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第三章 たった一人の隣人
聖騎士、憤慨する
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「とんだ疫病神ね、あなた。どう思っているのよねえ、アーチャー!?」
「いや、そう怒られても困るぞ、イライア。大体、この依頼自体が色々なものを含んでいたんじゃないのか? 俺に割り当てて来たのは、あんただろ?」
「たまたまよ。あなたがお金がないっていうから与えただけじゃない。邪推のし過ぎだわ」
「そうかな? 確かに俺も出来過ぎてると思うよ。穿った意見かもしれない。だけど偶然はあり得ない。最初に貰った内容とも依頼が変動しすぎている。誰の差し金なんだ?」
「さあ? それを知りたいなら――」
そうイライアが焦げ付いて横倒しになったソファーを蹴り上げること数度。
そこいらに散乱していたデスクだの、書類置きだのを蹴散らして奥ゆかしいハイエルフとは思えない暴力的な素行を彼女は見せた。
結果、三階に当たる部分で避難、もとい高みの見物を決め込んでいたパルド支部のギルドマスターやサブがいたところにイライアが爆薬のような火球を放り込んだのだ。
思った以上に威力は低かったようだが、隠れていた四人はその直撃を喰らってしま――
しかし、軽い火傷だの打撲だので済んでいるところを見るとさすがはギルマスとその腹心の部下というべきか。
「まったく、小悪党はさっさと焼死しとけばよかったのよ!」
「イライア‥‥‥地下まで足を伸ばさなきゃいけなくなった憂さ晴らしはその辺りで許してやれよ……死ぬぞ、そのオークのギルマス。 蹴り過ぎだろ?」
「はあ? いいのよ、こいつらさんざん私腹を肥やしてきたんだから。上の私がカバーするにどれだけ苦労したと思ってるのよ! ほら、あんたもなんか言いなさい!!」
可哀想だ。
それはあまりにも過激だし、憂さ晴らしなんてものじゃない。
俺は戦いの相手だから階下の乱闘でそれなりに敵を蹴散らしてやったが、イライア。
あんたのそれは、暴力だ。
立派な暴力だよ。
見ろよ、鬼人。オークと呼ばれる種の一角だ。
つまり、上位種で知的であり、文化の歴史も人間と同等かそれ以上かもしれない存在をタコ殴りならぬ、タコ蹴りにしているハイエルフは‥‥‥そら恐ろしかった。
「もう‥‥‥許して、ください。イライア、あなたを騙す気は無かった――」
「何が騙す気は無かったよ! さんざん好き勝手しておいて、今更、領主様の意向でしたぁ? それじゃ、通らないのよ?」
「だが――あれはまさしくその通りで‥‥‥だから、魔人様が交代を要請されたんだ‥‥‥」
「話が通らないわ。あなたたちが国家権力に屈したのが気に入らないのよ。 それでもギルドマスターなの? 過去にはエルフを喰い、今度は獣人たちの血肉を文字通り売り払ってその腹を肥やすのがお家芸だなんて。だから土くさいオークは嫌いなのよ!!」
「イライア。それって種族の恨みがわんさと込められてないか? 過去っていつだよ? 種族間の平和条例が成立したのって確か――」
「三千年前よっ」
「太古の昔じゃないのか、それ?」
「ハイエルフには昨日のようなもんだわ。まったく、忌々しい。明日の朝にはその首、胴体と切り離してやるからね!!」
どうだ?
この欺瞞と偏見に満ちた言動をするのが、お前の憧れのお姉様らしいぞ?
後ろで上司が死にそうになっているのをただ見ていた。
いや、その光景のあまりにも痛々しい様を見て、恐怖で声を上げることのできない、ルカの顔が引きつっているのをアーチャーは見てしまった。
ついでに、アーチャー?
ロンじゃないの? と、きょとんとした顔の双子もまたそこに控えている。
イライアが連れて乗り込んできた、王都ブルングドの総合ギルドの部下は多かった。
浅葱以上の色札の冒険者たちに、ギルドが雇っている衛士たち。
それに会いたくもない、勇者パーティの二人もそこには含まれていた。
盗賊の猫耳族の少女ニーニャ。
さんざんアーチャーを小馬鹿にしていた聖騎士のグスタフがイライアやアーチャーたちのそばにいた。
なんでこいつらがいるんだよ。
そうぼやくアーチャーだが、ハイエルフの暴行は度を越している。
まずは、それを止めなければ何も始まらない。
アーチャーはため息交じりにイライアに話しかけようとしたが、それを制止して前に出たのは誰でもない。
聖騎士のグスタフだった。
「‥‥‥イライア、もういいだろう?それ以上は死んでしまう。おい、アーチャー。ただ見ているだけの無能、さっさとこいつらの治癒をするんだ!」
「ま、聖騎士様がそう言うなら――仕方ないわね」
「やりすぎだ。貴方らしくもない‥‥‥おい、アーチャー!! 早くしないか、このウスノロが!?」
聖騎士らしからぬ言動は相変わらずだ。
グスタフの怒声にニーニャが耳を伏せ、イライアが私は知らない、と他方を向いている。
獣人の双子はその言動に牙をむいて主人を守ろうと、アーチャーの前に立とうとしていた。
「ラナ、ラグ。控えていろ。邪魔だ」
「えっ、でも――御主人様? あのような物言い、許せません。御主人様に敬意を払わないやつなど――」
「そうです、噛み殺してしまえばいいのです」
「お前らなあ、あんなふうになりたいのか? 数百年して笑顔で他人を蹴り飛ばすような、奥ゆかしさもないハイエルフみたいに?」
「あ‥‥‥いいえ。それは嫌です。もう少し優しくありたい」
「ラグはあんなのは見ていられません。許しを乞う弱者を責めるなど、人としてあり得ないと思います」
「何ですって!?」
「ヒッ‥‥‥!??」
そこまで歯に衣を着せない発言をしながら、睨まれたら俺の後ろに隠れるのはやめろ‥‥‥
巻き添えを喰らうのは俺じゃないか。
子供たちにいいように言われてイライアが悪辣な笑顔を向ける。
すると、双子は尻尾を最大限まで膨れ上がらせて威嚇しているが‥‥‥これでは子猫と大虎みたいで逆に微笑ましく感じてしまう。
「お前らなあ、喧嘩を売るなら俺の後ろに隠れるな。ほら、お姉様に可愛がってもらってこい」
アーチャーは双子の首根っこを抑えると、逃げようとする二匹の獣人をハイエルフに向かって放り投げた。
「ちょっと! まあいいわ‥‥‥あなたたち、お話しましょうか? 御主人様はあの聖騎士と話があるみたいだから。逃がさないからね!?」
「ヒイイっ、御主人様――」
「食べ、食べられます!!」
「食べないわよ、ほら、行くわよ!」
逃げようとする二匹は可哀想に、尻尾をむんずっとつかまれて引きずられて行く。
ついでにイライアはどこから伸ばしたのか、植物のツタでギルマスたちを捕縛すると、隣の部屋へと出て行ってしまった。
残されたのはアーチャーとニーニャ、そしてグスタフに数人の冒険者たち。
陰悪な目つきを飛ばしてくるグスタフに、アーチャーは冷ややかな笑みを送っていた。
「うるさいぞ、聖騎士様? 俺はもう、辺境国国王になったことを忘れたか? 格式では俺の方が上なんだからまずは聖騎士らしく――ひざまづいて挨拶しろよ?」
「貴様っ!!? 無能の分際でよくも偉そうに!!」
聖騎士は小さく一つ吠え、その腰に帯びていた剣に手を伸ばそうとしていた。
「いや、そう怒られても困るぞ、イライア。大体、この依頼自体が色々なものを含んでいたんじゃないのか? 俺に割り当てて来たのは、あんただろ?」
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結果、三階に当たる部分で避難、もとい高みの見物を決め込んでいたパルド支部のギルドマスターやサブがいたところにイライアが爆薬のような火球を放り込んだのだ。
思った以上に威力は低かったようだが、隠れていた四人はその直撃を喰らってしま――
しかし、軽い火傷だの打撲だので済んでいるところを見るとさすがはギルマスとその腹心の部下というべきか。
「まったく、小悪党はさっさと焼死しとけばよかったのよ!」
「イライア‥‥‥地下まで足を伸ばさなきゃいけなくなった憂さ晴らしはその辺りで許してやれよ……死ぬぞ、そのオークのギルマス。 蹴り過ぎだろ?」
「はあ? いいのよ、こいつらさんざん私腹を肥やしてきたんだから。上の私がカバーするにどれだけ苦労したと思ってるのよ! ほら、あんたもなんか言いなさい!!」
可哀想だ。
それはあまりにも過激だし、憂さ晴らしなんてものじゃない。
俺は戦いの相手だから階下の乱闘でそれなりに敵を蹴散らしてやったが、イライア。
あんたのそれは、暴力だ。
立派な暴力だよ。
見ろよ、鬼人。オークと呼ばれる種の一角だ。
つまり、上位種で知的であり、文化の歴史も人間と同等かそれ以上かもしれない存在をタコ殴りならぬ、タコ蹴りにしているハイエルフは‥‥‥そら恐ろしかった。
「もう‥‥‥許して、ください。イライア、あなたを騙す気は無かった――」
「何が騙す気は無かったよ! さんざん好き勝手しておいて、今更、領主様の意向でしたぁ? それじゃ、通らないのよ?」
「だが――あれはまさしくその通りで‥‥‥だから、魔人様が交代を要請されたんだ‥‥‥」
「話が通らないわ。あなたたちが国家権力に屈したのが気に入らないのよ。 それでもギルドマスターなの? 過去にはエルフを喰い、今度は獣人たちの血肉を文字通り売り払ってその腹を肥やすのがお家芸だなんて。だから土くさいオークは嫌いなのよ!!」
「イライア。それって種族の恨みがわんさと込められてないか? 過去っていつだよ? 種族間の平和条例が成立したのって確か――」
「三千年前よっ」
「太古の昔じゃないのか、それ?」
「ハイエルフには昨日のようなもんだわ。まったく、忌々しい。明日の朝にはその首、胴体と切り離してやるからね!!」
どうだ?
この欺瞞と偏見に満ちた言動をするのが、お前の憧れのお姉様らしいぞ?
後ろで上司が死にそうになっているのをただ見ていた。
いや、その光景のあまりにも痛々しい様を見て、恐怖で声を上げることのできない、ルカの顔が引きつっているのをアーチャーは見てしまった。
ついでに、アーチャー?
ロンじゃないの? と、きょとんとした顔の双子もまたそこに控えている。
イライアが連れて乗り込んできた、王都ブルングドの総合ギルドの部下は多かった。
浅葱以上の色札の冒険者たちに、ギルドが雇っている衛士たち。
それに会いたくもない、勇者パーティの二人もそこには含まれていた。
盗賊の猫耳族の少女ニーニャ。
さんざんアーチャーを小馬鹿にしていた聖騎士のグスタフがイライアやアーチャーたちのそばにいた。
なんでこいつらがいるんだよ。
そうぼやくアーチャーだが、ハイエルフの暴行は度を越している。
まずは、それを止めなければ何も始まらない。
アーチャーはため息交じりにイライアに話しかけようとしたが、それを制止して前に出たのは誰でもない。
聖騎士のグスタフだった。
「‥‥‥イライア、もういいだろう?それ以上は死んでしまう。おい、アーチャー。ただ見ているだけの無能、さっさとこいつらの治癒をするんだ!」
「ま、聖騎士様がそう言うなら――仕方ないわね」
「やりすぎだ。貴方らしくもない‥‥‥おい、アーチャー!! 早くしないか、このウスノロが!?」
聖騎士らしからぬ言動は相変わらずだ。
グスタフの怒声にニーニャが耳を伏せ、イライアが私は知らない、と他方を向いている。
獣人の双子はその言動に牙をむいて主人を守ろうと、アーチャーの前に立とうとしていた。
「ラナ、ラグ。控えていろ。邪魔だ」
「えっ、でも――御主人様? あのような物言い、許せません。御主人様に敬意を払わないやつなど――」
「そうです、噛み殺してしまえばいいのです」
「お前らなあ、あんなふうになりたいのか? 数百年して笑顔で他人を蹴り飛ばすような、奥ゆかしさもないハイエルフみたいに?」
「あ‥‥‥いいえ。それは嫌です。もう少し優しくありたい」
「ラグはあんなのは見ていられません。許しを乞う弱者を責めるなど、人としてあり得ないと思います」
「何ですって!?」
「ヒッ‥‥‥!??」
そこまで歯に衣を着せない発言をしながら、睨まれたら俺の後ろに隠れるのはやめろ‥‥‥
巻き添えを喰らうのは俺じゃないか。
子供たちにいいように言われてイライアが悪辣な笑顔を向ける。
すると、双子は尻尾を最大限まで膨れ上がらせて威嚇しているが‥‥‥これでは子猫と大虎みたいで逆に微笑ましく感じてしまう。
「お前らなあ、喧嘩を売るなら俺の後ろに隠れるな。ほら、お姉様に可愛がってもらってこい」
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ついでにイライアはどこから伸ばしたのか、植物のツタでギルマスたちを捕縛すると、隣の部屋へと出て行ってしまった。
残されたのはアーチャーとニーニャ、そしてグスタフに数人の冒険者たち。
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