漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第三章 たった一人の隣人

死霊術師、脅迫する

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 そしてそこに挟まれる、制止の声。
 いい加減にこのパターンを辞めないか?
 そうアーチャーは苦笑する。
 彼らはまるで変わらない。いつまでも自分が優位だと思いこんで変わらない。
 王国随一の勇者パーティの仲間だったはずなのに。

「あっ、だめ! アーチャー、だめだよ。グスタフに謝ってー‥‥‥」
「何がダメなんだ、ニーニャ? 俺はもう上流階級の貴族様だぞ、そして、ここは俺の領地だ。まあ、いまはたんな黒札の死霊術師、ロンってのを使っているがな? 身分を偽ろうが、ある意味、国王なら問題はない」
「ふん。笑わせるな。その国王が自国の法を自ら破って何が、上流階級だ? お前にはそんなもの、名乗ることすらおこがましいわ!!」
「この下賤な死霊術師が!! ‥‥‥とでも言いたいのかな? 偉大なる聖騎士様??」
「うっ‥‥‥お前、いつからそんなに……??」
「世界じゃ魔族と人類が共存しようとしてるのに、わざわざ魔王討伐なんて掲げる勇者パーティを擁護する王室が正義だとでも思っているのか? ただ、聖女様って役職と女神の恩恵にすがっているだけで、その狭間で苦しむ国王陛下をお救いするのが聖騎士の役割だろうが! こんなとこで油を売るくらいなら、さっさと戻ってあのバカ二人を止めろよ、グスタフ!」
「お前‥‥‥王室に対する反逆に問われるぞ、そのセリフ。この場で反逆罪を適用して欲しいのか? 死霊術師程度に負ける俺だとでも思っているようだな‥‥‥?」

 やめとけやめとけとアーチャーは手を振ってそれを制止してやるが、どうやら聖騎士は思ったよりも――短気でプライドだけは高いらしい。
 まあ、こいつはいつもこうだった。
 あの古城でも魔女と共闘して攻城戦用の大規模破壊魔法を使ったのだ。
 お陰様で、黒曜族のラスと知り合うことになったのだが――こんな先を見通せない輩が勇者パーティにいることの損失を、アーチャーは嘆かないではいられなかった。

「よいしょっと」
「へええ?? ハニャア――っ!!??」
「邪魔だから下がってろ、ニーニャ。お前はまだましだ、おいお前ら、怪我したくなきゃ‥‥‥さっさと逃げろ。それを連れてな?」

 ぽいっと猫耳娘の首根っこをふんづかむと、アーチャーは後ろでこわごわと様子を見ている逃げてしまった冒険者たちに向かって背後に投げていた。
 受け取った冒険者たちは小柄な彼女を軽々と持ちあげてさっさと消えてしまった。

 まったく‥‥‥冒険者が聞いて呆れる。
 まあ、あれが――ニーニャが敵か味方かなんてアーチャーには分からない。
 この数日の間に、いやそれより以前に彼女は戦闘のときもどこかにうまく隠れていてその本意が読めないでいた。盗賊としては優秀。
 人間性は――善悪含めて性根を見せないところはまさしく、盗賊だった。

「さて、聖騎士さんよ。俺もあんたとは一度きっちりと話を付けたかったんだ。我慢して三年間尽くしてきた恩義も返してもらわないとな? 来いよ――まだ揉めている地下のこんな場所で、大乱闘やらかした片割れなんて不名誉な噂が流れるのが嫌なら、俺は別にどうでもいいが?? それでも、聖騎士グスタフが決闘を申し込まれて逃げたって噂はどこからか出まわるだろうなあ?」
「減らず口を叩きやがる‥‥‥だが、お前の言うことにも一理あるな。それに――」

 ニヤリと笑う聖騎士はあごをしゃくって見せた。
 まるでお前の相手はそこにいるぞ、と言わんばかりに不敵な様で。
 懲りないよな本当に‥‥‥
 死霊術師は腰に帯びていた剣を後方のあるところに向けて後ろ手に何気ない感じでその剣先を押し出していた。

「ヒェっ!? ハニャ‥‥‥なんで――??」
「ニーニャ。なんだ、その魔導は? 隠遁者(インビジブル)のスキルか? 気配は消せても殺気が駄々洩れだよ意味がない……お宝と違って相手は人間だぞ? もう少し上達しろよ?」
「嘘っ、なんでよ‥‥‥これ、ライルにだってバレないのに‥‥‥」
「言っただろ? 下手なんだよ。あ、動いたら猫耳切り落とすからな?」
「‥‥‥ッ!? そんなあ‥‥‥アーチャーァ???」
「猫だからって猫なで声で命乞いしても駄目だ。下手くそ過ぎるんだよ、お前も、グスタフも、な。おっと、聖騎士も動くな。お前の夜の相手をしてくれる奴隷が消えるぞ?」

 隙を見て動こうとする。
 どこまでも愚かなかつての仲間たち。
 これが本質なら、エバンス。
 そうあの、勇者の盾がアーチャーの渡した魔道具を離さなかったのも理解できる気がした。
 少なくとも、エバンスは――あのパーティで一番の実力者なのかもしれない。
 後ろを見ずにアーチャーが更に突き出した剣先は、あっさりとニーニャの胸当てにめり込んでいた。
 
「あっ、え‥‥‥? そんな、何でよっ!! 動いてないのに、こんなひどいっ!!」

 ニーニャの軽い悲鳴が吐息と共に漏れる。
 あと一突きで装甲は軽く貫かれるだろう。
 助けてと口で訴える彼女を前にして、聖騎士は剣を床に突き立てるしかなかった。

「おい、待て‥‥‥それは奴隷じゃない‥‥‥。頼む、待て――待ってくれ、アーチャー‥‥‥頼む」
「頼まれてもなあ、もう少しでどこだ? 胸より下腹部にするか?」
「やめろって! なあ、待てよ、おいっ!!」
「下腹部なら内臓も少ない、刺されても死ぬこともないかもな? それとも何か? 子供が宿せないようにしてやろうか?」
「わかった! 分かったから‥‥‥俺が、愚かだった。お前が一番だ、頼むアーチャー。それだけはやめてくれ‥‥‥何をすればいいんだ??」

 聖騎士は情けない声を上げて懇願を始めていた。
 だが、それすらも信頼できない。
 この二人に真実なんてないように思えた。
 アーチャーはそう思い、応じられないねと冷たく微笑んでやるのだった。
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