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第三章
異質な愛の胎動 3
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「あー‥‥‥佳南、そこそこ。
そこ気持ちいいっ。
違う―もうすこし右ーうん、そう、そこ。
それ、樹乃好きーうーん、いいっ‥‥‥」
などど、聞いた方が誤解するような発言をしているのは佳南に髪を洗わせている樹乃だ。
「凄いですね…‥パリパリになってて臭いも」
「それ、出したのあんただからねー。
あの部屋、大丈夫かなあ」
「七星様ですか?」
どう説明したものか。
樹乃はいまそのことを悩んでいた。
「うー‥‥‥うん。
また出て行かれたら今度は捕まえられない」
もし、佳南が復讐など考えているならこの目を閉じている間にするだろう。
樹乃はもうそう読んでいたから放置していた。
壁に設置した台の中にはカミソリもあるし、鈍器代わりになるものも容器に水を貯めればどうにでもなる。
任せた。
そう思う事もある種、飼う飼わない。
その中では大事なのではないのか。
そんな気がしていたから、無抵抗だった。
「ねえ、佳南。
無駄毛剃るためのカミソリなら、上から二段目だからねー。
やる時は、首斜めに深くやらないと死ななないよ?」
ふと片手を手放して何かを探す気配がしたからそう告げてみる。
あれ?
なんの反応も無い?
うーん、迷ってるのかな?
「ひゃあああ‥‥‥!!!」
途端、首元に冷水が浴びせられて樹乃は飛び上がりそうになる。
「あら、御主人様。
お湯、熱くないですか?
もう少し、頭洗うから、動かないでくださいねーー?」
楽しそうな笑顔で言っている佳南の顔が想像できる。
「ちょっ、まじ死ぬ、冷たいっ」
「だから動いたらー‥‥‥切れますよ?」
「!?」
今度は間違いなく鋭利な刃物の感触。
「せっかく、ここまで伸ばしてるのに。
襟足だけ、こんなに手入れ出来てない。勿体ないです」
そう佳南は言うと、首筋のムダ毛の処理を開始する。
全体重で頑張って抑えこもうとしているのだろう。
少しだけ踏ん張ったくらいでは動けそうになかった。
「はい、おしまいです」
「だから、それつめっ」
とどめとばかりに冷水が首筋に注がれる。
続いて暖かいお湯が来た。
「なんで佳南にそんなこと言うんですか?
あんなことまでしておいて。一番、佳南を裏切ってるの御主人様ですよ?」
「えー‥‥‥だって、樹乃はどこかでやり返すよ。
あんなことされたら」
ようやく晴れた視界で佳南を鏡越しに見ると、この年上の少女はふっと樹乃を笑ってみせた。
「なによ、その笑顔ー?」
「理解してないですねー。
樹乃様、佳南はあんな出来損ないと違うんです」
出来損ない?
それはつまりーー
「いまはあんたの飼い主の義理の姉なんだけど?」
「それはそうですけど、佳南には出来の悪い後輩でもありますから」
ふーん、そういう見方もありといえばありか。
何となく、佳南の置かれている立場をわかりやすく表現していて面白かった。
「で、佳南はどうするの?」
「何がですか?
お約束通り、佳南は樹乃様のためだけに生きますよ。
独りで住んで、ずっと独りで待ってます。
たまに来てくれたら、嬉しい‥‥‥」
「だめ女佳南の登場、だね‥‥‥」
ひどいです、そう言い、佳南は自分の身体を洗い始める。
最初は全部、樹乃。
自分は二番。
そうやってあの例の御主人様とやらに抱いてもらうその為だけに生きてきたのだろう。
なんか、悲しい世界線。
樹乃はそんな気がした。
「ねえ、佳南」
「なんですか、いまは見えないからできれば、お腹とかがいいです。
顔だと、当たりどころ悪いとご迷惑かかるからーー」
「いや、しないから。
質問だけ。
そんなに魅力的だったの?
彼は?」
佳南の手が止まる。
「あんた器用ね。
泣きながらシャンプーできる女の子、樹乃は初めて見たかもしれないよ?」
「だって、そんなことさらって言われたらー。
はい、それはーー魅力的でした。
なんて言うか、今だとばかだなあって思うけど。
言葉と、行動に余裕があって。
お金持ちっていうのもあったと思いますけど」
「お金持ち、かあ。
でも一人、死んだらしいね。
佳南みたいな子。あと、動画とか販売して一億近く儲けてたみたい」
しかしそれを知っても佳南の腕は止まらない。
「知ってた?」
「少し前に、ゆきなから聞かされました。
でももう、こんな身体だし、いろんな動画も画像もゆきなのとこにあるし。
分かってるよね?
そう言われたらーー」
「逃げれなかった? と。
ゆきなって何してる人?」
佳南が口を閉じてしまう。
ふーん、と樹乃は手近にあった背中を洗うようのブラシを掴みーー
「はぅっーま、たーー」
「言わないと入れるけど?」
「もう、入ってるーーこれなんですか!?」
「え?
ブラシの持ち手?
どんどん太くなるけど。入るかな?」
「だめ、だめです。
言うから‥‥‥待ってください。
顔を見ながらされたい」
うーん、この辺りがまだなじめない。
樹乃は内心、冷や汗だらけだ。
このまま狂気の世界に飛び込めるのか。
それともーー
「ほら、なら洗ってあげるから。
動かないでね」
まあ、やられたらやり返すけどね? 樹乃は。
そうにやついて冷水をドバっと浴びせかける。
「ひっ!?
そんな、酷い、佳南少しだけだったのにーー」
「ふふん、ほら、お湯。
まあ、これで半々。で、と」
軽々と持ちあげると、そのまま向かい合う姿勢で湯舟に浸かる樹乃。
佳南の足はその浴槽の縁で止まり、両手は樹乃の首後ろで本人が抱き着いていてーー
「あっー‥‥‥これ、まさかの」
「そう、自分の体重で入れるやつだねー。
樹乃が足を開くとほーら落ちてく」
「こんな、これ、拷問‥‥‥」
必死に支えようと頑張るが、樹乃が足を踏ん張って立ち上がろうとするとそれはより深くへ‥‥‥
「これくらい、平気でしょ?」
佳南は必死に首をふる。
「無理、無理です、ゆきなは細いあのパイプより細いのだけ‥‥‥」
「ふーん、ならいいじゃん。
動かそうか?
もう、どっちが好きか理解したし。お腹押したらどうなるかな?」
わざと多分、この辺りかな?
その部分を適当に押しつつ、更に佳南を抑え込んでみる。
「無理、それむりーーさけ、る」
「で、ゆきなは?
どこいるの?」
少しだけ気持ちがいいはずの方向にかき混ぜ、かき混ぜ‥‥‥
「すっごいいい感じの顔するんだ、佳南って。
毎回これしよっか?」
痛みより、我を忘れているこのペット。
自分の世界に入りこんでるなーこいつ。
そう思ってしまう。
なんとなくムカついて佳南を更に押し込んでみた。
「言います、まって樹乃様、お願い、待って‥‥‥だめ、おかしくなる」
「抜こうか?」
これまで見たことのない勢いで首をふる佳南。
二十歳越えてこれだと、生涯独身なりそう。この人。
樹乃はそうさせたことを忘れて呆れてしまう。
「ゆきなは、もう日本にいないと思う、います。
前の御主人様のお金いろいろ預かってたから。それ持って逃げたはじーー掻きまぜないでーー」
「そんな大金、よく持ちだせたね。
で、うちに来た目当ては?」
ハア、ハアと舌を出しながら佳南は息を吐いているのか吸っているのか。
なんかすごい絵だなーこれ。
そう樹乃は思いながら、腕だけは止まらない。
「友紀さん、に。
彼に飼われて貰えって。もう要らないから、その程度の復讐して来いって。
最後にばらして、失望させてやれって。だからーー」
ああ、結局捨てられたんだ?
いや違うよねーなんか違う。
「もしかして、その御主人様が出てきたら、抱いてもらえるように言ってやる。
とか言われた?」
「---!」
あーそっちか。
めんどくさー‥‥‥樹乃はなんとなくだが興ざめしてしまった。
少しだけ生まれて来ていた御主人様の自覚が霧散した感覚。
「いい主従関係になれると思ったんだけどな、樹乃は。
あれ、ちょっと! なんで離れない!??
どっからこんな力、こら、ちょっと待ちなさい!!」
「いや、やだ!!
待たないーーいたーいーーーー!!
いやだ、はなれないもう、いや」
「だからって自分で押し込むバカいる‥‥‥???」
「捨てないっていうまで、このままでいます」
女の執念というか、奴隷根性というか。
その力あれば自由にだっていつでも慣れるのに‥‥‥
「わかった。分かったから‥‥‥今度、バイクの後ろ乗せてあげるからーー」
その言葉に佳南の脳裏に友紀の言葉がよみがえる。
後ろの席は、妻しか乗せないから‥‥‥
佳南、特別だって言われた!?
自分でようやく勝ち取れた愛がある?
佳南の中で何かが変わりはじめていた。
「うん、いいえ、はい御主人様の為に。
頑張ります!!」
「何を頑張るの?
樹乃さん、恐いんですけど‥‥‥」
「バイクの後ろって、特別な相手だけですよね?
バイク乗りには!?」
どこでそんなの覚えたんだろ?
樹乃の脳裏には、あのバカ七星か遠矢&友紀‥‥‥
「友紀にそんなこと聞いたの?」
佳南はまずいバレた、そんな顔をする。
「まあ、いいけど。
それ、入れたまま自分の世界入って言うと説得力ないよ、佳南‥‥‥」
「入れたの御主人様!
いま動かしてるのも‥‥‥」
もう好きにしてーー樹乃はこの世界線でどう生きていけば‥‥‥???
「抜くよ?」
「え、やだーーあーーーいだいっ!!」
「泣くほど痛いなら入れないの。おばか」
「ごめん、なさい」
「七星帰ってきたら、一緒に殴られてくれる?」
「えっ‥‥‥それは、佳南知りません。
御主人様の提案。佳南は御主人様と七星様に飼われるだけ」
「ずるい‥‥‥」
佳南は樹乃にキスを求めてくる。
はい、だめ。樹乃はそれを押し返した。
「えーーーなんで?!」
「釣ったらエサは与えない主義。
ついでにペットとキスしたり、やる飼い主はいない」
「ひどいっー」
「うん、知ってる。それより七星なんだよねー」
「七星様は怒らないと思います。
なんとなくだけど。知ってる気がする。全部じゃないけど、そんな気がします」
うん、そこは樹乃も同意見。
あいつの動物的カンは鋭い。
そんな時、堕天使は前触れもなく帰還する。
ガチャっと音がしてーー
「へ?」
「あ、あんた。なんでー‥‥‥!?」
佳南は恥ずかしさで赤面に、樹乃は生命の危険を感じて蒼白に顔が変化する。
「うーん?
まあ、首輪。うん、樹乃、ちゃんと飼えたんだ?」
「えっ!?
いや、うん、うん‥‥‥ごめん」
七星様のご登場だった。
あー寒かったなどど言いながらさっさと湯舟に座り込む。
「あ、あのー‥‥‥佳南です、七星様」
「知ってる。
さっきから聞いてたもん」
「き、きいてたの?
どっから!?」
樹乃の問いに、七星は佳南の首輪を引っ張ってみる。
「あう‥‥‥やっぱり、怒って??」
「このーメス豚さんがー、樹乃様に自分からあれをー」
と、床に放置されたブラシを指差し、
「無理矢理、体重で入れさされてるここから」
「そんな前から‥‥‥あ、それ離さないと佳南が顔青いよ、七星‥‥‥」
うーん?
あっそう?
と七星はぽいっと捨てるように手を離した。
佳南が助けを乞うように樹乃様に抱き着く。
「じゅのさん、それで飼うの?」
「あ、うん‥‥‥一緒に、ね?
出て行かない、よね?」
七星は足を伸ばして樹乃を抑え込みつつ、佳南を抱き寄せて、二人の逃げ場を奪いつつ‥‥‥
「ほら、ペットは動かない。
なんにもしないから、返事は?」
佳南は七星が背後にいるから恐怖しかない。
黙って、「はい、七星様」としか言うしかなかった。
「うん、よしよし。
七星も佳南可愛がってあげる。
暴力じゃなくて、夜中とか散歩行こうねー???
何も着ないで、バイクで引きずり回してあげるからー。
あ、原付の方がいいかなーーねーかなんーー???」
「じゅ、じゅのさま‥‥‥たすけて」
「ごめん、佳南。むり」
「そんなーー」
「まあ、それ冗談。
ななせはこんなことしかしない」
「えっ、あ‥‥‥っ」
顔を反対側に向かせると七星は佳南に長い長いキスをしてやる。
ただし、片方の手は佳南の鼻をつまんでいて、息を盛大に吸いこみながらだが‥‥‥
「あ、ちょっ、死にかけてるって!?」
「ぷはっ、あれ、そう?」
そう言いながら、ゲホゲホむせかえる佳南の首輪を掴むと、湯舟に引きずり込む。
「ななせ、だめ!!
あ、なんでそんな力どこからーー」
慌てて樹乃が助けようとするが下半身を下から持ちあげられて態勢がうまく取れない。
「はーい、おかえり。
佳南、なんか言うことはない?」
死にそうな目に合わされて、その上に求められる言葉は奴隷ならただ、一つ。
「あ、ありーがとう、ございま、す。七星様…‥‥」
「うん、いい子いい子。
じゃあ、挨拶は終わりねー」
そう言い、優しくキスをしてやる。
「次からはこんなことしないから。でも、ななせさまは散歩はしたいなー。
ね、歩いてなら行く?」
ようやく呼吸がおさまった佳南は、それでもどこか嬉しそうに頷いている。
それをよしよしと抱きしめてーー
「じゃあ、かなんのお仕置き終わりでーーおい、じゅの」
目の前で平然とそれをする七星を見て今度は樹乃が恐怖を感じる番だった。
「は、なーなにかな、じゅのは‥‥‥」
「あんたは、じゅのサンドバッグ決定ね?」
その笑顔にそっか、あのフラグが立つって発言は、樹乃の死亡フラグだったんだ。
そう理解して、はい、としか言えない樹乃だった。
そこ気持ちいいっ。
違う―もうすこし右ーうん、そう、そこ。
それ、樹乃好きーうーん、いいっ‥‥‥」
などど、聞いた方が誤解するような発言をしているのは佳南に髪を洗わせている樹乃だ。
「凄いですね…‥パリパリになってて臭いも」
「それ、出したのあんただからねー。
あの部屋、大丈夫かなあ」
「七星様ですか?」
どう説明したものか。
樹乃はいまそのことを悩んでいた。
「うー‥‥‥うん。
また出て行かれたら今度は捕まえられない」
もし、佳南が復讐など考えているならこの目を閉じている間にするだろう。
樹乃はもうそう読んでいたから放置していた。
壁に設置した台の中にはカミソリもあるし、鈍器代わりになるものも容器に水を貯めればどうにでもなる。
任せた。
そう思う事もある種、飼う飼わない。
その中では大事なのではないのか。
そんな気がしていたから、無抵抗だった。
「ねえ、佳南。
無駄毛剃るためのカミソリなら、上から二段目だからねー。
やる時は、首斜めに深くやらないと死ななないよ?」
ふと片手を手放して何かを探す気配がしたからそう告げてみる。
あれ?
なんの反応も無い?
うーん、迷ってるのかな?
「ひゃあああ‥‥‥!!!」
途端、首元に冷水が浴びせられて樹乃は飛び上がりそうになる。
「あら、御主人様。
お湯、熱くないですか?
もう少し、頭洗うから、動かないでくださいねーー?」
楽しそうな笑顔で言っている佳南の顔が想像できる。
「ちょっ、まじ死ぬ、冷たいっ」
「だから動いたらー‥‥‥切れますよ?」
「!?」
今度は間違いなく鋭利な刃物の感触。
「せっかく、ここまで伸ばしてるのに。
襟足だけ、こんなに手入れ出来てない。勿体ないです」
そう佳南は言うと、首筋のムダ毛の処理を開始する。
全体重で頑張って抑えこもうとしているのだろう。
少しだけ踏ん張ったくらいでは動けそうになかった。
「はい、おしまいです」
「だから、それつめっ」
とどめとばかりに冷水が首筋に注がれる。
続いて暖かいお湯が来た。
「なんで佳南にそんなこと言うんですか?
あんなことまでしておいて。一番、佳南を裏切ってるの御主人様ですよ?」
「えー‥‥‥だって、樹乃はどこかでやり返すよ。
あんなことされたら」
ようやく晴れた視界で佳南を鏡越しに見ると、この年上の少女はふっと樹乃を笑ってみせた。
「なによ、その笑顔ー?」
「理解してないですねー。
樹乃様、佳南はあんな出来損ないと違うんです」
出来損ない?
それはつまりーー
「いまはあんたの飼い主の義理の姉なんだけど?」
「それはそうですけど、佳南には出来の悪い後輩でもありますから」
ふーん、そういう見方もありといえばありか。
何となく、佳南の置かれている立場をわかりやすく表現していて面白かった。
「で、佳南はどうするの?」
「何がですか?
お約束通り、佳南は樹乃様のためだけに生きますよ。
独りで住んで、ずっと独りで待ってます。
たまに来てくれたら、嬉しい‥‥‥」
「だめ女佳南の登場、だね‥‥‥」
ひどいです、そう言い、佳南は自分の身体を洗い始める。
最初は全部、樹乃。
自分は二番。
そうやってあの例の御主人様とやらに抱いてもらうその為だけに生きてきたのだろう。
なんか、悲しい世界線。
樹乃はそんな気がした。
「ねえ、佳南」
「なんですか、いまは見えないからできれば、お腹とかがいいです。
顔だと、当たりどころ悪いとご迷惑かかるからーー」
「いや、しないから。
質問だけ。
そんなに魅力的だったの?
彼は?」
佳南の手が止まる。
「あんた器用ね。
泣きながらシャンプーできる女の子、樹乃は初めて見たかもしれないよ?」
「だって、そんなことさらって言われたらー。
はい、それはーー魅力的でした。
なんて言うか、今だとばかだなあって思うけど。
言葉と、行動に余裕があって。
お金持ちっていうのもあったと思いますけど」
「お金持ち、かあ。
でも一人、死んだらしいね。
佳南みたいな子。あと、動画とか販売して一億近く儲けてたみたい」
しかしそれを知っても佳南の腕は止まらない。
「知ってた?」
「少し前に、ゆきなから聞かされました。
でももう、こんな身体だし、いろんな動画も画像もゆきなのとこにあるし。
分かってるよね?
そう言われたらーー」
「逃げれなかった? と。
ゆきなって何してる人?」
佳南が口を閉じてしまう。
ふーん、と樹乃は手近にあった背中を洗うようのブラシを掴みーー
「はぅっーま、たーー」
「言わないと入れるけど?」
「もう、入ってるーーこれなんですか!?」
「え?
ブラシの持ち手?
どんどん太くなるけど。入るかな?」
「だめ、だめです。
言うから‥‥‥待ってください。
顔を見ながらされたい」
うーん、この辺りがまだなじめない。
樹乃は内心、冷や汗だらけだ。
このまま狂気の世界に飛び込めるのか。
それともーー
「ほら、なら洗ってあげるから。
動かないでね」
まあ、やられたらやり返すけどね? 樹乃は。
そうにやついて冷水をドバっと浴びせかける。
「ひっ!?
そんな、酷い、佳南少しだけだったのにーー」
「ふふん、ほら、お湯。
まあ、これで半々。で、と」
軽々と持ちあげると、そのまま向かい合う姿勢で湯舟に浸かる樹乃。
佳南の足はその浴槽の縁で止まり、両手は樹乃の首後ろで本人が抱き着いていてーー
「あっー‥‥‥これ、まさかの」
「そう、自分の体重で入れるやつだねー。
樹乃が足を開くとほーら落ちてく」
「こんな、これ、拷問‥‥‥」
必死に支えようと頑張るが、樹乃が足を踏ん張って立ち上がろうとするとそれはより深くへ‥‥‥
「これくらい、平気でしょ?」
佳南は必死に首をふる。
「無理、無理です、ゆきなは細いあのパイプより細いのだけ‥‥‥」
「ふーん、ならいいじゃん。
動かそうか?
もう、どっちが好きか理解したし。お腹押したらどうなるかな?」
わざと多分、この辺りかな?
その部分を適当に押しつつ、更に佳南を抑え込んでみる。
「無理、それむりーーさけ、る」
「で、ゆきなは?
どこいるの?」
少しだけ気持ちがいいはずの方向にかき混ぜ、かき混ぜ‥‥‥
「すっごいいい感じの顔するんだ、佳南って。
毎回これしよっか?」
痛みより、我を忘れているこのペット。
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そう思ってしまう。
なんとなくムカついて佳南を更に押し込んでみた。
「言います、まって樹乃様、お願い、待って‥‥‥だめ、おかしくなる」
「抜こうか?」
これまで見たことのない勢いで首をふる佳南。
二十歳越えてこれだと、生涯独身なりそう。この人。
樹乃はそうさせたことを忘れて呆れてしまう。
「ゆきなは、もう日本にいないと思う、います。
前の御主人様のお金いろいろ預かってたから。それ持って逃げたはじーー掻きまぜないでーー」
「そんな大金、よく持ちだせたね。
で、うちに来た目当ては?」
ハア、ハアと舌を出しながら佳南は息を吐いているのか吸っているのか。
なんかすごい絵だなーこれ。
そう樹乃は思いながら、腕だけは止まらない。
「友紀さん、に。
彼に飼われて貰えって。もう要らないから、その程度の復讐して来いって。
最後にばらして、失望させてやれって。だからーー」
ああ、結局捨てられたんだ?
いや違うよねーなんか違う。
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とか言われた?」
「---!」
あーそっちか。
めんどくさー‥‥‥樹乃はなんとなくだが興ざめしてしまった。
少しだけ生まれて来ていた御主人様の自覚が霧散した感覚。
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あれ、ちょっと! なんで離れない!??
どっからこんな力、こら、ちょっと待ちなさい!!」
「いや、やだ!!
待たないーーいたーいーーーー!!
いやだ、はなれないもう、いや」
「だからって自分で押し込むバカいる‥‥‥???」
「捨てないっていうまで、このままでいます」
女の執念というか、奴隷根性というか。
その力あれば自由にだっていつでも慣れるのに‥‥‥
「わかった。分かったから‥‥‥今度、バイクの後ろ乗せてあげるからーー」
その言葉に佳南の脳裏に友紀の言葉がよみがえる。
後ろの席は、妻しか乗せないから‥‥‥
佳南、特別だって言われた!?
自分でようやく勝ち取れた愛がある?
佳南の中で何かが変わりはじめていた。
「うん、いいえ、はい御主人様の為に。
頑張ります!!」
「何を頑張るの?
樹乃さん、恐いんですけど‥‥‥」
「バイクの後ろって、特別な相手だけですよね?
バイク乗りには!?」
どこでそんなの覚えたんだろ?
樹乃の脳裏には、あのバカ七星か遠矢&友紀‥‥‥
「友紀にそんなこと聞いたの?」
佳南はまずいバレた、そんな顔をする。
「まあ、いいけど。
それ、入れたまま自分の世界入って言うと説得力ないよ、佳南‥‥‥」
「入れたの御主人様!
いま動かしてるのも‥‥‥」
もう好きにしてーー樹乃はこの世界線でどう生きていけば‥‥‥???
「抜くよ?」
「え、やだーーあーーーいだいっ!!」
「泣くほど痛いなら入れないの。おばか」
「ごめん、なさい」
「七星帰ってきたら、一緒に殴られてくれる?」
「えっ‥‥‥それは、佳南知りません。
御主人様の提案。佳南は御主人様と七星様に飼われるだけ」
「ずるい‥‥‥」
佳南は樹乃にキスを求めてくる。
はい、だめ。樹乃はそれを押し返した。
「えーーーなんで?!」
「釣ったらエサは与えない主義。
ついでにペットとキスしたり、やる飼い主はいない」
「ひどいっー」
「うん、知ってる。それより七星なんだよねー」
「七星様は怒らないと思います。
なんとなくだけど。知ってる気がする。全部じゃないけど、そんな気がします」
うん、そこは樹乃も同意見。
あいつの動物的カンは鋭い。
そんな時、堕天使は前触れもなく帰還する。
ガチャっと音がしてーー
「へ?」
「あ、あんた。なんでー‥‥‥!?」
佳南は恥ずかしさで赤面に、樹乃は生命の危険を感じて蒼白に顔が変化する。
「うーん?
まあ、首輪。うん、樹乃、ちゃんと飼えたんだ?」
「えっ!?
いや、うん、うん‥‥‥ごめん」
七星様のご登場だった。
あー寒かったなどど言いながらさっさと湯舟に座り込む。
「あ、あのー‥‥‥佳南です、七星様」
「知ってる。
さっきから聞いてたもん」
「き、きいてたの?
どっから!?」
樹乃の問いに、七星は佳南の首輪を引っ張ってみる。
「あう‥‥‥やっぱり、怒って??」
「このーメス豚さんがー、樹乃様に自分からあれをー」
と、床に放置されたブラシを指差し、
「無理矢理、体重で入れさされてるここから」
「そんな前から‥‥‥あ、それ離さないと佳南が顔青いよ、七星‥‥‥」
うーん?
あっそう?
と七星はぽいっと捨てるように手を離した。
佳南が助けを乞うように樹乃様に抱き着く。
「じゅのさん、それで飼うの?」
「あ、うん‥‥‥一緒に、ね?
出て行かない、よね?」
七星は足を伸ばして樹乃を抑え込みつつ、佳南を抱き寄せて、二人の逃げ場を奪いつつ‥‥‥
「ほら、ペットは動かない。
なんにもしないから、返事は?」
佳南は七星が背後にいるから恐怖しかない。
黙って、「はい、七星様」としか言うしかなかった。
「うん、よしよし。
七星も佳南可愛がってあげる。
暴力じゃなくて、夜中とか散歩行こうねー???
何も着ないで、バイクで引きずり回してあげるからー。
あ、原付の方がいいかなーーねーかなんーー???」
「じゅ、じゅのさま‥‥‥たすけて」
「ごめん、佳南。むり」
「そんなーー」
「まあ、それ冗談。
ななせはこんなことしかしない」
「えっ、あ‥‥‥っ」
顔を反対側に向かせると七星は佳南に長い長いキスをしてやる。
ただし、片方の手は佳南の鼻をつまんでいて、息を盛大に吸いこみながらだが‥‥‥
「あ、ちょっ、死にかけてるって!?」
「ぷはっ、あれ、そう?」
そう言いながら、ゲホゲホむせかえる佳南の首輪を掴むと、湯舟に引きずり込む。
「ななせ、だめ!!
あ、なんでそんな力どこからーー」
慌てて樹乃が助けようとするが下半身を下から持ちあげられて態勢がうまく取れない。
「はーい、おかえり。
佳南、なんか言うことはない?」
死にそうな目に合わされて、その上に求められる言葉は奴隷ならただ、一つ。
「あ、ありーがとう、ございま、す。七星様…‥‥」
「うん、いい子いい子。
じゃあ、挨拶は終わりねー」
そう言い、優しくキスをしてやる。
「次からはこんなことしないから。でも、ななせさまは散歩はしたいなー。
ね、歩いてなら行く?」
ようやく呼吸がおさまった佳南は、それでもどこか嬉しそうに頷いている。
それをよしよしと抱きしめてーー
「じゃあ、かなんのお仕置き終わりでーーおい、じゅの」
目の前で平然とそれをする七星を見て今度は樹乃が恐怖を感じる番だった。
「は、なーなにかな、じゅのは‥‥‥」
「あんたは、じゅのサンドバッグ決定ね?」
その笑顔にそっか、あのフラグが立つって発言は、樹乃の死亡フラグだったんだ。
そう理解して、はい、としか言えない樹乃だった。
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※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
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