漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第三章 たった一人の隣人

「死霊術」の真実?

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 しかし、彼女たちはそれを受け入れがたいと更にしがみついてくる。
 アーチャーとラグとラナ。
 三人は術者と使役される側として深いつながりがあるのかもしれなかった。

「御主人様、でも――ラグは嫌です。地上なんて行ったことがない」
「アーチャー様、ラナも同じです。いまラナとラグはアーチャーの‥‥‥心が少しだけわかる。側にいたい」
「そうだな。俺もそう思ってる。でも、俺は一人がいい理由はわかるな?」

 双子は黙ってしまう。
 アーチャーの心には彼女たちが立ち入れない世界がある。
 そこに入れるのは彼のただ、一人の隣人。
 シェニアだけだ、と。
 そしてもう一つの扉は誰にも開けることが出来ない。
 
「どうしても? わたしたちも役に立ちたい!御主人様の、願いを叶えたい」
「そう! ラナもアーチャーの思いが分かるの。止めないの‥‥‥?」
「いつの間にか、アーチャーになってるな?」
「あ‥‥‥」
「いいよ、ラナ。呼び捨てでいいんだ。止める気は無い。だが、理由を聞いたり何をするかの話はこれで終わりだ、いいな?」
「はい‥‥‥」

 尻尾を立てて懸命に役に立ちたいとアーチャーに訴える双子は、仕方なくしょんぼりと尾を降ろしてしまった。
 彼は誰がどう言おうと許可しない。
 それが痛いほどに誰よりも理解できてしまったから。
 アーチャーの孤独を埋めれるのは、自分たちではないとも。

「アーチャーはどうしてそんなに寂しいの?」
「御主人様は独りが好きなんですね‥‥‥」
「俺のことは終わりにしような、二人とも。明日にはこのハイエルフと上に行くんだ、いいな?」

 途端、三人からそれぞれ三者三様の疑問と否定の声が上がる。
 アーチャーはそれを無視して、二人を手元から離すとイライアに押し付けた。

「拒否はだめだ。マスター・ラーズとイライアについて行くんだ。いいな?」
「ラーズ宜しくね? まだ地下の後始末があるのよ。まったく‥‥‥逃げるの上手よね、男って。本当に卑怯なんだから」
「うるさいよ、ハイエルフ。趣味の悪さじゃ、似たようなもんだろ? 術の秘密は教えないからな‥‥‥」
「ちっ‥‥‥」
 
 また、舌打ちなんかして。
 こいつらの教育に悪いだろう?
 そう思い双子を見たら、信じられない。なんて、顔をして二人はイライアを見ていた。
 まだこの二人はまともな心を持っているらしい。
 それを失わずに第二の人生を歩んで欲しい。アーチャーはそう願わずにはいられなかった。

「で、明日はなにをどうするの? 今日はラーズといろいろと動いていたみたいだけど」
「知りたいか? その二人が成人するまであと何年か分からんが面倒を見るって約束するなら教えてもいい」
「良いわよ? だってあなたのその能力に関係していそうだもの。それくらいの価値はありそうだわ」

 勘のいいババアだ。
 アーチャーはそう思いながら、ラーズを指差した。

「まず、ラーズには紋章で魔人様から借りる予定の結界。この最果ての地を瘴気から守っているあれに、俺の思考を増幅して反映してもらう」
「思考? どうして思考なの?」
「夢を見てもらうのさ。自分が処刑される側を体験してもらうんだ。結界の中にいる全員にそれを配信する。脳内に直接だ」
「悪趣味‥‥‥それってあなたのオリジナル? 違うわよねえ??」
「もちろん違う。前例があるじゃないか。最高神カイネが、古代神六神と最初に対立したときにした、あの宣言と同じだよ。全種族の脳内に、神との対話を見たまま、聞いたまま配信した。そして――」

 そこから先は、王国の子供なら誰でも知っている伝説だ。
 最高神カイネは古代神たちから、どの種族にも干渉できないように結界を張った。
 そして言ったのだ。

「全種族の独立宣言、だったわね。神殺しを名乗った最初の聖女。同時に一度は全ての魔王を滅ぼして魔族を地上からも地下からも抹殺した‥‥‥狂気の殺戮者」
「ま、どんな神様も善悪の側面があるって例かもな?過去に一番上の神様がやってるんだ。誰も文句は言わないだろ?」
「あなたのほうが邪悪だわ‥‥‥それに、全種族にって言うけど、どうやって脳とつながるつもり? 種族によって脳や精神の波長は違うのよ? そんな万能な力ある訳‥‥‥あ、その為の死霊術!?」

 正解だよ、とアーチャーは微笑んでやる。
 魂の根幹だけは、どの種族も同じだからだ。
 ただし、どんな存在であっても魂に軽々しく触れることはできない。
 それを可能とするための、魔人の結界とラーズの紋章による精神波の増幅だった。

「ま、そんなとこだな。俺が見たままをみんなに見せればいい。もしくは想像でも構わないが‥‥‥なるだけ現実感あった方が効果的だろう? トラウマになる連中が多いだろうな」
「最低で最悪の方法を思いつくのね、あなた‥‥‥。そんな派手なことをしたら、間違いなく魔王たちから狙われるわよ? まさか、それが狙いだって言わないわよね? それこそ、公私混同じゃないの」
「俺は領主様だからなー。上の勇者や聖女様と同じだろ?」
「信じられない! ラーズ、あなたも何か言いなさいよ?」
「さて、私にはアーチャーがそこまで酷いものを見せるとは思えないが。彼には別の考えがあると信じて、明日は地上に戻るとしよう。イライア、ここのギルマスたちを私刑にかけたあなたに発言権はないと思うね」

 痛い所を突かれてイライアが絶句すると、ラーズは自分も質問があると言い出した。

「昼間の、ニーニャの術をどうやって見破ったんだい、アーチャー? あれは殺気どうこうで見破れるような術でないと思うんだが? それも死霊術に関係があるのかな? 結界と、脳波。みょうに密接している気がするな」
「マスター‥‥‥本当に、ただの宣教師なのか? あなたが義妹の警護に回ってくれたとは知らないから、俺はあの二人に罠を仕掛けたんだ。いざとなれば、盾になるように暗示のようなものを混ぜた。どうして分かった?」
「さあ? 勘? それとも、この――」

 と、ラーズは自分の紋章眼を指差した。

「他の宣教師よりも持っている紋章が多いのかもね?」
「喰えない人だ。一般のマスタークラスの持つ紋章は?」
「だいたい、十数個から三十個が限界かな?」
「あなたは‥‥‥?」
「千二百?」
「おいっ!? 本当か?」

 紋様省が発表している世界のなかで使われている紋様は多く見積もって三百。
 その四倍も常時扱えるとなれば――それは、青の位階の自分以上の存在となる。

「嘘だよ。良くて二十だ。これでも落ちこぼれでね?」

 軽やかに笑うこの男が、一番の曲者だった。
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