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序章 死霊術師、追放される
黒曜族のラス
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「アミュエラ‥‥‥? あの風の精霊王妃様の眷属が女神とは‥‥‥。時代も変わったものですね。それならば、あの程度でも勇者を名乗れるのかもしれません」
「風の精霊王妃? もう、この時代では精霊王や妖精王すらも、地上にはあまり名を残さないよ。古き神々は‥‥‥地上にはあまりいらっしゃらない」
「そうですか。寂しいことですね、宮廷死霊術師様。話がそれました。非礼の輩を退治して頂くと共に、主が城を崩壊から救って頂いたことにつき、感謝を述べております」
城の崩壊?
ああ、聖騎士と魔女が全部壊してしまえと、放とうとしたあの魔法のことか。
アーチャーは仕方ないやつらだと苦笑する。
「すまないな、あの二人も弱いがそれなりの使い手ではあるんだ。オークを殲滅しようとしてやったことなんだ。まあ‥‥‥地下で破壊力の強い魔法をつかうのは賢くない。威力を制御するのが上手くいってよかった。崩れなくてよかったよ」
「ありがとうございます、あの城は現世からでいうと二千年ほど昔のものとなるでしょうか。石づくりとはいえ、土台はもろい岩塊。いつかは崩れ落ちるもの、でも――」
「無粋な連中に壊されるのは、住みつかれるよりも嫌、かな?」
「ええ、まあ‥‥‥」
そう苦笑する黒曜族のラスは、主が怒りで目覚めなくて良かったと。
そう、困ったように呟いていた。
二千年前の魔族となると、たぶん地下の魔界からやってきた、純粋な魔族だろう。
地上世界の退化した魔族とは格が違いすぎる。
現代の地上にはびこる魔族は退化したと言われているから、勇者が立ち向かえるのだ。
古代の魔族であるデュラハンのリード卿が怒りに目覚めた日には‥‥‥パーティーは壊滅していただろう。
アーチャーはそう思っていた。
「俺とシェニアが、あなたの主と戦うことになるのは出来れば避けたいものだ。太古の御方たちは偉大すぎる。勝てないよ」
「御謙遜を‥‥‥宮廷死霊術師様」
「アーチャーだ。アーチャー・イディス。あっちの不機嫌なお姉さんは、シェニア」
「不機嫌じゃないわよ。失礼ね‥‥‥」
「だ、そうだ? まあ、地下にあなたたちが眠る部屋があるのを感知できてよかったよ。これからどうするんだ、ラス?」
まあ、そう怒るなとアーチャーはシェニアの座るベッドの隣に腰かけた。
そして機嫌を取るように肩に手を回し抱き寄せてやる。
ハイエルフはまったく、もう‥‥‥とぼやきながら頭を彼の胸に寄せていた。
「御仲が宜しいですね、イディス様。我が主は魔界に戻ろうと考えております。この地下に広がるメディウムの大迷宮のどこかであれば、また静かに眠れるだろう、と」
「大迷宮、か。この王国の土地は魔界の天井になっているからなあ。どこまで潜られる気なんだ?」
ラスは言ってよいのかどうか悩み、そっと告げた。
最果ての地まで、と。
「アリス・ターナーの眠る地、か。だが‥‥‥」
どこか口ごもるアーチャーに、ラスは不思議そうな顔で質問した。
「何か問題でも?」
「最果ての地の多くは魔族の土地だ。だが、アリス・ターナーの眠る土地はここ数百年、うちのワーグナー王国の飛び地というか‥‥‥」
「はあ? 飛び地と、言われますと??」
「まあ、地下世界には瘴気が充満している場所も多いだろう?魔族も人間も、瘴気に当てられたら凶暴になってしまう。理性を無くすからな。アリスはそれを防ぐ結界を張ったんだ。その中をワーグナー王国が植民地にしているんだよ。アリス・ターナーはこの王国の出身だったからな‥‥‥」
「植民地、ですか? それはまた、人間にしては欲張った‥‥‥あ、いえ、無理をなさいましたね‥‥‥」
違いない、とアーチャーとシェニアはうなづく。
地下の魔界と呼ばれる世界は文字通り、魔族の世界だ。
人間の手にありあまる存在で、まともな統治すらも出来てないのが現状だった。
「主はかつての魔王の一柱を頼る気でおります。彼女が存命であれば、また深く眠れるでしょう」
「二十四柱の魔王? また神話のような名前が出てきたな。魔神の認めた正当なる魔界の統治者たち‥‥‥。地上にも数柱いるようだが、脅威だよ。できるなら、戦場で顔を合わすのだけは避けたい。なあ、ラス?」
アーチャーの言葉にラスは静かにうなづいていた。
しかし、勇者と魔王は常に反目し、雌雄を決っする存在。
いつかどこかで、対決するとも限らない。
「そうならないよう、我らは深く眠りたいものです。では、イディス様、シェニア様。これにて――」
一礼し、黒曜族の使者は窓から来たときのように戻ろうとしていた。
アーチャーはふと思いつき、その言葉を背に投げかけてみる。
「なあ、ラス。どの魔王を頼る気なんだ?」
「はい? ああ‥‥‥第五位の魔王。夢魔の女王エミスティア様の国、ラスクーナを頼ろうかと」
「ラスクーナ、か。最果ての地の隣だな。ライル――うちの勇者がいつかは行きたいと言っていたな」
「それは、なぜに‥‥‥?」
「腕試し、だそうだ。少なくとも、殺されなければいいんだけどね。気を付けて――」
「では、イディス様。いつか、また――」
それが、黒曜族のラスとの最初の出会いだった。
アーチャーはこの出会いが自分の今後を左右するなんて、アーチャーはこの時、思いもしなかった。
「風の精霊王妃? もう、この時代では精霊王や妖精王すらも、地上にはあまり名を残さないよ。古き神々は‥‥‥地上にはあまりいらっしゃらない」
「そうですか。寂しいことですね、宮廷死霊術師様。話がそれました。非礼の輩を退治して頂くと共に、主が城を崩壊から救って頂いたことにつき、感謝を述べております」
城の崩壊?
ああ、聖騎士と魔女が全部壊してしまえと、放とうとしたあの魔法のことか。
アーチャーは仕方ないやつらだと苦笑する。
「すまないな、あの二人も弱いがそれなりの使い手ではあるんだ。オークを殲滅しようとしてやったことなんだ。まあ‥‥‥地下で破壊力の強い魔法をつかうのは賢くない。威力を制御するのが上手くいってよかった。崩れなくてよかったよ」
「ありがとうございます、あの城は現世からでいうと二千年ほど昔のものとなるでしょうか。石づくりとはいえ、土台はもろい岩塊。いつかは崩れ落ちるもの、でも――」
「無粋な連中に壊されるのは、住みつかれるよりも嫌、かな?」
「ええ、まあ‥‥‥」
そう苦笑する黒曜族のラスは、主が怒りで目覚めなくて良かったと。
そう、困ったように呟いていた。
二千年前の魔族となると、たぶん地下の魔界からやってきた、純粋な魔族だろう。
地上世界の退化した魔族とは格が違いすぎる。
現代の地上にはびこる魔族は退化したと言われているから、勇者が立ち向かえるのだ。
古代の魔族であるデュラハンのリード卿が怒りに目覚めた日には‥‥‥パーティーは壊滅していただろう。
アーチャーはそう思っていた。
「俺とシェニアが、あなたの主と戦うことになるのは出来れば避けたいものだ。太古の御方たちは偉大すぎる。勝てないよ」
「御謙遜を‥‥‥宮廷死霊術師様」
「アーチャーだ。アーチャー・イディス。あっちの不機嫌なお姉さんは、シェニア」
「不機嫌じゃないわよ。失礼ね‥‥‥」
「だ、そうだ? まあ、地下にあなたたちが眠る部屋があるのを感知できてよかったよ。これからどうするんだ、ラス?」
まあ、そう怒るなとアーチャーはシェニアの座るベッドの隣に腰かけた。
そして機嫌を取るように肩に手を回し抱き寄せてやる。
ハイエルフはまったく、もう‥‥‥とぼやきながら頭を彼の胸に寄せていた。
「御仲が宜しいですね、イディス様。我が主は魔界に戻ろうと考えております。この地下に広がるメディウムの大迷宮のどこかであれば、また静かに眠れるだろう、と」
「大迷宮、か。この王国の土地は魔界の天井になっているからなあ。どこまで潜られる気なんだ?」
ラスは言ってよいのかどうか悩み、そっと告げた。
最果ての地まで、と。
「アリス・ターナーの眠る地、か。だが‥‥‥」
どこか口ごもるアーチャーに、ラスは不思議そうな顔で質問した。
「何か問題でも?」
「最果ての地の多くは魔族の土地だ。だが、アリス・ターナーの眠る土地はここ数百年、うちのワーグナー王国の飛び地というか‥‥‥」
「はあ? 飛び地と、言われますと??」
「まあ、地下世界には瘴気が充満している場所も多いだろう?魔族も人間も、瘴気に当てられたら凶暴になってしまう。理性を無くすからな。アリスはそれを防ぐ結界を張ったんだ。その中をワーグナー王国が植民地にしているんだよ。アリス・ターナーはこの王国の出身だったからな‥‥‥」
「植民地、ですか? それはまた、人間にしては欲張った‥‥‥あ、いえ、無理をなさいましたね‥‥‥」
違いない、とアーチャーとシェニアはうなづく。
地下の魔界と呼ばれる世界は文字通り、魔族の世界だ。
人間の手にありあまる存在で、まともな統治すらも出来てないのが現状だった。
「主はかつての魔王の一柱を頼る気でおります。彼女が存命であれば、また深く眠れるでしょう」
「二十四柱の魔王? また神話のような名前が出てきたな。魔神の認めた正当なる魔界の統治者たち‥‥‥。地上にも数柱いるようだが、脅威だよ。できるなら、戦場で顔を合わすのだけは避けたい。なあ、ラス?」
アーチャーの言葉にラスは静かにうなづいていた。
しかし、勇者と魔王は常に反目し、雌雄を決っする存在。
いつかどこかで、対決するとも限らない。
「そうならないよう、我らは深く眠りたいものです。では、イディス様、シェニア様。これにて――」
一礼し、黒曜族の使者は窓から来たときのように戻ろうとしていた。
アーチャーはふと思いつき、その言葉を背に投げかけてみる。
「なあ、ラス。どの魔王を頼る気なんだ?」
「はい? ああ‥‥‥第五位の魔王。夢魔の女王エミスティア様の国、ラスクーナを頼ろうかと」
「ラスクーナ、か。最果ての地の隣だな。ライル――うちの勇者がいつかは行きたいと言っていたな」
「それは、なぜに‥‥‥?」
「腕試し、だそうだ。少なくとも、殺されなければいいんだけどね。気を付けて――」
「では、イディス様。いつか、また――」
それが、黒曜族のラスとの最初の出会いだった。
アーチャーはこの出会いが自分の今後を左右するなんて、アーチャーはこの時、思いもしなかった。
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