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第一章 棄てられた死霊術師
奴隷商ルブラン商会
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「いらっしゃいませ、旦那様。ようこそお越しいただきました」
彼女――パーティーメンバーの盗賊の猫耳族のニーニャによく似た、灰色の毛並みの亜人の女性はそう言い、よくしつけられた作法で頭を下げるとアーチャーを出迎えてくれた。
「ありがとう。実は探し物をしているんだ。あればいいんだが‥‥‥」
「どうぞ、中で係の者がお伺いいたします」
建物は正面に広い入り口があり、その隣には倉庫だろう、石造りの頑丈な二階建の建物があった。
本館も石造りだが、使っているものが違う。
それは色で見て取れた。
来客も多く、侍女の数も受付で対応してくれた男性の社員だろう。
その数も十人近くいる。そして――
「うーん? 妙に厳重な警戒だな‥‥‥?」
いくつかある来客用の椅子に案内されて気づいたが、室内には貴族の下男なども来ているようだ。
四名ほどの同じ服装、装備を付け帯剣した男女が油断のならない目つきで商会を警護しているように見えた。
そんなに貴重な品でも扱っているのか、まあ、貴金属類取り扱いなら当たり前のような気もする。
まあ、いいか。
伝えた要件に見合った品があると、社員が持ってきたそれは少しばかりつぼみが開いていなかったが、確かにアデルの花だった。
「御用商人ってのは大したものだな。冬に咲く花まで扱っているなんて」
「ありがとうございます、旦那様。まだお若いのにその御召し物。宮廷に仕える官吏の方とお見受けしましたが‥‥‥?」
おや、下級官吏の見習いにでも思われたかな?
アーチャーはわざわざ自分の役職を告げることもないだろうと思い、少し前から参内しています、と伝えた。
「左様ですか、いつか御出世為さった際には、当商会との縁があるかもしれません。どうぞ、御贔屓に‥‥‥」
「さあ、どうかな? 俺はまだ見習いだから。それより、これはどこで手に‥‥‥? 花屋ではいまの季節には無いと言われたんだが」
「ああ、そちらですか? それは、地下の‥‥‥ええ、最果ての地の手前にある高山に咲くのです」
「高山?? そんな寒い場所まであるのですか、地下には?」
「ええ、もちろん。不思議なことに、太陽も、地上世界には三つですが――地下には二つの月があります。夏もあれば冬もある。雪が積もる高山すらもありますよ」
まじか‥‥‥
メディウムの大迷宮なんていうものだから、てっきり地下にはきりのないダンジョンだけがあるのだと思っていた。
それがまるっきりの間違いで、地下には別の世界と呼んでいい場所があるのだと、アーチャーはこの時、初めて知ったのだった。
「やれやれ、書物だけではだめですね。俺も勉強をしなければ‥‥‥」
「旦那様ならいつか降りて行かれるかもしれませんね。ああ、そうそう。確か御領主様が変わられるとか。地下の最果ての地の名称が、数か月前に辺境国になりましたな」
「噂は聞いていますが、あいにくと俺は主人について地上の辺境を転々としていましたから。世事には疎くて。それはなぜ?」
「左様ですか、何故と言われましてもそれが青の魔人様の御意思だとかで。王様も二つ返事だったとか」
「青の魔人? あの、魔王の襲撃のときに王国を救ったという??」
「はい、左様です。この王都から地下には螺旋階段のような塔が、二つの世界を行き来するためにかかっておりまして。一日に数度、不思議な昇降する箱に入り昇り降りできるのです」
「ん? だから何だと?」
首を傾げるアーチャーに、三十代に見える彼はふっと微笑んでいた。
まるでこれからの良縁をよろしくと、そう言っているようにも見える。
「つまり、我が商会は魔人様とも関わることがあると、そういうことですよ。宮廷魔導士様」
「まだ、見習いですよ‥‥‥?」
「その御召し物で、ですか? 見習いの羽織る上着は黄色と相場が決まっておりますが旦那様は、赤でいらっしゃる」
「これは――主人のですよ。王宮に上がるのについて行こうとしたら合う礼服がなかったんでね‥‥‥」
「左様ですか、まあ、これからもよろしくお願いします。そちら様の御主人様にも、いつか御挨拶したいものですな」
彼は妙に食えない男だった。
どうも心を開きにくいそんな感じがする。アーチャーの好きなタイプではなかった。
「それは主人が決めることですから、俺にはなんとも。貴商会の名は伝えておきますよ。ところで‥‥‥」
「何か?」
「貴金属を扱うなら、どうして郭の内側。警護が厳重な貴族街に店を置かない? 御用商人なら、可能だと思いますが?」
「これは痛いところを。当商会、御不浄なものを扱いますので」
不浄?
つまり、死体?
いや違うな、ここからはそんな臭いはしない。
なら、奴隷‥‥‥か。
それも亜人や魔族。かな?
ここに入るとき、案内してくれた侍女も亜人で首輪をしていた。
つまり、あれも奴隷というわけだ。
面白くない‥‥‥ま、俺には関係ないが。
「奴隷売買、結構ですね。儲けを目指すのが商人の美徳、ですか?」
「これは手厳しい。ですが、当商会はまだましなものですよ。むしろ、人助けといってもいいほどです」
「? 奴隷売買をすることが、か?」
「地下では魔族が優位でございますから。亜人を食糧とする存在も多くおります」
「食人? しかし、ワーグナー王国の領土のはずだ。王都の地下からつながる地下世界の、最果ての地は。王国はそんなものを認めていないはず‥‥‥」
無論、大きな声では言えません。
彼はそう言い、ですが、いまの領主様はそれを黙認されていますよ、と告げた。
それが魔人の気に障ったのだとも。
「聞かなかったことにしましょう。俺には重すぎる話だ。この花の礼に主人に、あなたたちの商会の名は伝えておきます」
「ええ、どうか御贔屓に。毎度、ありがとうございました」
出る時も、あの侍女に見送られてきちんと包装されたアデルの花を手にし、アーチャーはその足であの場所。
十数年前に被災した犠牲者たちの墓標がある東南の広場に向かった。
食人?
それが魔人の気に障ったから、内政に干渉されたとは‥‥‥
これから先、なにかとやりづらいかもしれない。
そう思い、義父の名が刻まれた墓標に花を捧げるとその後ろに広がる広大な墓地に足を向ける。
義父の墓はその一角にあるからだ。
そこに辿り着いた時、アーチャーは懐かしい存在と再会したのだった。
彼女――パーティーメンバーの盗賊の猫耳族のニーニャによく似た、灰色の毛並みの亜人の女性はそう言い、よくしつけられた作法で頭を下げるとアーチャーを出迎えてくれた。
「ありがとう。実は探し物をしているんだ。あればいいんだが‥‥‥」
「どうぞ、中で係の者がお伺いいたします」
建物は正面に広い入り口があり、その隣には倉庫だろう、石造りの頑丈な二階建の建物があった。
本館も石造りだが、使っているものが違う。
それは色で見て取れた。
来客も多く、侍女の数も受付で対応してくれた男性の社員だろう。
その数も十人近くいる。そして――
「うーん? 妙に厳重な警戒だな‥‥‥?」
いくつかある来客用の椅子に案内されて気づいたが、室内には貴族の下男なども来ているようだ。
四名ほどの同じ服装、装備を付け帯剣した男女が油断のならない目つきで商会を警護しているように見えた。
そんなに貴重な品でも扱っているのか、まあ、貴金属類取り扱いなら当たり前のような気もする。
まあ、いいか。
伝えた要件に見合った品があると、社員が持ってきたそれは少しばかりつぼみが開いていなかったが、確かにアデルの花だった。
「御用商人ってのは大したものだな。冬に咲く花まで扱っているなんて」
「ありがとうございます、旦那様。まだお若いのにその御召し物。宮廷に仕える官吏の方とお見受けしましたが‥‥‥?」
おや、下級官吏の見習いにでも思われたかな?
アーチャーはわざわざ自分の役職を告げることもないだろうと思い、少し前から参内しています、と伝えた。
「左様ですか、いつか御出世為さった際には、当商会との縁があるかもしれません。どうぞ、御贔屓に‥‥‥」
「さあ、どうかな? 俺はまだ見習いだから。それより、これはどこで手に‥‥‥? 花屋ではいまの季節には無いと言われたんだが」
「ああ、そちらですか? それは、地下の‥‥‥ええ、最果ての地の手前にある高山に咲くのです」
「高山?? そんな寒い場所まであるのですか、地下には?」
「ええ、もちろん。不思議なことに、太陽も、地上世界には三つですが――地下には二つの月があります。夏もあれば冬もある。雪が積もる高山すらもありますよ」
まじか‥‥‥
メディウムの大迷宮なんていうものだから、てっきり地下にはきりのないダンジョンだけがあるのだと思っていた。
それがまるっきりの間違いで、地下には別の世界と呼んでいい場所があるのだと、アーチャーはこの時、初めて知ったのだった。
「やれやれ、書物だけではだめですね。俺も勉強をしなければ‥‥‥」
「旦那様ならいつか降りて行かれるかもしれませんね。ああ、そうそう。確か御領主様が変わられるとか。地下の最果ての地の名称が、数か月前に辺境国になりましたな」
「噂は聞いていますが、あいにくと俺は主人について地上の辺境を転々としていましたから。世事には疎くて。それはなぜ?」
「左様ですか、何故と言われましてもそれが青の魔人様の御意思だとかで。王様も二つ返事だったとか」
「青の魔人? あの、魔王の襲撃のときに王国を救ったという??」
「はい、左様です。この王都から地下には螺旋階段のような塔が、二つの世界を行き来するためにかかっておりまして。一日に数度、不思議な昇降する箱に入り昇り降りできるのです」
「ん? だから何だと?」
首を傾げるアーチャーに、三十代に見える彼はふっと微笑んでいた。
まるでこれからの良縁をよろしくと、そう言っているようにも見える。
「つまり、我が商会は魔人様とも関わることがあると、そういうことですよ。宮廷魔導士様」
「まだ、見習いですよ‥‥‥?」
「その御召し物で、ですか? 見習いの羽織る上着は黄色と相場が決まっておりますが旦那様は、赤でいらっしゃる」
「これは――主人のですよ。王宮に上がるのについて行こうとしたら合う礼服がなかったんでね‥‥‥」
「左様ですか、まあ、これからもよろしくお願いします。そちら様の御主人様にも、いつか御挨拶したいものですな」
彼は妙に食えない男だった。
どうも心を開きにくいそんな感じがする。アーチャーの好きなタイプではなかった。
「それは主人が決めることですから、俺にはなんとも。貴商会の名は伝えておきますよ。ところで‥‥‥」
「何か?」
「貴金属を扱うなら、どうして郭の内側。警護が厳重な貴族街に店を置かない? 御用商人なら、可能だと思いますが?」
「これは痛いところを。当商会、御不浄なものを扱いますので」
不浄?
つまり、死体?
いや違うな、ここからはそんな臭いはしない。
なら、奴隷‥‥‥か。
それも亜人や魔族。かな?
ここに入るとき、案内してくれた侍女も亜人で首輪をしていた。
つまり、あれも奴隷というわけだ。
面白くない‥‥‥ま、俺には関係ないが。
「奴隷売買、結構ですね。儲けを目指すのが商人の美徳、ですか?」
「これは手厳しい。ですが、当商会はまだましなものですよ。むしろ、人助けといってもいいほどです」
「? 奴隷売買をすることが、か?」
「地下では魔族が優位でございますから。亜人を食糧とする存在も多くおります」
「食人? しかし、ワーグナー王国の領土のはずだ。王都の地下からつながる地下世界の、最果ての地は。王国はそんなものを認めていないはず‥‥‥」
無論、大きな声では言えません。
彼はそう言い、ですが、いまの領主様はそれを黙認されていますよ、と告げた。
それが魔人の気に障ったのだとも。
「聞かなかったことにしましょう。俺には重すぎる話だ。この花の礼に主人に、あなたたちの商会の名は伝えておきます」
「ええ、どうか御贔屓に。毎度、ありがとうございました」
出る時も、あの侍女に見送られてきちんと包装されたアデルの花を手にし、アーチャーはその足であの場所。
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食人?
それが魔人の気に障ったから、内政に干渉されたとは‥‥‥
これから先、なにかとやりづらいかもしれない。
そう思い、義父の名が刻まれた墓標に花を捧げるとその後ろに広がる広大な墓地に足を向ける。
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