漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第四章 魔族と死霊術師

「狼」の掟

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「気が済んだか?」
「悲鳴でも上げれば済むかもしれない‥‥‥」
「その程度で上げたらこれから先の戦いに挑めないだろ。
 情けなく泣いてる場合じゃないんだよ。
 俺にとってはな」
「戦い‥‥‥? 新しい領主様になるのに誰と戦うの??」

 珍しく、真面目な顔つきで聞いてくるシェナは初めて見たかもしれない。
 その目には相手を心の底から心配しているように見えて、アーチャーは気を削がれた。

「秘密だ‥‥‥。知る必要はない」
「ふうん。教えてくれたら、シェナのことも教えてもいいよ?」
「本当か?」
「アーチャーみたいに嘘はつかない。新しい男のことは知りたい」

 新しい男?
 何か違う気がするが、まあいいか。
 そう思い、アーチャーはその申し出を受けることにした。

「俺は幼いころに義父を魔族に殺されている。その相手を探してるんだ」
「魔族の相手? だけど、アーチャーは地上世界の生まれじゃないの?」
「そうだが、地下は魔族の世界だ。もしかしたら、地下世界のどこかにその仇がいる可能性がある、だからここにいるんだ。納得したか?」
「んー‥‥‥?
 でもそれで死んだら、アーチャーは本当の嘘つきになるね」
「相討ちなら‥‥‥」

 ううん、とシェナは首を振る。
 それでもあなたは嘘つきになると言うのだ。
 アーチャーには意味がまったく理解できなかった。

「なんでそうなる? お前はロア族の親元で自由に暮らせるんだ。俺は関係ないだろう? 好きなようにすればいい」
「だから‥‥‥それが嘘つきになる。めんどくさい。人間のことは詳しく知らない。でもロア族の女は、いつも一族のもの、親のもの。家族のもの。結婚したら夫のもの。自由なんてない」
「そういう考え方か‥‥‥」
「そうなのっ!! だから、アーチャーが言う、自由になれっていうのは無理。地下世界に住んでいる限り、そのしきたりから離れることは許されない。意味わかる? 自由になれってことは、シェナに死ねって言っているのと同じ奴隷じゃなくなれば、シェナは親のものに戻る。でも生きることは多分、許されない」
「なんでだ? 娘が無事に戻って来て、喜ばない親がどこにいる?」

 それが間違いなの、そうシェナは悲し気に言った。
 人間の常識とロア族の常識は違う。
 奴隷に売られた女が戻っても、それは恥でしかない。
 
「父上はロア族の氏族の長の一人。その娘がシェナ。王と同じ。王は名前が大事。それは人間は違うの?」
「同じかもしれないな。名誉、体面、面子。どれも俺は好きじゃない」
「どういうこと??」
「俺はそんなものよりも娘を守りたい。売りに出すくらいなら自分が死んだ方がいい。それが俺の正義だな」
「正義じゃ、家族は守れない。いまだって、シェナを殺そうとしてる‥‥‥」
「ならどうすればいい? 人間はお互いに話をして決めるんだ。お前がこれがいいと思うのは何だ? 理想の話をしても始まらないぞ、シェナ。現実的な話をしないか?」

 あ、不機嫌な顔になった。
 分かりやすい奴だ‥‥‥
 シェナの尻尾がそれまで意気揚々と立っていたのに、途端にしおれてしまう。
 感情を示すバロメーターとして、ロア族の男たちはこれを利用しているのかもしれない。
 そう、アーチャーがふと思った時だった。

「じゃあ、現実的な話。アーチャーは、シェナの父上様に会いたい? 会ってなにを話したい? どんなことを望みたいの?」
「いや望むって‥‥‥まるで褒章でも与えるような言い方だな?」
「それはそう。売られて殺されかけた娘を助けて連れてきた男。種族は関係ない。王は感謝を述べ、何かを与えるそうしないと、みんなに笑われる。自分のものを大事にしないって」
「複雑だな、おい。それなのにまた売ったり、殺そうとするのか?」
「与えられた役目を果たさない子供は無能と同じだから。それも仕方ない」
「お前の役目って‥‥‥なんだよ?」
「税金の代わりに奴隷になり、肉屋で商品になること。あの場所で身体を裂かれ、そして死ぬこと。それが役目なのに、アーチャーはシェナの役目を邪魔したの。だから怒ってるの」

 ああ、そういうことか。
 シェナの怒りの根本はそこだったとはな‥‥‥気付かなかった。
 こいつの種族の価値観だと、死んでも与えられた役割をこなすことが正義なんだ。
 そして美徳でもある。
 それが出来ない娘は不名誉。
 だから、戻れば殺されるし、抱きしめても貰えない。
 俺はシェナの誇りを踏みにじったことになるわけか‥‥‥なるほどな。

「そうか。なら俺も怒っていいか?」
「意味が理解できない。ばかにされたのはシェナなのに」
「なあ、シェナ。ロア族の考え方は少しだが理解した。じゃあ、教えてくれ。父上は氏族の長だな?」
「そう。それが何?」
「もっと上に誰かいるのか?  全ての氏族をまとめる一番上の王は誰だ??」
「それは‥‥‥この最果ての地、だから何? タイレス辺境国? そのお城のタイレス城に住む‥‥‥領主様」
「なら、今の領主様は誰だ?」
「それはアーチャーだけど。でも、あなたはまだ地上から正式にタイレス城に行って、前の領主様と交替していない。だから、領主様かもしれないけど、権限はないかもしれない。領主様として正しい身分と訪問をしなければ、父上様はきっと信じない」

 と、少女は痛い所をついてきた。

「じゃあ、俺がタイレス城に行くまでの間、側にいろよ。その後に自由になればいいだろう??」
「はあ‥‥‥本当にわかってない」

 そのため息は、それまでの中でひときわ大きかった。
 尾は本当に力なく垂れ下がり、シェナはアーチャーの腕を手放して尾を抱きしめて顔を埋めていた。
 やがて何か意を決したように、頑張って言いにくいことを言おうとして出来ない。
 そんな心の葛藤が見え、十数分悩んでシェナはとても恥ずかしそうにアーチャーに告げたのだった。

「アーチャー。考えて。ロア族の考え方で。シェナは奴隷に売られ、アーチャーに買われたの。いまはアーチャーのものなの。もし、自由になったとしても‥‥‥みんなは、シェナの主はアーチャーだって考える。さよならとかしたら、アーチャーが悪い奴だってみんな考える」
「つまり‥‥‥何が言いたい??」
「捨てたら、シェナはアーチャーを許さない。それだけ」

 理解できるようで理解できない。
 アーチャーは首を捻って、シェナの氏族が住む土地に着くまでの数日間、その意味をずっと考えるのだった。

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