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沙雪が消えた夜
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しおりを挟む「あー、おい。しっかりしろ、おいっ」
大きな肉球の柔らかい手で頬を軽くたたかれる光景を記憶の片隅に感じがら。
沙雪は自分の意識が遠のいていくことを彼女は感じていた。
一言、信じなくてごめんなさい、と恋人に心中で詫びを入れながら……
「あー、困ったぞ。
どうすればいいんだ、あーもう!
圭祐のバカがもっときちんとボクのことを、沙雪に伝えていないからこうなるんだ。
あいつがもう少し努力してボクの声に耳を傾ければ、こんなことは避けれたのにー!」
その金色の猫? のような生物。
ブラウニーはそう言いながら光の渦の床に少女をそっと横たえて心配そうに顔を覗き込んだ。
「困ったなあ。
あいつがいないとボクは力が使えないんだ。
このままじゃ流されてしまう」
かと言って、あいつを迎えに行ってる間に、この子がどこかに行くか分からないし。
とブラウニーは頭を悩ませる。
「まあ、仕方ない。
目覚めるまで待つか。
ボクの力がもてば、の話だけどな……」
それからどれくらいの時間が経過しただろう。
少女は猫が自分と恋人のことを石頭だの、ボクが苦労するだのと悪口を言ってるのを耳にしていらっとしたことを覚えている。
そこから少しだけ寝たような感覚になり、そして目が覚めた。
「起きたか」
目を開けると飛び込んできたのは大きな、猫の。
そう糸目に近いような目の猫だった。
あのブタ猫。
また今日も現れたんだ。
圭祐がたまにそういってメールを寄越すのを思い出した。
ブタ猫……
たしかによく見ると、三頭身くらいで、大きなまんまるな猫がそこにいる。
もしかしてブタ猫だからブーちゃんなのかな?
そう思いながら、沙雪はだまって彼の顔を両手でつかんだ。
両の頬を軽く持ちあげたり、掴んでぐいっと横に引いてみたり。
さすがにヒゲに手を出すと怒りそうだからそれはやめた。
「おい……」
糸目の猫は少しだけ抗議の声を上げる。
猫は裸ではなかった。
どこで見つけてきたのか全身を、ジーンズ生地のオーバーオールで包み、足元にはオシャレにもティンバーランドのブーツを履いている。
この足でも合うサイズがあるんだ。
彼女は不思議に思いながら、自宅で飼っている猫と同じように、ぎゅっと抱きしめてみた。
「わっ、すごい。
ブーちゃん、ふっかふか」
シャワーでも浴びたら全身が細くなるのだろうなと思いながら、再び抱きしめてみる。
「よく、モフモフとかいう表現みるけど全然違うね。
ふかふかってのが正しいんだ……なるほど」
「あのな、なるほどじゃないだろ」
猫、もといブラウニーが放しなさい、と少女に言う。
「あ、ごめんなさい」
「まったく。
さすが、圭祐が見初めた女性だと思ったよ……」
呆れたようにブラウニーが言う。
ん? 褒められてるのかな?
そんな顔を沙雪がするが、褒めてない、とブラウニーは否定した。
「こんな事は言いたくないがな。
えーと、沙雪さんボクはブラウニーだ。
挨拶は最初にしたけど」
「あ、そうだよね。
ごめんなさい。橘沙雪です」
「うん、知ってるよ。
ボクは圭祐が産まれてからずっとあいつの傍にいたから」
ブラウニーがそう告げると、沙雪は何かを考えこみはじめた。
「あのだな、さきちゃん?でいいか?
沙雪ちゃんだと、どうにも呼びにくい」
どうにもつかみどころのない子だな、と思いながら彼は声をかける。
「あれ、でもブーちゃんがいるってことは……さき、死んだのかな?」
いや、とブラウニーは首を振る。
「まず、死んでない。
次に、ここは簡易的な空間だ。
さきちゃんはあの濁流。覚えて無ければそれでいい」
うーん、と少女は考えて記憶はある、と伝えた。
「そうか。
なら、その状況から助けるために、特別に作った空間だと思ってくれたらいい」
「特別な空間……?」
「そう
それで申し訳ないけど、すぐには地球には帰れない」
地球には?
「ここって宇宙なの?」
「うーん、似てるが違う。
例えるなら、マンションの部屋と部屋の間にある壁の中にいるようなもんだ」
「じゃあ、どこに行くの?」
「近いが遠い。
地球と似た世界に行く。
そこで少しだけ待ってて欲しいんだ。
「待つってどれくらい?」
それは……、とブラウニーは困った顔をする。
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