聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第三章

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「あれ‥‥‥???」
 そんな妙な声をあげてエレノアは牙を少女から抜いてしまった。
 おえっ、なんて声を出すものだからレビンはおかしなこともあるもんだと寝そべっていたベッドの上に上半身を起こした。
「どうした?
 お前でも不味いと思うような血があるのか?」
「いやだって‥‥‥これ、血じゃない」
 吸血鬼がそういうのだから間違いないのだろう。
 ほう、とレビンは呟き、ベッドの傍らに立てかけていた長槍を手にする。
「じゃあ、なんなんだ?
 あの役人‥‥‥エリデアが是非に、と連れてきたこの村一番の若い娘らしいがな?」
「うーん?
 わかんないけど、血はね、濃厚なんだよ。
 でも、これは苦くてそうだなあ、あれだよ。
 まるで、樹液でも飲んだようなそんな渋い味がするよ?」
「ほお?
 樹液か?
 飲んだことがあるのか?」
 うう、とエレノアは黙ってしまう。
 まあ、普段は小さめなコウモリになって夜を駆けまわる時もあるから、習性で樹液を摂取する機会があったのかもしれない。
 どちらにせよ、人間ではないという点が多いにレビンの興味を引いた。
「お前のその肉体を透視する瞳から見ても、その娘は人間ではないのか?」
 銀色のカーテンの向こうからは不満と同時に否定の声が上がる。
「不味いー‥‥‥口直しが欲しいなあ、ボク。
 ううん、それも違うよ。
 この子はそうだなあ、なんだろ?
 妖精で木人間なんてのがいるけど、あれとも違う。
 人間の姿をしている時点で、木人間じゃないし。
 でも、外見に中身の骨、筋肉、血管‥‥‥子供を産むこともできるんじゃないかな?
 ただー‥‥‥」
「ただ?」
 エレノアは正解を見つけられず、困ったように返事を返して来た。

「ただ、この子は人間でもあるし、人間でもない。
 そうだねー、あれだよ。
 獣人や亜人がいるでしょ?」
「ああ、いるな」
「それの植物版というか、そんな感じ。
 だから、普通の人間として生活も話も出来るし、子供も産める」
「また妙な人間だな?
 まあ、亜人の一種か。
 あのダグラスの密林にはまだまだ、原始の妖精界につながる入り口があるとも言うしな。
 で、その娘以外にも多いのか、この村には?」
 うーん、と銀色カーテンが消えて、エレノアと献上されて来た少女がまだぼうっと理性を無くした瞳のままで夜着に着替えて参上する。
 湯はかなり冷めているのだろうなとレビンは苦笑した。
「で、クレアのだけど。
 記憶を探ったら、正確には村は二つあるみたいだよ。
 山上のさっきあのエリデアさんが言ってた山荘の主が住む辺りにある、山の民って呼ばれる人たちと。
 さっきの宴会してた連中の海の民と。
 仲は別に悪くないし、こうして呼ばれたらすぐに来るくらいだからエリデアさんの統治もまあ、効いてるんだろうねー」
「まあ、お前にしては上出来だな。
 しかしどうなんだ?
 そのクレアはお前の使い魔にはなるのか?」
「使い魔って人聞き悪いなあ、ボクはあれだけ我慢して血を吸わないでいるのに。 
 それに、そんなの間に合ってるよ。
 幻覚にかける程度で間に合わそうよ?」
 間に合うならそれでもいい。
 で、その他は?
 そう聞くレビンに、
「はあ、そんなに余裕がないから彼女も出来ないんだよ、君は。
 クレアはまず、何も知らない。
 というか、この子の中にある知識は山で猟をしたり、田畑を耕したり、家族との死別とか、そんなものだよ。
 興味深いのはあれだね、ラブラスに村を襲われて両親を殺されたこと。
 で、弟が一人と。
 普段は例の山荘で下働きをして日銭を稼いでいる、くらいかな?
 あーあともう一つ」
「なんだ?」
「処女じゃないよ、それに綺麗な身体でもない」
 お前‥‥‥。
 レビンはその返事に呆れてしまう。

「そりゃそうだろう、その外見。
 この村の人間は、茶髪に黒髪が多いが、その中でも飛びぬけて美しいクレアは、まあ。
 普通にしていれば、恋人もそりゃできるだろう?」
「違う違う、そうじゃないよ。
 でも、身体を売って稼いでいたわけじゃない」
「えらく勿体付けるな、お前。
 じゃあ、なにと交わっていたというんだ?
 獣人の類か?」
 ざんねーん、とエレノアは指先を振る。
 なら、もしかして?
 レビンのその問いに、正解、と明るい声で返事をした。
「そう、彼女の同類の木人間というか、なんていうんだろうね?
 ノームって言えばあまりにも大別しすぎるけど。
 でも、山の中でそういった存在と交わっていたみたい」
「なんとも生々しい話だな。
 で、それの子供は宿しているのか?」
「ううん、宿せないみたいだよ?
 だって、相手は姿を魔法で変えれても所詮は、木人間。
 この子は、人間として生きている、言いづらいな、木人間。
 生態が違いすぎるよね」

 生態?
 また良く分からないことを言いだしたなこの吸血姫は。
 エレノアは異世界ともいえる妖精界の住人だ。
 人間が知らない知識も豊富で、レビンはたまにわからないまま相槌を打って済ますこともしばしばあった。
「なら、俺が抱いてもなにかあるのか?」
「抱くの?
 趣味が悪いね?
 何にもないんじゃない?
 ただ、産まれる子供がどうかは分からないけどね」
「仕方ないだろう、寄越せと言ったままお手付きで放りだしたら後味が悪いじゃないか」
「ふうん‥‥‥妾にでもして置く気なの?
 この土地に?
 あの山荘を買う話、本気だったんだ??」
 意外そうに言うエレノアだが、レビンの腹の中は読めているらしい。
 もう十数年来の付き合いだ。
 レビンは悪い顔をすると、
「まあまた、魔王様へのツケが増えるわけだ。
 だが、悪い買い物ではないと思うからな。
 特にこの土地は‥‥‥で、エレデア氏の秘密はどうなんだ?」
「あーあ、魔王様のご機嫌を損ねて、救済者の的にされなきゃいいけどね。
 エレデアかあ。
 ボクの羽が集めてきた情報は、まあ、よくて五隻だね。
 でも、漁師たちの多くはそれを知らないよ。
 あの中にはこの村の顔役もいたみたいだけど、それも知らないようだった。
 まるで、静かに静かに、密やかに進めている。
 そんな感じかな?」
「そうか。
 そして、エレデアも多くは知らされていない。
 ただ、過去にそれに乗っていた。 
 そんな感じだな?」
 多分、とエレノアは言い、
「さて、と。
 で、レビンはどっちを食べるの?
 クレア?
 それとも、ボク?」
 たくさん血液吸っちゃうよー???
「その御主人様からさんざん血を吸い上げて、どうするつもりだ、この吸血鬼?」
 レビンは手から槍を放した。
 黄金色の穂先を持つ、不思議な槍は自分で宙に浮くとそのまま静かにエレノアに近づいていく。
 これは冗談ではないかもしれないとエレノアは真っ青になりかけていた。
「神槍もあるし、今回は魔王様直々の御依頼だ。
 あまり調子に乗るなよ、エレノア?」
 
 神槍――デュランダルと呼ばれるそれは、意思があるようにエレノアの胸元に切っ先を突きつけていた。
 震える吸血姫に、まあいいだろう。
 そう、レビンはデュランダルに合図する。
 槍の先に鞘が取りつけられたのを見て、エレノアは震えていた両肩をようやく落ち着かせていた。

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