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第三章 たった一人の隣人
真実という名の幻想
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「あいつよ!! 私はあいつが召喚したスケルドラゴンたちにこんな目にあわされたのよ! ……誰かあいつを捕らえて頂戴っ、うちの奴隷まで盗もうとした、泥棒なんだから!!」
「おいおい、大した言いがかりだな。ルカ、どうするつもりなんだ?」
「どうするもこうするもここでしっかりと事実を確認するわ。その意味では都合よく来てくれたって思うしかないわね、どちらとも」
「怖いお姉さんだな‥‥‥二人とも、彼女の質問に答えれるか?」
それを問われて、二人の獣人の少女は顔を見合わせてうなづいた。
赤茶けていた尾はほぼ真っ白に戻り、髪の色も灰色から黒くなっていた。
命を代価としてフィーネたちの術式に組み込まれていたというのは嘘ではなかったらしい。
「はい、あたしたちでいいならなんでも答えれます。あの‥‥‥御主人様?」
「いや、俺は御主人様じゃないし、あいつらも御主人様じゃない。もう、二人は自由だが……どっちがラグ‥‥‥?」
「似たようにしか見えないわね? あたたたち、双子‥‥‥?」
そのルカの質問に、ラグがうなづいた。
自分はラグで姉、ラナは妹。
双子で尾の先が黒いのがラグで、真っ白がラナ。
そう名乗っていた。
「尾がないと見分けがつかないわね‥‥‥じゃあ、二人とも字はかける?」
その問いに、戸惑ったように首を振る双子の獣人たち。
なら、指先にインクをつけてここに押してつけて?
そう言われるままに二人が、それぞれ指先にインクをつけて差し出された紙に押印すると、紙は一度、淡い燐光を放ち、元の白い紙に戻ってしまった。
「魔法で何かを誓約させたのか?」
「神聖魔法ねー制約の神に誓いを立てることになるけど。さて、短く確認するわね? あなたたち、元の五人は彼と合流して行動した? あなたたち、本当に死んだの? あなたたちは‥‥‥今までに何度でもいい。死んだら、きちんと埋葬するって言われた? それとも、言うことを聞かないと肉屋に売ろうとかそんなことを言われたことはある? そうね‥‥‥死んだ後にででも、いいわ。もし、死体が記憶しているのなら」
それは穿った意見だな。
アーチャーはルカの頭の周りの良さに舌を巻いていた。
もし、死体が完全に機能しなくなったとしてその姿をとどめることが出来なくなるまでの間。
そう、火葬などされるまでの間に見たり、聞いたり、感じるということが正解かどうかを確認しようとしていたのだから。
ラグとラナは相談して、姉の方が口を開いた。
「合流はしませんでした。私たちだけで、スケルドラゴンや他のモンスターを発見して――彼が来る前に全部狩れば独り占めするとは聞きました……もし、途中で合流して協力を拒めば、殺してもいい。そう言っていた。それに‥‥‥」
「それに、何かな? 言って欲しいわ。なるべく罪には問われないようにするから」
「‥‥‥死んだかどうかは分からないです。でも、死ねば売るかどうかは――アーレンやレズロが言うことはなかったけど。あの魔女‥‥‥リーファには何度か言われていました。他の二人にも、いつ死んでも代りはいるんだって言われた」
「なんてこと‥‥‥奴隷の扱いがなってないわ。でも、死んだかは分からないのね?」
「‥‥‥あるところから記憶が無くなってる。あたしも、ラナも、あの炎と共に剣が折れたのは覚えていて。でもそこからは――分からない」
ふーん‥‥‥もし、そこを死んだと仮定すれば?
ルカはアーチャーの証言と二人の証言が一致すると考えてみた。
「待ってね? いま、あなたたちの証言が事実かどうかを確認するから」
「事実?? 真実では、ないのですか?」
妹のラナが不思議そうにたずねていた。
物事の正しい結果は一つではないのか、と。
「残念だけど、こういった調べものに真実なんて意味ないの。真実はそこにいた当事者の数だけ存在するから、どうにでも繕えるのよ。大事なことはあったか、なかったかの事実だけなの。さて、と――」
「その紙でなにがどう、分かるんだ?」
「ロンだったわよね? 見ていれば分かるわ」
「へえ‥‥‥」
後ろではまだリーファが喚いているが、警備員によって壁際にあるイスにレズロとともに座らされていた。
装備を全て取り上げられ、アーレンは床に組み伏せられていた。
ルカの言う通り、その紙には質問した内容が文字になって浮き上がり、その回答もまた浮き上がる。
そして回答の下には、青い線がずらっと並んでいた。
「ここまで青いのも珍しいわね。死んでる‥‥‥わ。認めたくないけど、死霊術って怖い物ね。それにあの三人の罪まで。よくこれまでの数年間、捕まらなかったものね‥‥‥」
「あたしたちが買われた二年前から‥‥‥ずっとひどいことをされていた。アーレンにレズロ。二人には‥‥‥言いたくないことも」
「そう‥‥‥大丈夫、犯罪者はきちんと裁かれる。この子たちはいま、奴隷から解放された?」
そのルカの問いに、紙は青い線で反応していた。
「なら、人として扱わなきゃね。三人とも、きちんと相談してこれからを考えて。でも、性的な虐待をしたら――いいわね?」
「俺はそんなことには興味がない。それよりもいいのか? スケルドラゴンがまだ数体、あの溪谷にはいたからな。
誰か処理に行かなくていいのか??」
「それねー……、魔人様の部下の魔装人形の少女たちがどうにかしてるんじゃないかしら? 街や塔や、住人を守るのがあの子らの役目だから」
「そう、か。なら俺は、どうすればいい。これから俺たちの身の振り方だが何よりも、そのチラシが気になるな?」
「これねえ? ああ、いいのよ、地下の牢屋に連行して。あとから調べるから」
ルカはこちらだけ調べて公平なのか?
そう問うアーチャーにいいのよ、と一言だけ告げると先程の紙を彼に見せた。
そこには、アーチャーは無罪か? との質問があり、微妙に赤い青で線が入っていた。
「ま、どこかでは有罪だろうけど。 神様から見たらそうでもないみたいだから。でも、肉屋はだめのようね? 少し前までは問題なかったのに――どうしてかしら?」
「なんだよ、曖昧だな‥‥‥肉屋の行動は罪か? 真っ赤になってる。なんで前は赤じゃなかった‥‥‥?」
「さあ? あなたの御主人様が否定的なら、すでに領主様の代行の命令が出ているから。それを反映したのかもね?」
なんともいい加減な紙だ。
アーチャーはその結果に閉口していた。
「おいおい、大した言いがかりだな。ルカ、どうするつもりなんだ?」
「どうするもこうするもここでしっかりと事実を確認するわ。その意味では都合よく来てくれたって思うしかないわね、どちらとも」
「怖いお姉さんだな‥‥‥二人とも、彼女の質問に答えれるか?」
それを問われて、二人の獣人の少女は顔を見合わせてうなづいた。
赤茶けていた尾はほぼ真っ白に戻り、髪の色も灰色から黒くなっていた。
命を代価としてフィーネたちの術式に組み込まれていたというのは嘘ではなかったらしい。
「はい、あたしたちでいいならなんでも答えれます。あの‥‥‥御主人様?」
「いや、俺は御主人様じゃないし、あいつらも御主人様じゃない。もう、二人は自由だが……どっちがラグ‥‥‥?」
「似たようにしか見えないわね? あたたたち、双子‥‥‥?」
そのルカの質問に、ラグがうなづいた。
自分はラグで姉、ラナは妹。
双子で尾の先が黒いのがラグで、真っ白がラナ。
そう名乗っていた。
「尾がないと見分けがつかないわね‥‥‥じゃあ、二人とも字はかける?」
その問いに、戸惑ったように首を振る双子の獣人たち。
なら、指先にインクをつけてここに押してつけて?
そう言われるままに二人が、それぞれ指先にインクをつけて差し出された紙に押印すると、紙は一度、淡い燐光を放ち、元の白い紙に戻ってしまった。
「魔法で何かを誓約させたのか?」
「神聖魔法ねー制約の神に誓いを立てることになるけど。さて、短く確認するわね? あなたたち、元の五人は彼と合流して行動した? あなたたち、本当に死んだの? あなたたちは‥‥‥今までに何度でもいい。死んだら、きちんと埋葬するって言われた? それとも、言うことを聞かないと肉屋に売ろうとかそんなことを言われたことはある? そうね‥‥‥死んだ後にででも、いいわ。もし、死体が記憶しているのなら」
それは穿った意見だな。
アーチャーはルカの頭の周りの良さに舌を巻いていた。
もし、死体が完全に機能しなくなったとしてその姿をとどめることが出来なくなるまでの間。
そう、火葬などされるまでの間に見たり、聞いたり、感じるということが正解かどうかを確認しようとしていたのだから。
ラグとラナは相談して、姉の方が口を開いた。
「合流はしませんでした。私たちだけで、スケルドラゴンや他のモンスターを発見して――彼が来る前に全部狩れば独り占めするとは聞きました……もし、途中で合流して協力を拒めば、殺してもいい。そう言っていた。それに‥‥‥」
「それに、何かな? 言って欲しいわ。なるべく罪には問われないようにするから」
「‥‥‥死んだかどうかは分からないです。でも、死ねば売るかどうかは――アーレンやレズロが言うことはなかったけど。あの魔女‥‥‥リーファには何度か言われていました。他の二人にも、いつ死んでも代りはいるんだって言われた」
「なんてこと‥‥‥奴隷の扱いがなってないわ。でも、死んだかは分からないのね?」
「‥‥‥あるところから記憶が無くなってる。あたしも、ラナも、あの炎と共に剣が折れたのは覚えていて。でもそこからは――分からない」
ふーん‥‥‥もし、そこを死んだと仮定すれば?
ルカはアーチャーの証言と二人の証言が一致すると考えてみた。
「待ってね? いま、あなたたちの証言が事実かどうかを確認するから」
「事実?? 真実では、ないのですか?」
妹のラナが不思議そうにたずねていた。
物事の正しい結果は一つではないのか、と。
「残念だけど、こういった調べものに真実なんて意味ないの。真実はそこにいた当事者の数だけ存在するから、どうにでも繕えるのよ。大事なことはあったか、なかったかの事実だけなの。さて、と――」
「その紙でなにがどう、分かるんだ?」
「ロンだったわよね? 見ていれば分かるわ」
「へえ‥‥‥」
後ろではまだリーファが喚いているが、警備員によって壁際にあるイスにレズロとともに座らされていた。
装備を全て取り上げられ、アーレンは床に組み伏せられていた。
ルカの言う通り、その紙には質問した内容が文字になって浮き上がり、その回答もまた浮き上がる。
そして回答の下には、青い線がずらっと並んでいた。
「ここまで青いのも珍しいわね。死んでる‥‥‥わ。認めたくないけど、死霊術って怖い物ね。それにあの三人の罪まで。よくこれまでの数年間、捕まらなかったものね‥‥‥」
「あたしたちが買われた二年前から‥‥‥ずっとひどいことをされていた。アーレンにレズロ。二人には‥‥‥言いたくないことも」
「そう‥‥‥大丈夫、犯罪者はきちんと裁かれる。この子たちはいま、奴隷から解放された?」
そのルカの問いに、紙は青い線で反応していた。
「なら、人として扱わなきゃね。三人とも、きちんと相談してこれからを考えて。でも、性的な虐待をしたら――いいわね?」
「俺はそんなことには興味がない。それよりもいいのか? スケルドラゴンがまだ数体、あの溪谷にはいたからな。
誰か処理に行かなくていいのか??」
「それねー……、魔人様の部下の魔装人形の少女たちがどうにかしてるんじゃないかしら? 街や塔や、住人を守るのがあの子らの役目だから」
「そう、か。なら俺は、どうすればいい。これから俺たちの身の振り方だが何よりも、そのチラシが気になるな?」
「これねえ? ああ、いいのよ、地下の牢屋に連行して。あとから調べるから」
ルカはこちらだけ調べて公平なのか?
そう問うアーチャーにいいのよ、と一言だけ告げると先程の紙を彼に見せた。
そこには、アーチャーは無罪か? との質問があり、微妙に赤い青で線が入っていた。
「ま、どこかでは有罪だろうけど。 神様から見たらそうでもないみたいだから。でも、肉屋はだめのようね? 少し前までは問題なかったのに――どうしてかしら?」
「なんだよ、曖昧だな‥‥‥肉屋の行動は罪か? 真っ赤になってる。なんで前は赤じゃなかった‥‥‥?」
「さあ? あなたの御主人様が否定的なら、すでに領主様の代行の命令が出ているから。それを反映したのかもね?」
なんともいい加減な紙だ。
アーチャーはその結果に閉口していた。
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