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プロローグ
グレイエルフのアリス
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「あら殿下、懲りずにまた婚約破棄宣言ですかー。あいかわらず頭が天国ですわね。ところでこの奇行、国王陛下はご存知でしょうか?」
「――ッ!? なんだいきなり‥‥‥」
「いえですからー。この国では勝手に結婚したり離婚できたりするんですか? 毎回、質問するけど王族だからって理由じゃ‥‥‥薄いんですよね。理由が」
「何が言いたいのだ、アリス?」
「いえいえ、わたしも暇があれば王国の無能な魔法使いどもが張り巡らせた封印をサクっと解いて表にでるんですよ。ご存知でした?」
「でるなよ! 頼むから、そこは僕の顔を立てて我慢しろよっ!!」
「そんな立てる顔なんてないでしょ?」
「おいーっ!!?」
あーあ、情けない顔。
これでグレイエルフの六氏族きっての美姫といわれたこのアリスを‥‥‥無謀にも妻にしようと望むんだから。
甘やかされて育った無能な男。
自尊心だけ肥大して、まるで文句をいうことだけは一人前の、世間にでる前の学生みたい。
親の顔が見たいものだわ。
そう思ったから聞いてみたのだ。
まだ会わない義理の両親にも挨拶をしなければならない。
グレイエルフが礼儀知らずと思われては、同族に顔が立たないのだ。
「ねえ、殿下。その婚約破棄、いくらでも受けましょう? でも教えて下さいませんか?」
「‥‥‥何をだ? 何が知りたい」
「そんなにぶすっとして不機嫌にならなくてもいいじゃないですか。ちゃんと教えて下さったらそう――」
「何だよ‥‥‥」
「死ぬ前に、幻術ではない本物を堪能できるかもしれませんよ?」
「っ、本当か!!」
「きちんと教えてくだされば、考えても良いですよ。どうですか?」
「内容に――よるな」
では、とアリスが見たのはいまいるこの屋敷の主の顔だった。ここでするべき話ではないから、どこか部屋を用意して欲しい。そう目で訴えたのだ。
相手はさすが、大貴族。
きちんと意を介して部屋を用意するように、侍従を呼んでいた。
さすがねー侯爵様。
王族じゃない一般の貴族の中から、最高位である侯爵位まで登り詰めただけはあるわ。
アリスはそう感心して侯爵を見るも、視界には王子が面白くなさそうに憮然として立っている。
このボンクラ王子。
自分で始めたことなんだから、自分の婚約問題くらい自分で決着をつけなさいよ。
そう怒りを感じながら。
「良い部屋ですね、侯爵様」
「いえ、滅相も無い。金麦のアリス様にお越しいただけるとは、それだけで当家の栄誉。どうかごゆっくりどうぞ」
「感謝します。さ、殿下。どうぞ?」
まだ石のような表情のままで王子は室内に入ってくる。いや、連れられてといったほうが正しい。
「なぜこんな真似をしなければならないのだ。あれは家臣だぞ?」
「家臣だからこそ、礼儀を尽くすべきでしょう殿下?」
「父上のものではないか。僕が感謝したり礼を述べる筋合いはない。どこで何をしようがこの王国はすべて父上が絶対だというのに」
はあ‥‥‥
どこまでこの王子様は世間知らずなのだろう。
あの侯爵様は、平民からたった三十数年で侯爵まで登り詰めた、才人。
いわば、この王国のエリート街道まっしぐらの人物なのだ。毎夜のように夜会を開催できる財力、目立てば敵は増えるはずなのに一度もこの夜会が閉じられたことがない。
そして集まるのは、古くからの上級貴族に聖職者と。
今まさに、王国の政治の中心がここにあるっていうのに。
「ねえ、殿下? いいえ、ナバル王子」
「妻ならちゃんと敬称をつけないか、アリス」
「無理でしょ? だってあなたから婚約を申し込んでおいて、勝手に破棄するだの殺そうとまでしてるのに。こうやってまともな話ができることすら、奇跡だと思って頂きたわ」
「ふん、安い奇跡だな。お前の奇跡は」
このっ、蹴飛ばしてやろうかしら。
思わず足が出そうになるが、いつの間にか室内にやってきた銀色の猫が視界の隅に入ってくる。
手を出すなよ、面倒くさい。
そう言いたそうな猫もどきを見ると、アリスは自制せざるを得なかった。
「――ッ!? なんだいきなり‥‥‥」
「いえですからー。この国では勝手に結婚したり離婚できたりするんですか? 毎回、質問するけど王族だからって理由じゃ‥‥‥薄いんですよね。理由が」
「何が言いたいのだ、アリス?」
「いえいえ、わたしも暇があれば王国の無能な魔法使いどもが張り巡らせた封印をサクっと解いて表にでるんですよ。ご存知でした?」
「でるなよ! 頼むから、そこは僕の顔を立てて我慢しろよっ!!」
「そんな立てる顔なんてないでしょ?」
「おいーっ!!?」
あーあ、情けない顔。
これでグレイエルフの六氏族きっての美姫といわれたこのアリスを‥‥‥無謀にも妻にしようと望むんだから。
甘やかされて育った無能な男。
自尊心だけ肥大して、まるで文句をいうことだけは一人前の、世間にでる前の学生みたい。
親の顔が見たいものだわ。
そう思ったから聞いてみたのだ。
まだ会わない義理の両親にも挨拶をしなければならない。
グレイエルフが礼儀知らずと思われては、同族に顔が立たないのだ。
「ねえ、殿下。その婚約破棄、いくらでも受けましょう? でも教えて下さいませんか?」
「‥‥‥何をだ? 何が知りたい」
「そんなにぶすっとして不機嫌にならなくてもいいじゃないですか。ちゃんと教えて下さったらそう――」
「何だよ‥‥‥」
「死ぬ前に、幻術ではない本物を堪能できるかもしれませんよ?」
「っ、本当か!!」
「きちんと教えてくだされば、考えても良いですよ。どうですか?」
「内容に――よるな」
では、とアリスが見たのはいまいるこの屋敷の主の顔だった。ここでするべき話ではないから、どこか部屋を用意して欲しい。そう目で訴えたのだ。
相手はさすが、大貴族。
きちんと意を介して部屋を用意するように、侍従を呼んでいた。
さすがねー侯爵様。
王族じゃない一般の貴族の中から、最高位である侯爵位まで登り詰めただけはあるわ。
アリスはそう感心して侯爵を見るも、視界には王子が面白くなさそうに憮然として立っている。
このボンクラ王子。
自分で始めたことなんだから、自分の婚約問題くらい自分で決着をつけなさいよ。
そう怒りを感じながら。
「良い部屋ですね、侯爵様」
「いえ、滅相も無い。金麦のアリス様にお越しいただけるとは、それだけで当家の栄誉。どうかごゆっくりどうぞ」
「感謝します。さ、殿下。どうぞ?」
まだ石のような表情のままで王子は室内に入ってくる。いや、連れられてといったほうが正しい。
「なぜこんな真似をしなければならないのだ。あれは家臣だぞ?」
「家臣だからこそ、礼儀を尽くすべきでしょう殿下?」
「父上のものではないか。僕が感謝したり礼を述べる筋合いはない。どこで何をしようがこの王国はすべて父上が絶対だというのに」
はあ‥‥‥
どこまでこの王子様は世間知らずなのだろう。
あの侯爵様は、平民からたった三十数年で侯爵まで登り詰めた、才人。
いわば、この王国のエリート街道まっしぐらの人物なのだ。毎夜のように夜会を開催できる財力、目立てば敵は増えるはずなのに一度もこの夜会が閉じられたことがない。
そして集まるのは、古くからの上級貴族に聖職者と。
今まさに、王国の政治の中心がここにあるっていうのに。
「ねえ、殿下? いいえ、ナバル王子」
「妻ならちゃんと敬称をつけないか、アリス」
「無理でしょ? だってあなたから婚約を申し込んでおいて、勝手に破棄するだの殺そうとまでしてるのに。こうやってまともな話ができることすら、奇跡だと思って頂きたわ」
「ふん、安い奇跡だな。お前の奇跡は」
このっ、蹴飛ばしてやろうかしら。
思わず足が出そうになるが、いつの間にか室内にやってきた銀色の猫が視界の隅に入ってくる。
手を出すなよ、面倒くさい。
そう言いたそうな猫もどきを見ると、アリスは自制せざるを得なかった。
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