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第三章 たった一人の隣人
紋章眼の宣教師
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「グスタフ‥‥‥助けて――お願い!!」
ニーニャの悲鳴が辺りに響いた。
さてどうするかな?
理解するのが遅いんだよ、あんたは。
死霊術師の要望?
そんなの決まってるだろ。
「グスタフ、助けたいのか? だが、俺はあんたも倒せるぞ? どうする? ニーニャの何かを交換だ。そうすれば、あんたを助けてやろう。 どうだ、受けるか?」
「‥‥‥っ! グスタフ――、助け――て??」
「待てって!! 何でもする、だから待て‥‥‥」
「何でも? なら一つしかないよ。グスタフ」
「なんだそれは?? 何を――すればいい??」
簡単だろ、そんなもの。
見せしめだ。
それ以外に必要はない。
「あんたを助けよう。だから、ニーニャは――」
あ‥‥‥っ、とニーニャの口から気力が抜けたような冷たい吐息が漏れた。
「貴様ああああ――――っ!!??」
聖騎士の怨嗟の声が室内に響き渡る。
アーチャーの剣先は宣言通り、彼女の下腹部‥‥‥二度と子供を産めないようにその臓器に突き立てられたはずだった。
しかし、ニーニャの身体に突き立てた感触は戻ってこなかった。
「何っ……?」
不意に掻き消えるようにしてニーニャと聖騎士が消えた。
聖騎士の剣はその場に残されたままだ。だが、彼の姿はそこにはない。
俺の視覚を誤魔化したか?
とっさに自分の周囲に防御壁を張ってみるがあまりそれは役に立たないことに、アーチャーは気付いた。
二人は間違いなく、その場から転移などの魔導によって移動さされていると確信できたからだ。
消えた?
消された?
それとも――なんだ、この技は?
イライアといい、後ろに立つ誰かといい。
アーチャーの知らない何かの技を軽々と使い、その都度驚かせてくれる。
剣先を戻して確認すると、血がまったくついていなかった。
誰だよ、こいつ‥‥‥。アーチャーは防御壁を解き、剣を鞘に戻すと振り返ってその男を睨みつける。
見知らない男――だが、その着ている服装は懐かしい幼少期を過ごしたフォンテーヌ教会の宣教師のものだった。
「誰だ、あんたは? 聖騎士とニーニャをどうした? あれは何の技だ??」
「‥‥‥困りますよ、死霊術師様。聖職者の前で殺生をされては、神に会わせる顔がありません。例え、この地の領主であってもね??」
銀縁の眼鏡をかけた黒髪の偉丈夫。
両方の目の色が、左右違って見えた。
右は黒色、左は赤っぽく見えるその片側の瞳にアーチャーは見覚えがあった。
「‥‥‥紋章眼? フォンテーヌ教会の王都のトップ――宣教師がなんでここにいる?」
「さて、なんででしょうか?とりあえず、アーチャー、あなたのその領主の宣言をした記憶をここにいる全員から消さなくてはいけないのではないのかな?」
アーチャーは地上で、新任のフォンテーヌ教会のトップがいるとイライアに言われたことを思いだしていた。
確かにここでバラしてしまったのは早計だったと思うだろうな。
事実を知らない彼から見れば、自分の配慮が足りないと言われても仕方がない。
その程度の保険はこっちもかけているが‥‥‥まあ、いいだろう。
二重に記憶を消せば、後々に起こる問題が減ることにつながる。
だが、この男――名前も知らない彼はそれをどうにか出来るのか?
そんな、いささかの疑念を彼は暗黙裡に理解していたのか‥‥‥ご心配なく、とにっこりと笑って受け流してしまった。
「なあ、そう言うのは勝手だが‥‥‥あんた、どうにかできるのか? 俺はまだ名前も知らない相手を信じる気にはなれないな」
「任せてもらえるなら、期待以上の働きをしますよ? この魔眼、もしくは紋章眼のことを御存知なら可能かどうか理解できるはず。ですよね?」
「‥‥‥それに頼らなくてもできるけどな。何より、名乗りくらいして欲しいもんだ。あんたは一体、誰なんだ?」
「こだわりますね、新領主様。アルザスのフォンテーヌ教会より移動して来ました、ラーズ……役職はマスター・ラーズと呼ばれています。あなたから過分な寄付を頂いたのでそのお礼も兼ねて来たのですがね??」
「あー‥‥‥あれな。あれは俺が世話になったからだよ、宣教師。孤児のために使ってくれなきゃ困るな。ここに来るための旅費に充てないでくれよ、それに俺の楽しみを勝手に邪魔するのは困る。あと少しで二人とも始末できたとは思わないか?」
「あなたが手を下すと、また違法な世界に逆戻りしますよ。それに彼らは俺の大事なパーティメンバーなのでね。ここで死んでもらっては困ります」
パーティメンバー?
この宣教師が勇者パーティに入ったってことか。
妙だな、そうアーチャーは感じていた。教会が特定の何かに肩入れすることはあまり聞いたことがない。
共闘の目的があるなら話は別だが、王都ブルングドのフォンテーヌ教会は紋様省の管轄外のはぐれ教会だったはず。そんな団体に王国が依頼を出すとは考えにくかった。
あるとすれば――理由は一つだけだ。
「イライアには確かに依頼をした。だがそれは地上での話だ。教会とギルドで共闘して良い環境を築いて欲しいってな? だが、地下にまでフォンテーヌ教会があるとは聞いてないが?」
「もちろん、地下世界は未開拓の地。そこに開拓を望むのは冒険ですから、教会は開拓なんて真似はしませんよ。ただ、あなた個人に対しての支援なら話は別だ」
「‥‥‥つまり、あんたを勇者パーティの中に入れたのは――俺の義妹のためか。マスタークラスがそんなことの為に動いてくれるなんて驚きだよ」
「我が教会から出たといっても、あなたは家族ですよ。アーチャー。ところで、彼女を止めなくていいのですか? イライアを放っておけば今度こそ、パルド支部のギルマスたちを殺しかねないかと思いますが」
はあ‥‥‥
アーチャーは大きなため息をついた。
ここは任せたと言い、マスター・ラーズを残して部屋を後にする。
せめてあの聖騎士の言葉が本気だったかどうか。
それを知りたかったが、まあどうでもいい。
「おーい、イライア。その半殺しにして回復させ、また同じ目にあわせるのは‥‥‥拷問だ。さっさと要件を聞き出してくれ。こっちは、明日の件の準備をしたいんだよ」
「あら? まだ死んでないからいいじゃない。 あなたもどう? なかなか楽しいわよ?」
四百年生きたハイエルフはそれだけ残酷な本性を秘めて生きてきたのだろう。
白い脚をオークの血で青く染めて微笑んでいた。
ニーニャの悲鳴が辺りに響いた。
さてどうするかな?
理解するのが遅いんだよ、あんたは。
死霊術師の要望?
そんなの決まってるだろ。
「グスタフ、助けたいのか? だが、俺はあんたも倒せるぞ? どうする? ニーニャの何かを交換だ。そうすれば、あんたを助けてやろう。 どうだ、受けるか?」
「‥‥‥っ! グスタフ――、助け――て??」
「待てって!! 何でもする、だから待て‥‥‥」
「何でも? なら一つしかないよ。グスタフ」
「なんだそれは?? 何を――すればいい??」
簡単だろ、そんなもの。
見せしめだ。
それ以外に必要はない。
「あんたを助けよう。だから、ニーニャは――」
あ‥‥‥っ、とニーニャの口から気力が抜けたような冷たい吐息が漏れた。
「貴様ああああ――――っ!!??」
聖騎士の怨嗟の声が室内に響き渡る。
アーチャーの剣先は宣言通り、彼女の下腹部‥‥‥二度と子供を産めないようにその臓器に突き立てられたはずだった。
しかし、ニーニャの身体に突き立てた感触は戻ってこなかった。
「何っ……?」
不意に掻き消えるようにしてニーニャと聖騎士が消えた。
聖騎士の剣はその場に残されたままだ。だが、彼の姿はそこにはない。
俺の視覚を誤魔化したか?
とっさに自分の周囲に防御壁を張ってみるがあまりそれは役に立たないことに、アーチャーは気付いた。
二人は間違いなく、その場から転移などの魔導によって移動さされていると確信できたからだ。
消えた?
消された?
それとも――なんだ、この技は?
イライアといい、後ろに立つ誰かといい。
アーチャーの知らない何かの技を軽々と使い、その都度驚かせてくれる。
剣先を戻して確認すると、血がまったくついていなかった。
誰だよ、こいつ‥‥‥。アーチャーは防御壁を解き、剣を鞘に戻すと振り返ってその男を睨みつける。
見知らない男――だが、その着ている服装は懐かしい幼少期を過ごしたフォンテーヌ教会の宣教師のものだった。
「誰だ、あんたは? 聖騎士とニーニャをどうした? あれは何の技だ??」
「‥‥‥困りますよ、死霊術師様。聖職者の前で殺生をされては、神に会わせる顔がありません。例え、この地の領主であってもね??」
銀縁の眼鏡をかけた黒髪の偉丈夫。
両方の目の色が、左右違って見えた。
右は黒色、左は赤っぽく見えるその片側の瞳にアーチャーは見覚えがあった。
「‥‥‥紋章眼? フォンテーヌ教会の王都のトップ――宣教師がなんでここにいる?」
「さて、なんででしょうか?とりあえず、アーチャー、あなたのその領主の宣言をした記憶をここにいる全員から消さなくてはいけないのではないのかな?」
アーチャーは地上で、新任のフォンテーヌ教会のトップがいるとイライアに言われたことを思いだしていた。
確かにここでバラしてしまったのは早計だったと思うだろうな。
事実を知らない彼から見れば、自分の配慮が足りないと言われても仕方がない。
その程度の保険はこっちもかけているが‥‥‥まあ、いいだろう。
二重に記憶を消せば、後々に起こる問題が減ることにつながる。
だが、この男――名前も知らない彼はそれをどうにか出来るのか?
そんな、いささかの疑念を彼は暗黙裡に理解していたのか‥‥‥ご心配なく、とにっこりと笑って受け流してしまった。
「なあ、そう言うのは勝手だが‥‥‥あんた、どうにかできるのか? 俺はまだ名前も知らない相手を信じる気にはなれないな」
「任せてもらえるなら、期待以上の働きをしますよ? この魔眼、もしくは紋章眼のことを御存知なら可能かどうか理解できるはず。ですよね?」
「‥‥‥それに頼らなくてもできるけどな。何より、名乗りくらいして欲しいもんだ。あんたは一体、誰なんだ?」
「こだわりますね、新領主様。アルザスのフォンテーヌ教会より移動して来ました、ラーズ……役職はマスター・ラーズと呼ばれています。あなたから過分な寄付を頂いたのでそのお礼も兼ねて来たのですがね??」
「あー‥‥‥あれな。あれは俺が世話になったからだよ、宣教師。孤児のために使ってくれなきゃ困るな。ここに来るための旅費に充てないでくれよ、それに俺の楽しみを勝手に邪魔するのは困る。あと少しで二人とも始末できたとは思わないか?」
「あなたが手を下すと、また違法な世界に逆戻りしますよ。それに彼らは俺の大事なパーティメンバーなのでね。ここで死んでもらっては困ります」
パーティメンバー?
この宣教師が勇者パーティに入ったってことか。
妙だな、そうアーチャーは感じていた。教会が特定の何かに肩入れすることはあまり聞いたことがない。
共闘の目的があるなら話は別だが、王都ブルングドのフォンテーヌ教会は紋様省の管轄外のはぐれ教会だったはず。そんな団体に王国が依頼を出すとは考えにくかった。
あるとすれば――理由は一つだけだ。
「イライアには確かに依頼をした。だがそれは地上での話だ。教会とギルドで共闘して良い環境を築いて欲しいってな? だが、地下にまでフォンテーヌ教会があるとは聞いてないが?」
「もちろん、地下世界は未開拓の地。そこに開拓を望むのは冒険ですから、教会は開拓なんて真似はしませんよ。ただ、あなた個人に対しての支援なら話は別だ」
「‥‥‥つまり、あんたを勇者パーティの中に入れたのは――俺の義妹のためか。マスタークラスがそんなことの為に動いてくれるなんて驚きだよ」
「我が教会から出たといっても、あなたは家族ですよ。アーチャー。ところで、彼女を止めなくていいのですか? イライアを放っておけば今度こそ、パルド支部のギルマスたちを殺しかねないかと思いますが」
はあ‥‥‥
アーチャーは大きなため息をついた。
ここは任せたと言い、マスター・ラーズを残して部屋を後にする。
せめてあの聖騎士の言葉が本気だったかどうか。
それを知りたかったが、まあどうでもいい。
「おーい、イライア。その半殺しにして回復させ、また同じ目にあわせるのは‥‥‥拷問だ。さっさと要件を聞き出してくれ。こっちは、明日の件の準備をしたいんだよ」
「あら? まだ死んでないからいいじゃない。 あなたもどう? なかなか楽しいわよ?」
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