聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第五章

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 ヴンッ‥‥‥!!
 ブンッ、ヴヴヴ、ヴン‥‥‥。
 音にならない振動が、暗い虚空のなかに広がっていく。
 金色と銀色の稲穂のようにゆれるその大地にはいることのないひび割れが起ころうとしていた。
「えっ!?
 なになに、なによこれ!???」
 ナフィーサは慌てふためいてその場からにげようと別空間への入り口をひらこうと試みたが、時すでに遅し。
 ヴオオッ‥‥‥ンッ!!
 途方もない振動が空間をゆがめていき、ふだんならこの世界の主のようにふるまっていた少女はあり得ないと叫びながら大地を走り出していた。
「まずいわ、こんなことこれまで経験したことなんてなかったのに!!」
 馬を自分の影に逃がして、ナフィーサもまた虚空のさらに別次元へと非難したとき。
 カッ――!!
 こんどは耳に残る大爆音がして、影の上をはしるエネルギーの大奔流をなすすべもなく見上げているナフィーサがそこにはいた。
「たっ、助かっ‥‥‥た?」
 いったいなにがおこったのか理解が追い付かなかった。
 こんな時、愛する彼がいてくれたら虚空でなにが起きたのかをすべて理解できるのに。
 いまはそばにいない相手を思い出すが、泣き言をいっても始まらない。
 予定していた空間を遮蔽して、別の回路から魔都を目指すことにしたナフィーサは怯えている馬に、ごめんね? と優しく語りかけながらその背を撫でてやると新たな世界につづく窓を開いたのだった。

「あれ?
 逃げられた?
 あの攻撃を回避するなんて、なかなかやるじゃない。
 誰だろ‥‥‥あいつ?」
 敵ながら面白い存在が現れた。
 銀色の翼を背にはためかせながら、その少女、エレノアはふふんと笑っていた。
 ひさしぶりに狩りが楽しめる敵がきてくれたことに、この吸血姫は喜んでいた。
「いいなーこんな相手、もう何年ぶり?
 どうやって狩ったらいいかなあ?
 魔王様、褒めてくれるかな?
 ねえ、どう思う、リザ?」
 同じく虚空の中にふわふわと浮いている、黒くて柄の部分の飾り布が真紅のとんがり帽子に、黒髪黒眼のショートカットの少女にエレノアは声をかける。 
「さあ、どうかしら?
 魔王様はあんまりあなたのような暴力を好まないと思うけど?」
「えー‥‥‥だって、ひさしぶりにやってきた敵なんだよ?
 ボクだって活躍したいじゃないか」
 仲の良い魔女は、吸血姫のぼやきに付き合いきれないわと頭を抑えて、エレノアの翼をちょいちょいと片手でひっぱってやる。
「なに‥‥‥??」
「あれ見てよ。
 あの子、自分の影からさらに別の次元に穴をあけて移動したわよ。
 それも、馬まで連れて。
 どれだけ凄いの‥‥‥」
「そうだね、あんな芸当。
 ボクだってできないかもしれない。
 魔族?
 違うのかな??」
 さあ? と、リザは首をふった。
 虚空をあやつる種族は魔族や精霊、神族にもそう数は多くない。
 むしろ重力をあやつるリザのような存在や、いまはこの世界から異世界へと移住してしまったエレノアの種族くらいしか、二人は聞いたことが無かった。
「まあ、虚空を伝ってこの魔都グレインスケーフの結界を破ろうなんて存在、これまでにいなかったものね。
 わたしたちだって、この世界に出入りできるから守備を任されてるだけで」
「そう、だね。
 でもあいつどこに行ったんだろ?」 と、エレノアは索敵を進めながら、虚空を移動し始めたのだった。

 やってらんないわよ、まったく。
 ナフィーサは馬を連れたままでは自在に力を使えないと諦めることにした。
 地上に彼を移動させると、周囲に結界を張ってその存在を感知できないようにする。馬は主人がいなくなるのが不安なのか、鼻を鳴らして不快感をあらわにしていた。
「待っててよ、お願いだから。
 あなたといたら、逆に危ないの」
 ブフッ、と不満だといわんばかりに馬は鼻息を荒くした。
「なによー。
 まるでわたしが信頼できないっていう感じじゃないの。
 あなた、いつからそんなに不満をだすようになったのよー?」
 フンッ。
 それはお前が未熟なせいだ。
 馬はそういうような感じに鼻を鳴らして抗議を示していた。
「むう‥‥‥。
 あなたとはもう五年の付き合いだけど。
 そんなに信頼されてないなんて思わなかったわ‥‥‥」
 フッ。
 馬は信頼?
 それは俺をだいじに扱うやつが口にしていいセリフだと言いたそうにそっぽを向いてしまう。
 どうやら主人なら、主人らしく安全を保障しろ。
 そう訴えているようだった。
「あなたみたいな、人間臭い馬、見たことないわよ。
 もういいわ。ちゃんと迎えに来るから待ってな‥‥‥さいって言えないみたい、ね?」
 それ見ろさっさと逃げないからだ。
 結界のそとにあらわれた二体の影を目にして、馬にまで説教? される自分に一抹のむなしさを感じながら、ナフィーサは相手をしなければいけないかな。
 そう思って、静かに結界から出たのだった。

「‥‥‥早いわね?」
 眼前にいるのは魔族が二体。
 片方は翼でない銀色のホログラムのような光るそれを背に持つ、金髪の美しい少女が姿を現していた。
 その上空に援護をするかのように、杖に腰をかけて漂うあれは魔女? とんがり帽子にほうきじゃないけど黒いワンピースなんてまさしくその通りですといっているように見えた。
「べつに早くはないよ?
 でも、ボクの砲撃から逃れたのは、すごいかなーって。
 ねえ、君はだれ?」
 金髪の少女はその口に鋭い牙を生やして威嚇するように笑顔をふりまいていた。
 二対一、ね?
 おまけにこっちは馬っていうおまけつき。
 だめだこりゃ。
 勝ち目がない。おとなしく従おうかな‥‥‥?
 そんな弱気なことをナフィーサは考えながら、馬をどうしようかなと彼に目をやる。すると馬はさっさとやっちまえよ、それでもお前はあいつの嫁か? なんて挑発的な視線と歯をむいて威嚇するのだ。
 ここで諦めたら、お前はもう背に載せてやらん。そう言われたような気がしてナフィーサは、やれやれと重い腰を上げるのだった。

「誰?
 わたしが誰か聞いてから逃げても遅いのよ?」
「はあ?
 ボクたちを誰だと思っているのさ?
 これでも、有名なんだよ?
 魔族の間では‥‥‥だけど」
「有名かどうかは知らないけど、どうせDACIS。
 Devil army Criminal Investigative Service(魔王軍犯罪捜査局)だって言いたいんでしょ?
 わたしはその名前に使われている言語を使う世界からきた、それだけよ」
 英語なんてこの世界で出会うとは思ってもみなかったわよ。そう冷ややかな視線でにらみつけるナフィーサはとても不敵で、とても格好が良く、そしてどこまでも弱腰に馬には見えたのだった。

「え!?
 えーと、ねえ、リザ――!!??
 どうなの、あってるの‥‥‥?」
「ちょっ、そんなことわたしに聞かないでよ!
 それ考えたのは――」
 誰だったっけ?
 地面すれすれに降りて来た魔女と吸血姫はまぬけな顔を突き合わせて、しばし考えこんでいた。
 間抜けな捜査官だわ。
 ナフィーサは馬とともになんてだらしがないんだろうと顔を見合わせていた。

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