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第一部 朔月の魔女
救いようのない英雄は困りものです‥‥‥5
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黒狼はそれは心外だとばかりにシェイラにそんなに痛いか?
そう、ぼやいていた。
「これでも子供たちにするよりも優しくしているつもりだがな?
子供ならば、噛んで教えるところだ」
「いえいえ、死にますから‥‥‥人間ですから。
ありえないですよ、サク様。
神様だから、どこにわたしがいてもわかるのですか?」
その通りだ、しかし、不勉強な生徒にはまだわからんだろうがな?
小馬鹿にするようにして動く尾にいらつき、シェイラはふざけんな!
と‥‥‥とうとう、普段通りの苛烈な性格にいつの間にか逆戻りしてあの宝珠を尾に向かい叩きつけていた。
「‥‥‥あっー‥‥‥やっちゃった。
あのーサク様‥‥‥???」
どこかで焦げたようなにおいがするが、これは同じ世界にいるからだろうか?
あ、出てきた。
尾の先が少しだけ焦げてる?
勢いよくその尾は、狙い違わずにシェイラのお尻を数度張っていた。
「ひどい‥‥‥なんでそんなに暴力。
あの人にだってぶたれたことないのに‥‥‥」
涙目のシェイラの顏をいつの間にか全身を影から出していた黒狼は静かに舐めてやる。
そんなに痛かったか?
俺は手加減したんだがな?
そう言いたげな彼の視線は、深い海の中にいるように見えてそれはそれで怖かったが優しさもあるように思えた。
「愛の鞭だと思えば文句も出まい?
神殿でも見てきたが、教える時には大司教め、手に鞭をもって不出来な生徒には手の甲を叩いていたと思うがな‥‥‥なにがどう違うのだ?
虐待というが、お前はこうしてでも覚えなければその身を失うのだぞ、シェイラ」
「それは‥‥‥でも、もう少しだけでも分かりやすく。
シェイラめは、黒狼の一族ではありません。
人間だと言い訳をする気はありませんが、その全てをくみ取るには何かが欠けております‥‥‥。
ご期待に沿えず、あいすいません、サク様」
しょんぼりと落ち込んでしまった聖女にやれやれと黒狼は困った顔をする。
確かに後から教えるとも言ったし、途中から自分の子供たちと同じような扱いになっていたのも否めない。
おまけに死ぬ寸前の嘆願が、国民を守ってくれなどと。
はあ、黒狼は大きなため息を本日何度目かのそれを再度、ついていた。
「聖女シェイラ。
あそこでいま警戒しているお前の夫は決して弱くはない。
剣の腕にしても、魔導にしてもだ。
お前の願いが国民を幸せにすることならば、お前がさっさとこれを覚え、あれに引導を渡すしかあるまい?
夫を殺してでも、それをなしたいならな」
「では、どうしろ、と?
サク様のおっしゃることは甘えても良い、でもそこからいきなり厳しくなり、今度は覚悟を決めろ、と。
あまりにも変わり過ぎるではありませんか」
「当たり前だろう?
戦場で誰が待ってくれる?
いまから魔法の呪文を唱えるから斬らないでくれと言っているようなものだ。
目の前にいる敵にな?
最初の宝珠を放った時点で、お前は命のやり取りをしているのだぞ?
虐待などと、甘えている場合か?」
「あっ‥‥‥」
シェイラは自分の行動が引き起こしたことを軽く考えていた。
夫に会い、この能力を見せつけて威力をしめしてひざまづかせ、愚かさを訴えれば彼はそれで変わってくれるはずだと、そんな簡単に考えていたからだ。
そう、ぼやいていた。
「これでも子供たちにするよりも優しくしているつもりだがな?
子供ならば、噛んで教えるところだ」
「いえいえ、死にますから‥‥‥人間ですから。
ありえないですよ、サク様。
神様だから、どこにわたしがいてもわかるのですか?」
その通りだ、しかし、不勉強な生徒にはまだわからんだろうがな?
小馬鹿にするようにして動く尾にいらつき、シェイラはふざけんな!
と‥‥‥とうとう、普段通りの苛烈な性格にいつの間にか逆戻りしてあの宝珠を尾に向かい叩きつけていた。
「‥‥‥あっー‥‥‥やっちゃった。
あのーサク様‥‥‥???」
どこかで焦げたようなにおいがするが、これは同じ世界にいるからだろうか?
あ、出てきた。
尾の先が少しだけ焦げてる?
勢いよくその尾は、狙い違わずにシェイラのお尻を数度張っていた。
「ひどい‥‥‥なんでそんなに暴力。
あの人にだってぶたれたことないのに‥‥‥」
涙目のシェイラの顏をいつの間にか全身を影から出していた黒狼は静かに舐めてやる。
そんなに痛かったか?
俺は手加減したんだがな?
そう言いたげな彼の視線は、深い海の中にいるように見えてそれはそれで怖かったが優しさもあるように思えた。
「愛の鞭だと思えば文句も出まい?
神殿でも見てきたが、教える時には大司教め、手に鞭をもって不出来な生徒には手の甲を叩いていたと思うがな‥‥‥なにがどう違うのだ?
虐待というが、お前はこうしてでも覚えなければその身を失うのだぞ、シェイラ」
「それは‥‥‥でも、もう少しだけでも分かりやすく。
シェイラめは、黒狼の一族ではありません。
人間だと言い訳をする気はありませんが、その全てをくみ取るには何かが欠けております‥‥‥。
ご期待に沿えず、あいすいません、サク様」
しょんぼりと落ち込んでしまった聖女にやれやれと黒狼は困った顔をする。
確かに後から教えるとも言ったし、途中から自分の子供たちと同じような扱いになっていたのも否めない。
おまけに死ぬ寸前の嘆願が、国民を守ってくれなどと。
はあ、黒狼は大きなため息を本日何度目かのそれを再度、ついていた。
「聖女シェイラ。
あそこでいま警戒しているお前の夫は決して弱くはない。
剣の腕にしても、魔導にしてもだ。
お前の願いが国民を幸せにすることならば、お前がさっさとこれを覚え、あれに引導を渡すしかあるまい?
夫を殺してでも、それをなしたいならな」
「では、どうしろ、と?
サク様のおっしゃることは甘えても良い、でもそこからいきなり厳しくなり、今度は覚悟を決めろ、と。
あまりにも変わり過ぎるではありませんか」
「当たり前だろう?
戦場で誰が待ってくれる?
いまから魔法の呪文を唱えるから斬らないでくれと言っているようなものだ。
目の前にいる敵にな?
最初の宝珠を放った時点で、お前は命のやり取りをしているのだぞ?
虐待などと、甘えている場合か?」
「あっ‥‥‥」
シェイラは自分の行動が引き起こしたことを軽く考えていた。
夫に会い、この能力を見せつけて威力をしめしてひざまづかせ、愚かさを訴えれば彼はそれで変わってくれるはずだと、そんな簡単に考えていたからだ。
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