漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第四章 魔族と死霊術師

悪夢と幻想の死霊術師

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 呪いの声をあげることもできずに、彼ら・彼女たちは死んでいた。
 最初に肉屋に入った際に、まず舌を抜かれる。
 四肢の健を切り裂かれ、身動きをとることに激しい制限がかかる。
 縛り上げられ、肉が良くなるからという理由で魔法による感覚の遮断、そして酩酊状態にされ、天井からつるし上げられて迎えれる数時間から数日内の死。
 そこの門をくぐることで、この世には二度と戻れないというそんな覚悟をしなければならない、この世の最後の場所。
 それが――肉屋だった。

 処刑という名の残酷な解体の場で、魂だけが安寧に死神によって守られ、あの世と死の世界へと送られていく中で、誰がこの世の地獄に戻りたいものか。
 魔人様が双子の魂を戻さないのではなく、彼女たちの死んだ魂は人格をもって拒否したのだ。
 アーチャーはそれを間に立ったイライアから聞かされて、双子には申し訳ないことをしたと悔やんでいた。

「魔人様に交渉に行かなきゃ、あの世の魂も知ることなかったのにねー普通、思わないわよ? 自分たちの肉体が再生されて、生きていたときのように人生を謳歌しているなんて、ね? 罪作りな死霊術師だわ、本当に」
「やめろよ、あいつらはようやく寝つけたんだ。獣人は耳が良いんだ聞かせたくないだろ? ……まだ子供だぞ、あの二人はえらく成長してはいるが、聞いてみたらまだ八歳だっていうじゃないか。俺が賢者の都に招かれた時でも五、六歳の時だ。獣人は成長が早いといっても八歳はないだろ‥‥‥?」
「賢者の都ねえ、選ばれた存在の前にだけその門が現れるって噂だけど、まあいいわ。年齢はあれで普通よ? 獣人は獣と同じで成長が早いの。 それに気づいていないの? あの子たち、地上世界にいる獣人とは違うわよ? あんな真っ白の尾の狼耳の種族なんて見たことないわ」
「‥‥‥どういうことだ? 狼の獣人、よくて蒼狼か赤狼のどちらかじゃないのか?」

 賢者の塔で学んだ亜人に関する知識をアーチャーは総動員する。
 人狼を祖先とする、狼の獣人は確か‥‥‥

「じゃあ、ロブ、か? あの巨大な魔獣の?」
「そんなわけないでしょう!? ロブは東の大陸の密林から出てこないわよ。だいたい、あいつらは――どこまで行っても四本足で狩りが大好きなんだから! 忌々しい」
「どこに行っても敵だらけだな、ハイエルフ。だから恋人ができないんだよ、結婚もな。で、どの種族だ――蒼、赤、ロブ‥‥‥黒狼は炎豹族に滅ぼされたし、灰狼は数千年前に魔王バディムが英雄王ラードリーだったか? あれに討伐された際に地上世界から――あ‥‥‥地下に逃げたのか?」
「かもねー魔界のどこかにひっそりと生きているかも? だけどどうかしら? 獣人は産まれる数も多いから。戻してもまた売られるかもね」
「ふう‥‥‥だからこそ、任したんだろ? 何が欲しいんだ?」

 ふっとハイエルフは気付いた、そんな顔をしていた。
 そして、それはね? なんて言ってくる。

「賢者の塔にはどうすれば行けるの? 知りたいことがたくさんあるのよ」
「正確には賢者の都ハグーンと、ジェニスの塔だよ。ハグーンで学ぶ最高位が博士。その後、あちらから扉が開かれるのさ、それがジェニスの塔。どれだけ優秀でも選ばれない者には一生、開かれない」
「自分から選ぶんじゃないんだ?」
「違うな。ちなみに、賢者の都には三種類行く方法があるぞ?」
「‥‥‥は??」

 イライアは驚きの顔をしていた。
 まあ、それはそうだろう。
 あそこは天空大陸。
 誰もが憧れる場所だから。

「世界各国の要人や王侯貴族、その令息や令嬢がくる。中には‥‥‥魔王の息子なんてのもいたな」
「‥‥‥はああ!!??」
「ハイエルフの王族なんてのもいた。確か東のハイエルフの王はルケード帝国の皇帝だったよな?」
「帝国の名前は極秘のはずなのに‥‥‥」
「ま、そんなとこだよ。その連中は猫耳族の飛空艇を利用する。一般からあの大陸に行くのもそれが主な交通手段だな。あとは、他の天空を支配する竜族や妖精、精霊族の上位の存在も来る。他の異世界からも‥‥‥いたなあ。最後は俺みたいな、門に最初から選ばれたやつ」
「もういいわ。ようはお金があるか、地位があるか、才能がなきゃだめなんじゃないの!?」
「だな。ところで‥‥‥なあ。聞いていいか?」

 嫌。
 舌を出してイライアは即答する。
 ただ、一言。

「泣いていたわよ? あの子、愛が枯れた訳ではないのかもね?」
「イライアにもそんな相手が来るさ。あの二人にもそうであってほしい。そうだろ、世界を変える汚れ仕事は大人の責任だ。子供に背負わせるのは間違ってる」
「ガキのくせに、口だけは立派なんだから‥‥‥それで、配信する内容は決まったの??」

 もちろん。
 アーチャーはにんまりと微笑んでいた。

「あの場で処刑された数人の無念の思いをそのまま、な。さ迷っていた魂と、捨てられていた遺骸から採取した。しかし、酷いもんだな‥‥‥酷いと言えばあれか。獣人の世界では、他の種族を食するってのは――異常でもなんでもないんだな?」
「まあ、ね。さっき話題にでた黒狼族は、上位だった炎豹族に逆らい、戦争に負けて食べつくされて絶滅したって歴史的事実もあるもの。その夢程度でどうにか出来ると思っているの??」
「いいや? あんな大層な発言をしたけど地下世界の支配層の最上位に近い立場だと、多くは人間族だってのは間違いのない事実だろ? そいつらに伝わればいいのさ。最後に新領主は多くの間者、つまりスパイを放って監視しているぞ。そう恐怖を与えるのが目的だよ。そして、領主の城に辿り着くまでの旅程の間にそいつらの支配地がある。誰もが考えるだろうな、俺が先触れであり、スパイたちの元締めであり、新領主に報告しているってさ」
「命狙われるわねー‥‥‥大丈夫なの?」
「俺一人ならな。しっかし‥‥‥」

 もし、ここまで誰かさんが予測して筋書きを書いているのだとしたら――いつかはそいつをぶん殴ってやる。アーチャーはそう、心に誓ったのだった。 
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