7 / 76
序章 死霊術師、追放される
死霊術師、追放される。
しおりを挟む
「残念だが、それには及ばないよ、アーチャー。そこまで言われたら、俺たちがまるで無能じゃないか。これは‥‥‥戻すさ。なあ、みんな?」
「おい、おい、おいっ!? よせ、ライル。いまそれを外すのは、よせ! 魔力の制御を戦闘時に失うぞ? まだ調整をしていない……よくて二か月しかもたなくなる」
「だってさ? どうする、みんな?」
ライルの問いかけに、パーティーメンバーの返答は簡単だった。
誰もが無言でアーチャーが渡した指輪や腕輪やネックレス。
剣の柄につける飾りや魔女であればとんがり帽子の帯につけていた飾り、ピアスなどを外し始めたからだ。
「そうか。そこまで信用がないか? なら‥‥‥好きにしろ」
「ごめんね、ライル。ああまで言われたら、わたしたちにも誇りがあるの。それを踏みにじられた気分だわ‥‥‥」
それらを全て集めて持ってきたのは、魔女のクラレだった。
受け取ったアーチャーが数を確認する。
一つだけ、欠けていたが彼はそれを黙って受け取り、懐にしまいこんだ。
「いいさ、仕方ない。みんな‥‥‥悪かったな」
「もう遅いよ、アーチャー。さよならだ」
「そうだな、ライル。好きにすればいい、魔王との戦いで負けても即死で終わるだろうな。俺にはもう、関係ない」
悲し気に、アーチャーは呟いた。
信じて貰えないんだな‥‥‥仲間なのに、と。
アーチャーは国王に再び向かうと、その指示を仰いでいた。
「陛下、どうかこの場を去る許可を頂きたいと思います。よろしいでしょうか?」
「ああ、構わん。先ほどの魔道具の件はそなたの功績に免じて忘れることとしよう。それと、これはもう決めたことだ。受け取ってくれ」
「‥‥‥? 爵位と領地は頂きかねます。無能な死霊術師には荷が重いかと」
「しかし、南の地のピアソン市はそなたの故郷ではないか?」
ああ、それか。
いや、それは違いますよ陛下。
俺のじゃない。俺の恩師の故郷です。
俺は――両親を早くになくした孤児だ。
故郷なんてありませんよ。
誤解です、そう言おうとしたがもうどうでも良かった。
「ピアソンなら――異存はございません」
ピアソンは比較的平和で静かな市だ。
半島の内湾に面していて、漁業も貿易も盛んな都市だ。
静かに生涯を終えるには良い場所だろう。
それに、彼女を迎えるにも――都合がよかった。
あそこは密林地域に近い。エルフも多く住む都市だからだ。
と、そこで異論が上がった。
あの聖女様だ。いきなり、お待ちをなんて声を張り上げて彼女は泰然としゃべりだした。
「お待ちください、国王陛下。そんな勇者様に対して失礼な言動をした者に、交易都市の管理などまともに務まるはずがありません!」
「ミリア‥‥‥では、どこならばいいというのだ? 彼の功績は大きい。勇者たちがこの大陸内で他の魔族との衝突をうまく避けてこれたのも事実だ。爵位と封地は譲れんぞ?」
その時だ。
アーチャーははっきりと見ていた。
あの聖女様が清楚な笑顔の裏に浮かべた、どす黒く、いやらしい人間臭さを全開にさせた欲望の素顔を。
「地下世界があるではないですか。はるか昔から、我が王国と青の魔人様との間に結ばれた協定の地。アリス・ターナーの地が」
「ミリア‥‥‥お前という子は。あの地は魔界の果てだぞ?」
国王がそれはだめだと言おうとした時だ。
聖女はこれ見よがしにアーチャーを見、そして、国王を見た。
同時に、あらかじめ調べておいたかのように書類を国王に差し出していた。
「陛下。あの地の領主から移動の願いがでております。魔界の管理こそ、遺体を扱う死霊術師にはもってこいの役職ではありませんか?」
「お前という子は‥‥‥。どう思う、死霊術師よ? 彼の地もまた、重要な場所だ。そなたならば務まるとも思うのだが、受けてくれるか?」
「ええ‥‥‥そうですね、陛下。仰っている通りです。その御裁可に従いますよ‥‥‥所詮、俺は無能な死霊術師ですから」
もう疲れた。
あいつらを陰ながら応援してきたつもりだが、ここまで言われたら尽くす義理もないだろ?
愛想が尽きたぜ。
アーチャーがそう思った時だ。
勝ち誇ったように王女ミリアが叫んでいた。
「いい覚悟ですわ、死霊術師殿。役立たずはいりませんわ、せいぜい地下で働きなさい!」
「ミリア!? なんだ、忠義を尽くしてくれた家臣に対してのその態度は!?」
「陛下! 良いのです、失礼します――」
そう静かに言うと、死霊術師は一礼してその場を去った。
一言、彼女にしかわからない方法で、済まない。それだけを告げると地下世界へと向かう決意をしていた。
もう、どうでもいい。
それが望みならそうしてやろう。
最果ての地、か。
魔族の聖地。
義父の仇討ちの機会を得るにはもってこいの場所だ。
こうして、死霊術師アーチャー・イディスはこうして勇者パーティーを追放された。
「さて‥‥‥どうするかなあ? まずは、人事院で魔界の領地への移動辞令をもらう、かな」
ふう、そう大きなため息がでてしまう。
あいつ、俺とともに来てくれるかな?
アーチャーの記憶は一月前の、ある夜に飛んでいた。
「おい、おい、おいっ!? よせ、ライル。いまそれを外すのは、よせ! 魔力の制御を戦闘時に失うぞ? まだ調整をしていない……よくて二か月しかもたなくなる」
「だってさ? どうする、みんな?」
ライルの問いかけに、パーティーメンバーの返答は簡単だった。
誰もが無言でアーチャーが渡した指輪や腕輪やネックレス。
剣の柄につける飾りや魔女であればとんがり帽子の帯につけていた飾り、ピアスなどを外し始めたからだ。
「そうか。そこまで信用がないか? なら‥‥‥好きにしろ」
「ごめんね、ライル。ああまで言われたら、わたしたちにも誇りがあるの。それを踏みにじられた気分だわ‥‥‥」
それらを全て集めて持ってきたのは、魔女のクラレだった。
受け取ったアーチャーが数を確認する。
一つだけ、欠けていたが彼はそれを黙って受け取り、懐にしまいこんだ。
「いいさ、仕方ない。みんな‥‥‥悪かったな」
「もう遅いよ、アーチャー。さよならだ」
「そうだな、ライル。好きにすればいい、魔王との戦いで負けても即死で終わるだろうな。俺にはもう、関係ない」
悲し気に、アーチャーは呟いた。
信じて貰えないんだな‥‥‥仲間なのに、と。
アーチャーは国王に再び向かうと、その指示を仰いでいた。
「陛下、どうかこの場を去る許可を頂きたいと思います。よろしいでしょうか?」
「ああ、構わん。先ほどの魔道具の件はそなたの功績に免じて忘れることとしよう。それと、これはもう決めたことだ。受け取ってくれ」
「‥‥‥? 爵位と領地は頂きかねます。無能な死霊術師には荷が重いかと」
「しかし、南の地のピアソン市はそなたの故郷ではないか?」
ああ、それか。
いや、それは違いますよ陛下。
俺のじゃない。俺の恩師の故郷です。
俺は――両親を早くになくした孤児だ。
故郷なんてありませんよ。
誤解です、そう言おうとしたがもうどうでも良かった。
「ピアソンなら――異存はございません」
ピアソンは比較的平和で静かな市だ。
半島の内湾に面していて、漁業も貿易も盛んな都市だ。
静かに生涯を終えるには良い場所だろう。
それに、彼女を迎えるにも――都合がよかった。
あそこは密林地域に近い。エルフも多く住む都市だからだ。
と、そこで異論が上がった。
あの聖女様だ。いきなり、お待ちをなんて声を張り上げて彼女は泰然としゃべりだした。
「お待ちください、国王陛下。そんな勇者様に対して失礼な言動をした者に、交易都市の管理などまともに務まるはずがありません!」
「ミリア‥‥‥では、どこならばいいというのだ? 彼の功績は大きい。勇者たちがこの大陸内で他の魔族との衝突をうまく避けてこれたのも事実だ。爵位と封地は譲れんぞ?」
その時だ。
アーチャーははっきりと見ていた。
あの聖女様が清楚な笑顔の裏に浮かべた、どす黒く、いやらしい人間臭さを全開にさせた欲望の素顔を。
「地下世界があるではないですか。はるか昔から、我が王国と青の魔人様との間に結ばれた協定の地。アリス・ターナーの地が」
「ミリア‥‥‥お前という子は。あの地は魔界の果てだぞ?」
国王がそれはだめだと言おうとした時だ。
聖女はこれ見よがしにアーチャーを見、そして、国王を見た。
同時に、あらかじめ調べておいたかのように書類を国王に差し出していた。
「陛下。あの地の領主から移動の願いがでております。魔界の管理こそ、遺体を扱う死霊術師にはもってこいの役職ではありませんか?」
「お前という子は‥‥‥。どう思う、死霊術師よ? 彼の地もまた、重要な場所だ。そなたならば務まるとも思うのだが、受けてくれるか?」
「ええ‥‥‥そうですね、陛下。仰っている通りです。その御裁可に従いますよ‥‥‥所詮、俺は無能な死霊術師ですから」
もう疲れた。
あいつらを陰ながら応援してきたつもりだが、ここまで言われたら尽くす義理もないだろ?
愛想が尽きたぜ。
アーチャーがそう思った時だ。
勝ち誇ったように王女ミリアが叫んでいた。
「いい覚悟ですわ、死霊術師殿。役立たずはいりませんわ、せいぜい地下で働きなさい!」
「ミリア!? なんだ、忠義を尽くしてくれた家臣に対してのその態度は!?」
「陛下! 良いのです、失礼します――」
そう静かに言うと、死霊術師は一礼してその場を去った。
一言、彼女にしかわからない方法で、済まない。それだけを告げると地下世界へと向かう決意をしていた。
もう、どうでもいい。
それが望みならそうしてやろう。
最果ての地、か。
魔族の聖地。
義父の仇討ちの機会を得るにはもってこいの場所だ。
こうして、死霊術師アーチャー・イディスはこうして勇者パーティーを追放された。
「さて‥‥‥どうするかなあ? まずは、人事院で魔界の領地への移動辞令をもらう、かな」
ふう、そう大きなため息がでてしまう。
あいつ、俺とともに来てくれるかな?
アーチャーの記憶は一月前の、ある夜に飛んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる