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エピローグ
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しおりを挟む「さて、みんな。
お疲れ様だったな」
老人の声とともに、その後ろ姿を、見送る影が約六名。
みんな、安心して死んでくれ。
そう言った宰相シュバイエの後ろで再生された彼らは、全身に油汗をかいていた。
「ひどい役割だわ、本当にもう。
どうしてくれんのよ、シュバイエ様?」
ナフィーサが年長らしく、さんざんなめに合わせてくれたわね、とシュバイエに噛みついていく。
テダーはこうなると聞いていたとはいえ、まさか死ぬとは‥‥‥とうめきやれやれ、と頭を振る。
ハーミアは生き返った理由がわからずにポカンっと口を開けて座り込んでいた。
リザは愛する人を失った悲しみを二度と味わうまいとハーミアを抱きしめて離さない。
イオリは、「また死に損なったなあ‥‥‥」、と例のとんがり帽子を持ちだして一人呟いていた。
エレノアとレビンはすでに何度かこういった目に遭っていたのか、
「これ、特別ボーナス出るよねえ?」
「いやまったくだ。これはやられ損だぞ!?
宰相様、ちゃんと補填して頂けるのでしょうな!」
と、いい加減にしてくれと、叫んでいた。
「まあまあ、すべてがうまくいった」
満足そうに言うシュバイエに、
「うまくいったじゃないわよ!?
なにがどう、うまくいったの?」
まだ噛みつくナフィーサは恐いもの知らずだった。
そして、宰相シュバイエはそっと天を指し示す。
そこに答えがあるというような仕草だった。
「ほら、銀の月が輝いている。
ダーシェとエストはどうやら竜神様が封印することができたらしい
竜王様も完全なる復活をなされた。
全ては良くなったということだ。」
自分を見てそう言う彼に、ハーミアは不思議そうな顔で見あげていた。
「‥‥‥え? どういうことですか?
それにあなたは?」
「わたしは聖剣シュバイエ。
あのエレーナを抱き上げて去っていった剣の、老いぼれた姿ですよ、ハーミア様。
あなた様のこの世界への転生もまた、意義があるものでした」
「意義?
こんな役立たずの無能聖女がですか?
一体、どんな役割が‥‥‥?」
宰相シュバイエは再び、空を指差した。
「あなたの御名前のハーミア様。
その元になった女性の夫。
つまり、竜王スィールズ様は善と悪に分かれておりました。
善はわたしと同じような神剣に宿りハーミア様とその生涯を。
悪はこのような魔王たちが台頭する竜族の間違った支配を築き上げてしまった」
えっと‥‥‥?
つまり、何がどうなったの?
合点がいかないハーミアの脳裏は疑問符だらけだ。
「つまり、神剣にその心を納めていた善なる竜王様が、悪の自我を自身の中に取り戻し‥‥‥」
「一体に戻られた、と?
でも、それならわたしなんていらないはず‥‥‥」
宰相はいえいえと首を振った。
「あなたがさまざまな地を歩き、その存在が一つの結界を作り上げる基礎になったんですよ。
ハーミア様。
これで、竜族の危機は去りました。
そして‥‥‥異世界から転移や転生してきたものたちが、帰還する時だ。
ハーミア様。
元の異世界に、全ての者が帰還するべき時です。
どうぞ、御用意を。
地球に戻れる最後の瞬間になるかもしれません。これを逃してはいけません」
その言葉に、我を忘れていたハーミアが、いや。柚子が我を取り戻す。
「それって‥‥‥?
つまり、地球からこちらにやってきた全員が、元の世界に戻れるってことですか?」
「ええ、そうですよ、ハーミア様
さあ、御用意を」
宰相がそう告げると、ハーミアは待って‥‥‥、いかないでとそう言葉にならない叫び声をあげそうになっていたリザを抱きしめていた。
「大丈夫よ、大事なリザ。
戻らないから、ね?」
「でも、柚子!?
あなた、どうするの戻らないって!?」
「いいの、リザ。
大丈夫だから安心して? あの、宰相様?」
リザを愛おしそうに抱きしめると、ハーミアは宰相に質問していた。
「そのお願い、別の誰かに使ってもらう事できないですか?」
「別の‥‥‥?
それは可能だが、早くしないと手遅れになりますぞ?
本当に戻れなくても宜しいのですか、ハーミア様?」
「ええ‥‥‥いいの。
ここには大事な、わたしを必要としてくれるこの子がいるから。
宰相様?
その方法は、わたしが貰える奇跡を誰かに譲るにはどうすればいいですか?」
ハーミアが問い返すと、彼はなにか形見がいる。それを、その手にして願えば叶うだろうと宰相は答えていた。
なら、やるべきことは一つだけだ。
あんな悲しい夢はもう二度と見させたくない。
ハーミアは帽子を抱きしめてまた、死に損なったと悲しみに浸っている魔装人形の少女からその帽子をさっと奪いとってしまった。
「イオリっ!
もらうよ!!」
「ちょっと、ハーミア!?
それ、ハービィの‥‥‥なんで!?」
ハーミアは涙目の魔装人形に意地悪く微笑んでやる。
「夢で見たんだ、イオリ。
あなたとハービィの最後を別れの瞬間。
それと、あなたの決意も‥‥‥復讐なんて、もうやめて幸せになろ?」
ハーミアはそっと目を閉じて、帽子を抱きしめると祈っていた。
イオリの大事な存在。彼女の魂にそっと語り掛けるように――
ハービィ?
イオリが待ってるよ。
青のハービィ。
どうか、再生して‥‥‥!!
その願いを遊戯盤は叶えてくれた。
銀光の中から、青い髪の少女が、産まれたままの姿で再生される。
「こらっ、男ども見るなー!!!」
ハーミアの叫び声が通った時、彼女もまた、新たな再生が目の前で行われるのを見た。
「‥‥‥え?
誰??」
それは目の前に立っている、エレノアと同じ少女。
髪の色も、何もかもが全く同じだが、その背には銀色の翼だけがない。
エレノアがそれを目の当たりにして叫んでいた。
「嘘っ!?
ボクっ???!!」
「違うわ、失礼な。
貧相な吸血姫と一緒にするでない。
この御方はな――」
宰相がそう言い、彼があのエレーナを抱き上げた時と同じような若さに戻った時。
少女は目を覚ました。
宰相、いや聖剣シュバイエは自分のマントを少女にかけると、そっと優しく抱き寄せてキスをする。
「ああ‥‥‥お帰り、すまなかった。
あの時も守れず、そして、二度目も救えなかった。
どうか許して遅れ‥‥‥エレノア。
よく、戻ってくれた。わたしのエレノア‥‥‥」
目覚めた少女は怪訝な顔をして、見覚えのあるシュバイエをその目にすると安心したかのように疑問を口にした。
「シュバイエ‥‥‥、なんで?
わたしどうしたの?
あれっ。
同じ顔がある‥‥‥」
吸血姫のエレノアに、少女はびっくりしていた。
それはこっちのセリフだよ、と吸血姫は頬を膨らませていた。
聖剣が少女をその場にいた全員に紹介する。
「かつて、世界を救った‥‥‥偉大なる影の六王が最後の一人。
そして、わたしが最後まで守れなかった我が最愛の姫。
この二千年、ずっと待っていた、わたしのエレノア‥‥‥」
聖剣が涙を流すなんて似合わないよ?
そうエレノアは笑い、吸血姫もまた苦笑していた。
「ねえ、みんなは?
もう、いないの‥‥‥?」
その言葉に、聖剣シュバイエは首を縦に振る。
「そっか」
再生した最後の英雄姫はそっと悲し気に微笑むのだった。
宰相はまだ動けない金髪の英雄姫を抱き上げると、吸血姫のエレノアにあれを、と指示を出す。
「ああ、あれ?
やっぱり預かりものって嬉しくないなあ。
ね、ボクの片割れさん」
「こら、余計なことを‥‥‥っ」
そう言い、シュバイエは吸血姫の手から長剣を受け取った。
「星斬りの剣‥‥‥。まだあったんだ?
じゃあ、あの子は、シュバイエ?」
大勢のそうだよ、なんで二人いるんだよ。
そんないぶかしんだ視線を受けて宰相は困り、しかし、返事をしたのは英雄姫の方だった。
「わたしは生まれつき、人間と魔族の心臓を持っていたから。
あの時に――二つに分かれたんだね‥‥‥でしょ、シュバイエ?」
「ああ、そういうことだ。
あの時、影の六王や十二英雄の多くが失われた、二千年前に、な?」
「じゃあ、ボクはあ?
なんだよー単なる作り物!?」
そう悲し気にする吸血姫に英雄姫がいいえ、と微笑む。
「そんなことはないわ。
あなたはエレノア。
立派な吸血姫。
わたしはそうねー‥‥‥、シュバイエ?
誰が良い?」
何を名乗るのが相応しいと思う、と少女は聖剣に問うていた。
「なら、そうだな。
ジルベールはどうだ?」
「それ、あなたの主人が愛した女性の名前じゃないの?」
バレてたか。
英雄姫に突っ込まれて、シュバイエは苦笑してしまう。
「なら、何が良い?」
「ふーん‥‥‥そうね。姉様の名前がいいわ」
あの御方か‥‥‥。
妹以上のお転婆だった女性を思い出し、シュバイエは苦笑した。
「では‥‥‥我が愛しのロア姫。
戻りましょう、皆が休める我が主、魔王シェイブの城へ」
「ええ、おじいさんの聖剣さん」
そう意地悪そうに返事をするエレノア改め、ロアと宰相は仲陸奥まじく見え、一同は不満だの再会の喜びだのを言いながら、魔王レガイアの城をあとにするのだった。
正しい時間軸に戻れるのかと一抹の不安をその心に潜めながら‥‥‥
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