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第四章 魔族と死霊術師
「脅威」の死霊術師
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「さて、それじゃ覚悟はいいか?」
とは言っても拘束された上に、さるぐつわなんてされてたんじゃ荒い息と唸るしかできない訳だが。
いい土台になってくれるのだろうか?
この三人――もとい、元『朱色の四刃』のこの三人、リーファ、アーレン、レズロ。
人間に広く思念波を伝播するには、触媒。
現代風に言えば、アンテナが必要だ。
それを中心に置いて魔人様の結界につなげればいい。
三人もいればさらに増幅も可能だ。
「まあ、あれだよ。生きて生還できることは保証してやるよ。ただし‥‥‥」
「精神的にまともかどうかは保証しない、ですね。いや、まさしく鬼畜の所業。地下世界の主に相応しいかもしれませんね、アーチャー」
「ラーズ‥‥‥。恐怖を煽るのは俺だけでいいんだよ。あいつらを指導する立場になるあなたがやったら駄目だろ」
おや、そうですかね?
宣教師は相変わらずにこやかな笑みを崩さない。
「まあ、さっさと終わらせましょう。準備だけしておけば、あとは自動的に動き出すでしょう。なにせ、人間というのはそれほどに大容量の魔法すらも受け入れる器がある。矮小な種族がなぜこうも多くの勇者や聖女を輩出してきたのか。その一旦を垣間見ることができる良い実験ですね。参考になります」
「あんたなあ‥‥‥実験材料じゃないんだからな? あいつらで同じ事をしないでくれよ、頼むから‥‥‥」
「御安心を。我が子らにそのような真似はしません。むしろ、その子らに愚かな罪と働いた彼らには苦しんでいただかなければ」
聖職者ってのはこれだから怖い‥‥‥いや、差別はいけないんだが。
世界にはもっと奇特で敬虔な信徒がたくさんいるはずだからな。
しかし、この魔女だけは相変わらず文句が多いというか、黙らないというか。
「おい、何を言いたいんだ? そんな格好になってもう命運すらも決まったってのにまだ文句を言い足りないのか?」
口枷を試しに外してみる。
大騒ぎするかと思いきや、リーファは静かににらみつけると静かに呟いただけだった。
「‥‥‥いつか、必ず後悔するわよ?」
「ほう? もうしてるよ。この枷を外したことも」
「減らず口を‥‥‥っ」
「吐き捨てるように言うなあ。さんざん、ラナとラグの命を削るようなことをしておいて、罪悪感もないのか?」
「ある訳ないじゃない! あれは、たかだか金貨二枚で買った消耗品なんだから!!」
「そうか。ならその消耗品以下の値段でいずれ売ってやるよ。聞いたと話だが、人間族の魔女ってのは魔王に高く売れるらしいな? 良い実験材料になるんだとか??」
「ひ‥‥‥っ!?」
口と表情は怯えて見える。
しかし、この魔女はなんとも言えないなにかを持っている。
余裕? いや違う。
まるでここにいない安心感を抱いている、そんな感覚だ。
そう、自分はただ見ているかのようなそんな感覚。
透けるようなその瞳の向こう側で、誰かが見ているような気がアーチャーにはしていた。
「マスター。懺悔をしたいと言えば、あなたはどうする?」
「懺悔? 今更ながらの後悔ですか? 珍しい」
「いや――後悔じゃない。こいつらにした約束を反故にすることを神に謝罪したい。あんたの手柄を死神に譲ることになるってな‥‥‥」
「アーチャー。何をするにしてもあまり時間がないですよ」
「驚かないんだな、あなたは。どこまで鋼のメンタルなんだ??」
「まさか。泡のようにはかない精神です。ただ、あなたも私も。ともに何かを背負っているにすぎない。で、何をしたいのですか? 私でなければできないことのようだ」
紋章の詰まった聖典を開く彼にはかなわない。
義妹を任せるには信頼に足り、それでいて敵に回ればどうなるのか。
一瞬、そんな不安が頭をよぎるのがアーチャーには、リーファ動揺に不気味だった。
「やって欲しいことは簡単だよ。鳥かごの中身を交換したい。その赤の月まで行けるって自慢の紋章で‥‥‥やってくれ」
「それは可能ですが、しかし、見た目の問題はどうします? 増幅は?? どうやってその見たままを――ああ、なるほど。恐怖はその身で味わってこそ、ですか。魔族より魔族のようですね、あなたは」
「呆れるように言わないでくれよ。ただ、処刑される人間が変わるだけだ。ああ、違うな――中身が変わるだけか」
ああ、やっぱりな。
リーファだけは俺たちの会話の意味を理解している。
その中に誰かいたわけじゃないのか。
ただ、彼女がほんの少しだけ人とかけ離れた存在なんだろう。
魔女とは――俺も含めてまともじゃない人種らしい。
この時のアーチャーはそう思っていた。
宣教師はどうかは分からない。しかし、ラーズもまたその非道徳な計画を批判するわけでもなく、むしろ笑顔で協力するところは異常なのかもしれない。
こうして、外見だけをそっくりに入れ替えられた三人は、あの三人の獣人たちと交換された。
人知れずさも自然に、違和感がないように。
それはアーチャーの精神支配による効果が大きかったのだろう。
開場時間まで、誰にも悟られることなく、三人は鳥かごの中の虜囚と交換されたのだった。
その後しばらくして行われた展覧会という名の解体ショーは、アーチャーとラーズの目の前で盛況を見せていた。
拍手と喝采、歓喜の声に誰もが見てはいけないものを見て喜ぶという血の祭典が、その狂気の様を華開かせると同時に、刃がある程度の痛みを生贄に知らしめたその時。
アーチャーの画策したそれは発動する。
弱く貧弱な人間の多くは予想通りに意識を失い、獣人は歓喜から嘔吐するほどの血なまぐささにその心を砕かれていた。
魔族は恐怖と歓喜の双方をその習性によって魂を揺さぶられ、本能と理性で抑え込むことに必死になっていた。
はるか一万年と少し前に行われた、ありとあらゆる種族、知性のある存在が同じ感覚を共有する。
神にしか許されないその蛮行を、魔人の名も元に行った新たな領主の名と存在を、結界の中だけにとどまらず、その内外にいた魔族たちも共有した。
元勇者パーティで活躍し、昏迷する地下世界の統治のために地上世界から送り込まれた宮廷死霊術師。
青の魔人に存在を認められ、パルド市の闇を一掃した新領主、その名はアーチャー・イディス。
性別はわかるが年恰好は不明な新たな脅威を、魔族は痛いほどにその脳裏に刻みつけられたのだった。
とは言っても拘束された上に、さるぐつわなんてされてたんじゃ荒い息と唸るしかできない訳だが。
いい土台になってくれるのだろうか?
この三人――もとい、元『朱色の四刃』のこの三人、リーファ、アーレン、レズロ。
人間に広く思念波を伝播するには、触媒。
現代風に言えば、アンテナが必要だ。
それを中心に置いて魔人様の結界につなげればいい。
三人もいればさらに増幅も可能だ。
「まあ、あれだよ。生きて生還できることは保証してやるよ。ただし‥‥‥」
「精神的にまともかどうかは保証しない、ですね。いや、まさしく鬼畜の所業。地下世界の主に相応しいかもしれませんね、アーチャー」
「ラーズ‥‥‥。恐怖を煽るのは俺だけでいいんだよ。あいつらを指導する立場になるあなたがやったら駄目だろ」
おや、そうですかね?
宣教師は相変わらずにこやかな笑みを崩さない。
「まあ、さっさと終わらせましょう。準備だけしておけば、あとは自動的に動き出すでしょう。なにせ、人間というのはそれほどに大容量の魔法すらも受け入れる器がある。矮小な種族がなぜこうも多くの勇者や聖女を輩出してきたのか。その一旦を垣間見ることができる良い実験ですね。参考になります」
「あんたなあ‥‥‥実験材料じゃないんだからな? あいつらで同じ事をしないでくれよ、頼むから‥‥‥」
「御安心を。我が子らにそのような真似はしません。むしろ、その子らに愚かな罪と働いた彼らには苦しんでいただかなければ」
聖職者ってのはこれだから怖い‥‥‥いや、差別はいけないんだが。
世界にはもっと奇特で敬虔な信徒がたくさんいるはずだからな。
しかし、この魔女だけは相変わらず文句が多いというか、黙らないというか。
「おい、何を言いたいんだ? そんな格好になってもう命運すらも決まったってのにまだ文句を言い足りないのか?」
口枷を試しに外してみる。
大騒ぎするかと思いきや、リーファは静かににらみつけると静かに呟いただけだった。
「‥‥‥いつか、必ず後悔するわよ?」
「ほう? もうしてるよ。この枷を外したことも」
「減らず口を‥‥‥っ」
「吐き捨てるように言うなあ。さんざん、ラナとラグの命を削るようなことをしておいて、罪悪感もないのか?」
「ある訳ないじゃない! あれは、たかだか金貨二枚で買った消耗品なんだから!!」
「そうか。ならその消耗品以下の値段でいずれ売ってやるよ。聞いたと話だが、人間族の魔女ってのは魔王に高く売れるらしいな? 良い実験材料になるんだとか??」
「ひ‥‥‥っ!?」
口と表情は怯えて見える。
しかし、この魔女はなんとも言えないなにかを持っている。
余裕? いや違う。
まるでここにいない安心感を抱いている、そんな感覚だ。
そう、自分はただ見ているかのようなそんな感覚。
透けるようなその瞳の向こう側で、誰かが見ているような気がアーチャーにはしていた。
「マスター。懺悔をしたいと言えば、あなたはどうする?」
「懺悔? 今更ながらの後悔ですか? 珍しい」
「いや――後悔じゃない。こいつらにした約束を反故にすることを神に謝罪したい。あんたの手柄を死神に譲ることになるってな‥‥‥」
「アーチャー。何をするにしてもあまり時間がないですよ」
「驚かないんだな、あなたは。どこまで鋼のメンタルなんだ??」
「まさか。泡のようにはかない精神です。ただ、あなたも私も。ともに何かを背負っているにすぎない。で、何をしたいのですか? 私でなければできないことのようだ」
紋章の詰まった聖典を開く彼にはかなわない。
義妹を任せるには信頼に足り、それでいて敵に回ればどうなるのか。
一瞬、そんな不安が頭をよぎるのがアーチャーには、リーファ動揺に不気味だった。
「やって欲しいことは簡単だよ。鳥かごの中身を交換したい。その赤の月まで行けるって自慢の紋章で‥‥‥やってくれ」
「それは可能ですが、しかし、見た目の問題はどうします? 増幅は?? どうやってその見たままを――ああ、なるほど。恐怖はその身で味わってこそ、ですか。魔族より魔族のようですね、あなたは」
「呆れるように言わないでくれよ。ただ、処刑される人間が変わるだけだ。ああ、違うな――中身が変わるだけか」
ああ、やっぱりな。
リーファだけは俺たちの会話の意味を理解している。
その中に誰かいたわけじゃないのか。
ただ、彼女がほんの少しだけ人とかけ離れた存在なんだろう。
魔女とは――俺も含めてまともじゃない人種らしい。
この時のアーチャーはそう思っていた。
宣教師はどうかは分からない。しかし、ラーズもまたその非道徳な計画を批判するわけでもなく、むしろ笑顔で協力するところは異常なのかもしれない。
こうして、外見だけをそっくりに入れ替えられた三人は、あの三人の獣人たちと交換された。
人知れずさも自然に、違和感がないように。
それはアーチャーの精神支配による効果が大きかったのだろう。
開場時間まで、誰にも悟られることなく、三人は鳥かごの中の虜囚と交換されたのだった。
その後しばらくして行われた展覧会という名の解体ショーは、アーチャーとラーズの目の前で盛況を見せていた。
拍手と喝采、歓喜の声に誰もが見てはいけないものを見て喜ぶという血の祭典が、その狂気の様を華開かせると同時に、刃がある程度の痛みを生贄に知らしめたその時。
アーチャーの画策したそれは発動する。
弱く貧弱な人間の多くは予想通りに意識を失い、獣人は歓喜から嘔吐するほどの血なまぐささにその心を砕かれていた。
魔族は恐怖と歓喜の双方をその習性によって魂を揺さぶられ、本能と理性で抑え込むことに必死になっていた。
はるか一万年と少し前に行われた、ありとあらゆる種族、知性のある存在が同じ感覚を共有する。
神にしか許されないその蛮行を、魔人の名も元に行った新たな領主の名と存在を、結界の中だけにとどまらず、その内外にいた魔族たちも共有した。
元勇者パーティで活躍し、昏迷する地下世界の統治のために地上世界から送り込まれた宮廷死霊術師。
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