの子たちはクローンであり、人工生命体なんです。
 公国は新しい種族として人権を与えましたけど。
 それまで物として扱われてきたんですよ、お父さん‥‥‥」
 知らないことはないでしょ?
 そう一夏は言う。
 フェイブルを専属に売買する闇商人が未だに暗躍していることを、と。
「しかも彼らは、共和国領土内に潜伏しているとの情報もあります。
 地球はまだお父さんの力と睨みが利いているから、あの子達も平和に暮らせてますけど‥‥‥」
「実態はあくまで、違う、そう言いたいんだな?
 一夏、お前は」
「そうです、お父さん。
 あの子はわたしの遺伝子を持ってますけど。
 実際は、わたしが卵子を提供した子なんですよ、実子と変わらない我が子なんです。
 それをわからない、お父さんじゃないでしょう‥‥‥?」
 それを言われると、陽一は辛くなる。
 しかし、孫娘が共和国領土を通過するということは、別の意味で利益を帝国にもたらす。
 それを陽一は一夏に説明するつもりだった。
「なあ、一夏。
 最初に言った、俺の侯爵位を継ぐ存在としてだな‥‥‥」
「まさか。
 17方面軍の一部を割いてまで、共和国領土を通過させる気ですか???」
 信じられない、そんな表情を娘はした。
「お父さん。
 いいですか、地球は確かに公国と共和国領土の合間にある星です。
 でもそこをアニマス公家が地球時間で二千年もかけて守ってきた。
 これはソエ罹患病の患者には王族や高級官僚も含まれていたから、どこの勢力も黙認してきたんですよ。
 いま、ソエ罹患病の根絶法がわかり銀河中にそれは広まってます。
 もう、アニマス公家が地球の小さな飛び地を管理する必要なんてどこにもないんですよ。
 小さな子爵家や男爵領ならともかく。
 お父さん、いま公国に公家がいくつかあるかご存知ですよね??」
「そっ、そりゃあな?
 うちを含めて小さいとこも入れたら24くらいか」
 画面の向こうの娘がイラっとした顔をする。
 あれ、間違ったか?
 陽一は背筋に汗をかいた。
「18です。
 そのうち、王家に繋がるのは12。
 王家の代行をできる大公になれるのはうちを入れて5つ。
 何よりーはあ……」
 あーこれはしまった。
 説教が長くなるやつだ。
 陽一の直感がそう告げていた。
「元々8つあった王家がいまではたった4つ。
 そのどれもが没落寸前か、ようやく枢軸議会の予算で生き残っている状況です。
 まあ、公家が強いから、公国なんて名乗ってるんですけどね。
 二千年前にあんな争いなんか起こすからーー」
 と一夏はぼやく。
 そう、ソエ罹患病のことだ。
 元々、公国と共和国、その他の銀河系勢力は大きな帝国と呼ばれる一大国家だった。
 それが、ソエ罹患病の発症を機に各地で反乱が勃発し、帝室と皇族は処刑された。
 後に残った勢力がそれぞれの母体を構え、公国も元々は王国を名乗っていた。
 しかし、王族たちが内乱に継ぐ内乱を起こし、王国は崩壊寸前まで追い詰められてしまう。
 この時に、各地で勢力を温存していた公家が立ち上がり、各王族から領土と権力をはく奪した。
 王族は名ばかりの存在となり、王国は公家が代表となるという意味で、公国とその名を変える。
 一夏はそれを言っているのだ。
「まあ、そんな古い歴史の話は置いておいて、だなーー」
 なんとか話を誤魔化そうとするが娘は手綱を緩めない。
「お父さん。
 もう地球を守護する必要性はどこにもないんです。
 最低限の軍備だけ置いて、そこに隠遁するならともかく。
 なんで、まだ17方面軍なんて、公国でも指折りの強大な勢力を有しているのか。
 何より、旧式艦隊でありながら、正規軍以上の成果を上げている。
 確かに、もともとは辺境のレンジャーや退役傭兵、その他の雑多な寄せ集めだったかもしれません。
 でも、共和国、商邦連合、ブラグレム帝国、自由同盟。
 そのどれもが、ここ数年の間に合計で15回も。
 15回ですよ。小規模・大規模合わせての艦隊戦を仕掛けてきてるんですよ!!!
 う、ち、にっ!!!」
 一夏の黒髪に短くカットしたシャギーのかかった髪型の似合うその美貌がーー
 勢いよく画面に突き刺さるほどに強く映り込む。
「すっすまん、一夏。
 その度に、な?
 資金の管理を任せたのは‥‥‥俺だーー」
 陽一は肩を落として言う。
 銭勘定は苦手だ。
 政治と駆け引きは若い頃に、王立学院と辺境でレンジャーをしていた頃に叩き込まれた。
 ついでに、戦争のやり方も、実戦の体験も、肉弾戦もーー
 しかし、こと家計のやり繰りに関しては一夏以上の適任は、陽一の陣営にはいなかった。
「まあ、いいですけどね。
 うちの場合、無限にエネルギーを出してくれる恒星が傍にありますから。
 あのエネルギーをそのまま転売しているだけですからね。
 でも、問題はそこじゃないんです。
 17方面軍は旧式艦隊という建前なのに、その15回のどれにも圧勝してるんですよ。
 ソエ罹患病がまだ根絶される前は、本星からの増援だなんだと言い訳も立ちましたけど。
 いまからは、それもできません。
 どこの国もおかしいと思ってますよ、あのライナブが隠遁するはずがない。
 南銀河でかつて栄え、崩壊したリグル連邦の跡地。
 あの広大な版図をレンジャーとして乗り込み、統一して公国の領土としたアニマス公が。
 だまっているはずはない、って」
「いや、そんな20年前の話を持ちだされてもだな。
 あの時は、連邦加盟国だった各国があまりにもソエ罹患病の犠牲者が多かったから。
 この地球の大気成分データと引き換えに、その多くと同盟を結んだら‥‥‥」
 へえ、そうなんですか、自分には責任がないんですか?
 そんな目で一夏は陽一を見てくる。
「だってだな、知らないうちに救国の英雄だの、公国の傘下に入ればとりあえず助かるとーー
 断り切れなかったんだよ!!!」
「いまさら遅い話ですけどね。
 あそこはもはや、アニマス公家の本拠地。
 まさか、17方面軍の6倍もの艦船を保有していつでも公国全土と戦争できる状態にあるとか。
 わたしが知らないとでも、お父さん」
 な、なんでそれを知ってるんだ、お前は!?
 思わず陽一は叫びたくなる。
「経理担当の能力、甘くみないでくださいね。
 まあ、あそこはシギニア連合国と公国との間の要衝ですから。
 公国側も文句は言わないでしょうけど。
 で、美亜の話ですけど!!!」
 ああ、しまった。
 話が戻された。
 陽一はもう蛇に睨まれたネズミだ。
 逃げ道がどんどんふさがれてしまう。
「行かせるなとは、いいません。
 でも、安全第一を優先して下さい。
 で、もう決めたんでしょ?
 どうするんですか?」
 ああ、全部お見通しだ、俺の娘は。
 なんて恐ろしい‥‥‥
 冷や汗を流しながら、陽一は結論を話した。
「地球在住のフェイブル管理人、アニマス公家の代理兼新規移住が決まった姉妹国家への親善大使として。
 美亜を第八コロニーに正式に認可されたフェイブルの新しい国家。
 イグニス国へと送ることにする。
 それなら、いいだろう?」
 毅然として陽一は言ったつもりだったが。
 一夏は今一つ足りないという顔をする。
 だが、その時、会議が始まるという合図が一夏側で鳴った。
「まあ、それでいきましょう。
 いざとなれば、17方面軍。手配しておいてくださいね」
 そう言って、娘との長いようで短い亜空間通信は切れた。
「あいつ、なんで俺が密かに進めてたリグレムのこと知ってるんだーー???」
 リグレムとは旧リグル連邦の領土を陽一ことアニマス公ライナブ。
 彼が旧連邦に属していた加盟国から半ば無理矢理に公家領土として。
 アニマス公こと陽一に献上された版図の新しい名前である。
 そう、公国の強大な背景を旧連邦の加盟国たちは欲しがった。
 まあ、そのあと10数年をかけて加盟国の盟主たちの首をすげ替え、辞任させ。
 自身の完全な領土にしたのは陽一の手腕だが。
「さーて、次は美亜を大使として仕込まにゃならん。
 あの美貌だ。
 あとはあのおてんばだけ、なおせば。
 はあ、気が思いーー」
 その頃、何も知らない美亜は、自室でクーラーを効かせて昼寝をしていたのだった。
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