2 / 76
序章 死霊術師、追放される
復讐の死霊術士
しおりを挟む
「ねえ、なんで家族を殺した魔王のことを探しているの?」
そんな問いかけが暗黒に近い空間の中に、ほんの少しだけ差し込んでくる月明かりが照らし出した、獣人の少女の横顔を見ているアーチャーに投げかけられた。
「……そりゃあ、探すだろう? 仇だし、俺の目の前で、おじさんは殺されたんだ。いや、殺されたってのは間違いかもな」
「庇ってくれたからアーチャーは生きているんでしょう? なら、殺そうとした相手が魔王なんだから、それは間違ってないとイオリは思うよ?」
「そうか? そうなのかも、知れないな……もう十年近く前だ。王国をどこかの魔王の軍勢が襲撃してから十年。長いもんだな……」
「復讐するために地下にある魔界の一部。王国の植民地の領主になるなんて、まともじゃないと思うけどね」
ポツリ、とイオリが漏らしたその一言が大きくアーチャーの胸をえぐった。
自分があの場所にいたせいで、おじさんは俺をかばって死んだ。
その現実と復讐に生きる虚しさが、年数を重ねるたびに心を蝕んでいく。
「そうかもしれないな。まともじゃないよ、復讐なんて。そんな俺についてくるお前も、まともじゃないぞ、イオリ?」
「だって、アーチャーはイオリのオス。お父様も認めた、氏族の王の一人なんだから。今更、戻れって言われてもねー……」
無理でしょ?
この状況じゃあ。
彼女はアーチャーと同じく仰向けになった姿勢で四肢を伸ばすが、それは狭い空間に大人二人分程度しか横になれず、上には手を伸ばすこともかなわない。
そんな空間に閉じ込められていることを嫌でも、アーチャーに教えていた。
「本当に勝てるの、そのどこにいるかもわからない、魔王に」
「心配してくれているのか?」
「まあ、一応。妻はそうする」
「まだ結婚してないよ。それに、魔王って知られているだけでも二十四柱いるだろ。そのどれがそうかなんて、この魔界に来てもわからずじまいだ。あんな軍勢を動かせば、誰かの耳に入りそうなものなのにな」
「誰かって?」
「この西の大陸の地下に広がる魔界に数多くある魔族の国の統治者たち――魔王たちや、地上世界でいる魔王たちもそうだ。あとは、神に選ばれた勇者や聖女。むしろ、神そのものも知らない可能性だってある。情報が少ないんだ」
「情報、ね……。でもアーチャーは強いよ。本当に強いと思う」
「これでも魔法使いの最高位、青の位階だ。世間じゃ、賢者なんて呼んだりもするけどな」
「でも、死霊術士なのも、変な感じ。なんで死霊術士なの?」
「なんでも、だよ。死霊術が一番、俺に合っていたから。それでいいのさ」
「ふーん……変なの。妻のイオリにも話してくれないんだ?」
「あのなあ……」
青い月明かりに照らされて、イオリの顔が浮き上がる。
月明かりよりも蒼い髪色、特徴的な深い緑色の瞳。腰から生えた尾は長く、狼のそれでふさふさとしている。頭の上には二つの丘――蒼毛皮に白い綿毛のような毛が内側に生えていて、存在を強く示していた。
蒼狼族――地上世界では南の大陸に王国を持ち、その王は代々、魔王を名乗る一大勢力。
地下の魔界にも分家筋の王国を持ち、イオリはそこの庶子だが、お姫様だ。
彼女をあることで助けたアーチャーは功績を認められて、イオリが預かる氏族の長に迎えられた。
それはつまり、蒼狼族の王の一人になることであり――彼女の夫になるというものだったが……
「死霊術は死神につながる。死神はすべての世界の最初に生まれ、最後に死ぬ。つまり、最高神の一柱だってことは知る存在は少ないからな」
「その力を使えれば――かたき討ちができる?」
「魔王が死神よりも弱ければ、の話だけどな」
「なるほど。アーチャー?」
「うん?」
イオリは瞳をうるませて言った。
死んだら嫌だよ、と。
俺もそれは嫌だよ、イオリ。お前を残して死ぬような真似はしたくない。
……あいにく、夫にも恋人にもなる気は無いが……、そう思うとアーチャーはよしよしと彼女の頭をなでてやる。
魔王を倒し、イオリを本当の両親の元へ送り届けること。
そして――アーチャーの記憶は、つらくも悲しく、思い出すのも苦しい十年前に引き戻される。
あの魔王の攻撃の余波で自分を庇っておじを失い、茫然と立ち尽くす少年だった自分。
無力を味わい、ただただ、魔王の強大さにおびえた自分。
そして、復讐を誓い――選ばれた者だけがくぐれると言われる伝説の賢者たちが住む都。
天空大陸ハグーンに通じる扉が、空間を超えて目の前に現れたあの時を――
そんな問いかけが暗黒に近い空間の中に、ほんの少しだけ差し込んでくる月明かりが照らし出した、獣人の少女の横顔を見ているアーチャーに投げかけられた。
「……そりゃあ、探すだろう? 仇だし、俺の目の前で、おじさんは殺されたんだ。いや、殺されたってのは間違いかもな」
「庇ってくれたからアーチャーは生きているんでしょう? なら、殺そうとした相手が魔王なんだから、それは間違ってないとイオリは思うよ?」
「そうか? そうなのかも、知れないな……もう十年近く前だ。王国をどこかの魔王の軍勢が襲撃してから十年。長いもんだな……」
「復讐するために地下にある魔界の一部。王国の植民地の領主になるなんて、まともじゃないと思うけどね」
ポツリ、とイオリが漏らしたその一言が大きくアーチャーの胸をえぐった。
自分があの場所にいたせいで、おじさんは俺をかばって死んだ。
その現実と復讐に生きる虚しさが、年数を重ねるたびに心を蝕んでいく。
「そうかもしれないな。まともじゃないよ、復讐なんて。そんな俺についてくるお前も、まともじゃないぞ、イオリ?」
「だって、アーチャーはイオリのオス。お父様も認めた、氏族の王の一人なんだから。今更、戻れって言われてもねー……」
無理でしょ?
この状況じゃあ。
彼女はアーチャーと同じく仰向けになった姿勢で四肢を伸ばすが、それは狭い空間に大人二人分程度しか横になれず、上には手を伸ばすこともかなわない。
そんな空間に閉じ込められていることを嫌でも、アーチャーに教えていた。
「本当に勝てるの、そのどこにいるかもわからない、魔王に」
「心配してくれているのか?」
「まあ、一応。妻はそうする」
「まだ結婚してないよ。それに、魔王って知られているだけでも二十四柱いるだろ。そのどれがそうかなんて、この魔界に来てもわからずじまいだ。あんな軍勢を動かせば、誰かの耳に入りそうなものなのにな」
「誰かって?」
「この西の大陸の地下に広がる魔界に数多くある魔族の国の統治者たち――魔王たちや、地上世界でいる魔王たちもそうだ。あとは、神に選ばれた勇者や聖女。むしろ、神そのものも知らない可能性だってある。情報が少ないんだ」
「情報、ね……。でもアーチャーは強いよ。本当に強いと思う」
「これでも魔法使いの最高位、青の位階だ。世間じゃ、賢者なんて呼んだりもするけどな」
「でも、死霊術士なのも、変な感じ。なんで死霊術士なの?」
「なんでも、だよ。死霊術が一番、俺に合っていたから。それでいいのさ」
「ふーん……変なの。妻のイオリにも話してくれないんだ?」
「あのなあ……」
青い月明かりに照らされて、イオリの顔が浮き上がる。
月明かりよりも蒼い髪色、特徴的な深い緑色の瞳。腰から生えた尾は長く、狼のそれでふさふさとしている。頭の上には二つの丘――蒼毛皮に白い綿毛のような毛が内側に生えていて、存在を強く示していた。
蒼狼族――地上世界では南の大陸に王国を持ち、その王は代々、魔王を名乗る一大勢力。
地下の魔界にも分家筋の王国を持ち、イオリはそこの庶子だが、お姫様だ。
彼女をあることで助けたアーチャーは功績を認められて、イオリが預かる氏族の長に迎えられた。
それはつまり、蒼狼族の王の一人になることであり――彼女の夫になるというものだったが……
「死霊術は死神につながる。死神はすべての世界の最初に生まれ、最後に死ぬ。つまり、最高神の一柱だってことは知る存在は少ないからな」
「その力を使えれば――かたき討ちができる?」
「魔王が死神よりも弱ければ、の話だけどな」
「なるほど。アーチャー?」
「うん?」
イオリは瞳をうるませて言った。
死んだら嫌だよ、と。
俺もそれは嫌だよ、イオリ。お前を残して死ぬような真似はしたくない。
……あいにく、夫にも恋人にもなる気は無いが……、そう思うとアーチャーはよしよしと彼女の頭をなでてやる。
魔王を倒し、イオリを本当の両親の元へ送り届けること。
そして――アーチャーの記憶は、つらくも悲しく、思い出すのも苦しい十年前に引き戻される。
あの魔王の攻撃の余波で自分を庇っておじを失い、茫然と立ち尽くす少年だった自分。
無力を味わい、ただただ、魔王の強大さにおびえた自分。
そして、復讐を誓い――選ばれた者だけがくぐれると言われる伝説の賢者たちが住む都。
天空大陸ハグーンに通じる扉が、空間を超えて目の前に現れたあの時を――
0
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。
地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。
魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。
これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。
「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる