【書籍化】えっ!? 聖女として命がけで国を守ってたのに婚約破棄&追放ですか!!? 悲しみの聖女は精霊王の溺愛を受けてます!!!

星ふくろう

文字の大きさ
6 / 24
第五章 アリアと闇の妖精たち

旧友と風の精霊王

しおりを挟む
「アリアっ!」
「ちょっ、なんですか旦那様! もう、いい歳して子供みたい……」
「良いではないか、久しぶりに友がやって来たのだ。これも何かの縁! お前も参加しなさい」
「はあ? 参加って……」

 嫌な予感がした。
 いつも通りのように、嫌な予感がした。
 それはやってきた。
 いつも通りにやってきた。
 我が物顔をして、まるで僕が我が家のように彼らは振る舞うのだ。
 彼らとは――そう……ラズオル様とか太陽神様とかそういったいつもの面々です……はあ。

「旦那様ー約束しましたよね?」
「あっ……」

 本当の子供のようにわたしに抱きついてきた我が夫。
 この城の主にして故郷の人間の国、ラグーン王国の守護者。
 風の精霊王、エバース大公。
 大公なんて偉そうな役職が付いていますが、中身はどうしようもなく寂しがり屋でわがままな子供のような旦那様です。
 本当、たまに甘えたがりの過ぎて出て行きたくなるくらい。

「約束しましたよね。皆様を集めて何か祝い事をするときは必ず、アリアに一番に教えてくださると」
「あ、ああ。それはそう……」
「それはそう? ではなぜそのようなお言葉が出てくるのですか」
「いや、だから、な。その、旧友がやってきたのだ」
「旧友? またあのほうき星の光の園で遊ばれていた時代の、ご友人ですか?」
「その時代の友人だ」

 家臣の前で抱きつかれたままでいるのはどうにも恥ずかしくて、慣れたくない。
 そんなわたしは旦那様を引き離そうとするのだけど、これがなかなか簡単には離れてくれないのです。
 これで子供でも生まれた日には、大きな子供と小さな子供でわたしはヘトヘトになりそう。
 そんな妻の想いは露知らず。
 旦那様はいつもいつも笑顔のままで抱きついているんだから……叱るにしかれない。はあ。

「わかりました。わかりましたから離れてください。わたしにも家臣がおりますから、彼らの見ている前でそれはそれでは格好がつきませんから」
「ああ……すまない」

 さっと、まるでわたしの承諾を得るためにやったかのように、彼はすばやく離れていく。
 幼児から普段のかっこいい彼に戻るまで、離れて数秒とかからなかった。
 もしかしたらわざとやっているんじゃないんだろうか?
 邪推だと思いたい。
 でも確信犯だったら――しばらく口をきかないのもありかなーって思ったの。

「それでどうなさるのですか。どんなご友人がいらっしゃったのです?」
「ニーエから聞いていないのか?」
「ニーエさん?」
 
 言われて後ろを振り返ると、侍女長は何のことでしょう。そんな顔して首を傾ける。
 わたしが旦那様に向き直ると、エバースはおや? といった顔になった。
 何か大事なことが抜け落ちているの?
 疑問が言葉となり口をついて出る前に、彼らはやってきた。

「エバース。戻ってたから戻ってきたと連絡をくれればよかったのに」
「あ、太陽神様……とその他、悪友たち……」
「アリア殿、それはまたひどい言い草だな」

 アズオル様と太陽神様を筆頭にして、その他大勢の旦那様の悪友たちがそこには勢ぞろいしていた。
 中には結婚式の際に挨拶をいただいた、女神さまの一人がそこにいる。
 彼女のことは名前ぐらいしか知らなくて、わたしがどうしているんだろうと不思議そうにしていると、エバースが案内をしてくれた。

「アリア、ロアだ。青い月から赤い月に渡り、鬼の大公殿の一族として暮らしている。ロア、アリアだ。二人とも結婚式で顔合わせをしただろう?」
「どうも、ロア様。ようこそ我が城へ」
「初めまして、かな? そうじゃないかも? ロアです、よろしくねアリア様。新しき水の精霊女王様、って言うべき?」
「それはご自由にどうぞ、赤い月に渡られたのですね」
「うん、色々とあってね。まあ、詳しくは言えないんだけど」

 ロア様は砂漠の民のような格好の衣装を着ている女神様だ。
 蒼く黒くも見える豊かな黒髪を頭の後ろに高く結い上げ、真っ青な瞳には悪戯好きな童女のような好奇心に満ちた光を浮かべている。
 エバースと同じほどに歳をとっているとは思えないような、そんな女神様。
 色々とあったけど言えないなら言わなければいいのに。
 そう思ってしまうのは、人間だったころの癖が抜けない、わたしの悪いところなのかも。

 基本的に、神様の世界では隠しごとはあまり通用しないらしい。
 あの図書館にある万能の聖典がつかえるように、秘密にしたいこともほぼほぼ筒抜けるみたい。
 だから隠すよりもさっさとばらしちゃえーっ、という感覚が優先されるようで、これにはちょっと慣れることができないかな。
 まあそれはさておき、女性が来たから喜んでいる我が夫を見て、嬉しくないのは妻としておかしい?

「そうですか。いろいろと大変だったようですね……」
「ううん、別にいいの。大したことじゃないから、それよりもごめんね。リクトにくっついて来ちゃった」
「リクト、様?」
「そう、五代目の魔公リクト。グレム魔公国の新国王になったの。故郷の国と深い付き合いがあってね」
「……」

 全く存じ上げない魔王の名前をだされて、思わず黙ってしまう。
 いきなりだれそれなんて言われても魔王に関する知識なんて持ってない。
 今からでも、図書館に行って調べものをしたい気分。
 そんなわたしを知ってか知らずか、エバースはロア様の手を取って城の大広間に先導する。
 ああ……これは――いつもの数ヶ月。いえいえ、下手すれば数百年くらい休みなしで繰り広げられる神々のパーティーの始まりの合図だ……。
 勘弁してよ。
 わたしたちの平和な夫婦生活はどこに行っちゃったの!?

「ちょっと、エバースっ……」
「また後で話をしよう、今は彼らの案内が先だ」
「……」

 妻よりも来客ですか。
 政治として必要ならあなたは国王だから、それも否定しないけど。
 先に話をするよって、そう約束してくれたあの時の真剣な表情は、本当だったのかな。
 さっき、甘えてきたのも、も本当は演技だったりして。
 嫉妬は醜い感情だ――。

「奥様すいません」
「いいのよ、ニーエさんも知らなかったでしょ、ロア様のことまでは」
「ええ……」

 とても申し訳なさそうな顔をして彼女は表情を暗くしてしまった。
 ぜんぶ自分が悪いんです、そんなふうに。
 そんなことはないんですよ、ニーエさん。
 きちんと話を伝えなかった夫が悪いんです、本当に。
 ひとつの城に二柱の王が存在することが、もしかしたら間違っているのかもしれない。
 同じ家臣を共有して、彼らの負担はどれほどのものだろう。
 そこまで思い至らなかった、自分自身の愚かさにわたしは恥ずかしくなった。

「ごめんなさい。あなたにばかり仕事を押し付けてしまって」
「いいえ奥様。そんなことは決っして」
「いいのよ。夫の家臣に甘えてばかりいたわたしも悪いの」
「ですが、奥様」
「いいの、ニーエさん。それよりも彼ら迎えに行きますよ」

 部下が欲しい。
 誰とも主人を共有することのない、リクウスほどの霊格を持つ……そんなことを考えるのは贅沢だけど。
 例えば、エバーグリーンのようなイフリートさんのような。
 第一と第二の家臣たち、もう戻ってこないんだろうなぁ。
 彼らと言われてニーエさんはそれだけで理解してくれたらしい。
 四葉宮の客室に案内した、旦那様の友人である森の妖精王の部下、ダークエルフたち。
 
「ライシャ様は確か妖精王様の王女様だったと言っていたし、パーティーの席に妖精王様の代理として座るだけの資格があるはず。でしょ?」
「それは……多分、そうだと思います。でも、よろしいのですか」
「エバースのこと?」
「……はい、奥様」
「彼にはわたしから話しておくわ。わたしが迎えることを許可した客人だから、って」
「わかりました」

 彼女はうなずくと、数名の妖精の侍女たちとダークエルフを案内するために退室する。
 わたしには、リクウスとその他数体の水に属する妖精や精霊たちが続く。
 今回、わたしに課せられた使命はたった一つ。
 数百年? とんでもない!
 一夜でこのパーティーを終わらせることだった。

「何もかも好きなようにさせてたまるもんですか! 夫婦のいとなみ――」
「ちょっ、女王陛下?」

 ふふふ、と不敵な笑みを浮かべていたわたしに気づいたリクウスはやれやれ、といった顔をして。
 後ろについていた家臣たちも、同じように感じたらしい。
 みんな困ったような呆れたような顔をして作り笑いを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

処理中です...