伝説の湖畔の塔と三匹のエルフたち

星ふくろう

文字の大きさ
1 / 20
沙雪が消えた夜

1

しおりを挟む
 

「んもうー‥‥‥
 荷物がぁ!
 多いのよっーー!!!」
 その日、橘沙雪(たちばなさゆき)は日暮れまで作業に追われていた。
 明日の測量機器の準備に必要な補助資財のトラックへの搬入。
 日本製のもう十年以上は酷使されているであろう、ピックアップトラックだ。
 大きな箱バンの後ろが荷台になっているとイメージしてもらえばいいかもしれない。
 そこに、日本から運んできた様々な測量機器を積み込んで、更に道なんて呼べない道を走る。
 だから落ちないようにさんざんロープで固定してやらなければならない。
 一つでも荷崩れを起こすと、道なき道の隣はすぐ深い谷底だ。
 ようは高山地帯の合間を流れる運河のほとりを、山道に沿って次のポイントまで移動するのである。

 沙雪が興味本位で申し込んだNGO団体の募集。
 なぜか受かってしまい、これから現地の方々の役に立てると喜びやってきたのが数週間前のこと。
 それからは夏場になる前に雨季に入れば泥まみれになり。
 ぬかるみに足を取られたトラックの荷台を押して救出し。
 寝ていたらどこから来たのか沼ヒルに血を吸われそうになったり‥‥‥
 湧き水を飲もうとしたら現地民のガイドにダメダメと突き飛ばされ危うく崖下に落ちそうになるし。

(その湧き水は地層が腐葉土から成っていたから毒素が強かった)

 もうさんざんな毎日なのだ。
 それでも泣きながらも頑張ってきたのは、帰りたくても帰れないからだ。
 ここは標高数千メートルの高山地帯。
 車が無ければ歩いての移動はオオカミや肉食獣の餌食になるか、のたれ死ぬかどちらかしかないからだ。
「なにがNGOよ、なにが新しい新天地よ、なにが人助けよーー!!!!」
 沙雪は常に怒り心頭だった。
 だって、現地に流れている日本からの援助資金は現地の役人の懐に入るか。
 誰も使わない運河の橋の建設に消えてしまう。
 彼女たち本当のNGO活動をするボランティア団体にはそのはした金しか入らないからだ。
 その費用で機材を揃えて、アルプスのはるか奥地までいかなければならない。
 そこの付近の詳細な測量地図がまだないのだ。
 衛星から特定の電磁波を照射し、その反射を受けて地図を作成するといった方法もある。
 だけどなぜかその地域にだけは分厚い雲がいつもかかっていて、レーザーを通過させないのだ。
 そこで仕方なく、沙雪が所属する今回のNGO活動の公募が行われた。
 その国には日本からのNGO団体がこれまで何度も協力していて、日本がメインで人材を募集することになった。
 大学で地理を専攻したいと考えていた沙雪は、高校3年の夏休みを利用できるということでこの企画に応募したのだ。
 そして、現在に至るというわけである。

 まず、沙雪は単なる女子高校生だ。
 測量に関する知識も知恵もない。
 単なる素人である。
 そんな彼女が他の大学生で地理を専攻している男性や、現職の測量士のおじさん連中にまみれてできること。
 それはせいぜい、毎度の食事の用意と今回の様な機材の積み込みの手伝いだった。
「おーい、橘ー!」
 トラックの荷台部分のフックにロープを型結びしたものを引っ掛けて、力いっぱい引き絞って機材を固定していた沙雪は呼ばれてもすぐに動けない。
「すいませーん、ちょっと待ってくださいー」
 精一杯声を張り上げて返事をする。
 今夜のキャンプ地は道よりは多少、高台になったところにあった。
 昨夜の豪雨のせいで河が氾濫するかもしれないという話になり、急遽、機材を数台のトラックに積み込むことにしたのだ。
 もちろん、寝床も高台に移動するわけだから、声は上から降ってくるわけだ。
「はやくしろよ、今夜のメシ当番、お前たちなんだからな」
 地方の大学の地理学の百田教授が偉そうに言う。
 この頃になると、沙雪を含めた総勢16名のうち、6名の高校生たちも教授や他の大人たちの扱いが少しずつだが分かり始めていた。
「なら百田教授がここでこれやりますかー?
 腰が痛いってうめいてたの誰でしたっけ?
 わたしたちまだ時間かかりますから、別に後でもいいですよ。
 自分たちで食事の用意くらいできますからー!!!」
 精一杯の嫌味を言ってやった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...