漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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序章 死霊術師、追放される

復讐の死霊術士

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「ねえ、なんで家族を殺した魔王のことを探しているの?」

 そんな問いかけが暗黒に近い空間の中に、ほんの少しだけ差し込んでくる月明かりが照らし出した、獣人の少女の横顔を見ているアーチャーに投げかけられた。

「……そりゃあ、探すだろう? 仇だし、俺の目の前で、おじさんは殺されたんだ。いや、殺されたってのは間違いかもな」
「庇ってくれたからアーチャーは生きているんでしょう? なら、殺そうとした相手が魔王なんだから、それは間違ってないとイオリは思うよ?」
「そうか? そうなのかも、知れないな……もう十年近く前だ。王国をどこかの魔王の軍勢が襲撃してから十年。長いもんだな……」
「復讐するために地下にある魔界の一部。王国の植民地の領主になるなんて、まともじゃないと思うけどね」

 ポツリ、とイオリが漏らしたその一言が大きくアーチャーの胸をえぐった。
 自分があの場所にいたせいで、おじさんは俺をかばって死んだ。
 その現実と復讐に生きる虚しさが、年数を重ねるたびに心を蝕んでいく。

「そうかもしれないな。まともじゃないよ、復讐なんて。そんな俺についてくるお前も、まともじゃないぞ、イオリ?」
「だって、アーチャーはイオリのオス。お父様も認めた、氏族の王の一人なんだから。今更、戻れって言われてもねー……」

 無理でしょ?
 この状況じゃあ。
 彼女はアーチャーと同じく仰向けになった姿勢で四肢を伸ばすが、それは狭い空間に大人二人分程度しか横になれず、上には手を伸ばすこともかなわない。
 そんな空間に閉じ込められていることを嫌でも、アーチャーに教えていた。

「本当に勝てるの、そのどこにいるかもわからない、魔王に」
「心配してくれているのか?」
「まあ、一応。妻はそうする」
「まだ結婚してないよ。それに、魔王って知られているだけでも二十四柱いるだろ。そのどれがそうかなんて、この魔界に来てもわからずじまいだ。あんな軍勢を動かせば、誰かの耳に入りそうなものなのにな」
「誰かって?」
「この西の大陸の地下に広がる魔界に数多くある魔族の国の統治者たち――魔王たちや、地上世界でいる魔王たちもそうだ。あとは、神に選ばれた勇者や聖女。むしろ、神そのものも知らない可能性だってある。情報が少ないんだ」
「情報、ね……。でもアーチャーは強いよ。本当に強いと思う」
「これでも魔法使いの最高位、青の位階だ。世間じゃ、賢者なんて呼んだりもするけどな」
「でも、死霊術士なのも、変な感じ。なんで死霊術士なの?」
「なんでも、だよ。死霊術が一番、俺に合っていたから。それでいいのさ」
「ふーん……変なの。妻のイオリにも話してくれないんだ?」
「あのなあ……」

 青い月明かりに照らされて、イオリの顔が浮き上がる。
 月明かりよりも蒼い髪色、特徴的な深い緑色の瞳。腰から生えた尾は長く、狼のそれでふさふさとしている。頭の上には二つの丘――蒼毛皮に白い綿毛のような毛が内側に生えていて、存在を強く示していた。
 蒼狼族――地上世界では南の大陸に王国を持ち、その王は代々、魔王を名乗る一大勢力。
 地下の魔界にも分家筋の王国を持ち、イオリはそこの庶子だが、お姫様だ。
 彼女をあることで助けたアーチャーは功績を認められて、イオリが預かる氏族の長に迎えられた。
 それはつまり、蒼狼族の王の一人になることであり――彼女の夫になるというものだったが……

「死霊術は死神につながる。死神はすべての世界の最初に生まれ、最後に死ぬ。つまり、最高神の一柱だってことは知る存在は少ないからな」
「その力を使えれば――かたき討ちができる?」
「魔王が死神よりも弱ければ、の話だけどな」
「なるほど。アーチャー?」
「うん?」

 イオリは瞳をうるませて言った。
 死んだら嫌だよ、と。
 俺もそれは嫌だよ、イオリ。お前を残して死ぬような真似はしたくない。
 ……あいにく、夫にも恋人にもなる気は無いが……、そう思うとアーチャーはよしよしと彼女の頭をなでてやる。
 魔王を倒し、イオリを本当の両親の元へ送り届けること。
 そして――アーチャーの記憶は、つらくも悲しく、思い出すのも苦しい十年前に引き戻される。

 あの魔王の攻撃の余波で自分を庇っておじを失い、茫然と立ち尽くす少年だった自分。
 無力を味わい、ただただ、魔王の強大さにおびえた自分。
 そして、復讐を誓い――選ばれた者だけがくぐれると言われる伝説の賢者たちが住む都。
 天空大陸ハグーンに通じる扉が、空間を超えて目の前に現れたあの時を―― 
 
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