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プロローグ
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その夜は最高の夜だった。
大好きなロックバンド、タートル(亀なんてダサイ名前だけど!)。
彼らの響かす爆音と轟音の世界で、ひっしに頭を振り、全身でその音楽を受けとめる。
そう、音じゃないんだ。
魂の旋律。そこから溢れ出る躍動感!
生きてるっ!
そう感じさせてくれる、この瞬間が一番好き!
ドラマーが弾ませる腹の底に響く重たいバスの音。
ベースの奏でる、重低音の骨のきしむような脳の奥から出てくる叫び声。
二本のギターが作り出す、彼らだけの創造の世界。
そして、心と身体をつなげてくれる、ボーカルの歌詞と生命力あふれる今ここにいる!
そんな感覚をくれる、このバンドが大好き!
売れてないけど‥‥‥ね。
ライブを街中の小さなライブハウスで観戦した後に、わたしは終電に乗り遅れないように駅に向かう。
ここは東京や大阪や名古屋みたいな、大都市じゃない。
地方の、小さな街。
まあ、県庁とかイオンとか映画館とかあってそこそこ便利だけど、交通には不便。
特にこの鈍行列車。
終電が二十二時過ぎなんてあり得ない時間に発車してしまう。
それを逃すと、家までは二時間を歩かないといけなくなる。
今夜は少しでもステージを見たかったから、編み上げブーツを履いてて、それはちょっと遠慮したい。
ただでさえ172センチもある高い身長が今じゃ180センチ超え。
高校1年でこれだと、男子もなかなか声をかけてくれない。
まあ、スタイルは良くないしね。
胸もないし。
元々、そんなに食べないから、自分でもそろそろヤバいなあ、なんて風呂場で鏡を見るたびに思う日々。
ほぼ乗客のいない鈍行最終便にどうにか乗れて一息ついたけど。
夏の夜にこれだけ慌てて走るとちょっと暑すぎる。
空調なんてこの路線にはないようなもん。
天井に設置されてる大型の扇風機がグルグル回ってるけど。
一体、いつの時代の列車だよ? そんな突っ込みを入れたくなるくらい。
家の近所の駅まであと2つ。
座るのもめんどくさいから立って外の景色を眺める。
そんな事をしてたら、電車がもう駅に着いてた。
スマホを電子マネーの改札にかざして、そのまま家に向かう。
今日は、ブーツに古着屋で買ったリーバイスの男物のジーパン。
上はタンクトップと、一応、日よけにジーンズ生地の長袖のシャツ。
今は暑くて、腰に巻いてるけど。
「はあ、こっからまた歩くの。ななせ、しんどいよー」
いつからだろ、自分の名前を自分で呼ぶようになったのは。
秋津七星。
ななつの星と書いて、ナナセ。
変な名前でしょ?
まあ、キラキラネームって言われたらそれまでだけどね。
海沿いの国道を、これから三十分は歩かないといけない。
どっかの浜辺で休憩しようかなあ?
なんて自問自答してる時だ。
「へ? なにあれ、クジラ? こんな内陸部まで上がって来たの?」
うちの海はそう深くない。たまに日本海側からクジラが迷い込んでくることもあるけど。
「綺麗‥‥‥白い満月がよく似合ってる。あれって、シロナガスクジラかな?」
と、わたしが国道沿いの歩道に設置された安全策に身を乗り出して見ていた時だ。
そいつは、いきなり浮かんだ。
そう、宙に浮いたのだ。
最初は、クジラがテレビでやってるようなジャンプをしたのかと思った。
でも。
「なんか近付いてない!? ちょ、ヤバっ――――っ!」
そう、そいつは全身銀色の鱗に覆われたみたいな巨体を震わせると、わたしを睨んだ。
月光を浴びながら、青い瞳と目があうと、そのまま垂直落下コースみたいにこっちに飛び込んでくる!
「なにこれ、人生最低モード、最大加速じゃん! なんで、ななせに向かってくるのよ!」
わたしは逃げた。短い十六年の人生の中で、このときほど全速力で駆けたことは、後にも先にもこのとき一度しかない。あと少し走ればトンネルがある、そこまで行けば――――そこで、わたしの記憶は途切れた。
気づいたのはどれくらいしてからかなー? まず五体は動く。薄暗いけど、まあ、見えないことはない。
「あっつ! いったー、……い?」
あれ、天井こんなに低いの?
おかしいなあと思って両手足を適当にゆっくり伸ばしてみる。
寝そべったままだと手は天井にはつかない。
わたしの腰から上は60センチ弱だから‥‥‥まあ、這えば動けないことは無いのかな?
「でも、ななせ、犬じゃないんですけど――」
どうもそこは縦長の、緩やかな傾斜になった穴らしい。
どっかで足を滑らせたかな?
「ん――。でも明るい、よ、ね? 足も手も少し擦りむいたの見えるし。なんだ、これ?」
光は上の方から少しだけ差し込んでたりするけど、そんなに強くない。
薄暗い程度だし、そこらの何かが発光してるわけじゃない。
「なんで見えるんだろ? あ、スマホあったっけ?」
持ち物検査。
スマホ、よし。
化粧品とか小物が入った肩から下げた大ぶりのリュックサック、よし。
財布はその中にあるからまあ、いいし。
コンタクトも今日はしてないから問題なし。
ま、ほとんどあの時のまんま。
「さーてここはどこだ? ななせ、誘拐された?」
んなわけないか、そう思ってスマホの画面を鏡モードにして顔を映し出す。
うん、変化はない……?
「ええええっ?」
わたしの声はその縦長の穴の中にこだまして消えて行く。
「うっそ‥‥‥。目が光ってる、ななせ、猫みたいじゃん?」
そう、わたしの目は猫とか犬みたいに光ってた。
えーと、これはなんだ?
自分でも理解が及ばない。どうしよう、この状態でいるべき?
それとも頑張ってあそこ。光の差し込んでるとこにいく?
いきなり地震とかでここに閉じ込めるられたとか、想像しただけで身震いがする‥‥‥。
「うーん、よし! がんばれ、ななせ!」
なんでこんな間抜けな掛け声してるんだろ。
そう思いながら、リュックサックを腹側に逆にすると四つん這い?
ううん、背が高い分、半四つん這いでほふく前進。
誕生日にパパがくれた、世界一頑丈で有名な腕時計メーカーのそいつは時間を示していた。
合計四十分のほふく前進。辛くて苦しくて悲しい戦いだった。
「あーっ! もう! 腰が痛い、肩が痛い、首が痛い! ななせ、帰りたい!!」
なんて腹立ちまぎれに叫んでも何も起こらない。
というより、なんでこんなに頭の中は冷静なのに発言は子供なんだろ、わたし。
あー、もう疲れた。
這い出たそこは、どう見ても草原というよりは平原?
「なによこれ、トンネルを抜けたら雪国でした。じゃなくて、異世界でした?」
なんで、異世界かって?
だって、その空に浮かぶお月様は四っつ。
赤に、青に、紫に、オレンジ。
銀色のいつもの見慣れたやつはどこよ?
「あれだ。ななせ、飲みこまれたからだ。あいつだよ、あの銀色のクジラ。絶対、あいつだ。くっそーどうすんのよ、これ。あのクジラ。もし次に会ったら、捕獲してクジラ肉にしてやる‥‥‥」
恨み事を呟いても始まらない。
四連星なんて珍しいこんな世界、なかなかないよ?
お父さんがいろんなSFとかファンタジーにミステリー、時代劇にホラー。最近のラノベまでほとんど買いまくって勉強だけはしてるからねー。
わたし、ああ、めんどくさいな。ななせもそれ読んで一応は、少しだけど知識あるんだよね。
「こういうのはなんだっけ? 異世界転生? トラックに引かれてないし、女神様はいない。乙女ゲームでもないし、ってことは悪役令嬢モノでもない。うーんと、VRMMOならまずなんかのイベントがあるはずだけど。まさか、あのクジラに呑まれて、竪穴から這い出る、そんなクソイベントあるわけない」
四つん這いで腰が痛い‥‥‥四つん這い。
ああ、そういや、パパが首輪とかつけて遊ぶのもいいな、とか言ってたっけ。
よく考えたら、SMじゃんそれ。
ななせ、Mじゃないし。犬じゃないんですけど‥‥‥。
ここは地球じゃない。星図からは位置がわかんない。
わたしは腕時計の機能で方角を指すボタンを押してみる。
うん、なぜかこれは機能する。
いまは東南東。
ってことは、太陽はあの……後ろにそびえたつ、でっかい岩山から登るわけか。
「えーと、ななせの身長が約170、と」
わたしは付近の適当な背丈に並ぶ木がないかさがしてみる。
「あ、この岩なら。大体似たようなもんか」
歩幅が確か75センチ前後だったから、そこから約十メートルの距離まで離れてみる。
今度は穴に落ちないように足元に注意しながら。
で、その岩と岩山を比較。
「うーん? よくわかんないなー。あ、そっか。定規、定規」
学校に行くときにも使ってるから15センチの定規がペンケースに入ってた。
それで岩がだいたい10センチのとこ。それを数十倍‥‥‥。
「あ、だめだ。頭が痛くなる。もう少し離れるか‥‥‥」
頑張って百メートル離れて測り直し。
うん、約25倍。と、いうことは――二千五百メートル‥‥‥。
「富士山より低いだけ? あんなの登るのは無理だしなあ。ななせ、どうしよ?」
ここが異世界、ねえ? 唱えてみるあの呪文? 定番のあれ。
「せーの、ステータス!」
しーんってしてる。
うん、何にも起きないね‥‥‥。
お腹空いたなあ……。
「なにがあったっけ? 確かチョコレートの袋買いしたような。あとポテチと。お茶のペットボトルがまだたくさん残ってる」
ポテチはできたらこのしておきたい。
湿ってカビでも生えたらそこでおしまいだから。
食べるなら、チョコレートだけど。数えたら40個。
「確か、1つで動かなければ一日くらいは体力保つって聞いたような‥‥‥?」
よくよく辺りを見たら、とりあえず、岩山。
クソでかい。
で、その下に密林。
あと、草原。どこまでも。
「虫とかついてないよね!」
あんな洞穴の小さいバージョン。
普通にダニとかノミとかいてもおかしくない。
「ええい、誰もいないし! 脱ごう‥‥‥」
とりあえず、Tシャツの替えはある。
タオルもある。
それで身体中払って、服もめっちゃくちゃはたいた。
ブーツは、そこらの乾燥してる草むしって束にして、汚れおとして。
「よし! ななせ、頑張った!!」
まあ、自分で言うほど間抜けなこともないんだけど。
ブーツの中にジーンズの裾入れて、長袖もちゃんと着て、裾はジーンズの中に。
これで、寄生虫対策はいいはず、多分。
「さて。これからどうするかなー。ここの気候って、なんとなく生えてる植物も南国ぽい。もしそうなら、陽が出てきたら‥‥‥」
密林に入るか。
それとも、あの岩山の裾野目指して歩くか。
猛獣は?
害虫は?
ドラゴンとかでない?
「あー‥‥‥もういいや。とりあえず、日よけできるとこ、探そう」
わたしの異世界一日目はこうして始まった。
大好きなロックバンド、タートル(亀なんてダサイ名前だけど!)。
彼らの響かす爆音と轟音の世界で、ひっしに頭を振り、全身でその音楽を受けとめる。
そう、音じゃないんだ。
魂の旋律。そこから溢れ出る躍動感!
生きてるっ!
そう感じさせてくれる、この瞬間が一番好き!
ドラマーが弾ませる腹の底に響く重たいバスの音。
ベースの奏でる、重低音の骨のきしむような脳の奥から出てくる叫び声。
二本のギターが作り出す、彼らだけの創造の世界。
そして、心と身体をつなげてくれる、ボーカルの歌詞と生命力あふれる今ここにいる!
そんな感覚をくれる、このバンドが大好き!
売れてないけど‥‥‥ね。
ライブを街中の小さなライブハウスで観戦した後に、わたしは終電に乗り遅れないように駅に向かう。
ここは東京や大阪や名古屋みたいな、大都市じゃない。
地方の、小さな街。
まあ、県庁とかイオンとか映画館とかあってそこそこ便利だけど、交通には不便。
特にこの鈍行列車。
終電が二十二時過ぎなんてあり得ない時間に発車してしまう。
それを逃すと、家までは二時間を歩かないといけなくなる。
今夜は少しでもステージを見たかったから、編み上げブーツを履いてて、それはちょっと遠慮したい。
ただでさえ172センチもある高い身長が今じゃ180センチ超え。
高校1年でこれだと、男子もなかなか声をかけてくれない。
まあ、スタイルは良くないしね。
胸もないし。
元々、そんなに食べないから、自分でもそろそろヤバいなあ、なんて風呂場で鏡を見るたびに思う日々。
ほぼ乗客のいない鈍行最終便にどうにか乗れて一息ついたけど。
夏の夜にこれだけ慌てて走るとちょっと暑すぎる。
空調なんてこの路線にはないようなもん。
天井に設置されてる大型の扇風機がグルグル回ってるけど。
一体、いつの時代の列車だよ? そんな突っ込みを入れたくなるくらい。
家の近所の駅まであと2つ。
座るのもめんどくさいから立って外の景色を眺める。
そんな事をしてたら、電車がもう駅に着いてた。
スマホを電子マネーの改札にかざして、そのまま家に向かう。
今日は、ブーツに古着屋で買ったリーバイスの男物のジーパン。
上はタンクトップと、一応、日よけにジーンズ生地の長袖のシャツ。
今は暑くて、腰に巻いてるけど。
「はあ、こっからまた歩くの。ななせ、しんどいよー」
いつからだろ、自分の名前を自分で呼ぶようになったのは。
秋津七星。
ななつの星と書いて、ナナセ。
変な名前でしょ?
まあ、キラキラネームって言われたらそれまでだけどね。
海沿いの国道を、これから三十分は歩かないといけない。
どっかの浜辺で休憩しようかなあ?
なんて自問自答してる時だ。
「へ? なにあれ、クジラ? こんな内陸部まで上がって来たの?」
うちの海はそう深くない。たまに日本海側からクジラが迷い込んでくることもあるけど。
「綺麗‥‥‥白い満月がよく似合ってる。あれって、シロナガスクジラかな?」
と、わたしが国道沿いの歩道に設置された安全策に身を乗り出して見ていた時だ。
そいつは、いきなり浮かんだ。
そう、宙に浮いたのだ。
最初は、クジラがテレビでやってるようなジャンプをしたのかと思った。
でも。
「なんか近付いてない!? ちょ、ヤバっ――――っ!」
そう、そいつは全身銀色の鱗に覆われたみたいな巨体を震わせると、わたしを睨んだ。
月光を浴びながら、青い瞳と目があうと、そのまま垂直落下コースみたいにこっちに飛び込んでくる!
「なにこれ、人生最低モード、最大加速じゃん! なんで、ななせに向かってくるのよ!」
わたしは逃げた。短い十六年の人生の中で、このときほど全速力で駆けたことは、後にも先にもこのとき一度しかない。あと少し走ればトンネルがある、そこまで行けば――――そこで、わたしの記憶は途切れた。
気づいたのはどれくらいしてからかなー? まず五体は動く。薄暗いけど、まあ、見えないことはない。
「あっつ! いったー、……い?」
あれ、天井こんなに低いの?
おかしいなあと思って両手足を適当にゆっくり伸ばしてみる。
寝そべったままだと手は天井にはつかない。
わたしの腰から上は60センチ弱だから‥‥‥まあ、這えば動けないことは無いのかな?
「でも、ななせ、犬じゃないんですけど――」
どうもそこは縦長の、緩やかな傾斜になった穴らしい。
どっかで足を滑らせたかな?
「ん――。でも明るい、よ、ね? 足も手も少し擦りむいたの見えるし。なんだ、これ?」
光は上の方から少しだけ差し込んでたりするけど、そんなに強くない。
薄暗い程度だし、そこらの何かが発光してるわけじゃない。
「なんで見えるんだろ? あ、スマホあったっけ?」
持ち物検査。
スマホ、よし。
化粧品とか小物が入った肩から下げた大ぶりのリュックサック、よし。
財布はその中にあるからまあ、いいし。
コンタクトも今日はしてないから問題なし。
ま、ほとんどあの時のまんま。
「さーてここはどこだ? ななせ、誘拐された?」
んなわけないか、そう思ってスマホの画面を鏡モードにして顔を映し出す。
うん、変化はない……?
「ええええっ?」
わたしの声はその縦長の穴の中にこだまして消えて行く。
「うっそ‥‥‥。目が光ってる、ななせ、猫みたいじゃん?」
そう、わたしの目は猫とか犬みたいに光ってた。
えーと、これはなんだ?
自分でも理解が及ばない。どうしよう、この状態でいるべき?
それとも頑張ってあそこ。光の差し込んでるとこにいく?
いきなり地震とかでここに閉じ込めるられたとか、想像しただけで身震いがする‥‥‥。
「うーん、よし! がんばれ、ななせ!」
なんでこんな間抜けな掛け声してるんだろ。
そう思いながら、リュックサックを腹側に逆にすると四つん這い?
ううん、背が高い分、半四つん這いでほふく前進。
誕生日にパパがくれた、世界一頑丈で有名な腕時計メーカーのそいつは時間を示していた。
合計四十分のほふく前進。辛くて苦しくて悲しい戦いだった。
「あーっ! もう! 腰が痛い、肩が痛い、首が痛い! ななせ、帰りたい!!」
なんて腹立ちまぎれに叫んでも何も起こらない。
というより、なんでこんなに頭の中は冷静なのに発言は子供なんだろ、わたし。
あー、もう疲れた。
這い出たそこは、どう見ても草原というよりは平原?
「なによこれ、トンネルを抜けたら雪国でした。じゃなくて、異世界でした?」
なんで、異世界かって?
だって、その空に浮かぶお月様は四っつ。
赤に、青に、紫に、オレンジ。
銀色のいつもの見慣れたやつはどこよ?
「あれだ。ななせ、飲みこまれたからだ。あいつだよ、あの銀色のクジラ。絶対、あいつだ。くっそーどうすんのよ、これ。あのクジラ。もし次に会ったら、捕獲してクジラ肉にしてやる‥‥‥」
恨み事を呟いても始まらない。
四連星なんて珍しいこんな世界、なかなかないよ?
お父さんがいろんなSFとかファンタジーにミステリー、時代劇にホラー。最近のラノベまでほとんど買いまくって勉強だけはしてるからねー。
わたし、ああ、めんどくさいな。ななせもそれ読んで一応は、少しだけど知識あるんだよね。
「こういうのはなんだっけ? 異世界転生? トラックに引かれてないし、女神様はいない。乙女ゲームでもないし、ってことは悪役令嬢モノでもない。うーんと、VRMMOならまずなんかのイベントがあるはずだけど。まさか、あのクジラに呑まれて、竪穴から這い出る、そんなクソイベントあるわけない」
四つん這いで腰が痛い‥‥‥四つん這い。
ああ、そういや、パパが首輪とかつけて遊ぶのもいいな、とか言ってたっけ。
よく考えたら、SMじゃんそれ。
ななせ、Mじゃないし。犬じゃないんですけど‥‥‥。
ここは地球じゃない。星図からは位置がわかんない。
わたしは腕時計の機能で方角を指すボタンを押してみる。
うん、なぜかこれは機能する。
いまは東南東。
ってことは、太陽はあの……後ろにそびえたつ、でっかい岩山から登るわけか。
「えーと、ななせの身長が約170、と」
わたしは付近の適当な背丈に並ぶ木がないかさがしてみる。
「あ、この岩なら。大体似たようなもんか」
歩幅が確か75センチ前後だったから、そこから約十メートルの距離まで離れてみる。
今度は穴に落ちないように足元に注意しながら。
で、その岩と岩山を比較。
「うーん? よくわかんないなー。あ、そっか。定規、定規」
学校に行くときにも使ってるから15センチの定規がペンケースに入ってた。
それで岩がだいたい10センチのとこ。それを数十倍‥‥‥。
「あ、だめだ。頭が痛くなる。もう少し離れるか‥‥‥」
頑張って百メートル離れて測り直し。
うん、約25倍。と、いうことは――二千五百メートル‥‥‥。
「富士山より低いだけ? あんなの登るのは無理だしなあ。ななせ、どうしよ?」
ここが異世界、ねえ? 唱えてみるあの呪文? 定番のあれ。
「せーの、ステータス!」
しーんってしてる。
うん、何にも起きないね‥‥‥。
お腹空いたなあ……。
「なにがあったっけ? 確かチョコレートの袋買いしたような。あとポテチと。お茶のペットボトルがまだたくさん残ってる」
ポテチはできたらこのしておきたい。
湿ってカビでも生えたらそこでおしまいだから。
食べるなら、チョコレートだけど。数えたら40個。
「確か、1つで動かなければ一日くらいは体力保つって聞いたような‥‥‥?」
よくよく辺りを見たら、とりあえず、岩山。
クソでかい。
で、その下に密林。
あと、草原。どこまでも。
「虫とかついてないよね!」
あんな洞穴の小さいバージョン。
普通にダニとかノミとかいてもおかしくない。
「ええい、誰もいないし! 脱ごう‥‥‥」
とりあえず、Tシャツの替えはある。
タオルもある。
それで身体中払って、服もめっちゃくちゃはたいた。
ブーツは、そこらの乾燥してる草むしって束にして、汚れおとして。
「よし! ななせ、頑張った!!」
まあ、自分で言うほど間抜けなこともないんだけど。
ブーツの中にジーンズの裾入れて、長袖もちゃんと着て、裾はジーンズの中に。
これで、寄生虫対策はいいはず、多分。
「さて。これからどうするかなー。ここの気候って、なんとなく生えてる植物も南国ぽい。もしそうなら、陽が出てきたら‥‥‥」
密林に入るか。
それとも、あの岩山の裾野目指して歩くか。
猛獣は?
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ドラゴンとかでない?
「あー‥‥‥もういいや。とりあえず、日よけできるとこ、探そう」
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