【書籍化】えっ!? 聖女として命がけで国を守ってたのに婚約破棄&追放ですか!!? 悲しみの聖女は精霊王の溺愛を受けてます!!!

星ふくろう

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第五章 アリアと闇の妖精たち

アリアと闇色の竜

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「アリア、待ってくれないか。あれらの相手をしなければならない」
「あれらとは?!」
「……ロアや、魔王のことだ」

 ちょっとは理解しろ。
 そんな言い方だった。
 理解?
 理解はしてもいいと思いますが、ほんの数分。それだけでも時間を作ることはできませんか?
 私は心の声でそう問いかける。
 多分、エバースにだけは届くはず。
 そう信じて。
 通じなかったら、神様失格でしばらく口を利いてやらないだけだけど!
 そうしたら、彼はとても困った顔をした。
 そして、小さく一つ頷いた。

「君は元人間だから、それはここにいる誰もが――知っているからな」
「……? それが何か?」

 言いづらそうにして、エバースは緑色の長髪を手櫛で後ろにやる。
 濃紺を藍色のように迄落とし込んだ深みある、青の儀礼服に身を包んだ彼は、とてもこの会場に映えていた。
 ロア様の来城に合わせたのだろうと、一瞬で理解する。
 彼女がそれほどまでに、エバースにとって大事な友人だということも。
 わたしに分かることはたった一つだけ。
 ……トラブルは、いつも南の大陸から起こる。
 それだけだった。

「あのダークエルフたち。森の妖精王ショーノベルズの第六王女とその従者たちだが……もめている相手は人間だ」
「人間? 妖精と人間がもめるのですか?」
「そうだね。遥かな過去には庇護し、崇められていた存在同士が争うのは、なんとも辛いことだ」
「そう、ね。エバース」
 
 本当はそのことについて知っていた。
 ライシャは竜の国ハイエルン、人の国レブナス、魔族の国アルフライラが今回の件に関わっていると言っていたけど、万能の聖典にその事実はなく。
 旦那様がどう判断をなされるのか、気になるところではあった。

「アリア。ダークエルフたちと話をしたはずだ。どこまでを耳にした」
「竜の国ハイエルン、人の国レブナス、魔族の国アルフライラ。その三国が、ティトの大森林をわがものにしていると。そう聞いております」
「そんなことを言ったのか」

 はあ、と大きくため息をつく旦那様。
 その意味するところは正しくない。
 もしくは嘘が織り交ぜられている。
 そんなところなんだろう。
 でもどこまでがそうなのかは、わたしには分からない。
 
「はい、そうですね。ついでに万能の聖典で調べた時には、そのような事実はありませんでした。三国の存在についてはまあ……あったようでなかったようなそんな気がします」
「シュノーベルズのやつ」
「は? 森の妖精王様が何か?」
「いや。なんでもない……ここでは、そうそう語れない。そうだな――」

 何を考えたのかわたしには、さっぱり。
 ただ嬉しかったことは、旦那様ははっきりとその場で公言してくれた。
 何をって?
 それはもちろん――。

「来賓の皆、聞いてほしい」

 わたしをそっと後ろに押しやると、彼は数歩前に出て大きな声でそう言った。
 会場の視線は風の精霊王へと集中する。
 周囲が静まり返ったのを確認し、いつしか音楽も止んでいた。
 会場がちょっとした静寂に包まれていく。
 後方に下がったわたしは目立つことなく、それに耳を傾ける聴衆の一部になっていた。

「本日は集まってくれたことを、大変嬉しく思う。しかしだ、今日は御三方がこの極北の果てにやって来てくれた。これはとても素晴らしい、祝うべきことなのは理解している」

 どこから取り出したのか白ワインが入ったグラスを掲げ、城の主として旦那様は堂々と振る舞っていた。

 南の大陸からやって来た、魔王。
 赤の月からできた、ロア様。
 西の大陸からは流浪の民、ダークエルフたち。

 彼らのそれぞれに紹介することで、エバースはその場にいた神々や魔族、妖精や精霊、聖霊や妖魔、ありとあらゆる神格を持つ存在の誰かに。
 神の世界においての明らかな異常事態を、語り始める。

「竜の国ハイエルン、人の国レブナス、魔族の国アルフライラ。この三国の名を知っている者たちはいるか?」

 その問いかけに、いく本もの手が高く掲げられ、同意の合図となる。
 手があげれないものは頷いたり甲冑を鳴らして何かしかの、反応してみせた。
 それはどれも、同意であり、否定ではなかった。
 旦那様はゆっくりと頷くと周囲をもう一度、見渡してから話を始める。

「わが友、森の妖精王の領地がどうやら侵略されているらしい。だがその事実は、万能の聖典には記されていない」

 場内にどよめきが起こった。
 神格を持つ存在であれば誰でもアクセスすることが許されている存在。
 ありとあらゆる知識を内包した万能の辞書。
 それが万能の聖典。
 だけどそこに書かれていないことがあるというのは、こうも大勢の神々ですらも不安にさせるものらしい。
 と、ここでアズオル様が口を挟んだ。
 隣には、ロア様と太陽神様がいる。
 いつものメンバーだ。

「エバース。それはどういうことだ? 万能の聖典は誰も編纂できない存在だとされてきた」
「知恵の神アズオル。誰も編纂することは許されてない。しかしそこに載る前に情報を止めることは可能だ」
「そういうことか、妖精王め……」

 アズオル様は困り果てたように片方の手頭をくしゃくしゃと撫でる。
 知恵の神というだけあって、万能の聖典には他の神様たちよりも、縁のある神様なんだろうか?
 後から聞いてみるけど。
 どちらにせよ、掲載される前に停められたら――それは載るはずがない。
 当たり前のことだけど。

「そういうことだ、アズオル。妖精王シュノーベルにおいては、何か大きな考えがあるらしい。だが、彼の子供達がここに来て、助けを求めているのも事実だ。竜と魔族が関わっているのが、どうにも問題だが……」

 そう言いながら、エバースの視線は二階にある内向きのテラスの一つで、のんびりと長い長い尾を垂らしていた、数頭の色とりどりの竜……どうしてあんな巨体があそこにいて、二階の底が抜けないのか。
 と、疑問に思うわたしだ。
 ついでに会場の左奥に陣取っている、豊かな豊かな尾を膨らませ、頭上に勃った獣耳をこちらに向けている一団にも、エバースの視線は向いていた。
 竜の来訪者は全部で六頭。
 真っ黒い闇色の竜が、二階から口を開かずに声だけを飛ばしてくる。

「我らが竜王はあの大森林に関して何かをしようと、考えている事実はない。だが、大森林の恩恵を受ける若き竜の子らの国、ハイエルンならば――それはありえるかもしれない」
「なるほど。黒き竜のブランシェ、はるかに古き竜の長の一人。そのあなたが言うならば、そうなのかもしれない」
「だが、風の精霊王よ」
「なにかな?」

 黒きブランシェは、一瞬口ごもる。
 彼は神だ。
 頭の中では無限ともいえるような時間の中で、ありとあらゆる可能性を模索して返事をしているのだろう。
 重く苦しい一言が、エバースに伝えられた。

「これは神々が立ち入って良い話ではないかもしれない。竜も魔も人も。どれもがその土地で生きるために活動を行っている。ただそれだけのこと。神の介在する余地はあまりないと、わしは思う」
「……確かに」

 旦那様のその一言が、会場内に大きなどよめきを生んだ。
 その意味は簡単だ。
 神や妖精、精霊など神格を持つ者は――現世が無くなっても。たとえこの星が消滅したとしても、彼等の住む異世界には影響は及ばない。
 だからこそ言えた一言かもしれなかった。
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