漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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序章 死霊術師、追放される

森人の憂鬱

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「ねえ?」
「ん? なんだ、シェニア?」

 翌朝のことだった。
 アーチャーの腕の中で目覚めたシェニアはどこか不安げな表情を浮かべていた。
 エルフのくせに、本当に人間臭い奴だな?
 柔らかい繊細で細い指先に絡まる彼女の長髪をそっと撫でてやる。

「どうした? 怖い夢でも見たのか‥‥‥?」
「違うわよ。寝てないわ」
「そっか。人間とは感覚が違うんだったな」
「まあ、ね。あなたの寝顔を見るのが趣味になっちゃったわ‥‥‥」
「いつ寝るんだよ、まったく」

 シェニアは長い特徴的な耳を、たまにピクンっとさせて不満そうな声を上げる。
 そういや、耳のうしろが好きだったな、こいつ。
 そう思い手をそこに伸ばすと、まるで猫のように顔を寄せてきた彼女を見てアーチャーはたまに思うのだ。
 森人というのは仮の姿で、本当は猫の亜人がそう見えるように術を使っているんじゃないのか、と。

「そうねえ、一月に一夜、くらいかな?」
「長命にもほどがあるだろ‥‥‥。最長でどれくらい生きるんだ?」
「さあ? 里の長老の中には一万年以上前から生きている方もいるわよ?」
「一万年って‥‥‥チェネブ神の生きていた時代じゃないか」
「ああ、そういえばそうかも? あなた、昨夜もうなされていたわよ?ねえ‥‥‥」

 怪しげな目つきで自分を見てくるシェニアは、どこか自分を疑っているようにも思えた。
 何か悪いことをしたかな?
 彼女には隠しごとをした覚えはないのだが‥‥‥?

「なんだよ? その疑いの眼差しは‥‥‥」
「誰?」
「は?」
「だから、フィオネって誰?」
「フィ‥‥‥オネって、誰だ?」
「何言ってるの?昨夜もうなされていたわ。あなた、何度も何度も呼んでいたわよその名前を」
「俺が? いや、待て。そんな名前の人物、記憶にないぞ?」
「本当にー??」

 本当も嘘もないんだが。
 知らないものは知らないのだ。
 だが自分がそんな寝言を言った記憶もまるでない。アーチャーも、これには困ってしまった。

「怪しい。あやしい、あやしい、怪しい――!!」
「連呼するなよ‥‥‥毎日、毎晩一緒にいるだろ? いつそんな暇があると思ったんだ?」
「今じゃない可能性もあるわ!?」
「俺はまだ子供の十八なんだが? お前みたいな、百歳以上生きてないよ‥‥‥」
「叩くわよ!? ハイエルフは千年生きてようやく幼年が終わ‥‥‥る」

 あ、自爆しやがった。
 自分はまだ子供だと言っているようなものだと気づいたのだろう。
 シェニアは耳先まで真っ赤にしてしまっていた。

「もう、立派な大人だろ、シェニアは? 里をでて何年経つんだっけ?」
「はあ? もう六十年は経過するわね‥‥‥」

 怪訝な顔をする森人の少女は、アーチャーの言葉の意味がわからないようだった。
 本当に人間臭いな、お前は。
 ふっ、と笑みがこぼれてしまう。

「ありがとな、シェニア。この三年、お前がいたからやってこれた」
「‥‥‥バカ」
「すまん、神託には感謝しなきゃだな。俺たちを引き合わせてくれた。だろ?」
「あなたねえ、それで誤魔化したつもり? 誰なのよ、フィオネって……それに、人間やエルフの名前じゃないわよ、それ?」
「そうなのか? 人間ならいそうなもんだが‥‥‥」
「エルフにはいないわよ」
「なんで、そう思うんだ?」

 意外だった。
 いつもの彼女はそんな断言なんてすることは少ないのに。
 物事をぼやかして言うのがエルフの美徳のように思っていたから、アーチャーはどこか申し訳ない気持ちになってしまう。よほど彼女は気になっていたのだろう、と。
 フィオネ、というその名前がなにを示すのかそう言われたら、アーチャー自身も気になってしまっていた。

「なんでも。エルフはその名前は使わないわ。あと、ミレイア、とかね‥‥‥」
「たしかそれ、最後の真紅の魔女の名前だな。千年前か? 地下の魔族を率いて地上世界に攻め込んだ、最悪の魔女」
「そうね。どうでもいいわそんなこと。で、誰なのよ?」
「知らないって。本当に‥‥‥」

 嘘つき。
 そう言うと、朝食を食べに行くといい、さっさと服を着ると彼女は先に階下の食堂に行ってしまった。
 何なんだよ、一体?
 残されたアーチャーが身支度を整えて一階に降りたとき、シェニアは仲間たちと共に食卓を囲んでいた。

「おい、来たぜ? 役立たずが」
「やめなさいよ、朝からそんな言い方‥‥‥アーチャー、おはよう」
「事実だろ? おい、アーチャーあれは出来たのかよ?」

 深夜に押しかけておいて失礼な奴だ。
 自分を嘲る武装神官と、それを諫める魔女が最初に彼の方を見た。
 シェニアは毎度のことと、知らん顔で食事を続けていた。

「うるさいやつだ、礼儀知らずの武装神官のくせに。深夜に押しかけてその態度か?」
「なんっだと‥‥‥!? 役立たずの分際でっ」
「その役立たずに直してもらわないと使えないなら、壊れたら次からは自分で直せよ。ほらっ」

 預かった腕輪を乱暴に投げつけてやると、アレンは不器用にそれを受けとめていた。
 お前が最初に寄越したんだろうがよ、とうなるように言うのをアーチャーは無視した。

 そりゃそうだよ、俺があんたにやったんだから‥‥‥だが、まずいな。
 昨夜はシェニアに怒らせてしまった。
 そろそろ、このパーティーの仲での立ち位置を変えていかないとな。
 いつまでも役立たず呼ばわりされたのでは、仲間の成長につながらない。
 アーチャーはそう思いながら、魔女に視線を転じた。


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