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第三章 たった一人の隣人
「復讐」の線引き
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「難しいことをさらりと言うのね。本当にあなたって嫌な人。シェニアも可哀想」
「シェニア‥‥‥さん?」
「誰ですか、御主人様?」
「あ、いやそれは、な‥‥‥イライア! 子供の前だぞ??」
じーっと双子の怪しいです、なんて目でみつめられたらアーチャーは目を逸らせなくなってしまう。
いまはまだ魂のない入れ物の二人。
どこかに術者と使役されるモノとしてのつながりがあって、それは血よりも濃い時もある。
この子たちに嘘はつけないが、でも知られたくないこともある。
「言えば? 俺は恋人に逃げられたのを言い訳にして地下に降りて来たんだって??」
「え?」
「本当に? 御主人様‥‥‥カワイソウ‥‥‥」
「おいっ、違う!! こら、そんな目で俺を見るな‥‥‥」
「根性なし」
双子に清廉な目で迫られ、イライアにはボソッと嫌味を言われる。
本当に年の功には――勝てない!
ついでに、とイライアは止めを刺しに来た。
「この人、追いかけてフラれるのが怖いから、私にお金を渡せって言ったのよ? まるで手切れ金で、お前はいらない女だ。そんな感じだったわ――」
「ええ―――っ!? それはひどいです、御主人様!」
「最低です、御主人様!!」
「やめろ、捏造するな!! 違う! 違うから‥‥‥分かった。話すからやめてくれ。それよりも渡してくれたのか? シェニアはあれからどうなんだ?」
「何よ、意気地なし。気になる? なるならなんて言うべきなの?」
ハイエルフは勝ち誇ったように言うと、手間ねえとぼやきながらまたツタでギルマスたちを縛り上げた。
そして、やってきたマスター・ラーズに送還しておいて。
なんて気軽に言いよくよく見たら三十代も来ようかという宣教師は苦笑して、それに答えていた。
「お願いいたします。有能なギルドの陰の実力者、イライア。あなたは偉大だ。‥‥‥やり方にだいぶ問題があるが、感謝しているシェニアのことも、義妹のこともだ」
「ふん。そう素直に言えるなら最初から言えばいいのに。ま‥‥‥可愛いぼうやだもの。シェニアが惚れるのも無理ないかもね? 愛玩動物みたいでほっとけない」
死霊術師に妖艶な笑みを贈るハイエルフは、しかし、獣人の双子に阻まれた。
「だめです!」
「あなたは似合わない。危険!!」
「この子たち、可愛くない!! ‥‥‥お金は渡したわ。ラーズが入れたのは、シェニアが抜けたから。同じ女として言わせてもらうけど、あの子はあなたの支えだったはずよね? ギルドから私が出した命令以上に尽くしてきた、わよね?」
「それは間違いないよ、イライア。シェニアの愛を疑ったことはない」
「‥‥‥本気で女の心の機微に関しては無能ね、あなた」
あーやってらんない。
あの子も可哀想。
ぼやくハイエルフになぜか首を振って同意する双子たち。
女性陣の非難の嵐にアーチャーはなぜ俺ばかり、と泣きたくなる始末だ。
「ああ、もう!! いい加減にしろ! 女は集まるとロクなことがない!!」
「だって事実だもの。 ねえ?」
「そうですね、イライア様」
「御主人様には優しさが足りません。本当に」
「お前らまで‥‥‥」
「まあ、つまりね? あの聖女様の目の前で勧告を受けた時もそうだけど、その前からなにかの小さな小さな問題があったんじゃないのかなって。お姉さんは思うんだけど?」
「もういいだろ、ちゃんと話せよ‥‥‥」
どうしようかなー、なんてうそぶくイライアにそろそろいいでしょう? と、声をかけたのは意外にもマスター・ラーズだった。
彼は大人の男性の余裕を以ってアーチャーにそっと告げる。
「アーチャー。さっきの聖騎士にしても猫耳娘にしてもそうだ。あなたは旅のどこかで自分を殺して支えていると思いながらも、耐えれなくなって彼らにチクりと刺すような物言いをして来たんじゃないか、そうイライアは言っているのだよ」
「ラーズあんたまで‥‥‥しかし!」
「まあ、聞きなさい。そんなところが幼いんだ、君は。理想と現実がきちんと合ってない。あのスケルドラゴンの発生にしてもそうだ。助けれたんじゃないのか、その二人を? でも出来なかった。もしくはしなかった。だから、君は罪悪感を背負っている。私にはそう見えるよ?」
「それは違う! 俺は――そんなことはしていない」
「かもしれない。現場は見ていないからなんとも言えないがそう見えると、言われただけでその動揺だ。君の心はだいぶ疲れているように思えるな‥‥‥ついでにシェニアはそんな君を支えるのに疲れていた。仲間と恋人との間に挟まれっぱなしだっただろうな。あのパーティを抜けろっていう王の前での勧告とその場で抗わなかったこと。この二つは単なるきっかけに過ぎない。そう、私は思うがね?」
なら、どうしろと言うんだマスター・ラーズ?
なにが正解だったと??
他人の事には気が回る? いや、大きな大局観はあるが中身はまだ幼い‥‥‥復讐心で周囲が見えていなかったのかもしれない。
アーチャーの脳裏にはさまざまな事柄が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返していた。
「御主人様‥‥‥」
「大丈夫? ロン様? アーチャー様?」
「アーチャーだ、ラナ。ありがとう、ラグ。大丈夫だ‥‥‥」
心配そうに駆け寄る双子だけが、自分の宝物か?
それとも失ってはいけない隣人か?
アーチャーが答えを見つけれずにいると、イライアが呆れたように声を出していた。
「馬鹿ねえ。一言、ついて来いって言わないからよ」
「え‥‥‥? それだけ……なのか???」
「多分、ね?」
「それだけじゃないような言い方だな?」
「そうねえーならこれだけは教えてあげるわ。いい、あの子の過去のバディはね?」
イライアが語るそれは、アーチャーには悪夢のようなシェニアの過去だった。
「シェニア‥‥‥さん?」
「誰ですか、御主人様?」
「あ、いやそれは、な‥‥‥イライア! 子供の前だぞ??」
じーっと双子の怪しいです、なんて目でみつめられたらアーチャーは目を逸らせなくなってしまう。
いまはまだ魂のない入れ物の二人。
どこかに術者と使役されるモノとしてのつながりがあって、それは血よりも濃い時もある。
この子たちに嘘はつけないが、でも知られたくないこともある。
「言えば? 俺は恋人に逃げられたのを言い訳にして地下に降りて来たんだって??」
「え?」
「本当に? 御主人様‥‥‥カワイソウ‥‥‥」
「おいっ、違う!! こら、そんな目で俺を見るな‥‥‥」
「根性なし」
双子に清廉な目で迫られ、イライアにはボソッと嫌味を言われる。
本当に年の功には――勝てない!
ついでに、とイライアは止めを刺しに来た。
「この人、追いかけてフラれるのが怖いから、私にお金を渡せって言ったのよ? まるで手切れ金で、お前はいらない女だ。そんな感じだったわ――」
「ええ―――っ!? それはひどいです、御主人様!」
「最低です、御主人様!!」
「やめろ、捏造するな!! 違う! 違うから‥‥‥分かった。話すからやめてくれ。それよりも渡してくれたのか? シェニアはあれからどうなんだ?」
「何よ、意気地なし。気になる? なるならなんて言うべきなの?」
ハイエルフは勝ち誇ったように言うと、手間ねえとぼやきながらまたツタでギルマスたちを縛り上げた。
そして、やってきたマスター・ラーズに送還しておいて。
なんて気軽に言いよくよく見たら三十代も来ようかという宣教師は苦笑して、それに答えていた。
「お願いいたします。有能なギルドの陰の実力者、イライア。あなたは偉大だ。‥‥‥やり方にだいぶ問題があるが、感謝しているシェニアのことも、義妹のこともだ」
「ふん。そう素直に言えるなら最初から言えばいいのに。ま‥‥‥可愛いぼうやだもの。シェニアが惚れるのも無理ないかもね? 愛玩動物みたいでほっとけない」
死霊術師に妖艶な笑みを贈るハイエルフは、しかし、獣人の双子に阻まれた。
「だめです!」
「あなたは似合わない。危険!!」
「この子たち、可愛くない!! ‥‥‥お金は渡したわ。ラーズが入れたのは、シェニアが抜けたから。同じ女として言わせてもらうけど、あの子はあなたの支えだったはずよね? ギルドから私が出した命令以上に尽くしてきた、わよね?」
「それは間違いないよ、イライア。シェニアの愛を疑ったことはない」
「‥‥‥本気で女の心の機微に関しては無能ね、あなた」
あーやってらんない。
あの子も可哀想。
ぼやくハイエルフになぜか首を振って同意する双子たち。
女性陣の非難の嵐にアーチャーはなぜ俺ばかり、と泣きたくなる始末だ。
「ああ、もう!! いい加減にしろ! 女は集まるとロクなことがない!!」
「だって事実だもの。 ねえ?」
「そうですね、イライア様」
「御主人様には優しさが足りません。本当に」
「お前らまで‥‥‥」
「まあ、つまりね? あの聖女様の目の前で勧告を受けた時もそうだけど、その前からなにかの小さな小さな問題があったんじゃないのかなって。お姉さんは思うんだけど?」
「もういいだろ、ちゃんと話せよ‥‥‥」
どうしようかなー、なんてうそぶくイライアにそろそろいいでしょう? と、声をかけたのは意外にもマスター・ラーズだった。
彼は大人の男性の余裕を以ってアーチャーにそっと告げる。
「アーチャー。さっきの聖騎士にしても猫耳娘にしてもそうだ。あなたは旅のどこかで自分を殺して支えていると思いながらも、耐えれなくなって彼らにチクりと刺すような物言いをして来たんじゃないか、そうイライアは言っているのだよ」
「ラーズあんたまで‥‥‥しかし!」
「まあ、聞きなさい。そんなところが幼いんだ、君は。理想と現実がきちんと合ってない。あのスケルドラゴンの発生にしてもそうだ。助けれたんじゃないのか、その二人を? でも出来なかった。もしくはしなかった。だから、君は罪悪感を背負っている。私にはそう見えるよ?」
「それは違う! 俺は――そんなことはしていない」
「かもしれない。現場は見ていないからなんとも言えないがそう見えると、言われただけでその動揺だ。君の心はだいぶ疲れているように思えるな‥‥‥ついでにシェニアはそんな君を支えるのに疲れていた。仲間と恋人との間に挟まれっぱなしだっただろうな。あのパーティを抜けろっていう王の前での勧告とその場で抗わなかったこと。この二つは単なるきっかけに過ぎない。そう、私は思うがね?」
なら、どうしろと言うんだマスター・ラーズ?
なにが正解だったと??
他人の事には気が回る? いや、大きな大局観はあるが中身はまだ幼い‥‥‥復讐心で周囲が見えていなかったのかもしれない。
アーチャーの脳裏にはさまざまな事柄が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返していた。
「御主人様‥‥‥」
「大丈夫? ロン様? アーチャー様?」
「アーチャーだ、ラナ。ありがとう、ラグ。大丈夫だ‥‥‥」
心配そうに駆け寄る双子だけが、自分の宝物か?
それとも失ってはいけない隣人か?
アーチャーが答えを見つけれずにいると、イライアが呆れたように声を出していた。
「馬鹿ねえ。一言、ついて来いって言わないからよ」
「え‥‥‥? それだけ……なのか???」
「多分、ね?」
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イライアが語るそれは、アーチャーには悪夢のようなシェニアの過去だった。
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