殿下、婚約破棄をしませんか?

星ふくろう

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プロローグ

王子は下着ドロボーがお好きなようです。(冤罪率強め)

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「アリス・ヒンメル! よくも幻術で惑わせてくれたな‥‥‥これほどまでに尽くしてきたというのにこれが君の仕打ちか!?」
「はあ‥‥‥。殿下、頭の方は大丈夫ですか?」
 
 アリスが友人たちと、とある大貴族の豪邸で開かれた夜会で会話に興じていたとき、あの王子(バカ)はそう声高に叫びながらやって来た。
 片方の手にはアリスが着ていたハズ、の紫色の下着を握りしめているところを見ると、どうやらベッドに連れ込もうとしていたところだったようだ。

「なんだと!? 僕の頭よりもお前の命を心配しろ、このグレイエルフめ!!」
「だから、その言葉の一つ一つがだめだと申し上げているのです。一国の王子。しかも王位継承者がこんな下賤な‥‥‥」
「何をするっ、こら返さないか!!」
「ほら、女性の下着なんて握りしめて喜んでいる殿下がここにいますよ、皆さん? どうですか、このお子様ぶりは――?」
「貴様っ!? どこまで僕をばかにすれば気が済むんだ!!」

 慌ててアリスに取り上げられた彼女の下着を取り返そうとするが、それはあっさりと阻止されてしまう。すでに四百年を生きる長命なエルフ族の一つ、グレイエルフのアリスは武術の腕前もまた‥‥‥王子を軽く凌駕していた。

「ほーらほら、王子ー? ナバル様ー?? 身長が低いわたしに、どうして王子がかなわないんですかねー? ほらっ、こっち。違う、ああ、惜しい! もっと踏み込んでジャンプしなさいよ。それじゃまるで老いた虎にしか見えませんよー??」
「ぐぬっ!! このっ、さっさと寄越さないか!? あ、待てっ!!!」

 まるでバスケのドリブルのように丸めたドレスを、あっちにこっちにと移動させながら、座っていたソファーの隣で眠たそうにしている、銀色の猫――ランディスにパスを渡すアリス。
 ランディスはまるで興味が無いというように自分に迫る王子を片目で見ると、やってきたドレスボースをそのふさふさとした白い尾で勢いよくはたき返した。

「おのれ、このクソ猫め! 忌々しいやつ‥‥‥ええいお前たち、何をしている!? さっさと僕にそれを寄越せ!!」
「ねえ、殿下ー? もう普通に婚約破棄しましょうよー? いつまでこんなお遊びを繰り広げるつもりですか?」
「う、うるさいっ。僕はただお前に愛を語っただけなのに! わざわざこの国に招いてやったというのに、恩知らずめっ」

 どっちが恩知らずよ。
 アリスはその言葉を鼻でせせら笑ってやる。どうかその天使の美声で我が国にも一時のやすらぎを与えてくれないか、そう誘ってきたのはそっちのくせに。
 わざわざ人間ごときの国に来てやったら、同胞を殺されたくなければ結婚しろ。
 そう要求したのはそっちじゃない。しかも‥‥‥側室なんて!

「ぐっほォっ‥‥‥」
「あ、ごめん。
 思いだしたらついつい腹が立っちゃって。あんた、既婚者だったもんねー」
「だからと言って、お前は婚約者の腹に蹴りを叩きこむ‥‥‥のか??」
「だってねえ、わざわざ愛人をさがすためにあんな場所にまで来るなんて。大した欲望というか、愚かな頭だというか。まあ、最初の頃に比べたら少しは強くなった?」
「知るか! それよりもお前を明日こそは断罪にしてくれる!!」

 と、そこでアリスの足が止まった。
 彼女の軽やかな蹴りの一撃で壁際に立っていた数名の貴族を巻き込んで吹っ飛んだ王子は、それでも脅威的な回復力で立ちあがってみせるとそう叫んでいた。

「へえ‥‥‥まだやる気なの? この数週間で折れた剣は二十を下らないと思うけど。人間ごときの魔力でわたしに傷をつけようなんて‥‥‥」
「勇者だ!」
「は?」

 王子は今度こそは成し遂げてみせると自信満々にそう叫んでいた。
 勇者?
 あの魔王レガイア討伐に向かったっていう、あの勇者様?
 へえ、とアリスはにんまりとしてしまう。

「それなら、できるかもしれませんね?」
「ああ、そうだろう。そう思うだろう。だからな、こう宣言してやるのも今夜で終わりだ」
「あっそ、ならどうぞ?」
「アリス・ヒンメル! お前との婚約を、この場をもって破棄する!!」

 周りの観衆が呆れ果てている中、王子(バカ)はどこまでも自信満々にそう叫んでいた。

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