25 / 52
第三章
5
しおりを挟む「あれ‥‥‥???」
そんな妙な声をあげてエレノアは牙を少女から抜いてしまった。
おえっ、なんて声を出すものだからレビンはおかしなこともあるもんだと寝そべっていたベッドの上に上半身を起こした。
「どうした?
お前でも不味いと思うような血があるのか?」
「いやだって‥‥‥これ、血じゃない」
吸血鬼がそういうのだから間違いないのだろう。
ほう、とレビンは呟き、ベッドの傍らに立てかけていた長槍を手にする。
「じゃあ、なんなんだ?
あの役人‥‥‥エリデアが是非に、と連れてきたこの村一番の若い娘らしいがな?」
「うーん?
わかんないけど、血はね、濃厚なんだよ。
でも、これは苦くてそうだなあ、あれだよ。
まるで、樹液でも飲んだようなそんな渋い味がするよ?」
「ほお?
樹液か?
飲んだことがあるのか?」
うう、とエレノアは黙ってしまう。
まあ、普段は小さめなコウモリになって夜を駆けまわる時もあるから、習性で樹液を摂取する機会があったのかもしれない。
どちらにせよ、人間ではないという点が多いにレビンの興味を引いた。
「お前のその肉体を透視する瞳から見ても、その娘は人間ではないのか?」
銀色のカーテンの向こうからは不満と同時に否定の声が上がる。
「不味いー‥‥‥口直しが欲しいなあ、ボク。
ううん、それも違うよ。
この子はそうだなあ、なんだろ?
妖精で木人間なんてのがいるけど、あれとも違う。
人間の姿をしている時点で、木人間じゃないし。
でも、外見に中身の骨、筋肉、血管‥‥‥子供を産むこともできるんじゃないかな?
ただー‥‥‥」
「ただ?」
エレノアは正解を見つけられず、困ったように返事を返して来た。
「ただ、この子は人間でもあるし、人間でもない。
そうだねー、あれだよ。
獣人や亜人がいるでしょ?」
「ああ、いるな」
「それの植物版というか、そんな感じ。
だから、普通の人間として生活も話も出来るし、子供も産める」
「また妙な人間だな?
まあ、亜人の一種か。
あのダグラスの密林にはまだまだ、原始の妖精界につながる入り口があるとも言うしな。
で、その娘以外にも多いのか、この村には?」
うーん、と銀色カーテンが消えて、エレノアと献上されて来た少女がまだぼうっと理性を無くした瞳のままで夜着に着替えて参上する。
湯はかなり冷めているのだろうなとレビンは苦笑した。
「で、クレアのだけど。
記憶を探ったら、正確には村は二つあるみたいだよ。
山上のさっきあのエリデアさんが言ってた山荘の主が住む辺りにある、山の民って呼ばれる人たちと。
さっきの宴会してた連中の海の民と。
仲は別に悪くないし、こうして呼ばれたらすぐに来るくらいだからエリデアさんの統治もまあ、効いてるんだろうねー」
「まあ、お前にしては上出来だな。
しかしどうなんだ?
そのクレアはお前の使い魔にはなるのか?」
「使い魔って人聞き悪いなあ、ボクはあれだけ我慢して血を吸わないでいるのに。
それに、そんなの間に合ってるよ。
幻覚にかける程度で間に合わそうよ?」
間に合うならそれでもいい。
で、その他は?
そう聞くレビンに、
「はあ、そんなに余裕がないから彼女も出来ないんだよ、君は。
クレアはまず、何も知らない。
というか、この子の中にある知識は山で猟をしたり、田畑を耕したり、家族との死別とか、そんなものだよ。
興味深いのはあれだね、ラブラスに村を襲われて両親を殺されたこと。
で、弟が一人と。
普段は例の山荘で下働きをして日銭を稼いでいる、くらいかな?
あーあともう一つ」
「なんだ?」
「処女じゃないよ、それに綺麗な身体でもない」
お前‥‥‥。
レビンはその返事に呆れてしまう。
「そりゃそうだろう、その外見。
この村の人間は、茶髪に黒髪が多いが、その中でも飛びぬけて美しいクレアは、まあ。
普通にしていれば、恋人もそりゃできるだろう?」
「違う違う、そうじゃないよ。
でも、身体を売って稼いでいたわけじゃない」
「えらく勿体付けるな、お前。
じゃあ、なにと交わっていたというんだ?
獣人の類か?」
ざんねーん、とエレノアは指先を振る。
なら、もしかして?
レビンのその問いに、正解、と明るい声で返事をした。
「そう、彼女の同類の木人間というか、なんていうんだろうね?
ノームって言えばあまりにも大別しすぎるけど。
でも、山の中でそういった存在と交わっていたみたい」
「なんとも生々しい話だな。
で、それの子供は宿しているのか?」
「ううん、宿せないみたいだよ?
だって、相手は姿を魔法で変えれても所詮は、木人間。
この子は、人間として生きている、言いづらいな、木人間。
生態が違いすぎるよね」
生態?
また良く分からないことを言いだしたなこの吸血姫は。
エレノアは異世界ともいえる妖精界の住人だ。
人間が知らない知識も豊富で、レビンはたまにわからないまま相槌を打って済ますこともしばしばあった。
「なら、俺が抱いてもなにかあるのか?」
「抱くの?
趣味が悪いね?
何にもないんじゃない?
ただ、産まれる子供がどうかは分からないけどね」
「仕方ないだろう、寄越せと言ったままお手付きで放りだしたら後味が悪いじゃないか」
「ふうん‥‥‥妾にでもして置く気なの?
この土地に?
あの山荘を買う話、本気だったんだ??」
意外そうに言うエレノアだが、レビンの腹の中は読めているらしい。
もう十数年来の付き合いだ。
レビンは悪い顔をすると、
「まあまた、魔王様へのツケが増えるわけだ。
だが、悪い買い物ではないと思うからな。
特にこの土地は‥‥‥で、エレデア氏の秘密はどうなんだ?」
「あーあ、魔王様のご機嫌を損ねて、救済者の的にされなきゃいいけどね。
エレデアかあ。
ボクの羽が集めてきた情報は、まあ、よくて五隻だね。
でも、漁師たちの多くはそれを知らないよ。
あの中にはこの村の顔役もいたみたいだけど、それも知らないようだった。
まるで、静かに静かに、密やかに進めている。
そんな感じかな?」
「そうか。
そして、エレデアも多くは知らされていない。
ただ、過去にそれに乗っていた。
そんな感じだな?」
多分、とエレノアは言い、
「さて、と。
で、レビンはどっちを食べるの?
クレア?
それとも、ボク?」
たくさん血液吸っちゃうよー???
「その御主人様からさんざん血を吸い上げて、どうするつもりだ、この吸血鬼?」
レビンは手から槍を放した。
黄金色の穂先を持つ、不思議な槍は自分で宙に浮くとそのまま静かにエレノアに近づいていく。
これは冗談ではないかもしれないとエレノアは真っ青になりかけていた。
「神槍もあるし、今回は魔王様直々の御依頼だ。
あまり調子に乗るなよ、エレノア?」
神槍――デュランダルと呼ばれるそれは、意思があるようにエレノアの胸元に切っ先を突きつけていた。
震える吸血姫に、まあいいだろう。
そう、レビンはデュランダルに合図する。
槍の先に鞘が取りつけられたのを見て、エレノアは震えていた両肩をようやく落ち着かせていた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる