新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。

星ふくろう

文字の大きさ
9 / 29
第一部 朔月の魔女

救いようのない英雄は困りものです‥‥‥5

しおりを挟む
 黒狼はそれは心外だとばかりにシェイラにそんなに痛いか?
 そう、ぼやいていた。

「これでも子供たちにするよりも優しくしているつもりだがな?
 子供ならば、噛んで教えるところだ」

「いえいえ、死にますから‥‥‥人間ですから。
 ありえないですよ、サク様。
 神様だから、どこにわたしがいてもわかるのですか?」
 
 その通りだ、しかし、不勉強な生徒にはまだわからんだろうがな?
 小馬鹿にするようにして動く尾にいらつき、シェイラはふざけんな!
 と‥‥‥とうとう、普段通りの苛烈な性格にいつの間にか逆戻りしてあの宝珠を尾に向かい叩きつけていた。

「‥‥‥あっー‥‥‥やっちゃった。
 あのーサク様‥‥‥???」

 どこかで焦げたようなにおいがするが、これは同じ世界にいるからだろうか?
 あ、出てきた。
 尾の先が少しだけ焦げてる?
 勢いよくその尾は、狙い違わずにシェイラのお尻を数度張っていた。

「ひどい‥‥‥なんでそんなに暴力。
 あの人にだってぶたれたことないのに‥‥‥」

 涙目のシェイラの顏をいつの間にか全身を影から出していた黒狼は静かに舐めてやる。
 そんなに痛かったか?
 俺は手加減したんだがな?
 そう言いたげな彼の視線は、深い海の中にいるように見えてそれはそれで怖かったが優しさもあるように思えた。

「愛の鞭だと思えば文句も出まい?
 神殿でも見てきたが、教える時には大司教め、手に鞭をもって不出来な生徒には手の甲を叩いていたと思うがな‥‥‥なにがどう違うのだ?
 虐待というが、お前はこうしてでも覚えなければその身を失うのだぞ、シェイラ」

「それは‥‥‥でも、もう少しだけでも分かりやすく。
 シェイラめは、黒狼の一族ではありません。
 人間だと言い訳をする気はありませんが、その全てをくみ取るには何かが欠けております‥‥‥。
 ご期待に沿えず、あいすいません、サク様」

 しょんぼりと落ち込んでしまった聖女にやれやれと黒狼は困った顔をする。
 確かに後から教えるとも言ったし、途中から自分の子供たちと同じような扱いになっていたのも否めない。
 おまけに死ぬ寸前の嘆願が、国民を守ってくれなどと。
 はあ、黒狼は大きなため息を本日何度目かのそれを再度、ついていた。

「聖女シェイラ。
 あそこでいま警戒しているお前の夫は決して弱くはない。 
 剣の腕にしても、魔導にしてもだ。
 お前の願いが国民を幸せにすることならば、お前がさっさとこれを覚え、あれに引導を渡すしかあるまい?
 夫を殺してでも、それをなしたいならな」

「では、どうしろ、と?
 サク様のおっしゃることは甘えても良い、でもそこからいきなり厳しくなり、今度は覚悟を決めろ、と。
 あまりにも変わり過ぎるではありませんか」

「当たり前だろう?
 戦場で誰が待ってくれる?
 いまから魔法の呪文を唱えるから斬らないでくれと言っているようなものだ。
 目の前にいる敵にな?
 最初の宝珠を放った時点で、お前は命のやり取りをしているのだぞ?
 虐待などと、甘えている場合か?」

「あっ‥‥‥」

 シェイラは自分の行動が引き起こしたことを軽く考えていた。
 夫に会い、この能力を見せつけて威力をしめしてひざまづかせ、愚かさを訴えれば彼はそれで変わってくれるはずだと、そんな簡単に考えていたからだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...