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第三章
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「相変わらず、見事なもんだな?
その背中の翼がなければ、どうみても人間なんだが」
「うるさいなあ、使い魔の扱いが悪いんだよ、この御主人様は。
騎士として外に出て行くにも関わらず、たった一人で歩いていくしさ。
みんな、影の中で心配していたよ。
どこかで不審がられないかなってさ」
「みんなって、気づいてたなら出て来ればいいだろう?」
「嫌だよ、レビンはとかく色々抜けているから。
ボクくらいだよ?
君の呼びかけにはいはいって応じてるの?」
吸血鬼の少女は人懐っこい笑顔でそうレビンに言って退ける。
その本心はまた、俺の精気が欲しいだけだろ?
年に数回の使役でたらふく自分の欲しいものを吸い上げていくのだから。このエレノアといい、他の使い魔といい本当にタチが悪い。
だが、いまはそれに構っている場合ではなかった。
「で、どうするの?
そのまま運べばいいの?
自分で風の精霊に命じて魔法で飛べばいいのに?」
「そうもいかんのだ。
さっきの漁師の女の対応を見ただろう?
外聞というものがある。
俺が運ぶから、お前はその側にいればいいんだ」
あ、そう。
まあ、能力を使わないなら別にいいけどね。
エレノアは悪戯っぽく笑って見せる。
「今夜は美味しい魚が食べれるといいねー御主人様?
ついでに夜も楽しみたいもんだけど??」
意味ありげな仕草を無視して、レビンは簡易的な魔法陣を指先で何もない空間に描きだす。
そのままそれは広がると足元に落とし込まれ、二人の足元に、地面とはまた違う床を作り出した。
「さっさと入れ。
行くぞ?」
「はいはい。
乗りますよ、入りますよ」
エレノアが入ったのを確認すると、魔法陣は二人の背丈ぎりぎりのところまでその壁を膨れ上がらせる。
楕円?
そんな感じに見えるとすれば形状が似た魔法陣は、その壁が攻撃や鳥や飛んで来る木々などを避ける防御壁となる。
「相変わらず、人間の割には素早いよねー。
魔族になればもっと力を振るえるのに、勿体ない」
「うるさい。
まずはプレソンに行かねばならん。
それにな、エレノア?」
ん?
なになに?
今夜はあったかい寝床で寝れる?
レビンの人肌を感じれるかな?
そんな冗談を言う美少女に、レビンは冷たく言ってのけた。
「あの村は人口数十人の小さな漁村だ。
ま、野宿なりよくてどこぞの馬小屋の端だろうな、お前は」
「ひっどい!!
ならレビンは!?
なんでボクだけ!!?」
ニヤリと意地悪くレビンは笑って言った。
「俺は公爵様。
まあ、役人の家には泊まれる。
お前は従僕。
家来は外が決まりだ」
「最低だよ、せめて愛人に――」
少女を抱く趣味はない。
そう言って断るレビンは、エレノアに別の衣装。
侍女としての恰好に着替えさせる。
普段からスカートのロングドレスなんて着ない少女は、その無い胸が更に見えて嫌だとぼやいていたが、こんな山中を歩く旅だ。
そのドレスの中に更にズボンを履かせて、ようやくエレノアはそれらしい格好になる。
そして、約束の時間にプレソンの役場についた時。
空から騎士様がやってきたと、村人たちが騒々しく集まってくるが彼、役人のエリデアは一人ため息をついていた。
だって、あれだけ大勢のラブラスに、軽く一撫でしたら大の男二人を殺してしまう凶悪な豹人までいるのだ。
それなのに、やってきたのは‥‥‥たった二人。
それも公爵様とか言うけれどもどれほど、役に立つのか、と。
「俺はなんだってこうもついていないんだ」
嘆く彼はまだ若く、それでいて妻もいないからという理由でレビンは一人暮らしには広すぎる屋敷の一角を客間として借りることができた。
唯一の不満は‥‥‥
「ま、いいことすれば果報があるってね。
ベッドは一つ。
呼び出した分だけは貰おうかなー???」
そう、エレノアに迫らせる口実を与えたことだった。
「ええい、うるさい。
呼び出した分だのなんだのと。
俺はお前たちを匿っているではないか」
エレノアが嬉々として目を輝かせ、レビンの太い首の根元に牙を突き立てようとした時。
彼はそう言い、無下にも美少女の片腕を取ると部屋の隅に放り投げてしまった。
「わーっ、酷いんだーっ!!」
エレノアは身軽に空中で余分に回転してみせると、音もなくストンっと床に舞い降りる。
優雅なその様は、さすが彼が、『吸血姫』、と呼ぶだけのことはあった。
「酷くはない!
お前にエウリュアレ、おまけにラーミアにシャルディアまで。
数えただけでも四体も魔族の使い魔がいるではないか。
それも全て、解放したのは俺だぞ?
わざわざ影まで貸して棲み処を与えてやっているのに。嫌なら出て行くか?」
エレノアは悔しそうにうめいていた。
「ううう――――っ!!
人の弱味につけこむなんてなんて酷い。
あの頃はあんなに優しかったのに」
「どの頃か知らんが、俺は血を吸わせる趣味はない。
お前も、どこぞの娘や貴族の子弟に手をだして眷属など作るなよ?
その気になればこの村一つ、一晩でそうできるのだからな‥‥‥」
「そうした方が、仕事がやりやすいんじゃないの?
後から、契約を解けば普通に戻るよ?」
ねえねえ、頭は使おうよ御主人様??
そう、エレノアはすり寄ってくるがその魂胆は見えている。
単に若い血液を求めているだけだ、と。
レビンはそれを否決した。
「だめだ、それよりも食事を頂いて来い。
これでも魔王様の直属の捜査官としての立場もあるんだ。
お前も俺もな?
さて、どうするかな‥‥‥。
ここの主殿は従僕もおらん一人住まいだったな。
エレノア。
お前が、家事を致しますと、そうお伝えして来い」
「えーっ!?
最悪、ボクに料理させるわけ?
本気で召使いとして扱う気!?」
当たり前だろう。
そう、レビンは鼻で笑ってやる。年に数度しか使えない使い魔ならば、この機会にこき使わなくてどうするんだ、と。最悪だ、料理なんて出来るけどしたくないのに、お姫様なのに。こんな最低な主人と契約するんじゃなかった。
そうぼやきながら出て行ったエレノアは、しかし、ものの十分もしない間に帰ってきてしまった。
「なんだ?
かまどで火加減でも間違えたか?
それとも、ナイフで魚をミンチにしてしまったか?
お前まさか、新鮮だからと魚などの血を吸ってはいないだろうな?」
そのどれにもエレノアは首を横に振った。
悲し気にはあ、そうため息をついてベッドに座り込んでしまう。
「わざわざお越しいただきました公爵様にそのお付きの方。
侍女と言えども、どちらかの貴族の令嬢様でしょう。
そのような身分のある御方に調理などと!!
ここはこの村から集めた女どもでどうにでもなりますから。
ささ、どうかお部屋にてお待ちくださいませ‥‥‥だってさ」
わざわざ、館の主であるエリデアそっくりの声を真似してエレノアは首を振る。
あーあ、あの魚も肉も新鮮で、血がしたたり落ちていて‥‥‥久しぶりの御馳走だったのに、と。
「わかった、わかった。
少し待っていろ‥‥‥」
「え、なになに?
どうするの?」
「いいから、待っていろ」
はーい、と機嫌のいい返事を返すエレノアを背に、レビンはエリデア氏を館の中に探してみた。
彼はレビンたちが案内された館の最奥である三階ではなく、一階の奥まった台所で集めた漁師の妻たちだろう。それを差配しながら、その肉はもっと分厚く、その魚は薄味に、などと声を上げて指示していた。
その様子はまるでどこかの料理番で、的確だからレビンもほう、としばらく扉の影から見ていたほどだ。
やがて、その内の一人がレビンに気づき、全員に頭を下げられて彼は微妙な気分になる。エリデアを手招きすると彼は後は任せたと、まとめやくらしい女房に一言いい、その場を出てきた。
「昔はどちらかの料理方にでもおられたのか?」
そう尋ねると、エリデアはこの地方の領主である男爵家に奉公していた。
そう答えた。
「まだ、若い自分に。
実家の跡を継いだのはここ数年でして、剣よりは料理の腕の方が勝っているとからかわれることもしばしあります。いや、お恥ずかしい」
「そうか、うちのを行かせたのだが、逆に困らせたようでな。
あれは貴族の令嬢などではない、単なる使用人だ。
適当に扱ってくれて構わんのだが」
「いいえ、例えそうであっても公爵家様と我が家のような地方の役人。
天と地の差がありますから、ところで何か御用でも?」
レビンは持参した酒の入っていた革袋を掲げて見せた。いつの間にか空になっているそれに、ワインでも入れて欲しい。あるならば。
そういう催促だった。
その背中の翼がなければ、どうみても人間なんだが」
「うるさいなあ、使い魔の扱いが悪いんだよ、この御主人様は。
騎士として外に出て行くにも関わらず、たった一人で歩いていくしさ。
みんな、影の中で心配していたよ。
どこかで不審がられないかなってさ」
「みんなって、気づいてたなら出て来ればいいだろう?」
「嫌だよ、レビンはとかく色々抜けているから。
ボクくらいだよ?
君の呼びかけにはいはいって応じてるの?」
吸血鬼の少女は人懐っこい笑顔でそうレビンに言って退ける。
その本心はまた、俺の精気が欲しいだけだろ?
年に数回の使役でたらふく自分の欲しいものを吸い上げていくのだから。このエレノアといい、他の使い魔といい本当にタチが悪い。
だが、いまはそれに構っている場合ではなかった。
「で、どうするの?
そのまま運べばいいの?
自分で風の精霊に命じて魔法で飛べばいいのに?」
「そうもいかんのだ。
さっきの漁師の女の対応を見ただろう?
外聞というものがある。
俺が運ぶから、お前はその側にいればいいんだ」
あ、そう。
まあ、能力を使わないなら別にいいけどね。
エレノアは悪戯っぽく笑って見せる。
「今夜は美味しい魚が食べれるといいねー御主人様?
ついでに夜も楽しみたいもんだけど??」
意味ありげな仕草を無視して、レビンは簡易的な魔法陣を指先で何もない空間に描きだす。
そのままそれは広がると足元に落とし込まれ、二人の足元に、地面とはまた違う床を作り出した。
「さっさと入れ。
行くぞ?」
「はいはい。
乗りますよ、入りますよ」
エレノアが入ったのを確認すると、魔法陣は二人の背丈ぎりぎりのところまでその壁を膨れ上がらせる。
楕円?
そんな感じに見えるとすれば形状が似た魔法陣は、その壁が攻撃や鳥や飛んで来る木々などを避ける防御壁となる。
「相変わらず、人間の割には素早いよねー。
魔族になればもっと力を振るえるのに、勿体ない」
「うるさい。
まずはプレソンに行かねばならん。
それにな、エレノア?」
ん?
なになに?
今夜はあったかい寝床で寝れる?
レビンの人肌を感じれるかな?
そんな冗談を言う美少女に、レビンは冷たく言ってのけた。
「あの村は人口数十人の小さな漁村だ。
ま、野宿なりよくてどこぞの馬小屋の端だろうな、お前は」
「ひっどい!!
ならレビンは!?
なんでボクだけ!!?」
ニヤリと意地悪くレビンは笑って言った。
「俺は公爵様。
まあ、役人の家には泊まれる。
お前は従僕。
家来は外が決まりだ」
「最低だよ、せめて愛人に――」
少女を抱く趣味はない。
そう言って断るレビンは、エレノアに別の衣装。
侍女としての恰好に着替えさせる。
普段からスカートのロングドレスなんて着ない少女は、その無い胸が更に見えて嫌だとぼやいていたが、こんな山中を歩く旅だ。
そのドレスの中に更にズボンを履かせて、ようやくエレノアはそれらしい格好になる。
そして、約束の時間にプレソンの役場についた時。
空から騎士様がやってきたと、村人たちが騒々しく集まってくるが彼、役人のエリデアは一人ため息をついていた。
だって、あれだけ大勢のラブラスに、軽く一撫でしたら大の男二人を殺してしまう凶悪な豹人までいるのだ。
それなのに、やってきたのは‥‥‥たった二人。
それも公爵様とか言うけれどもどれほど、役に立つのか、と。
「俺はなんだってこうもついていないんだ」
嘆く彼はまだ若く、それでいて妻もいないからという理由でレビンは一人暮らしには広すぎる屋敷の一角を客間として借りることができた。
唯一の不満は‥‥‥
「ま、いいことすれば果報があるってね。
ベッドは一つ。
呼び出した分だけは貰おうかなー???」
そう、エレノアに迫らせる口実を与えたことだった。
「ええい、うるさい。
呼び出した分だのなんだのと。
俺はお前たちを匿っているではないか」
エレノアが嬉々として目を輝かせ、レビンの太い首の根元に牙を突き立てようとした時。
彼はそう言い、無下にも美少女の片腕を取ると部屋の隅に放り投げてしまった。
「わーっ、酷いんだーっ!!」
エレノアは身軽に空中で余分に回転してみせると、音もなくストンっと床に舞い降りる。
優雅なその様は、さすが彼が、『吸血姫』、と呼ぶだけのことはあった。
「酷くはない!
お前にエウリュアレ、おまけにラーミアにシャルディアまで。
数えただけでも四体も魔族の使い魔がいるではないか。
それも全て、解放したのは俺だぞ?
わざわざ影まで貸して棲み処を与えてやっているのに。嫌なら出て行くか?」
エレノアは悔しそうにうめいていた。
「ううう――――っ!!
人の弱味につけこむなんてなんて酷い。
あの頃はあんなに優しかったのに」
「どの頃か知らんが、俺は血を吸わせる趣味はない。
お前も、どこぞの娘や貴族の子弟に手をだして眷属など作るなよ?
その気になればこの村一つ、一晩でそうできるのだからな‥‥‥」
「そうした方が、仕事がやりやすいんじゃないの?
後から、契約を解けば普通に戻るよ?」
ねえねえ、頭は使おうよ御主人様??
そう、エレノアはすり寄ってくるがその魂胆は見えている。
単に若い血液を求めているだけだ、と。
レビンはそれを否決した。
「だめだ、それよりも食事を頂いて来い。
これでも魔王様の直属の捜査官としての立場もあるんだ。
お前も俺もな?
さて、どうするかな‥‥‥。
ここの主殿は従僕もおらん一人住まいだったな。
エレノア。
お前が、家事を致しますと、そうお伝えして来い」
「えーっ!?
最悪、ボクに料理させるわけ?
本気で召使いとして扱う気!?」
当たり前だろう。
そう、レビンは鼻で笑ってやる。年に数度しか使えない使い魔ならば、この機会にこき使わなくてどうするんだ、と。最悪だ、料理なんて出来るけどしたくないのに、お姫様なのに。こんな最低な主人と契約するんじゃなかった。
そうぼやきながら出て行ったエレノアは、しかし、ものの十分もしない間に帰ってきてしまった。
「なんだ?
かまどで火加減でも間違えたか?
それとも、ナイフで魚をミンチにしてしまったか?
お前まさか、新鮮だからと魚などの血を吸ってはいないだろうな?」
そのどれにもエレノアは首を横に振った。
悲し気にはあ、そうため息をついてベッドに座り込んでしまう。
「わざわざお越しいただきました公爵様にそのお付きの方。
侍女と言えども、どちらかの貴族の令嬢様でしょう。
そのような身分のある御方に調理などと!!
ここはこの村から集めた女どもでどうにでもなりますから。
ささ、どうかお部屋にてお待ちくださいませ‥‥‥だってさ」
わざわざ、館の主であるエリデアそっくりの声を真似してエレノアは首を振る。
あーあ、あの魚も肉も新鮮で、血がしたたり落ちていて‥‥‥久しぶりの御馳走だったのに、と。
「わかった、わかった。
少し待っていろ‥‥‥」
「え、なになに?
どうするの?」
「いいから、待っていろ」
はーい、と機嫌のいい返事を返すエレノアを背に、レビンはエリデア氏を館の中に探してみた。
彼はレビンたちが案内された館の最奥である三階ではなく、一階の奥まった台所で集めた漁師の妻たちだろう。それを差配しながら、その肉はもっと分厚く、その魚は薄味に、などと声を上げて指示していた。
その様子はまるでどこかの料理番で、的確だからレビンもほう、としばらく扉の影から見ていたほどだ。
やがて、その内の一人がレビンに気づき、全員に頭を下げられて彼は微妙な気分になる。エリデアを手招きすると彼は後は任せたと、まとめやくらしい女房に一言いい、その場を出てきた。
「昔はどちらかの料理方にでもおられたのか?」
そう尋ねると、エリデアはこの地方の領主である男爵家に奉公していた。
そう答えた。
「まだ、若い自分に。
実家の跡を継いだのはここ数年でして、剣よりは料理の腕の方が勝っているとからかわれることもしばしあります。いや、お恥ずかしい」
「そうか、うちのを行かせたのだが、逆に困らせたようでな。
あれは貴族の令嬢などではない、単なる使用人だ。
適当に扱ってくれて構わんのだが」
「いいえ、例えそうであっても公爵家様と我が家のような地方の役人。
天と地の差がありますから、ところで何か御用でも?」
レビンは持参した酒の入っていた革袋を掲げて見せた。いつの間にか空になっているそれに、ワインでも入れて欲しい。あるならば。
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