レイオノールの醜聞

星ふくろう

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国王のおもいつき

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 ある朝のことだ。
 国の財政がよろしくありません。
 そう訴えてきた財務大臣の言葉を深く受け止めて、レイオノール国王レパード二世は深く考えこんでいた。

「どうしたものかな、王妃よ?」
「陛下、わたしにはお金のことは今一つ、分かりかねますわ」

 賢妃と呼ばれた彼女がそう言うからには、なにかいい案があるのかもしれない。
 王はふうん、と面白そうに妻を見ていた。

「なにかありそうだな、お前?」
「あるかもしれません。でも、諸侯の恨みもひどいものになるかもしれません」
「諸侯? 貴族たちからどうするつもりだ?」
「ですから――」
「うん、なんだ? 我が国はつい数年前に終わった戦争のせいで、貴族にはまともな資産などないだろう?」
「それは、生きていらっしゃる方々に関してでしょう、陛下?」
「死んだ者から取り立てろ、と。そう言うのか?」
「夫は死んで、でも妻が残った場合はどうでしょうか?」
「ふうん、なるほど。それは面白い考えかもしれない。よし、財務大臣」
「はい、陛下。なにか妙案でもございますか?」
「さてな? だが知りたいことはある。ただちに、我がレイオノール王国の全貴族の資産の目録を作れ」
「かしこまりました」

 この命令は半年から数か月かけて行われ、多くの国内貴族、その親類縁者に至るまでの資産が明らかにされる。
 なかには、戦死した伯爵の次男は馬十頭に牛五頭、と詳細に記録されているのもあった。

「これはなかなか面白いな、王妃」
「でしょう、陛下。でも、そこにお手を付けられたら‥‥‥」
「確かに、恨みを買うのは間違いないな」
「どうか上手くおやりくださいませ、あなた」

 王妃の案。
 それは、戦死したあとにまだ新たな夫を見つけていない、未亡人の数の多さだった。
 多くの騎士団が、あの戦争で死傷者を出していた。
 だが、騎士だと貴族の最下位だからたいした資産はもっていない。
 その騎士団の団長など、隣国との境目にあった各城の城主の一族はまだまだ隠れた財産を持っていた。

「王都にいる貴族など、どうでもよいということか。しかしなあ?」
「国境を守る騎士団の長の資産です。土地が多いでしょう、人民もたくさんおります。なんなら、奴隷として売り飛ばしても宜しいのでは?」
「いや、それよりもっといい方法があるぞ」
「良い方法?」

 王妃はなんでしょう、と首を傾げる。
 国王はそばに軍務大臣を呼び寄せた。
 
「なあ、大臣」
「はい陛下。なにごとでしょうか?」
「我が国の隣国、そのさらに向こうにはまだまだ‥‥‥戦争を繰り返している国がいくつある?」
「さようですなあ。少なく見積もって、国境を接する国ならば四つはあるかと」
「そうか。では、その四か国のうちで兵士が足りない国はいくつだ? どれほどの兵士が足らん?」
「はあ? そういうことでしたら、六万は下らないかと??」
「ふん。では我が国で今すぐに動ける騎士や兵士はどれほどだ?」
「まあ、そうですな。戦争で減ったとはいえ、まだ同数程度はいるかと思いますが」
「いい返事だ。下がるがいい」
「はあ、失礼いたします」

 不思議がる軍務大臣を下がらせると、国王は法律関連の管理をする右大臣を呼ぶ。
 
「はい、陛下。なにかございましたでしょうか?」
「この、昨年に終わった隣国との戦だが。国境線に数十あった砦や城。あれらは、この王都でいうところの、役場や裁判などもすべて兼ね備えた場所だったな?」
「さようでございます、陛下。各城主がそれを行い、独自の権限を与えて政治を行っております」
「では‥‥‥奴隷たちなどが、あの地域で行っている広大な農地や荘園で使われているではないか?」
「それはそうですが、それが何か?」
「その管理は誰がしている?」
「そうでございますね、ほぼ遠方の地ですから、各城主が荘園主の行為も代行しているかと」
「そうかそうか。では、その奴隷たちを含めた傭兵を国外に出すとすれば――どうだ?」
「傭兵‥‥‥?」
「そうだ。傭兵だ。騎士まで含めて、だ」
「しかし、騎士まで傭兵にはできないかと」
「ああ、貴族の爵位があるからか‥‥‥」
「さようでございます」

 ふむ。
 ならその場合は――そう国王は知恵をしぼりだす。

「もし、その騎士たちの主である、城主の死亡したときはどうなる?」
「どうなるとは、どのような意味でしょうか?」
「察しろ、右大臣。その騎士共の管理や立場を誰が保証し、管理するのかと聞いているのだ」
「城主が死亡ですと‥‥‥その場合、管理の権限は、まずその妻へと行くことになりますな。爵位などもその妻が与えたり、奪ったりということになります」
「配置などに関しての命令も、同じか?」
「それはもちろん。ですがそれならば陛下の勅令を出されたほうが確実では?」

 それをすれば、わしが恨まれるではないか。
 国王はもう少し考えろ、と右大臣を睨んでいた。
 ついでに、その管理がそこからどう変わるかを教えろと命じる。

「管理が変わる? つまり妻から権限を更に上の者に移すということですか?」
「そうだ。女のまま、未亡人のままでは騎士たちもその命令に素直に従うとは――限らんだろう?」
「ああ、なるほど。陛下の代わりに指揮できる人物に、権限を移す、とそういうことですな」
「やっと理解したか。で、どうなのだ?」
「これは未亡人に限りますが‥‥‥妻が新たな夫を迎えるまでは、亡き夫が仕えていた上級貴族がその後見人となります」
「ふん? だが、待てよ。子供がいた場合はどうなのだ?」
「男子の成人は十六歳ですから。またその年齢であれば爵位の相続は可能かと思われますな」
「爵位だけか? 領地やその他の資産は?」
「領地などの資産はまた別でございます。そこは後見人のさじ加減。よき領主ならばそのまま継続させるでしょうし。そうでなければ、適当な家臣を未亡人の夫にして領地をいくらか割くこともあるかと」
「ほう。良き領主ならば、か」
「はい、陛下。ただ、十六歳を越えましたら未亡人も相続権が本人の自由になりますから。その前に交わした後見人の契約はそのまま有効です」
「では、右大臣。騎士団の人員や奴隷などはどうなる? 財産に組み込まれるか?」
「それはもちろん。ただ、契約がどうかという問題がございます」
「契約?」
「騎士には封建時代からの、土地を与えて家臣とした者と、賃金を支払う契約で家臣になった者。二種類ありますから」
「そうかそうか。なら、金での契約した新しい騎士をのぞけば、ということだな?」
「はい、その通りでございます、陛下」

 国王はとても意地の悪い笑みを浮かべていた。
 このリストにある未亡人の年齢とその数。
 これは戦争で疲弊した我が国を回復する金の卵を産むにわとりになる、と。


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