漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

文字の大きさ
15 / 76
第一章 棄てられた死霊術師

死者に捧げる花

しおりを挟む
「旦那さん、ここでいいかい?」
「ああ、すまないな。助かったよ。ありがとう」
「いえいえ――」

 王都は広い。
 その最奥にある王宮の周囲を守る三重の内壁を抜けるまでに門が五つ。
 それぞれに兵士がついていて、門番をしている。一つ一つの門の近くにある守衛が勤める詰所で手続きをしなければ、警備が厳重な王宮から出ることはできない。
 よくある物語のように、王に命じられた勇者たちが、さあ今から旅にでますよ。いきなり、王都の外にでれました、なんて都合よくはいかないのだ。
 王宮から見て二つ目と三つ目の郭の内側には貴族が住む貴族街がある。
 その中で特別な許可を得た商人を御用商人という。
 彼らは、王都の市民が住む外壁から内壁に入るまえに検閲を受けるから、この内壁の五つの門をあまり厳しい検査を受けずに通行できた。
 
 いま、アーチャーはその商人の馬車に同乗させてもらい、内壁の最外殻の門までやってきていた。
 人事院で領主の任命書と移動辞令、そして貴族への爵位褒章は儀式を簡素化して書類一枚で与えられた。
 それらを得るまでの時間だけで約半日を必要としてしまった。
 つまらない時間の無駄だ。
 アーチャーはそうぼやいていた。
 与えられた爵位は準伯爵。
 騎士より上位で、近衛衛士の衛士長と同格。ついでに、聖騎士とも等しい身分だった。

「宮廷死霊術師から間を七つも爵位をすっ飛ばして、一気に出世させるなんて、当代の国王は賢いんだか、世間知らずなのか‥‥‥ほら、これでいいかい?」
「ええ、こちらに――イディス準伯爵‥‥‥様? 失礼ですが、あまりお見受けしない――あれ? 死霊術師様ではないですか?」
「意外ですか? 先ほど国王陛下から頂いたんですよ、いきなりの出世で驚いているところです」
「ええ、ええ。これはまあ、おめでとうございます、死霊術師様。こんな立身出世、いまの世ではなかなかないことですよ。さすが、名高い勇者ライルさまのお仲間でいらっしゃる」
「えっ‥‥‥? あ、ライルね、うん。ありがとうございます‥‥‥これも、ライル様のおかげですよ」

 微妙だった。
 心がなぜかしくしくと痛んだ。
 さすが、名高い勇者ライル‥‥‥あの、嫌悪感に満ちた欺瞞の眼差しで俺を追放したライルの名声が役に立つなんて、と。
 こんなつまらない自尊心を傷けられた?
 俺もまだまだ子供だな。
 アーチャーは己を皮肉気に笑うと、守衛が戻してきた書類を受け取った。

「凄いですね、準伯爵様。これからは、あの最果ての地。タイレス辺境国の領主も兼任されるのですか‥‥‥」
「辺境国? あそこはそんな名称だったか?」
「最近変わったんですよ、準伯爵様。いいえ、領主様を兼任なさるとすれば、一つ格上になりますから辺境伯様になられますな。なんとも羨ましい限りです、本当に‥‥‥」
「そんなもんかな? 変わりたいなら譲るけど、どうだい?」

 いえ、御勘弁ください。
 そう言い、彼は丁重な態度でアーチャーを送り出してくれた。
 
「辺境国? ‥‥‥いつのまに格上の存在になったんだ、あの飛び地の領主なら、王家に継ぐ権力だって持てるのに、今の領主は転封を願い出た? どうにも嫌な予感しかしない人事だな、これ」

 手にした数枚の書類を革製の円筒に戻すと蓋をして、それを懐にしまうとアーチャーはまだある外壁へと続く次の門を目指した。
 まったく、どれだけ厳重なんだよここは‥‥‥
 ぼやきながらこれからの事を考える。
 花がいるな、それと馬だ。
 荷物はまとまっているからどうでもいい。
 内壁と外壁の間に扇状に広がる市街にでてやれやれと肩を降ろすと、大通りに続く道を目指して歩き出す。
 目当ての花屋はその両脇に店を構える露店の一つに存在した。


「おばさん、アデラの花、あるかい? 時期外れかな?」
「アデラの花? どこかの墓所に献花でもするのかい?」
「ああ‥‥‥前に来ただろ? あれの被害者の中に、親しい人がいてね」
「前‥‥‥? あの、地下からのあれかい? 言葉にするのもおぞましい――」
「その、あれだよ。俺も思いだしたくない」
「そう、だね‥‥‥。古い話だし、あんたもまだ若い‥‥‥」
「まあ、誰でもいいじゃないか。それより、あるのかい?なければ、おいている店を教えて欲しいんだ」

 店主の女性はいまはおいていないと、首を振ってアーチャーに告げた。
 あれは冬の花。
 ここにはないねえ、と。
 しかし、彼女も被害者の一人だったのかもしれない。
 あそこの店ならあるかもしれない、そう教えてくれた店にアーチャーは行ってみることにした。
 
 アデラの花。
 深夜に天空に上がる三連の月。
 赤、青、金色の内、青の月の光を受けて冬場に咲く、薄紫色の六枚の花弁を持つ手のひらサイズの花だった。
 特に死者に献じる花ではないが、あの魔王の襲撃のとき、多くの犠牲者を見送るのに集めれた花はこれだけだった。
 それから、十数年。
 王都の東南の広場にある死者を奉る墓標には、毎年のあの日になると多くのアデラの花が捧げられていた。

「ここか? 花屋には見えないけど、あるのかこんな店に?」

 誰に言うでもなく、アーチャーは首を傾げる。
 教えられたその場所にあったのは、門構える立派な建物が一つ。
 その門には、ルブラン商会、と看板が掛かっていた。
 御用商人の証の紋とともに、ルブラン商人の扱う主要品目も幾つか描かれている。

「貴金属取り扱い‥‥‥? 本当に、あるのか??」

 妙なものだと思いながら、時間も差しせまっていた。
 あるならそれに越したことはない。
 門をくぐった先で商会の人間だろう、侍女のような服装の亜人が一人、こちらに向かい頭を下げて待っているのがアーチャーの目に入った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

処理中です...