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第三章 たった一人の隣人
死霊術師、歎息する
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「この二人の面倒は見よう。だが、肉屋まで俺の範囲じゃない‥‥‥」
「あら、そうかしら? じゃあ、こうすればどう?」
「おいっ!?」
肉屋の闇を解決するのは、新領主の部下たる死霊術師である。
「まあ、すごい。真っ青ね。これまで見たことのない青だわ‥‥‥」
「そんな文面、よくも臆面もなく書きこめたものだな? いい加減にしろ。どこまでがどうなっているかは知らないが、ルカ。あんたのその羽の根元から魔力が紙に注がれる度に色が変わるのは俺にも理解できるぞ?」
「あら‥‥‥ばれた? 大した眼ね? 私たち黒曜族の翼を透かせるなんてあなた本当に黒札?」
「あ、いや‥‥‥おい、待ってくれ? いま黒曜族と言わなかったか?? 地下世界にはまだ生き残っている??」
「何を言ってるの? 上は知らないけど、この魔界では普通に生きているわよ?」
黒曜族のラス。
あのデュラハンのリード卿の部下が挨拶にきたあの夜が、不意にアーチャーの脳裏によみがえっていた。
一月前のあの夜から、アーチャーはその生態について詳しく調べていたのだ。
失われたはるか古代の種族。その膨大な魔力は天空に大陸すら浮かべたという。そんな種族ですら、魔王を名乗らない主を持っていた。なら、魔王とはどれだけの脅威なのか。アーチャーは自問自答していた。自分は――義父のかたき討ちが出来るのか、と。
「生きている――この地下で? 地上ではすでに、数千年前に死滅した種族だ。まさか、黒曜族だとはな‥‥‥」
「意味が分からないわ。 地上で生きていなくても、それがどうしたの? それよりも、やるの、やらないの?」
肉屋のチラシを手で持ち、仰ぐようにしてアーチャーの目の前に差し出すルカ。
その顔はなにか悪だくみを‥‥‥
この顔つきは見覚えのある顔だった。
「イライアの差し金か?」
「うーん‥‥‥早い。もう少し遊べると思っていたのに勘が鋭いって本当なのね、あなた。お姉様から聞いているわ」
「お姉様だあ? まさか、いや実の姉妹? それはないよな??」
「ないわよ、まだ二十歳だもの。偉大なるギルマスよりも知恵者のイライアお姉様。ここの女子全員の憧れだわ」
あ、そう。
どうでもいい知識を得た気がする。
隣にいる双子をふと見やると、彼女たちは顔を見合わせて呆れていた。
俺はどうやらまともらしい。
アーチャーは疲れを感じながら、ルカに質問する。
「どこまでが演技だ?」
「肉屋がどうこう以前までかな? その後は、ほら。この紙の魔力が反応しない部分に、私の魔力で色を添えただけだから」
ほら、ね?
そう言い、ルカは誓約の神が返事をするというあの紙片を寄越してきた。
確かに――考えてみれば、印を押したのは双子だけなのだ、ルカにどうこうはずもなかった。
「つまり、朱色の四刃の件はギルドでも関知していなかった。そういうことでいいのか?」
「怪しいという噂には聞いていたわよ? でも実績もあったからなかなか、ね? 地上世界に依頼を出す良い機会だったからやってみたんだけど、こうも上手くいくとは思ってみなかったかな」
「最低だな。こいつらは結局、道具扱いだ。死ぬまで人間らしいことをしてもらえないまま、お前たちが殺したんだぞ!?」
「ねえ、新領主様の部下の死霊術師様? それがここ、地下世界の法律なのよ。嫌ならあなたが変えたらどう? 地上の正義を振りかざすなら、それなりに守るべき者を守れる権力を持って来なさいよ。正義感に駆られた怒りなんて迷惑なだけだわ」
「俺は正義感だの倫理観だのそんなくだらないことを言っていない。領主がどう言おうが、王の定めた正しい法律があるんだ。ならそれを遵守するのがギルドの義務だろうが。義務を放棄して権利を語るな」
「ああそう? でもね、その放棄した義務のお陰で貧民街の多くは生きていられるのよ! 魔族と人間との合間で、その脅威に怯えながらね?」
「総合ギルドは独立組織だ。王命にも拒否権を持つ世界規模の冒険者支援団体だろ? それが‥‥‥庇護しているのと同じだから魔人様が領主の交代を要請したんだと俺はいま思ったよ」
大きなため息が出てしまう。
こんなことをする為に――来たのかもしれない。
自分はつくづく、トラブルに縁がある。
そう思いながら、仕方ないとルカの隣にあったペンを取ったのだった。
アーチャーは渡された例の紙に、自分の氏名を書き込んだ。
本名ではないが、神が本当に見ているならそんなことは問題ではない。
そう思いながら。
「いいか、俺は新領主のアーチャー・イディス伯爵様から地下世界。このタイレス辺境国の先遣として来るにあたりある程度の裁量を頂いている。パルド市の総合ギルド支部及び、その貧困層で行われている食人に関しての臓器密売。及び、その結果生じる利益を市民に還元することを禁じる。同時に、総合ギルドに対して本件の厳格な取り締まり、厳正かつ公平な処断を下すことを、領主の管理権を一次的に委譲することで依頼するものとする。代価はこれまで市場で売買されてきた利益の全て。その結果として生じた利益について、全額を貧困層に寄付することを許可する。ついでに、貴族層、富裕層、特権層など。総合ギルドの警察権が及ばない層に関しても全てこれを可とするものとする。これは正文である」
ほら見ろ、そう言うようにアーチャーはルカに紙片を突きつけてやる。
浮かびあがった文面とその文字には真っ青な線が引かれていた。
「あら、そうかしら? じゃあ、こうすればどう?」
「おいっ!?」
肉屋の闇を解決するのは、新領主の部下たる死霊術師である。
「まあ、すごい。真っ青ね。これまで見たことのない青だわ‥‥‥」
「そんな文面、よくも臆面もなく書きこめたものだな? いい加減にしろ。どこまでがどうなっているかは知らないが、ルカ。あんたのその羽の根元から魔力が紙に注がれる度に色が変わるのは俺にも理解できるぞ?」
「あら‥‥‥ばれた? 大した眼ね? 私たち黒曜族の翼を透かせるなんてあなた本当に黒札?」
「あ、いや‥‥‥おい、待ってくれ? いま黒曜族と言わなかったか?? 地下世界にはまだ生き残っている??」
「何を言ってるの? 上は知らないけど、この魔界では普通に生きているわよ?」
黒曜族のラス。
あのデュラハンのリード卿の部下が挨拶にきたあの夜が、不意にアーチャーの脳裏によみがえっていた。
一月前のあの夜から、アーチャーはその生態について詳しく調べていたのだ。
失われたはるか古代の種族。その膨大な魔力は天空に大陸すら浮かべたという。そんな種族ですら、魔王を名乗らない主を持っていた。なら、魔王とはどれだけの脅威なのか。アーチャーは自問自答していた。自分は――義父のかたき討ちが出来るのか、と。
「生きている――この地下で? 地上ではすでに、数千年前に死滅した種族だ。まさか、黒曜族だとはな‥‥‥」
「意味が分からないわ。 地上で生きていなくても、それがどうしたの? それよりも、やるの、やらないの?」
肉屋のチラシを手で持ち、仰ぐようにしてアーチャーの目の前に差し出すルカ。
その顔はなにか悪だくみを‥‥‥
この顔つきは見覚えのある顔だった。
「イライアの差し金か?」
「うーん‥‥‥早い。もう少し遊べると思っていたのに勘が鋭いって本当なのね、あなた。お姉様から聞いているわ」
「お姉様だあ? まさか、いや実の姉妹? それはないよな??」
「ないわよ、まだ二十歳だもの。偉大なるギルマスよりも知恵者のイライアお姉様。ここの女子全員の憧れだわ」
あ、そう。
どうでもいい知識を得た気がする。
隣にいる双子をふと見やると、彼女たちは顔を見合わせて呆れていた。
俺はどうやらまともらしい。
アーチャーは疲れを感じながら、ルカに質問する。
「どこまでが演技だ?」
「肉屋がどうこう以前までかな? その後は、ほら。この紙の魔力が反応しない部分に、私の魔力で色を添えただけだから」
ほら、ね?
そう言い、ルカは誓約の神が返事をするというあの紙片を寄越してきた。
確かに――考えてみれば、印を押したのは双子だけなのだ、ルカにどうこうはずもなかった。
「つまり、朱色の四刃の件はギルドでも関知していなかった。そういうことでいいのか?」
「怪しいという噂には聞いていたわよ? でも実績もあったからなかなか、ね? 地上世界に依頼を出す良い機会だったからやってみたんだけど、こうも上手くいくとは思ってみなかったかな」
「最低だな。こいつらは結局、道具扱いだ。死ぬまで人間らしいことをしてもらえないまま、お前たちが殺したんだぞ!?」
「ねえ、新領主様の部下の死霊術師様? それがここ、地下世界の法律なのよ。嫌ならあなたが変えたらどう? 地上の正義を振りかざすなら、それなりに守るべき者を守れる権力を持って来なさいよ。正義感に駆られた怒りなんて迷惑なだけだわ」
「俺は正義感だの倫理観だのそんなくだらないことを言っていない。領主がどう言おうが、王の定めた正しい法律があるんだ。ならそれを遵守するのがギルドの義務だろうが。義務を放棄して権利を語るな」
「ああそう? でもね、その放棄した義務のお陰で貧民街の多くは生きていられるのよ! 魔族と人間との合間で、その脅威に怯えながらね?」
「総合ギルドは独立組織だ。王命にも拒否権を持つ世界規模の冒険者支援団体だろ? それが‥‥‥庇護しているのと同じだから魔人様が領主の交代を要請したんだと俺はいま思ったよ」
大きなため息が出てしまう。
こんなことをする為に――来たのかもしれない。
自分はつくづく、トラブルに縁がある。
そう思いながら、仕方ないとルカの隣にあったペンを取ったのだった。
アーチャーは渡された例の紙に、自分の氏名を書き込んだ。
本名ではないが、神が本当に見ているならそんなことは問題ではない。
そう思いながら。
「いいか、俺は新領主のアーチャー・イディス伯爵様から地下世界。このタイレス辺境国の先遣として来るにあたりある程度の裁量を頂いている。パルド市の総合ギルド支部及び、その貧困層で行われている食人に関しての臓器密売。及び、その結果生じる利益を市民に還元することを禁じる。同時に、総合ギルドに対して本件の厳格な取り締まり、厳正かつ公平な処断を下すことを、領主の管理権を一次的に委譲することで依頼するものとする。代価はこれまで市場で売買されてきた利益の全て。その結果として生じた利益について、全額を貧困層に寄付することを許可する。ついでに、貴族層、富裕層、特権層など。総合ギルドの警察権が及ばない層に関しても全てこれを可とするものとする。これは正文である」
ほら見ろ、そう言うようにアーチャーはルカに紙片を突きつけてやる。
浮かびあがった文面とその文字には真っ青な線が引かれていた。
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